経過観察
定期的な眼底検査:MRNFの変化を経時的に記録する。
画像記録の保存:髄鞘の消失は網膜神経損傷のサインとなりうるため、ベースライン画像の保存が推奨される。
OCT評価の注意:緑内障などのRNFL評価時にはセグメンテーション・エラーを考慮する。

有髄網膜神経線維層(myelinated retinal nerve fiber layer; MRNF)は、通常は無髄である網膜内の視神経線維に髄鞘が形成される先天異常である。1855年にvon Jagerによって初めて報告された。翌1856年にはドイツの病理学者ウィルヒョウ(Rudolf Virchow)が組織学的記述を行っている。
通常、視神経線維は視神経篩状板より後方では乏突起膠細胞(オリゴデンドロサイト)の髄鞘で覆われるが、篩状板より前方の視神経乳頭および網膜内では無髄である。MRNFでは、乏突起膠細胞が篩状板を越えて網膜内に侵入し、限局性に有髄神経線維を形成したものである。
発生頻度は0.3〜1%とされる。多くは散発例で片眼性であり、両眼性は約7%に認められる。原因は不明である。
多くは散発例であるが、家族例の報告もある。2世代にわたる10例の家系や、両眼性MRNFの母娘例が報告されている。また、GAPO症候群やオールブライト遺伝性骨ジストロフィーなどの遺伝性症候群に合併することがある。
大半の症例は無症状であり、眼底検査で偶然発見される。有髄化の範囲が広い場合には以下の症状を生じることがある。
眼底検査で網膜神経線維の走行に沿った刷毛状(羽毛状)の白色混濁として観察される。境界辺縁は毛羽立った特徴的な外観を呈する。
MRNFに伴う眼科的所見として以下が報告されている。
大半の症例では視力は影響を受けない。ただし広範なMRNFでは視力がMRNF面積と負の相関を示す。高度近視や弱視を合併する場合には視力障害が生じることがある。
MRNFの発生機序は以下のように理解されている。
胎生5ヶ月頃に外側膝状体から視神経の有髄化が始まる。有髄化は眼球に向かって進行し、篩状板に達して停止する。MRNFでは、乏突起膠細胞前駆細胞が篩状板を越えて網膜内に侵入し、異所性に髄鞘を形成する。
発生機序に関する主な仮説は以下の通りである。
MRNFとの関連が報告されている全身疾患には以下がある。
MRNFの大部分は、健康診断や他の目的の眼底検査で偶然発見される。
視神経乳頭周囲の境界が毛羽立った刷毛状の白色混濁が特徴的所見である。神経線維に沿った形状と、太い網膜血管が覆われている点が診断の手がかりとなる。
小さいMRNFでは軟性白斑との鑑別が必要である。鑑別のポイントは以下の通りである。
| 所見 | MRNF | 軟性白斑 |
|---|---|---|
| 反射 | 強い髄鞘反射 | やや弱い |
| 浮腫 | なし(平坦) | しばしば伴う |
| 血管との関係 | 太い血管が覆われる | 血管と無関係 |
乳幼児の広範なMRNFは白色瞳孔(leukocoria)の原因となることがある。白色瞳孔を生じる主な疾患との鑑別が重要である。
MRNFでは神経線維に沿った形状を呈し、隆起や陥凹がないことが鑑別の要点である。
大きな視野欠損がある場合は、併発する神経眼科的問題を排除するために正式な視野検査が必要である。
MRNFはOCT上でRNFL厚を過大評価させるセグメンテーション・エラーを引き起こしうる。これにより緑内障による真のRNFL菲薄化が隠されてしまう可能性がある。MRNFを有する眼では、OCT結果の解釈に特に注意が必要である。
MRNFは通常良性であり、限局性で無症状の場合は治療を必要としない。ただし、合併する眼科的所見に応じた管理が求められる。
経過観察
定期的な眼底検査:MRNFの変化を経時的に記録する。
画像記録の保存:髄鞘の消失は網膜神経損傷のサインとなりうるため、ベースライン画像の保存が推奨される。
OCT評価の注意:緑内障などのRNFL評価時にはセグメンテーション・エラーを考慮する。
合併症への対応
屈折矯正:近視に対して眼鏡またはコンタクトレンズを処方する。不同視が強い場合はコンタクトレンズが望ましい。
弱視治療:小児期の弱視に対し治療を行うことがあるが、効果はほとんどないとされる。
斜視治療:通常のプロトコルに従い管理する。外科的矯正によく反応することが多い。
網膜血管合併症:新生血管や硝子体出血に対しアルゴンレーザー光凝固が行われることがある。
限局性で無症状の場合は経過観察のみで十分である。弱視・斜視・近視などの合併症がある場合にはそれぞれに応じた治療を行う。網膜血管合併症にはレーザー治療を要することがある。
視神経線維の髄鞘形成は、乏突起膠細胞前駆細胞によって行われる秩序あるプロセスである。髄鞘形成は妊娠8ヶ月頃に外側膝状体から始まり、出生時頃に眼球後部に到達する。生後7ヶ月までにほぼすべての線維が完全な髄鞘形成を完了する。通常この過程は篩状板のレベルで停止する。
MRNFは乏突起膠細胞前駆細胞が篩状板を越えて網膜内に侵入することで生じる。有力な仮説として、篩状板の不完全閉鎖や篩状板形成前の前駆細胞侵入が提唱されている。
組織学的には以下の知見が得られている。
MRNFの消失が以下の疾患で報告されている。消失は網膜神経軸索の病理学的変性を反映すると考えられている。
MRNF患者に対して全ゲノムシーケンスが実施され、疾患関連遺伝子変異や意義不明の新規変異が同定された。本疾患は多くの遺伝子変異の累積的効果から生じる可能性が示唆されている。この研究では、当該患者が乳頭異常および網膜剥離のリスクが高い一方、加齢黄斑変性に対する遺伝的素因は平均以下であることも示された。
補償光学(adaptive optics)を用いた経強膜光位相イメージング法が開発されている。この手法により、非侵襲的に2〜3マイクロメートルの解像度で有髄神経線維を観察できるようになった。
明らかな基礎疾患のない両眼性の後天性進行性MRNFの症例報告があり、髄鞘形成プロセスが一部の症例で自然に活性化される可能性が示唆されている。正確な機序の解明は今後の課題である。