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網膜・硝子体

ミッテンドルフ点

ミッテンドルフ点(Mittendorf dot)は、胎生期の硝子体動脈(hyaloid artery)前端が退行せずに水晶体後嚢に残存した先天性の血管遺残である。ウィリアム・フレデリック・ミッテンドルフにより記載された。

水晶体後嚢の鼻下側(inferonasal quadrant)に円形の小さな混濁として認められる。正常者の**1〜2%**に存在し、非進行性である。多くは視力に影響しない。

本疾患は胎生期の硝子体血管系が退行しなかった場合に生じる一連の疾患群「胎生期血管遺残(persistent fetal vasculature:PFV)」に含まれる。PFVには第1次硝子体過形成遺残(PHPV)、Bergmeister乳頭、硝子体動脈遺残、瞳孔膜遺残などが含まれるが、ミッテンドルフ点はそのなかで最も軽い変化である。

従来、ミッテンドルフ点は水晶体後嚢自体に付着すると考えられてきた。しかし近年、前部硝子体内で水晶体後方に位置する可能性も報告されている。エルゲレット腔(Erggelet’s space:水晶体後嚢と硝子体の間の空間)よりも後方に存在しうるとされている。

Q 未熟児に多いと聞くが、成長後も残るのか?
A

未熟児では最大95%にミッテンドルフ点を含む何らかの硝子体遺残がみられる。しかし乳児の成長とともに通常は消失し、持続するのは約3%にとどまる。

ミッテンドルフ点は単独では自覚症状を伴わないのが通常である。先天性の混濁であるため、飛蚊症を自覚することもほとんどない。まれに混濁が大きい場合に飛蚊症や霧視を訴えることがある。

白色の紐状となった遺残動脈の前端が水晶体後面に付着し、後端が硝子体中に浮遊している所見が特徴的である。

  • 位置:水晶体後嚢の鼻下側四半部に観察される。
  • サイズ:小さく、見落とされやすい。
  • 形態:円形の局所的混濁として現れる。まれに水晶体後嚢全体に広がる大きな混濁を呈することもある。
  • クモヒトデ状形成:他の残存胎生血管と吻合している場合、「brittle-star」と呼ばれる星状の形態を示すことがある。
Q 視力に影響はあるか?
A

ミッテンドルフ点は非進行性であり、単独で視力に影響を及ぼすことはまれである。ただし、広範なPFVに伴う場合は白内障硝子体出血などの合併症により視力障害を生じることがある。詳細は「標準的な治療法」の項を参照。

ミッテンドルフ点の原因は、胎生期における硝子体動脈前端の退行不全である。

硝子体動脈の正常な発生と退行は以下の過程をたどる。

  • 胎生4〜6週:内頸動脈から背側眼動脈を経て硝子体動脈が分岐する。胎生裂を通って第1次硝子体中に進入し、水晶体後面に達する。
  • 胎生6週以降:第2次硝子体が網膜側から形成される。
  • 胎生13〜15週:硝子体動脈の退行が始まる。
  • 胎生後期〜出生前:硝子体動脈が機能を失い消退する。第1次硝子体は圧縮されCloquet管として残る。

退行のメカニズムは、マクロファージの活性化と硝子体動脈への血流停止の組み合わせによるアポトーシスと考えられている。退行を制御するシグナル伝達経路はまだ完全には解明されていない。

PFV発症に関与する分子としてVEGF、FGF、アンジオポエチン2、腫瘍抑制遺伝子、18型コラーゲンなどが推定されている。

ミッテンドルフ点は、その起源の性質上細隙灯顕微鏡検査による直接観察で診断できる。水晶体後嚢の鼻下側に小さな混濁を認めることで特定される。

直接観察が困難な場合に用いられる補助的検査法を以下に示す。

検査法特徴
超音波Bモード索状組織を検出可能
OCTアンギオグラフィ遺残硝子体動脈の開通性を確認
CT・MRI硝子体動脈遺残の描出

細隙灯顕微鏡に前置レンズを併用すると、水晶体後面から硝子体にかけての索状組織を直接観察できる場合がある。

ミッテンドルフ点はPFVの最も軽い変化であるが、より広範なPFV(第1次硝子体過形成遺残)との鑑別が必要である。白色瞳孔を呈する場合は網膜芽細胞腫との鑑別が重要となる。

  • 第1次硝子体過形成遺残:小眼球、水晶体後面の広範な線維性血管組織を伴う。前部型・後部型・混合型に分類される。
  • 網膜芽細胞腫:眼内石灰化をCTで確認する。通常は小眼球を伴わない。
  • Norrie病・家族性滲出性硝子体網膜症:両眼性の網膜全剥離や水晶体後面線維増殖がある場合に鑑別を要する。

ミッテンドルフ点は通常、治療的介入を必要としない。非進行性であり、予後はきわめて良好である。

定期的な眼科検査(隅角鏡検査を含む)による経過観察が推奨される。

単独のミッテンドルフ点で合併症が生じることはまれである。しかし、より広範なPFVに関連する場合は以下の合併症が起こりうる。

  • 硝子体出血:硝子体動脈後部遺残が血液循環を保っている場合に生じることがある。
  • 網膜剥離
  • 水晶体膨隆
  • 緑内障

PFVの前部型では水晶体手術や前部硝子体手術により良好な視力が得られることがある。後部型や混合型は黄斑部の変性を伴い、視力予後が不良となることが多い。

Q 治療は必要か?
A

単独のミッテンドルフ点は非進行性であり、治療は原則不要である。定期的な眼科検査で経過を観察する。まれにPFVの広範な病態に伴い合併症を生じた場合にのみ、手術などの介入が検討される。

6. 病態生理学・詳細な発症機序

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硝子体動脈は胎児の発育過程で視神経乳頭から水晶体後極まで伸びる一過性の血管である。胎生早期に眼組織へ栄養を供給し、第1次硝子体を形成する。硝子体動脈からは眼内血管の密なネットワークが分岐・増殖し、水晶体を覆う血管膜(硝子体固有血管板)と吻合する。

この血管系の退行過程を時系列で整理する。

  • 胎生4週末:内頸動脈→背側・腹側眼動脈→硝子体動脈が形成される。
  • 胎生5〜6週:硝子体動脈が第1次硝子体中を前進し、水晶体後面に到達する。水晶体前面を覆う血管膜と吻合して水晶体周囲の血管網を構築する。
  • 胎生6週以降:第2次硝子体が網膜側から第1次硝子体を取り囲むように形成される。
  • 胎生13〜15週:硝子体血管の退行が開始される。
  • 出生前:硝子体動脈は退行消失し、血管周囲鞘がCloquet管として残る。

退行の基礎的メカニズムはマクロファージの活性化とそれに続く硝子体動脈への血流停止によるアポトーシスであると理論化されている。マクロファージ活性化に至る細胞シグナル伝達の詳細はまだ完全には解明されていない。

ミッテンドルフ点は硝子体動脈の前端のみが退行に失敗した結果生じる。前端が水晶体後嚢に白色の小混濁として残存し、後端は硝子体中に浮遊する。対比として、硝子体動脈の後端が退行に失敗した場合はBergmeister乳頭として視神経乳頭上に残存する。両者が連なって認められることもある。


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