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網膜・硝子体

ブロルシズマブ

ブロルシズマブ(商品名:ベオビュ®)は、ヒト化一本鎖可変領域断片(scFv)からなる抗VEGF薬である。VEGF-A(血管内皮増殖因子A)のすべてのアイソフォームに結合し、VEGF受容体への結合を阻害する。

分子量は26kDaと既存の抗VEGF薬の中で最小であり12)、組織浸透性に優れる。VEGF165に対する結合親和性(KD)は28.4 pMで、VEGFR2に対するIC50は0.86 nMである6)

同一投与量(6mg)でのモル濃度は、アフリベルセプトの約12倍、ラニビズマブの約22倍に相当する6)

承認状況は以下の通りである。

  • 米国FDA承認:2019年10月(nAMD)、2022年6月(糖尿病黄斑浮腫追加)9)10)
  • 日本承認・発売:2020年5月7)

既存薬との分子量の比較を以下に示す。

ブロルシズマブ

分子量:26 kDa

構造:scFv(一本鎖可変領域断片)Fc領域なし

モル濃度:アフリベルセプトの約12倍6)

硝子体内半減期:約3.0日

アフリベルセプト

分子量:97〜115 kDa

構造:融合タンパク質(VEGFR1/2細胞外ドメイン+IgG1 Fc)

モル濃度:ブロルシズマブの1/12

硝子体内半減期:約4.7日

ラニビズマブ

分子量:48 kDa

構造:Fab断片(Fc領域なし)

モル濃度:ブロルシズマブの1/226)

ベバシズマブ参考:147 kDa(全長抗体)

Q ブロルシズマブと他の抗VEGF薬は何が違うのか?
A

ブロルシズマブはscFv構造により分子量26kDaと最小で、同一濃度でのモル数がアフリベルセプトの約12倍と高い6)。小分子であるため組織浸透性も高く12)、注射間隔を長くできる可能性がある。一方でIOIの発症率が他剤より高い点が注意事項である。詳細は「安全性と副作用」の項を参照。

Brolucizumab image
Brolucizumab image
Bahram Bodaghi; Arshad M Khanani; Ramin Khoramnia; Carlos Pavesio; Quan Dong Nguyen. Gains in the current understanding of managing neovascular AMD with brolucizumab. J Ophthalmic Inflamm Infect. 2023 Nov 23; 13:51 Figure 2. PMCID: PMC10667168. License: CC BY.
Panuveitis with nonocclusive vasculitis in the left eye following injection with brolucizumab. A Fundus examination showed vitreous haze, hyperemia of the optic nerve, and sheathing around some of the retinal vessels. B, C Fluorescein angiography showed optic nerve leakage and perivascular leakage in the posterior pole and peripheral retina

HAWK・HARRIER試験は計1817例を対象とした第III相無作為化比較試験であり、アフリベルセプト(2mgを8週間隔)を対照にブロルシズマブ(3mgおよび6mg)の有効性を検討した10)

主要評価項目であるBCVA(最高矯正視力)の変化量(48週)は以下の通りであった。

試験ブロルシズマブ6mgアフリベルセプト2mg
HAWK 48週+6.6文字+6.8文字
HAWK 96週+5.9文字+5.3文字
HARRIER 48週+6.9文字+7.6文字
HARRIER 96週+6.1文字+6.6文字

いずれも非劣性基準を満たした10)。96週時点での成績も同等であり、長期有効性が確認されている。

網膜内液・網膜下液RPE下液の残存割合はブロルシズマブ群で有意に低く、液体減少効果が優れていた10)

維持期に12週間隔投与が維持できた割合は、HAWK 55.6%・HARRIER 51.0%であった。

HAWK/HARRIER試験では、MERLIN試験(4週間隔)においてIOI発症率が9.3%と高く、試験が中断された10)。この結果から最低2か月間隔の投与が推奨されている。

日本人ポリープ状脈絡膜血管症患者における48週時点の最高矯正視力変化量は、ブロルシズマブ群+10.4文字・対照群+11.6文字であり、96週では+11.4文字・+11.1文字と同等だった11)

12週間隔投与が維持できた割合は48週時点で76%、96週時点で68%であった11)

ポリープ消退率はブロルシズマブで約78.9%と、ラニビズマブ(約30%)・アフリベルセプト(約50%)を大きく上回る11)。脈絡膜厚は15〜20%減少し12)、ポリポイダル病変の80〜90%で退縮が確認されている12)

Carta Vら(2023)は、黄斑部に脂質滲出を伴うポリープ状脈絡膜血管症 1例にブロルシズマブ硝子体内注射を行い、8回の注射後に視力が20/400から20/60に改善し、脂質滲出がほぼ完全に吸収されたことを報告した1)

糖尿病黄斑浮腫:KESTREL/KITE試験

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KESTREL(6mg群)では52週時点の最高矯正視力変化量+9.2文字(対照+10.5文字)、KITE試験では+10.6文字(対照+9.4文字)であった9)。52週までの中央値投与回数は7回であり、55%(KESTREL)・50%(KITE)の患者で12週間隔維持が達成された9)

HAWK/HARRIER(nAMD)

対象:nAMD 1817例、第III相RCT

結果:48週最高矯正視力でアフリベルセプトと非劣性10)

12週間隔達成:HAWK 55.6%・HARRIER 51.0%

KESTREL/KITE(糖尿病黄斑浮腫)

対象:糖尿病黄斑浮腫、52週追跡

結果:アフリベルセプト比較で非劣性9)

12週間隔達成:KESTREL 55%・KITE 50%9)

適応外・症例報告

放射線網膜症:1回注射で最高矯正視力 20/200→20/50、CME消退5)

血管様線条脈絡膜新生血管:1回投与で最高矯正視力 20/120→20/326)

網膜下血腫(SMH):SF6ガス併用で3例全例で血腫消退8)

Villegasら(2022)は放射線網膜症の1例にブロルシズマブを投与し、1回の注射後に嚢胞様黄斑浮腫が消退し、最高矯正視力が20/200から20/50に改善したと報告した5)

Chakraborty・Shethら(2022)は血管様線条に伴う脈絡膜新生血管の1例に対し、ブロルシズマブ単回投与で最高矯正視力が20/120から20/32に改善したと報告した6)

Chakraborty・Shethら(2022)はブロルシズマブとSF6ガスによる気送転位術を組み合わせた網膜下出血(SMH)の3例を報告し、全例で血腫が消退した8)

ブロルシズマブは硝子体内注射(IVT)により投与する。製剤は120mg/mL、1回6mg(0.05mL)の防腐剤フリー単回使用バイアルである。保存温度は2〜8℃。

適応別の投与スケジュールを以下に示す。

適応導入期維持期
nAMD月1回×3回8〜12週間隔
糖尿病黄斑浮腫6週間隔×5回8〜12週間隔

投与手技の要点は以下の通りである。

  • フィルターニードル:5μm 18Gニードルでバイアルから薬液を吸引する。
  • 投与針:30G 1/2インチ針に交換後、水晶体後面から3.5〜4.0mm(シリコーン眼内レンズ挿入眼では3.5mm)の毛様体扁平部から硝子体内に注入する。
  • 眼圧管理:注射直後の眼圧上昇に注意し、必要に応じて前房穿刺で減圧する。

薬剤費はアフリベルセプトと同程度とされている。

Q 注射の間隔はどれくらい空けられるか?
A

導入期終了後は8〜12週間隔での維持投与が可能である。HAWK/HARRIER試験では約55%の患者が12週間隔を維持できた10)。ただし4週間隔(MERLIN試験)ではIOI発症率が9.3%と高くなったため、最低2か月間隔が推奨される10)。個々の病勢に応じて主治医が決定する。

IOIはブロルシズマブに特徴的な有害事象であり、最も注意が必要な副作用である。

各試験・集団別のIOI発症率を以下に示す。

試験・集団ブロルシズマブ対照群
HAWK/HARRIER(IOI全体)4.6%
HAWK/HARRIER(網膜血管炎)3.6%
HAWK/HARRIER(血管閉塞)2.1%
KESTREL(6mg)3.7%0.5%
MERLIN(4週間隔)9.3%
日本人症例15〜20%

市販後データでは、血管炎と閉塞の複合発症率は10,000回注射あたり3.73件と報告されている3)。アジア人ポリープ状脈絡膜血管症患者では9〜19%のIOI発症率、重症視力障害をきたす閉塞性血管炎は1〜2%とされる12)

大多数のIOIは初回投与後6か月以内・4回以内の注射後に発症する7)

IOI発症後の治療としては、トリアムシノロンアセトニド(STTA)5〜20mgの結膜下注射または後部Tenon嚢下注射が有効であり、予防にも用いられる4)7)

Saito Mら(2022)は、レーザーフレアセルフォトメーター(LFP)を用いてIOI後のブロルシズマブ再投与を安全に行った症例を報告し、LFPが炎症モニタリングに有用であることを示した7)

Shigemoto Yら(2021)は、ブロルシズマブ関連IOIの1例にSTTA(5mg)と継続投与を組み合わせて治療し、炎症制御と良好な視力維持を達成したと報告した4)

Takayama Tら(2024)は、硝子体内ブロルシズマブ注射後に強膜炎を発症した日本人3例を世界で初めて報告した2)。3例はいずれも前眼部炎症を伴わない後部強膜炎のパターンを示し、眼圧は24〜49mmHgに上昇した。このうち1例は網膜動脈閉塞と血管炎に進展した2)

強膜炎はIOIの非典型的な発現形態として認識されており、眼圧上昇を伴う後眼部炎症では本合併症を念頭に置く必要がある。

HAWK試験ではATE(ブロルシズマブ3mg群1.1%・6mg群1.4%)、HARRIER試験では1.6%に認められた10)。網膜動脈閉塞はブロルシズマブ3mg群で4例・6mg群で6例に認めた10)

Q IOIが起きたらどうすればよいか?
A

急激な視力低下・飛蚊症の悪化・充血・眼痛などの症状が現れた場合は、速やかに眼科を受診する。診断後はトリアムシノロンアセトニド(STTA)の結膜下あるいはTenon嚢下注射が有効であり、多くの症例で炎症は改善する4)7)。ブロルシズマブの再投与はLFPなどで炎症が消退したことを確認してから慎重に判断する7)

ブロルシズマブはscFv(single-chain variable fragment)構造をとる。scFvは抗体の重鎖可変領域(VH)と軽鎖可変領域(VL)のみからなる最小機能単位であり、Fc領域を持たない。

この構造的特徴により、分子量26kDaという小ささを実現し12)、硝子体および網膜・脈絡膜への迅速な組織浸透が可能となる。

VEGF-Aとの結合は2:1(VEGF-Aダイマー1分子にscFv 2分子)の化学量論比で行われる。KD=28.4 pMの高親和性でVEGF-Aに結合し、VEGFR1・VEGFR2への結合を競合的に阻害する。

脈絡膜の厚みを15〜20%減少させる効果は12)パキコロイド表現型を持つポリープ状脈絡膜血管症において特に有利に働くと考えられている。

ブロルシズマブに関連するIOIの病態には免疫学的機序が関与する。

  • 高い抗薬物抗体(ADA)陽性率:治療前からのADA陽性率がブロルシズマブでは35〜52%に達し、ラニビズマブ・アフリベルセプトの5%未満を大きく上回る3)
  • III型過敏反応:免疫複合体の沈着により閉塞性血管炎が引き起こされると考えられている3)
  • 高モル濃度の影響:投与モル量が多いため、より強い免疫応答が誘発される可能性がある3)
  • 発症パターン:IOIは血管炎に先行して数週間前に発症し、主として動脈系に影響を及ぼす3)。女性での発症が88%と多く報告されている3)

Sharmaら(2022)は、ブロルシズマブ関連網膜血管炎の病態を総説し、ADAを介した免疫複合体沈着がIII型過敏反応を惹起し、閉塞性血管炎をもたらすメカニズムを詳述した3)

Q なぜブロルシズマブはIOIが多いのか?
A

主な原因として3点が挙げられる。第一に治療前からのADA陽性率がラニビズマブ・アフリベルセプトの5%未満に対して35〜52%と高く3)、免疫応答が起きやすい素地がある。第二にscFv構造がFc領域を欠くため免疫寛容誘導が弱い可能性がある。第三に高いモル濃度が免疫刺激を強める可能性がある3)。これらが組み合わさりIII型過敏反応を引き起こすと考えられている。

ポリープ状脈絡膜血管症・黄斑部毛細血管拡張症1型(AT1)を対象とした試験であり、ブロルシズマブの有効性・安全性を評価する12)。アジア人特有の疾患に対するエビデンスの蓄積が期待される。

結膜下・Tenon嚢下トリアムシノロンアセトニド(STTA)とブロルシズマブの併用投与は、IOI予防と滲出制御の両面で有効な可能性がある4)7)。至適用量・投与タイミングの標準化に向けた研究が進んでいる。

レーザーフレアセルフォトメーター(LFP)は前房炎症を定量評価できる非侵襲的装置であり、IOI発症後の再投与判断に活用できる可能性が示されている7)

治療前のADA検査によってIOI高リスク患者を事前に同定し、投与適応や監視強度を個別化する戦略が検討されている3)。ADAバイオマーカーの臨床実装が実現すれば、より安全なブロルシズマブ使用が可能となる。


  1. Carta V, et al. Effect of intravitreal brolucizumab in PCV with foveal lipid exudation. Cureus. 2023;15(10):e47942.
  2. Takayama T, et al. Scleritis following intravitreal brolucizumab injection: a case series. J Med Case Rep. 2024;18:80.
  3. Sharma A, et al. Understanding retinal vasculitis associated with brolucizumab. Ocul Immunol Inflamm. 2022;30(6):1508-1510.
  4. Shigemoto Y, et al. Combination therapy of STTA and IVbr for brolucizumab-related IOI. Medicine. 2021;100(42):e27580.
  5. Villegas NC, et al. IVbr as treatment of radiation retinopathy. Am J Ophthalmol Case Rep. 2022;27:101581.
  6. Chakraborty S, Sheth JU. IVbr for 脈絡膜新生血管 associated to angioid streaks. Case Rep Ophthalmol Med. 2022;2022:3442306.
  7. Saito M, et al. IOI after IVbr monitored by laser flare-cell photometer. Am J Ophthalmol Case Rep. 2022;28:101727.
  8. Chakraborty S, Sheth JU. Management of SMH using IVbr with pneumatic displacement. Case Rep Ophthalmol. 2022;13:956-962.
  9. AAO. Diabetic Retinopathy PPP. Ophthalmology. 2024. [KESTREL/KITE data]
  10. AAO. Age-Related Macular Degeneration PPP. Ophthalmology. 2024. [HAWK/HARRIER data]
  11. Sen P, et al. PCV: update on diagnosis and treatment. Clin Ophthalmol. 2023;17:53-70.
  12. Cheung CMG, et al. PCV: definition, pathogenesis, diagnosis, management. Eye. 2025;39:819-834.

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