基本情報
一般名:ファリシマブ-svoa
商品名:バビースモ(Vabysmo)
薬剤分類:二重特異性IgG抗体
分子量:149 kD

ファリシマブ-svoa(商品名:バビースモ、Vabysmo)は、ヒト化二重特異性IgGモノクローナル抗体である。VEGF-A(血管内皮増殖因子A)とAng-2(アンジオポエチン-2)の両方に同時結合し、二経路を同時に阻害する。硝子体内投与用の抗体として世界初の二重標的薬剤である。9)
Roche社がCrossMAb技術を用いて開発した(開発コードRG7716)。分子量は149 kDであり、ランビズマブ(48 kD)やアフリベルセプト(115 kD)より大きい。6)
2022年1月、FDAは糖尿病黄斑浮腫および滲出型加齢黄斑変性に対してファリシマブを承認した。9)10) 2023年10月には網膜静脈閉塞症(RVO)に伴う黄斑浮腫への適応が追加された。4)
基本情報
一般名:ファリシマブ-svoa
商品名:バビースモ(Vabysmo)
薬剤分類:二重特異性IgG抗体
分子量:149 kD
承認情報
FDA承認:2022年1月(糖尿病黄斑浮腫・滲出型加齢黄斑変性)
RVO追加承認:2023年10月
用量:6mg(0.05mL)
投与経路:硝子体内注射
従来の抗VEGF薬(ランビズマブ・アフリベルセプトなど)はVEGF-Aのみを標的とする。ファリシマブはVEGF-AとAng-2の両方を同時に阻害する点が根本的に異なる。Ang-2阻害により血管安定性が向上し、VEGF-Aへの感受性も低下するため、投与間隔の延長が可能になる。
ファリシマブが承認されている適応は以下の3疾患である。
承認外であるが、以下の疾患での使用報告がある。
ポリープ状脈絡膜血管症(PCV):ランビズマブ抵抗性のポリープ状脈絡膜血管症患者1例にファリシマブを投与したところ、視力が20/100から20/60に改善し、PED(網膜色素上皮剥離)の縮小とSRF(網膜下液)・IRF(網膜内液)の消失が得られた。3)
難治性嚢胞様黄斑浮腫(CME):8年間にわたり複数治療に抵抗した1例でファリシマブを3回投与した。中心窩網膜厚(CST)が748μmから339μmに減少し、視力が20/50から20/40に改善した。7)
ファリシマブは二つの経路を同時に阻害することで血管安定化を図る。
VEGF-Aは血管内皮細胞のVEGFR-1・VEGFR-2に結合し、内皮細胞増殖・血管透過性亢進・新生血管形成を促進する。ファリシマブがVEGF-Aを中和することで、これらの病的過程が抑制される。
Ang-1はTie-2受容体のアゴニストとして血管安定化に働く。一方、Ang-2はTie-2アンタゴニストとして作用し、Tie-2のリン酸化を阻害して血管漏出を促進する。ファリシマブがAng-2を阻害することで、Tie-2経路が正常化し血管安定性が向上する。VEGF感受性も低下するため、単独のVEGF阻害より追加的な利益が生まれる。11)
VEGF-A阻害の作用
内皮細胞増殖:抑制
血管透過性:低下
新生血管形成:抑制
Ang-2阻害の作用
血管安定性:向上(Tie-2経路正常化)
VEGF感受性:低下
投与間隔:延長が可能
また、ファリシマブは修飾されたFc領域を持ち、FcγR(Fc受容体)およびneonatal FcR(FcRn)との結合が低減されている。これにより眼内炎症反応の軽減と全身曝露の抑制が期待される。6) 半減期は約7.5日である。6)
ファリシマブ最大Q16W(16週ごと)投与とアフリベルセプト2mg Q8W(8週ごと)投与を比較した第III相試験である。9)
非劣性が達成された。1年目の時点で約80%の患者がQ12W(12週ごと)以上の投与間隔を維持し、45%がQ16Wを達成した。2年目にはQ16W達成率が63%に上昇した。2年間の中央値注射回数はファリシマブ10回に対し、アフリベルセプト15回であった。9)
なお、RPE裂孔はファリシマブ群でTENAYA 2.7%・LUCERNE 3.0%に対し、アフリベルセプト群は1.8%・0.9%であった。1)
ファリシマブQ8W固定投与・PTI(個別化治療間隔)・アフリベルセプト2mg Q8Wの3群を比較した第III相試験である。10)
非劣性が達成された。2年目にはPTI群の78.1%がQ12W以上を達成し、60〜64.5%がQ16Wを達成した。2年目のPTI群の年間注射回数中央値は3回であり、Q8W固定群の5回より少なかった。中心窩網膜厚(中心窩網膜厚)の減少はアフリベルセプト群より大きかった。10)
ファリシマブ6mgとアフリベルセプト2mgをいずれもQ4W(4週ごと)で24週間投与して比較した第III相試験である。11)
BALATON試験(網膜静脈分枝閉塞症)では視力改善が+16.9文字 vs +17.5文字、COMINO試験(網膜中心静脈閉塞症/HRVO)では+16.9文字 vs +17.3文字であり、いずれも非劣性が達成された。FA(蛍光眼底造影)による黄斑漏出消失率はBALATON 33.6% vs 21.0%(P=0.0023)、COMINO 44.4% vs 30.0%(P=0.0002)と、ファリシマブ群で有意に優れていた。11)
滲出型加齢黄斑変性では最大80%の患者がQ12W以上を達成し、2年目には最大63%がQ16Wに到達した。糖尿病黄斑浮腫でも2年目の78.1%がQ12W以上を維持している。ただし一部の患者はQ4W(4週ごと)の継続投与が必要であり、全例で延長できるわけではない。詳細は「5. 投与方法・用法用量」の項を参照。
各適応症における導入期・維持期の投与スケジュールを以下に示す。
| 適応 | 導入期 | 維持期 |
|---|---|---|
| 滲出型加齢黄斑変性 | Q4W×4回 | Q8W〜Q16W |
| 糖尿病黄斑浮腫 | Q4W×4〜6回 | PTI(最大Q16W) |
| RVO | Q4W×6ヶ月 | PTI(最大Q16W) |
製剤は120 mg/mL(6mg/0.05mL)の単回投与バイアルとして提供され、冷蔵保存が必要である。投与手技は以下の手順による。
既治療患者への切替でも効果が得られた報告はある。ただし、高用量アフリベルセプトなど他剤との短期間での連続投与は眼内炎症(IOI)リスクを高める可能性がある。6) 切替の際はウォッシュアウト期間(5半減期以上、約37.5日)の考慮が推奨される。
IOIはファリシマブで報告される最も重要な副作用の一つである。主要試験での報告頻度は糖尿病黄斑浮腫 1.3%、滲出型加齢黄斑変性 2.0%、網膜静脈閉塞症 1.4%であった。4)
リアルワールドデータでは眼あたり4.1%、両眼同時投与患者では8.5%にIOIが認められた。5) 症状発現の中央値は投与後10日であった。5) 主な臨床所見は眼圧上昇(平均33±13 mmHg、64%に認められた)・角膜後面沈着物(KP)・前房炎症であった。5)
抗ファリシマブ抗体が8〜10%の患者に形成されることが確認されている。5) 全例でトピカルステロイドにより改善した。4) ブロルシズマブによるIOI既往のある患者では、ファリシマブへの切替時に交差反応が生じる可能性がある。4)
各薬剤のIOI頻度比較を以下に示す。
| 薬剤 | IOI率 | 備考 |
|---|---|---|
| ファリシマブ | 1.3〜2.0% | 両眼投与8.5% |
| アフリベルセプト | 0〜0.6% | 対照群 |
| ブロルシズマブ | 4.6% | 血管炎リスク高 |
市販後調査での発生頻度は0.17/10,000注射と低いが、重篤な転帰をとり得る。5)8) 2023年11月には添付文書に網膜血管炎に関する警告が追加された。2)
非閉塞性血管炎に対してはIV(静脈)メチルプレドニゾロン250mg Q6h×3日→経口プレドニゾン漸減で回復した症例が報告されている。2) 出血性閉塞性網膜血管炎(HORV)は重篤であり、IVメチルプレドニゾロン1g、結膜下Ozurdex投与、硝子体手術(PPV)が必要となった症例が報告されている。8)
Yavariらは両眼ファリシマブ投与後に出血性閉塞性網膜血管炎を発症した重症例を報告した。硝子体内の細胞を病理学的に検索したところ、CD3+ T細胞・CD4+ Tヘルパー細胞・CD8+細胞傷害性T細胞・CD68+組織球が検出され、IV型(遅延型)過敏症反応が示唆された。8)
滲出型加齢黄斑変性試験においてRPE裂孔はファリシマブ群でTENAYA 2.7%・LUCERNE 3.0%と報告された(アフリベルセプト群1.8%・0.9%)。1) PED(網膜色素上皮剥離)高さ550μm超がリスク因子として挙げられている。1)
Clemensらはランビズマブからファリシマブへの切替後にRPE裂孔を発症した1例を報告した。既存のPED高さが550μmを超えていた症例であり、大型PEDを有する患者へのファリシマブ投与時には慎重な経過観察が必要であると述べた。1)
ファリシマブと高用量アフリベルセプト(8mg)の連続投与により、3例でIOIが発生した報告がある。6) 切替の際はウォッシュアウト期間(5半減期以上、約37.5日)の考慮が推奨される。6)
視力低下・眼痛・充血・飛蚊症の増加は眼内炎あるいは眼内炎症の徴候である。IOIは投与後中央値10日で発症するとの報告があり、両眼投与患者では特に注意が必要である。これらの症状が現れた場合は速やかに眼科を受診すること。
AVONELLE-X試験(滲出型加齢黄斑変性長期安全性)およびRHONE-X試験(糖尿病黄斑浮腫長期安全性)が進行中である。BALATON・COMINO試験の24週以降(PTI移行期)のデータも今後報告される予定である。11)
ELEVATUM試験ではこれまで臨床試験から除外されることの多かった糖尿病黄斑浮腫患者集団(高度視力障害、高齢者など)を対象とした第IV相試験が行われている。VOYAGER試験は糖尿病黄斑浮腫リアルワールドデータを収集する観察研究である。
SALWEEN試験ではポリープ状脈絡膜血管症患者への効果が検討されている。12) 房水中でのAng-2高値およびANGPT2 SNP(rs4455855、rs13269021)の滲出型加齢黄斑変性・ポリープ状脈絡膜血管症との関連が示唆されており、3) Ang-2の二重阻害がポリープ状脈絡膜血管症治療に寄与する可能性が研究されている。
難治性嚢胞様黄斑浮腫への有効性も1例報告で示されており、7) 今後の症例蓄積が待たれる。
IOIの病態メカニズムとしてIV型遅延型過敏症の関与が示唆されており、8) 免疫学的背景の解明が進んでいる。両眼同時投与の安全性評価および薬剤切替時の適切なウォッシュアウト期間の設定についても今後の検討課題である。5)6)