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網膜・硝子体

ノーリー病

ノーリー病(Norrie disease; ND)は、NDP遺伝子(Xp11.4-p11.3)の変異によって生じるX連鎖劣性遺伝疾患である。出生時または出生直後に両側性の網膜異形成を呈し、通常は失明に至る。症例の約3割は難聴や精神発達障害を併発する。

1961年にデンマークの眼科医Mette Warburgが初めて症候群として報告した。デンマーク人眼科医Gordon Norrie(1855–1941)にちなんで命名されている。

ノーリー病は「NDP関連網膜症」の中で最も重篤な表現型である。このスペクトラムには以下の疾患が含まれる1)

  • X連鎖性家族性滲出性硝子体網膜症(FEVR):網膜血管発育不全を主体とし、FEVRの方が軽症であるが同じ遺伝子経路の異常に基づく
  • 第一次硝子体過形成遺残(PFV:胎児期の硝子体血管退縮不全
  • NDP関連未熟児網膜症(ROP)
  • 一部のコート病

正確な有病率は不明であるが、400例以上が報告されている。特定の民族や人種との関連はない。罹患した男児では浸透率は100%である。NDP遺伝子には75以上の病原性変異が知られている。

Q ノーリー病は女性にも発症するか?
A

X連鎖劣性遺伝のため、ほぼ男児のみに発症する。女性は保因者となるが通常は無症状である。まれに非ランダムなX染色体不活化や近親婚により、軽度の眼所見や部分的な難聴を示す女性が報告されている。

ほとんどの患者は先天的に失明しているか、生後早期に視力を喪失する。出生後2〜3か月で固視不良や白色瞳孔のために発見されることが多い。

臨床所見(医師が診察で確認する所見)

Section titled “臨床所見(医師が診察で確認する所見)”

ノーリー病の眼所見は通常、両側性かつ対称性である。病期の進行に伴い多彩な所見を呈する。

初期〜活動期

白色瞳孔(偽神経膠腫)水晶体後方に灰色がかった黄色の隆起した塊を認める。未熟な網膜細胞の集塊からなる。

網膜剥離:部分的〜完全な剥離が生後数か月で進行する。

小眼球症:出生時から認められることがある。

虹彩萎縮・癒着:前後癒着を伴い、浅前房を呈することがある。

末期

白内障:水晶体混濁が進行する。

浅前房・緑内障:水晶体が後方から圧迫されると前房が虚脱し、続発緑内障を生じる。

角膜混濁・帯状角膜変性:角膜は乳白色に混濁する。

眼球癆:眼球が収縮し、眼窩内に陥没する。

浅前房は緑内障・角膜混濁併発の予兆であり、定期的な検査が必要である。

  • 感音難聴:思春期から潜行性に進行する。発症年齢の中央値は12歳(5〜48歳)。初期は高周波数域の軽度・非対称性であり、35歳までに重度・対称的・全周波数帯域に及ぶ。蝸牛の血管条(stria vascularis)の変性が原因と考えられている3)
  • 認知・行動障害:約30〜50%に発達遅延や知的障害を認める。自閉症または自閉症様行動(27%)、うつ・情緒不安定(25%)が報告されている。
  • てんかん:約10%の患者に発症する3)
  • 末梢血管疾患:50歳以上のほぼすべての男性に静脈うっ滞性潰瘍、下肢静脈瘤、勃起不全を認める。細小血管症が原因と推測される。
Q 難聴はいつ頃から始まるか?
A

多くの患者は正常な聴力で出生するが、思春期(中央値12歳)から進行性の感音難聴が始まる。初期は高周波数域の軽度難聴であり、長い停滞期や部分的回復もみられるが、35歳までに重度の全周波数帯域性難聴となる。

ノーリー病の原因はNDP遺伝子の変異である。遺伝以外の既知のリスク因子はない。

NDP遺伝子はノリン(Norrin)タンパク質をコードし、網膜血管と内耳血管の正常な発達に不可欠な分子シグナル伝達に関与する(詳細は「病態生理学」の項を参照)。

NDP遺伝子には75以上の病原性変異が存在する。変異のタイプによって重症度が異なる。

  • ナンセンス変異:ノリンの完全な産生を妨げ、より重篤な疾患を引き起こす
  • ミスセンス変異:タンパク質産生は途絶しないが機能が変化し、影響は比較的限定的である

同一の遺伝子変異を持つ家系内でも表現型にばらつきがあり、同一人物の左右眼間でも差異が報告されている。遺伝子間相互作用や環境因子の関与が推測されている。

以下の眼所見がある乳児ではノーリー病を疑う。

  • 先天性の視覚障害・失明
  • 両側性かつ対称的な眼病変
  • 白色瞳孔(両側性の場合は特に重要)
  • 水晶体後方の線維血管性変化
  • 小眼球症、白内障

前眼部所見で眼内の状態が不明な場合は、Bモード超音波検査で網膜剥離や網膜下出血を確認する。CTは網膜芽細胞腫との鑑別に有用である。

確定診断はNDP遺伝子の分子遺伝学的検査による。罹患した男性の約95%で病原性変異を同定できる。

  • 配列解析:約85%でミスセンス変異・スプライス変異・部分欠失を検出
  • 欠失・重複解析:配列解析で検出できない残り約15%の微小欠失を検出
  • 連鎖解析:上記が利用できない場合に家系内の複数罹患者で実施

家系内で原因変異が特定されている場合、絨毛膜絨毛サンプリングによる出生前遺伝子検査が可能である2)。胎児超音波検査で子宮内の網膜剥離を検出した報告もある2)

白色瞳孔を呈する主要な鑑別疾患を以下に示す。

鑑別疾患鑑別のポイント
網膜芽細胞腫超音波でカルシウム検出
FEVRNDP変異でも軽症型
第一次硝子体過形成遺残通常片側性

そのほか未熟児網膜症、コート病、ぶどう膜炎13トリソミー、ウォーカー・ウォーバーグ症候群との鑑別が必要である。

ノーリー病では以下の画像所見が報告されている。

  • 多発脳神経のガドリニウム増強:動眼神経(III)、三叉神経(V)、顔面神経(VII)、内耳神経(VIII)、舌咽神経(IX)、迷走神経(X)、副神経(XI)に造影増強を認める4)。血液脳関門の機能不全を反映すると考えられている4)
  • 蝸牛増強:MRIで両側蝸牛に造影増強を認め、感音難聴に先行する可能性がある3)。血管条の変性によるガドリニウムの内リンパ漏出が推定されている3)

Jokelaら(2022)は45歳のフィンランド人男性ノーリー病患者において、複数の脳神経にガドリニウム増強を認めたことを報告した4)。脳脊髄液の蛋白上昇(1,066 mg/L; 基準値150〜450 mg/L)も認められた。

ノーリー病の視力予後は一般に不良であり、根治的な治療法は確立されていない。

  • 硝子体手術:網膜剥離に対して施行されるが、予後は不良である
  • 水晶体切除:緑内障や角膜混濁を防ぐ目的で行われることがある

浅前房は緑内障・角膜混濁併発の予兆であり、治療介入のタイミングを見極めるために定期的な検査が必要である。いったん角膜が混濁すると有効な治療法はない。

Justinら(2024)は、遺伝子検査陽性の胎児に対し経腹的超音波検査を32週で施行し、子宮内で両側完全網膜剥離を検出した症例を報告した2)。37週での早期分娩後に麻酔下検査を行ったが、手術不能な両側完全網膜剥離であった。

一方、過去の報告では34週の計画早産とレーザー網膜光凝固抗VEGF薬硝子体注射により、8年後の視力が両眼20/80に保たれた例がある2)。出生時レーザー光凝固で両眼20/100を得た報告もある2)

  • 義眼:整容上の理由から使用されることがある
  • 補聴器:進行性の感音難聴に対して適応される
  • 早期介入プログラムロービジョンケアや発達支援
  • 遺伝カウンセリング:第2子出産希望の夫婦に配慮する
Q 視力を保存できる可能性はあるか?
A

通常のノーリー病では視力予後は不良である。しかし、出生前診断による計画早期分娩と出生直後のレーザー網膜光凝固を組み合わせた症例では、20/80〜20/100の視力が保存された報告がある2)。子宮内で網膜剥離が完成している場合は介入困難となる。

6. 病態生理学・詳細な発症機序

Section titled “6. 病態生理学・詳細な発症機序”

NDP遺伝子は133アミノ酸からなるノリン(Norrin)タンパク質をコードする28 kbの遺伝子である。ノリンはN末端シグナルペプチドと高度に保存されたシスチンノットモチーフの2つの主要ドメインからなる1)

シスチンノット領域の変異はより重篤な網膜異形成(ノーリー病)を引き起こす。一方、ノット外の変異はFEVRに多く認められ、網膜は存在するが血管化が不完全となる1)

ノリンはFrizzled-4受容体(FZD4)に結合し、共受容体であるTSPAN-12およびLRP-5とともにNorrin Wnt-β-カテニンシグナル伝達経路を活性化する1)3)。この経路は以下の過程に不可欠である。

  • 網膜血管の発達:網膜内層の3層の微小血管床(表層・中間層・深層)の形成を制御する1)
  • 内側血液網膜関門(iBRB)の形成:網膜毛細血管内皮細胞の高バリア性を確立する1)
  • 胎児血管の退縮:硝子体動脈・水晶体被膜血管(tunica vasculosa lentis)の正常退縮を促進する1)
  • 蝸牛血管条の維持:内耳の内リンパ産生と蝸牛有毛細胞の成熟に関与する3)

網膜血管の発育障害が本疾患の本態である。二次的に眼内の線維血管増殖をきたし、水晶体後面増殖組織による白色瞳孔と網膜剥離を生じる。水晶体が後方から圧迫されると前房が虚脱し、緑内障を併発する。最終的に角膜混濁を生じ、視力を喪失する。

蝸牛血管条はNorrin-FZD4-Wntシグナルに依存して血管構造を維持する。マウスモデルでは、周産期の血管条は正常であるが、その後進行性に拡大した異常毛細血管が出現し、細胞喪失・間質腔の拡大を経てほぼ完全に退縮する3)。血管条の変性に伴い外有毛細胞が減少し、後期にはらせん神経節ニューロンと内有毛細胞も変性する3)。前庭機能は影響を受けない3)

Q FEVRとノーリー病はどう違うか?
A

いずれもNDP遺伝子変異によるNDP関連網膜症のスペクトラムに含まれる1)。ノーリー病はシスチンノットモチーフの変異に多く、網膜異形成と失明を呈する最重症型である。FEVRはノット外の変異に多く、網膜は存在するが周辺部の血管化が不完全となる。FEVRでは全身症状を伴わないことが多い。


7. 最新の研究と今後の展望(研究段階の報告)

Section titled “7. 最新の研究と今後の展望(研究段階の報告)”

Pauzuolyteら(2023)は、Ndpノックアウトマウスにアデノ随伴ウイルスベクター9(AAV9)を静脈内投与し、神経網膜および蝸牛における微小血管形成の回復に成功したことを報告した1)

この研究は、ノリンの機能回復によって網膜と内耳の両方の血管病変を治療できる可能性を示している。ヒトへの応用に向けた臨床試験はまだ実施されていない。

ノリンタンパク質の硝子体内投与

Section titled “ノリンタンパク質の硝子体内投与”

マウス酸素誘導網膜症モデルにおいて、ノリンタンパク質の単回硝子体内注入が血管再成長を促進し、内網膜の神経細胞喪失を軽減することが示されている1)糖尿病性網膜症モデルでは、外因性ノリンがWntシグナル経路を介して網膜内皮細胞の接合部を回復させ、血液網膜関門の破綻を修復する効果が報告されている1)

MRI蝸牛増強のバイオマーカーとしての可能性

Section titled “MRI蝸牛増強のバイオマーカーとしての可能性”

Barkovichら(2025)は、3歳の聴力正常なノーリー病患児にMRIで両側蝸牛増強を認めたことを報告した3)。この所見は感音難聴に先行しており、遺伝子治療の候補選定や治療効果モニタリングにおけるバイオマーカーとなりうると考察している。


  1. Le V, Abdelmessih G, Dailey WA, et al. Mechanisms underlying rare inherited pediatric retinal vascular diseases: FEVR, Norrie disease, persistent fetal vascular syndrome. Cells. 2023;12(21):2579.
  2. Justin GA, Boyd BK, Vajzovic L. Transabdominal fetal ultrasound before early-term planned delivery for Norrie disease. J Vitreoretinal Dis. 2024;8(1):91-92.
  3. Barkovich EJ, Fazio Ferraciolli S, Jaimes C. Abnormal cochlear enhancement in Norrie disease. Neuroradiol J. 2025;38(4):506-510.
  4. Jokela M, Karhu J, Nurminen J, Martikainen MH. Multiple cranial nerve gadolinium enhancement in Norrie disease. Ann Neurol. 2022;91(1):158-159.

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