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網膜・硝子体

キリエレイス斑

キリエレイス斑(Kyrieleis plaques)は、網膜動脈内に数珠状(beaded pattern)に連なる複数の分節状黄白色病変である。分節状網膜動脈炎(segmental retinal arteritis: SRA)とも呼ばれる。

1933年にWerner Kyrieleis が結核性ぶどう膜炎推定症例において初めて報告した。別名として Kyrieleis vasculitis、Kyrieleis arteriolitis、結節性動脈周囲炎、分節状網膜動脈周囲炎など複数の呼称が存在する。

沈着物は管腔内や血管外ではなく、動脈壁内に存在する可逆的な病変である。常に重度の眼内炎症を反映しており、感染性・非感染性の両炎症性後部ぶどう膜炎で報告されている。稀な臨床所見だが、硝子体炎に隠れて見逃されている可能性も高いと指摘されている。

最も頻度の高い原因はトキソプラズマ網膜脈絡膜炎(眼トキソプラズマ症)である。2)3)

関連する基礎疾患の分類を以下に示す。

感染性原因

トキソプラズマ:最多。眼トキソプラズマ症の非典型例でも報告される。2)3)

HSV-1/HSV-2:急性網膜壊死(ARN)の原因ウイルス。脳炎後の急性網膜壊死でも発症しうる。1)3)

VZV:急性網膜壊死の主要原因ウイルス。1)3)

その他:CMV、結核、梅毒、リケッチア・コノリ(地中海紅斑熱)など。3)

非感染性原因

Behcet病:全身性血管炎を伴う炎症性疾患。

サルコイドーシス:肉芽腫性炎症疾患。

ブロルシズマブ関連網膜血管炎抗VEGF薬の副作用として報告される新たな薬剤性原因。3)

Q キリエレイス斑は珍しい所見ですか?
A

臨床的には稀な所見とされているが、重度の硝子体炎に隠れて見逃されている可能性が高いとも指摘されている。硝子体炎が消退した後に初めて確認されることがあるため、眼内炎症の経過観察中は積極的に眼底を確認することが重要である。1)2)

キリエレイス斑自体に特異的な自覚症状はない。基礎疾患による眼内炎症の症状が主体となる。

代表的な症状は以下の通りである。

  • 霧視視力低下:硝子体炎や網膜炎による
  • 飛蚊症硝子体混濁による浮遊物の自覚
  • 充血・眼痛:炎症による

報告症例では、急性網膜壊死(HSV-1脳炎続発)例で3日間のぼやけ・充血・飛蚊症を呈した。1) 非典型的眼トキソプラズマ症(OT)例では、3日間の左眼充血のみで視力6/9が保たれていた。2) 多焦点分節状網膜動脈炎(OT)例では、2週間の有痛性充血を呈し、視力が手動弁(HM)まで低下した症例も報告されている。3)

眼底では、網膜動脈に沿った分節状の黄白色沈着物が数珠状に連なる特徴的なパターンを呈する。光沢のある石灰化様の外観を示す。

主な所見の特徴を以下に示す。

  • 局在:動脈のみに関与し、静脈は侵さない3)
  • 範囲:血管壁を超えて周囲組織には広がらない2)3)
  • 発現時期:重度の硝子体炎消失後に初めて確認されることがある1)2)

各疾患におけるキリエレイス斑の出現時期と消退経過を以下に示す。

基礎疾患出現時期消退時期
急性網膜壊死(HSV-1)1)治療開始2週後3か月で消退
OT(非典型)2)治療開始4週後2か月で消退
OT(多焦点)3)診断時5週で消退
Q キリエレイス斑と樹氷状(霜降り状)血管炎はどう違いますか?
A

両者は外観が類似するため鑑別が重要である。キリエレイス斑は動脈のみに関与し、FAで血管漏出を認めず、病変は血管壁を超えない。一方、樹氷状血管炎(frost-branch angiitis)は動脈・静脈の両方に関与し、FAで明らかな漏出を認め、血管外にも病変が広がる。3)

キリエレイス斑の病因は完全には解明されていないが、常に重度の眼内炎症に関連して生じる。

感染性原因が最多であり、なかでも眼トキソプラズマ症が最も高頻度である。2)3) 急性網膜壊死(ARN)ではHSV-1、HSV-2、VZVが原因となり、ヘルペス脳炎に続発した急性網膜壊死例も報告されている。1)3) その他、CMV、結核、梅毒、リケッチア・コノリ(地中海紅斑熱)でも報告がある。3)

非感染性原因としては、Behcet病、サルコイドーシス、ブロルシズマブ(抗VEGF薬)関連網膜血管炎が挙げられる。3)

主なリスク要因は以下の通りである。

  • ネコとの接触・生肉の摂取:トキソプラズマ感染のリスク因子2)3)
  • ヘルペス脳炎の既往:急性網膜壊死発症リスクと関連1)
  • 免疫低下状態:CMVや重症ヘルペス感染のリスク増大

キリエレイス斑の診断は臨床診断が基本であり、散瞳下の眼底検査が必須である。各種画像検査を組み合わせることで、病変の性状と基礎疾患の評価が可能となる。

蛍光眼底造影(FA)

最重要の鑑別ポイント:病変部に血管漏出を認めない。これは炎症が動脈内皮に限局することを示す。1)2)3)

動脈充盈:正常に維持される。閉塞性変化はない。

Pichiら報告:早期低蛍光・後期強蛍光を呈するが漏出なし。

ICGアンギオグラフィー

感度:最も感度の高い検査とされる。

機序:両親媒性のICG分子が炎症性分子に結合する。

所見:全時相を通じて境界鮮明な強蛍光を呈する。

OCT / OCTA

OCT所見:動脈壁の高反射を認める。1)

OCTA所見:管腔内血流信号の狭窄が実証されている(Tsuiら)。

FAF:自発蛍光亢進を認めることがある。

基礎疾患を確定するための血清学的検査も必須である。

  • トキソプラズマ:IgM/IgG ELISA2)3)
  • ヘルペス系ウイルス(HSV、VZV):血清抗体価測定、房水PCR1)3)
  • その他:梅毒血清反応、結核検査(T-SPOT、ツベルクリン)

主な鑑別疾患との所見の比較を以下に示す。

鑑別疾患関与血管FA漏出
キリエレイス斑動脈のみなし
樹氷状血管炎動脈+静脈あり
網膜塞栓動脈のみなし(閉塞あり)
Q FAで漏出がないことにはどんな意味がありますか?
A

FA漏出がないことは、炎症が血管壁全層には及ばず、動脈内皮に限局していることを示す。全層性の炎症(血管炎)では血管透過性が亢進してFA漏出が生じるが、キリエレイス斑では漏出がないため内皮に限定した病変と推定される。Pichiらはこの所見から「endothelitis(内皮炎)」という呼称を提案している。1)

キリエレイス斑自体に対する特異的な治療法はない。基礎疾患を治療することが第一目標であり、眼内炎症のコントロールにより斑は消退する。

基礎疾患別の主な治療レジメンを以下に示す。

基礎疾患抗微生物薬ステロイド
OT(標準)2)SMX-TMP 800/160mg/日×8週PSL 1mg/kg/日(48時間後追加)
OT(スウェーデン標準)3)AZM 500mg/日×5週PSL 1mg/kg/日→10日漸減
急性網膜壊死1)硝子体内ホスカルネット+IV ACV→経口VALPSL 1mg/kg/日(36時間後追加)

眼トキソプラズマ症(OT)の治療

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古典的3剤療法はピリメタミン+スルファジアジン+ステロイドの4〜6週投与である。2)

現在広く用いられる代替レジメンは以下の2種である。

  • SMX-TMP(バクタ®)レジメン:800/160mg/日×8週。prednisolone 1mg/kg/日を抗菌薬開始48時間後に追加し、5mg/週ずつ漸減する2)
  • アジスロマイシンレジメン:500mg/日×5週。prednisolone 1mg/kg/日を10日かけて漸減する(スウェーデン標準)3)

急性網膜壊死に続発したキリエレイス斑の報告では、以下のレジメンが施行された。1)

  • 急性期:硝子体内ホスカルネット2.4mg/0.1mL+静注acyclovir 13mg/kg/日
  • 維持期:経口valacyclovir 3g/日に切り替え
  • ステロイド:prednisolone 1mg/kg/日(抗ウイルス薬開始36時間後に追加)
  • 再発予防:valacyclovir 1g/日の長期維持療法

キリエレイス斑自体は良性所見であり、視力予後の悪化には直接つながらない。2) 適切な治療により後遺症なく消退する。消退期間は2か月〜3か月程度である。

Q キリエレイス斑があると視力予後は悪くなりますか?
A

キリエレイス斑自体は視力予後の悪化に直接つながらないと考えられている。2) 視力予後に影響するのは基礎疾患(トキソプラズマ、急性網膜壊死等)の重症度・治療の適切さである。適切な治療を行えばキリエレイス斑は消退し、後遺症を残さない。

6. 病態生理学・詳細な発症機序

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キリエレイス斑の沈着物の組成および正確な局在については、現在も完全には解明されていない。

歴史的に以下の仮説が提唱されてきた。

  • Griffin & Bodian(1959年):隣接する脈絡網膜炎病巣から動脈周囲鞘への滲出物移動
  • Orzalesi & Ricciardi(1971年):動脈壁内の細胞成分・炎症性物質の蓄積
  • Wise:動脈硬化性病変との解釈
  • Pichiらのマルチモーダルイメージング研究:動脈内皮の選択的関与を示すFA・ICG所見に基づき、「endothelitis(内皮炎)」の呼称を提案1)

現在の有力な解釈では、免疫細胞・炎症性デブリが動脈血管壁内に沈着した結果として生じると考えられている。1) FA漏出が認められないことから、炎症は全層性ではなく内皮に限局し、血管透過性の亢進は伴わないと推定される。1)2)3)

急性網膜壊死におけるキリエレイス斑の発現パターンは特徴的である。治療開始後に炎症消退に伴って初めて出現することがある。1) 一方、診断時から既に確認される症例も存在し、Makriらの報告では8例中3例で診断時に認められた。1)


Pichiら(2017年)によるマルチモーダルイメージング研究は25眼を対象とし、FA・ICG・FAF・OCT・OCTAを組み合わせた包括的解析を行った。これにより、ICGアンギオグラフィーが最も感度の高い検査であること、および病態が「内皮炎」と呼ぶべき内皮限局の炎症である可能性が示された。1)

OCTアンギオグラフィー(OCTA)によるin vivo評価では、キリエレイス斑部位における管腔内血流信号の狭窄が実証された(Tsuiら)。非侵襲的な病勢評価ツールとしての応用が期待される。

近年、ブロルシズマブ(抗VEGF薬)投与後にキリエレイス動脈炎が発症した症例が報告され、薬剤性原因として新たに注目されている。3)

キリエレイス斑については、いまだ症例報告・小規模症例集積が研究の主体であり、標準化された診断基準・報告基準の確立が今後の課題とされている。病態のさらなる解明と、基礎疾患別の最適治療レジメンの確立が求められる。


  1. Makri OE, Tsekouras IK, Leonidou L, Kagkelaris K, Kozobolis V, Georgakopoulos CD. Kyrieleis arteriolitis associated with acute retinal necrosis due to herpes simplex virus type 1 secondary to herpetic encephalitis. Vision. 2022;6(2):27.

  2. Teng Siew T, Mohamad S, Sudarno R, Md Said H. Atypical ocular toxoplasmosis with remote vasculitis and Kyrieleis plaques. Cureus. 2024;16(1):e52756.

  3. Khadamy J. Atypical ocular toxoplasmosis: multifocal segmental retinal arteritis (Kyrieleis arteritis) and peripheral choroidal lesion. Cureus. 2023;15(10):e47060.

  4. Tadepalli A et al. Kyrieleis plaques: recognising a rare presentation of ocular inflammation. Clin Exp Optom. 2024;107(8):863-865.

  5. Amato VS et al. Recurrent acquired ocular toxoplasmosis associated with Kyrieleis plaques and documented allergy to sulfonamide. Diagn Microbiol Infect Dis. 2024;109(3):116266.


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