後天性感染
髄液所見:著明な細胞数増多(他のウイルス性髄膜炎より高度)。髄液糖低下・蛋白軽度上昇を伴う1)。
血液検査異常:初期相で白血球減少・血小板減少・肝酵素軽度上昇を認める1)2)。
画像検査:MRIで異常を認めないことも多い2)3)。

リンパ球性脈絡髄膜炎ウイルス(lymphocytic choriomeningitis virus; LCMV)は、アレナウイルス科マンマアレナウイルス属に分類される一本鎖RNAウイルスである。1933年にArmstrongとLillieがセントルイス脳炎の流行調査中に患者の脳脊髄液から初めて分離した1)。1935年にTraubがイエハツカネズミ(Mus musculus)を自然宿主として同定した1)。
発見後まもなく、LCMVは無菌性髄膜炎の主要な原因ウイルスの一つとして認識された。1953〜1958年の米国の調査では神経侵襲性疾患713例中58例からLCMVが検出された1)。その後もドイツ(1968〜1971年、47例)や米国(1973〜1974年、181例)で大規模な集団発生がみられた1)。
近年は臨床例の報告頻度が低下しているが、見逃しの可能性が指摘される。フィンランドの調査(2013〜2014年)では神経侵襲性疾患患者の5.0%にLCMV IgG抗体が検出された1)。イラク南部の調査(2012〜2013年)では脳脊髄液の5.1%からLCMV RNAが同定された1)。一般集団の血清有病率は地域により0.2〜37.5%と幅広い1)。
先天性LCMV感染は1955年にイギリスで初めて報告され、これまで世界で82例以上が記録されている1)。水頭症・脳室周囲石灰化・脈絡網膜炎を三大所見とし、TORCH症候群の鑑別疾患として重要である。
一般集団の血清有病率は調査地域により0.2〜37.5%と報告されている。多くの感染は無症状または軽症のため見逃されており、実際の感染者数は報告数をはるかに上回ると推定される。
後天性感染と先天性感染で症状は大きく異なる。
感染の約1/3は無症状である1)。症状を呈する場合は曝露後6〜20日で発症し、典型的には二相性の経過をたどる1)。
Caronら(2023)はLCMV Armstrong株の経皮的曝露事例を報告した。曝露7日後から頭痛・強い眼痛・めまい・悪心・下肢のしびれが出現し、約10日間持続した。発熱と嘔吐は認めなかった3)。
全臨床経過は通常1〜3週間で回復する。
神経学的・眼科的症状が前面に出る。小頭症・巨頭症・脳室拡大・けいれん・精神運動発達遅滞・脈絡網膜炎などを呈する。
後天性感染
髄液所見:著明な細胞数増多(他のウイルス性髄膜炎より高度)。髄液糖低下・蛋白軽度上昇を伴う1)。
血液検査異常:初期相で白血球減少・血小板減少・肝酵素軽度上昇を認める1)2)。
画像検査:MRIで異常を認めないことも多い2)3)。
先天性感染
水頭症・脳室周囲石灰化・脈絡網膜炎の三徴は先天性LCMV感染の87.5%にみられる1)。
周辺部および黄斑部の脈絡網膜瘢痕が主な所見である。視神経萎縮・眼振・斜視を伴うことがあり、まれに小眼球症や白内障も報告されている。脈絡網膜瘢痕を有する患者でのみ視神経萎縮や斜視がみられる。
LCMVの自然宿主はイエハツカネズミ(Mus musculus)である。マウスは子宮内で感染すると免疫寛容を獲得し、生涯にわたり無症状のまま唾液・尿・糞便・精液・母乳中にウイルスを排出し続ける1)。
ヒトへの主な感染経路は以下のとおりである。
ペットのハムスター・モルモットも感染源となる。感染の多くはマウスが屋内に移動する秋〜冬季に発生する。
| リスク因子 | 詳細 |
|---|---|
| げっ歯類飼育 | ハムスター・マウス |
| 農村居住 | 飼料保管場所に齧歯類が集まる |
| 研究施設勤務 | 実験動物の取り扱い |
米国の齧歯類繁殖施設従業員では8〜47%がLCMV血清陽性であった1)。
ペットのハムスターは感染源となりうる。過去に複数の集団発生がハムスターへの曝露と関連して報告されている。特に妊婦は注意が必要である。
LCMVの確定診断には血清学的検査が最も広く用いられる。ELISA法および間接蛍光抗体法(IFA)によりIgM・IgG抗体を検出する1)。
RT-PCR法により血液・脳脊髄液からLCMV RNAを検出する。疾患急性期に有効で、GPC遺伝子およびN遺伝子を標的とする1)。検出限界はウイルス株により1〜10 PFU/mLである1)。
Pankovicsら(2023)はハンガリーで12年間にわたりCNS感染症74例の脳脊髄液を検査し、2例(2.7%)からRT-PCRでLCMV RNAを検出した。これはハンガリー初の分子生物学的確認例であった2)。
BHK-21細胞・Vero細胞などで培養可能である。新生マウスへの脳内接種で5〜7日以内に特徴的なけいれん性疾患を誘発する1)。
出生時にはウイルスがすでに排除されていることが多い。母体と新生児の血清でIgM・IgGの両方を測定する必要がある。経胎盤的に移行した母体IgGの影響を考慮する1)。
先天性LCMVの鑑別には以下のTORCH病原体が重要である。
| 鑑別疾患 | LCMVとの相違点 |
|---|---|
| サイトメガロウイルス | 肝脾腫が多い(LCMVではまれ) |
| トキソプラズマ | 散在性脳内石灰化(LCMVは脳室周囲) |
| 風疹 | 心疾患・白内障・ごま塩状網膜症 |
先天性トキソプラズマ症はびまん性の脳内石灰化を示すのに対し、LCMVでは脳室周囲石灰化が特徴的である1)。サイトメガロウイルスでは肝脾腫が前面に出るが、LCMVでは全身感染徴候に乏しく神経学的所見が優位である1)。
確立された抗ウイルス薬は存在しない1)2)。治療は対症療法が基本で、大部分の免疫正常者は1〜3週間で後遺症なく回復する1)。死亡率は1%未満である1)。
移植後のLCMV感染では致死率が71%と極めて高い1)。リバビリン静注と免疫抑制薬の減量を組み合わせた治療で生存例が報告されている1)。ただし、リバビリンなしでも生存した例があり、有効性のエビデンスは限定的である1)。
先天性LCMVの確立された治療法はない。眼科医・神経科医・理学療法士・作業療法士を含む多職種連携での長期的フォローアップが必要である。
LCMVは直径110〜130 nmのエンベロープ型ウイルスで、2本のアンビセンスRNAセグメント(S・L)からなるゲノムを持つ1)。S セグメントは核蛋白(NP)とエンベロープ糖蛋白前駆体(GPC)を、Lセグメントはマトリックス亜鉛結合蛋白(Z)とRNA依存性RNAポリメラーゼ(RdRp)をコードする1)。ウイルス粒子内部に砂粒状のリボソーム様顆粒を含むことが「アレナ(arena = 砂)」の名称の由来である1)。
ウイルスはエアロゾルとして吸入され、肺実質に沈着後に血流を介して全身に拡散する。LCMVは神経芽細胞に親和性を示し、髄膜・脈絡叢・脳室の室管膜で増殖する。組織障害はウイルスの直接的な細胞障害ではなく、宿主のT細胞を主体とする免疫応答による炎症が主な原因である。
母体のウイルス血症から経胎盤的に胎児へ感染する1)。胎児脳の脳室周囲領域には分裂活発な神経芽細胞が豊富に存在し、LCMVはこの領域に強い親和性を示す。これが脳室周囲石灰化の分布を説明する1)。さらにLCMV感染は神経細胞の遊走を障害し、脳回形成異常を引き起こす1)。
巨頭症は中脳水道の炎症による脳室系閉塞が原因であり、小頭症は免疫介在性およびウイルス介在性の脳組織破壊の結果である。
系統解析に基づきLCMVは4つの遺伝系統(lineage I〜IV)に分類される1)。系統Iは米国の古典的なArmstrong株・WE株やフランス・ドイツ・スロバキアの株を含む。系統IIは欧州の株のみからなる1)。ハンガリーで2020年に検出された2株はそれぞれ系統Iと系統IIに属し、共通感染源は否定された2)。
系統I〜IIIはいずれもヒトの重症疾患と関連が報告されている。Armstrong株とClone-13変異株はわずか5塩基(3アミノ酸)の違いで急性感染と慢性感染という全く異なる病態を示すことが知られている1)。
現在、複数の既存薬の転用が研究されている1)。
ファビピラビル(T-705)はRdRp阻害薬で、マウスモデルにおいて急性播種性LCMV感染に対し優れた効果を示した。低用量LCMV-Clone 13に感染したNZBマウスに対する早期投与で死亡率0%、大部分の臓器でウイルスが検出限界以下となった1)。
ウミフェノビル(アルビドール)はインフルエンザ治療薬として使用されるインドリルカルボン酸で、in vitroでLCMVを含む複数のアレナウイルスの増殖を抑制した1)。
Wanら(2020)はFDA承認薬63剤のスクリーニングでベニジピン塩酸塩(侵入阻害)、ミコフェノール酸・ラパチニブ・ダブラフェニブ(複製阻害)、クロファジミン(両機序)の5剤にLCMV抑制効果を確認した1)。
ラッサウイルス特異的ヒトモノクローナル抗体の一部がLCMVの糖蛋白複合体と交差反応を示すことがin vitroで確認されている。サル模型でラッサ熱に対し100%の救命効果を示した知見を踏まえ、LCMV特異的抗体療法の開発が期待される1)。
遺伝子工学的に改変した組換えLCMV(rLCMV)は、ワクチンベクターの候補として研究が進んでいる。Clone 13由来の非増殖型rLCMVベクターは免疫不全マウスでも安全に多機能性CD8+ T細胞を誘導し、7日以内にクリアランスされた1)。また、HPV-16腫瘍蛋白E7E6を発現するLCMV基盤の治療用がんワクチンがマウスモデルで腫瘍制御効果を示した1)。