網膜毛細血管腫
別名:網膜血管芽腫(retinal hemangioblastoma)
特徴:赤色球状病変。拡張・蛇行した栄養血管を伴う。
関連全身疾患:VHL病(常染色体優性遺伝)。VHL患者の約60%に発生。1)

眼内血管腫瘍(intraocular vascular tumors)は、眼球内に生じる血管由来の良性腫瘍性・奇形性病変の総称である。
大きく血管腫(腫瘍性増殖)と血管奇形(先天的形成異常)に二分される。腫瘍性病変には網膜毛細血管腫・脈絡膜血管腫・網膜血管増殖性腫瘍(VPT)が含まれ、先天的血管奇形には網膜海綿状血管腫・網膜動静脈奇形(Wyburn-Mason症候群)が含まれる。
網膜毛細血管腫
別名:網膜血管芽腫(retinal hemangioblastoma)
特徴:赤色球状病変。拡張・蛇行した栄養血管を伴う。
関連全身疾患:VHL病(常染色体優性遺伝)。VHL患者の約60%に発生。1)
脈絡膜血管腫
限局型:孤発性。赤橙色の半球状腫瘤。20〜40代に好発。
びまん型:Sturge-Weber症候群に合併。「トマトケチャップ様」眼底所見。
関連全身疾患:びまん型はSturge-Weber症候群(顔面火炎状母斑+緑内障)。
網膜血管増殖性腫瘍
別名:VPT(vasoproliferative tumor of the retina)
特徴:周辺部の黄ピンク色血管性塊。栄養血管を欠く。
分類:原発性(74%)と続発性(26%)に大別。30〜40代に好発。
眼内血管腫瘍は以下の5種類に分類される。
VHL病(von Hippel-Lindau病)は、3番染色体短腕(3p25-26)上のVHL腫瘍抑制遺伝子の変異による常染色体優性遺伝疾患である。有病率は約36,000人に1人で、日本における患者数は600〜1,000例と推定される。1)
眼の網膜毛細血管腫のほか、小脳・脊髄の血管芽腫、淡明細胞型腎癌、褐色細胞腫、膵嚢胞などの全身腫瘍を合併する。通常30歳までに網膜病変が出現し、半数例では両眼性・多発性を呈する。1)
いずれの眼内血管腫瘍もそれ自体は良性であり、悪性転化は認めない。ただし、VHL病に伴う網膜毛細血管腫の場合、全身に悪性腫瘍(腎癌・褐色細胞腫など)を合併するリスクがある。眼所見のみで判断せず、全身的な管理が必要である。
各腫瘍型の自覚症状を以下に示す。腫瘍が小さい間は無症状のことが多い。
各腫瘍型の特徴的眼底所見を以下に整理する。
| 腫瘍型 | 好発年齢 | 特徴的所見 |
|---|---|---|
| 網膜毛細血管腫 | 10〜30代 | 赤色球状病変+拡張栄養血管 |
| 網膜海綿状血管腫 | 20〜40代 | ブドウ房状嚢胞性病変 |
| 脈絡膜血管腫(限局) | 20〜40代 | 赤橙色半球状腫瘤 |
| 脈絡膜血管腫(びまん) | 小児〜成人 | トマトケチャップ様眼底 |
| 網膜動静脈奇形 | 先天性 | 動静脈の直接吻合 |
| VPT | 30〜40代 | 黄ピンク色末梢血管性塊 |
上耳側・下耳側の周辺部網膜に赤色球状病変として認められる。腫瘍に流入する拡張・蛇行した栄養動脈と流出静脈の対が特徴的である。乳頭近傍型(内生型・外生型)では、栄養血管が不明瞭で診断が遅れやすい。
病変の進行に伴う変化は以下の通りである。
進行期VHL病では、眼圧45mmHg以上への上昇、著明な結膜血管拡張、光覚消失に至ることがある。2)
赤橙色の半球状腫瘤で、直径3〜7mm・厚さ1〜3mmが典型的である。視神経または中心窩から視神経乳頭2個分以内の後極部に好発する。
Sturge-Weber症候群に合併する。眼底全体が赤橙色を帯び「トマトケチャップ様」と表現される。患側の同側顔面に火炎状母斑(ポートワイン斑)を認める。二次性緑内障が問題となる。
Archer分類により3群に分けられる。
片側性・非遺伝性であり、Wyburn-Mason症候群ではCNS(中脳・視床など)動静脈奇形を合併する。
下耳側末梢網膜に好発する黄ピンク色の血管性塊で、拡張した栄養血管を欠く点が網膜毛細血管腫と異なる。周囲の網膜滲出・滲出性網膜剥離を高率に伴う。続発性VPTは網膜色素変性・ぶどう膜炎・眼外傷などに続発する。
どちらも末梢網膜の血管性腫瘤として観察されるが、鑑別点がある。網膜毛細血管腫は拡張・蛇行した栄養動脈・排出静脈のペアが明瞭であるのに対し、VPTは顕著な栄養血管を欠く。蛍光眼底造影(FA)でも充填パターンが異なり、鑑別に有用である。
VHL病は常染色体優性遺伝であり、3p25-26のVHL腫瘍抑制遺伝子の変異によって発症する。1) “two-hit”仮説に従い、生殖細胞系列変異(第1ヒット)に加えて対立遺伝子の体細胞変異(第2ヒット)が生じると腫瘍が形成される。1)
孤発性の網膜毛細血管腫(von Hippel病)も存在するが、10歳未満の孤発例では45%が後にVHL病と診断されることが知られており、若年例では特に全身精査が重要である。
過誤腫(hamartoma)の一種とされており、明確な遺伝的背景は同定されていない。びまん型ではSturge-Weber症候群(三叉神経血管腫症)との関連が確立している。
先天性の血管奇形であり、発生段階の血管形成異常によると考えられる。家族性の海綿状血管腫では脳海綿状血管腫との合併が認められることがある。
後天性の病変であり、網膜色素変性・中間部ぶどう膜炎・眼内手術後などの続発性VPTと、原因不明の原発性VPTに大別される。グリア細胞と毛細血管の反応性増殖と考えられている。
必要である。孤発例と思われても、特に10歳未満では45%が後にVHL病と判明する。VHL病では腎癌・副腎褐色細胞腫・小脳血管芽腫などの生命予後に関わる病変を合併するため、遺伝子検査・腹部MRI/CT・脳脊髄MRIなどによる全身精査が推奨される。1)
眼内血管腫瘍の診断には、細隙灯顕微鏡・散瞳眼底検査に加えて各種画像検査を組み合わせる。
各腫瘍型で特徴的な充填パターンを呈する。
毛細血管腫のFA
動脈相:輸入動脈からの急速充満。腫瘍本体が早期に過蛍光となる。
後期:腫瘍からの硝子体内への蛍光漏出。乳頭近傍型では解釈に注意を要する。
海綿状血管腫のFA
特徴:嚢状血管の極めて緩慢な充満。血漿—赤血球層形成による液面形成(F/RBC level)。
漏出:蛍光漏出を認めない。この点が毛細血管腫との重要な鑑別点となる。
脈絡膜血管腫のFA
早期:動脈相での超早期過蛍光(脈絡膜血管腫に特徴的)。
後期:腫瘍全体の均一な染色。腫瘍辺縁部が特に強い蛍光を示す。
脈絡膜血管腫の全容描出に有用である。ICGAでは腫瘍の広がりや脈絡膜血管構造を詳細に評価できる。びまん型脈絡膜血管腫ではFAよりも病変範囲が明確になる。
滲出性網膜剥離・網膜内液のモニタリングに有用である。治療効果の経過観察にも用いる。網膜毛細血管腫では腫瘍本体の層構造と周囲の滲出変化を評価する。
脈絡膜血管腫は**紡錘状(扁平半球状)**の形態を呈し、高内部反射エコーが特徴的である。脈絡膜黒色腫(低内部反射)との鑑別に重要な所見である。Aモード・Bモード超音波の組み合わせで評価する。
VHL病が疑われる場合には全身病変のスクリーニングとして腹部CT/MRI・脳脊髄MRIを施行する。腎細胞癌・褐色細胞腫・小脳血管芽腫の検索が目的である。Wyburn-Mason症候群では脳内動静脈奇形の評価のために頭部MRI/MRAを施行する。
どちらも漿液性網膜剥離を呈するが、脈絡膜血管腫では後極部に赤橙色の腫瘤性病変を認める。FAでは動脈相での超早期過蛍光がCSCとの鑑別に有用である。ICGAでは腫瘤の存在がより明確に描出される。超音波検査では高内部反射の紡錘状腫瘤として確認できる。
各腫瘍型の特性に応じて治療法を選択する。いずれも良性病変であるため、治療の目的は視力保持・続発症(滲出性網膜剥離・緑内障)の予防・管理である。
各腫瘍型の主な治療法を以下に示す。
| 腫瘍型 | 第一選択 | その他の選択肢 |
|---|---|---|
| 網膜毛細血管腫 | 光凝固術 | 冷凍凝固・TTT・光線力学的療法・抗VEGF・PPV・プラーク |
| 網膜海綿状血管腫 | 経過観察 | 硝子体手術(出血時) |
| 脈絡膜血管腫 | 光線力学的療法 | 光凝固・TTT・放射線療法 |
| 網膜動静脈奇形 | 経過観察 | (治療奏功しにくい) |
| VPT | 冷凍凝固術 | プラーク・レーザー・光線力学的療法 |
直径2mm以下の腫瘍に特に有効である。連続波レーザーまたは黄色577nmレーザーを用いて腫瘍を直接凝固する。1) 4〜6週間間隔で腫瘍が瘢痕化するまで反復照射する。滲出が多い例では事前に周囲滲出液を減量してから腫瘍を凝固する。
赤道部より周辺の大型腫瘍に適用する。経強膜的に施行し、-70〜-80℃の二重凍結融解サイクルを行う。光凝固が困難な周辺部病変の主要な治療法である。
直接凝固が困難な部位の腫瘍には以下のアプローチを組み合わせる。
視神経から3mm以上離れた中大規模腫瘍に適応する。106Ruや125Iプラークを強膜外に縫着して照射する。
滲出性網膜剥離や牽引性網膜剥離を生じた進行例に対して施行する。術中に腫瘍への光凝固や冷凍凝固を組み合わせることがある。
多くは無症状で悪性転化がないため、通常は治療を要せず定期的な経過観察を行う。硝子体出血を生じた場合には硝子体手術を検討する。
小〜中規模の限局型脈絡膜血管腫の第一選択である。ベルテポルフィンを静脈内投与後に689nmダイオードレーザーを照射し、腫瘍血管を選択的に閉塞させる。漿液性網膜剥離の消退と視力改善が期待できる。
びまん型脈絡膜血管腫(Sturge-Weber症候群)では二次性緑内障の管理が重要であり、点眼薬・手術(線維柱帯切開術・濾過手術)などが必要となる。
血管奇形であるため通常の治療は奏功しにくく、視力が保たれている場合は経過観察が基本となる。硝子体出血が生じた場合には硝子体手術を考慮する。Wyburn-Mason症候群に伴うCNS動静脈奇形は神経外科との連携が必要である。
冷凍凝固術が最も一般的な第一選択治療である。腫瘍が周辺部に位置するため経強膜的アプローチが適している。その他、プラーク放射線療法・レーザー光凝固・光線力学的療法も用いられる。続発性VPTでは原疾患の管理も並行して行う。
VHL病では治療した病変の再発よりも、生涯にわたり新規病変が出現することが問題である。Lozanoら(2022)の報告では、1例のVHL患者で25年間に31個の新規血管腫が確認された。1) 治療後も定期的な眼底検査を継続し、新規病変を早期に発見して治療することが視力保持の鍵となる。
VHL遺伝子は低酸素誘導因子(hypoxia-inducible factor; HIF)の分解を促進するタンパク質をコードする腫瘍抑制遺伝子である。VHL遺伝子変異によりVHLタンパク質の機能が失われると、HIF-1αが低酸素に関係なく蓄積される。1)
HIF-1αの蓄積は下流遺伝子の転写を活性化し、血管内皮増殖因子(VEGF)・血小板由来増殖因子(PDGF)・エリスロポエチンなどが過剰発現する。1) これにより病的な血管新生・腫瘍形成が促進される。
“two-hit”仮説の詳細は以下の通りである。1)
腫瘍は泡沫状間質細胞(stromal cells)と豊富な毛細血管から構成される。間質細胞はVHLタンパク質を欠いており、腫瘍の主細胞と考えられている。腫瘍内のVEGF過剰発現が血管の異常増生と滲出を招く。
近年、未熟児網膜症(ROP)患者でのVHL病の合併が報告されており、HIF-1α/VEGF経路が未熟児網膜症とVHL病の双方で中心的役割を果たすことが示唆されている。1) HIF-1αの活性化による血管新生は未熟児網膜症の病態にも共通しており、VHL変異が未熟児網膜症様血管応答を増強する可能性がある。1)
VPTはグリア細胞(Müller細胞)と微細な毛細血管網・拡張した血管から構成される。網膜毛細血管腫とは異なり、泡沫状間質細胞を含まない。後天性の反応性増殖と考えられており、続発性VPTの原疾患(網膜色素変性・ぶどう膜炎など)による慢性炎症・低酸素が誘因となる。
Lozanoら(2022)は、未熟児網膜症の既往を持つ患者がVHL病と診断された初報告例を発表した。1) この患者では25年間に31個の新規網膜血管腫が確認され、VHL遺伝子変異が未熟児網膜症の血管増殖反応を増強した可能性が示唆された。HIF-1α/VEGF経路が未熟児網膜症とVHL病の双方で共通の病態基盤となることが示され、VEGF標的治療の両疾患への応用可能性を示す報告である。
Linら(2022)は、VHL症候群に伴う著明な結膜血管拡張を報告した。2) HIF-1α/VEGF経路の全身的活性化が眼表面の血管にも影響を与える可能性を示す知見であり、VHL病診断の補助的な眼所見として有用な可能性がある。
網膜毛細血管腫および脈絡膜血管腫に対する光線力学的療法と抗VEGF薬の併用療法に関する症例報告が蓄積されつつある。抗VEGF薬単独では腫瘍縮小効果が限定的である一方、滲出抑制効果を利用して光線力学的療法前後の補助療法として用いる試みが報告されている。大規模な前向き研究はまだ乏しい段階である。