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網膜・硝子体

急性黄斑部神経網膜症(AMN)

急性黄斑部神経網膜症(Acute Macular Neuroretinopathy; AMN)は、1975年にBosとDeutmanが初めて報告したまれな網膜疾患である。外層網膜の血管変化により、一時的または永続的な中心傍視力障害を引き起こす。

AMNは20〜40歳代の若年女性に好発する。最大規模のシリーズ(101名156眼)では、大多数が20代白人女性であり、両眼性54.4%・片眼性44.5%と報告されている。レビューデータでは、患者の84.2%が女性、平均年齢29.5歳である3)。先行インフルエンザ様疾患・発熱が47.5%に、経口避妊薬使用が35.6%に認められる3)

COVID-19パンデミックを契機に発症率が急増した。フランスの後方視的研究では、AMN発生率が2019年の0.66/10万から2020年には8.97/10万に著増したことが報告されている4)。COVID-19ワクチン接種後のAMN(21例のレビュー)では、95%が女性、67%が経口避妊薬使用者であり、90%が接種後8日以内に発症している9)

AMNはAZOOR complexの一つとして位置づけられる疾患群に属し、OCT技術の進歩により外層網膜に病変主座があることが明らかとなった。

Q AMNはどのくらいまれな疾患ですか?
A

COVID-19パンデミック前は極めてまれな疾患であった。フランスの研究では2019年時点の発生率は10万人あたり0.66例とされていたが、2020年のCOVID-19流行後には約14倍に急増している4)。現在も症例報告が世界各地から発表され続けており、認知度の向上により診断される機会が増えている。

AMNの最も特徴的な症状は、突然発症する花弁状の傍中心暗点である。

  • 傍中心暗点:片眼から始まることが多く、数日かけて出現・拡大する。両眼性は最大55%に達する。暗点は相対的で、数か月かけて不完全に改善するが完全消失は少ない。
  • 視力低下:軽度(20/30程度)が多い。視力は比較的良好でも暗点のみ持続する例がある1)
  • 変視症光視症:SARS-CoV-2感染後例で変視症が報告されている2)
  • 飛蚊症:比較的まれな随伴症状。
  • 先行症状:インフルエンザ様疾患・発熱が最も多い先行症状である。
Q AMNの暗点は完全に治りますか?
A

多くの患者で傍中心暗点は長期残存する。部分的な改善は認められるが、完全消失は少ない。19歳男性の長期経過観察例では、COVID-19ワクチン接種後86日で自覚症状・検査所見ともにほぼ消失し、366日後も再発なく良好な経過が報告されている3)。一方、70歳のデング熱後AMN例では5年後も重篤な視力低下が残存していた7)。若年例ほど回復しやすい可能性があるが、確定的なことは言えない。

眼底検査では初期に異常を認めないことが多い。発症時に確認される所見を以下に示す。

眼底・前眼部

赤褐色楔状・花弁状病変中心窩周囲に先端が中心窩を向く楔状・花弁状の赤褐色変色。無赤色光で鮮明に観察される。

前部硝子体炎症・網膜出血:ワクチン接種後AMN例で前部硝子体cell 1+・中心窩周囲網膜内出血が報告されている8)

綿花様白斑:COVID-19後AMN+PAMM合併例で認められる4)

特殊検査所見

NIR(近赤外線反射)低反射病変:楔状・涙滴状・花弁状の暗灰色低反射病変。病変をほぼ確実に検出できる最も鋭敏な所見の一つ。

SD-OCT外層変化:急性期にOPL/ONL高反射→EZ視細胞内節外節境界)破壊→ONL菲薄化の順に変化する。

VEP異常:COVID-19後AMN例で振幅低下・潜時延長が報告されている1)

重症例では視力障害が顕著となる。デング熱後の70歳女性例では、最高矯正視力(BCVA) 20/200(右眼)・20/400(左眼)、左眼RAPD陽性、VEP両眼異常が認められた7)。AMN患者の80%以上は通常視力 20/40以上を維持するが、高齢者や重篤な全身感染症後には例外的重症例が存在する7)

AMNの正確な病因は未解明である。深層毛細血管叢(DCP)または脈絡膜毛細血管板の血管障害が主要な病態機序と考えられている。

主なリスク因子・誘因を以下に示す。

  • 感染症・発熱性疾患:インフルエンザ、COVID-19、デング熱などのウイルス感染が代表的な誘因。
  • COVID-19感染:過凝固状態・血管炎→微小血栓→小血管閉塞の機序が想定される1)8)
  • COVID-19ワクチン接種:全ワクチン種(mRNA型、組換え型、不活化型)で報告されている9)。炎症状態に経口避妊薬による血栓促進作用が加わると発症しやすくなると考えられる3)
  • 経口避妊薬使用:微小血管内皮機能障害への寄与が示唆される9)。症例の35.6〜67%に使用歴がある3)9)
  • 低血圧・ショック:血行動態の急激な変化が誘因となりうる。
  • その他の薬剤・処置:硝子体内抗VEGF注射、造影剤、エフェドリン・エピネフリン、カフェイン。
  • 血液疾患・全身状態:貧血、血小板減少症、白血病、抗リン脂質抗体、妊娠高血圧腎症、Valsalva手技7)

COVID-19関連AMNと非COVID-19誘因との比較疫学データを以下に示す。

COVID-19感染後COVID-19ワクチン後
症例数(レビュー)36例2)21例9)
平均年齢35.5±15.7歳2)24.8±4.8歳
女性比率69%2)95%9)
両眼性72%(26/36例)2)35.7%3)
発症までの期間平均12.1±26.6日2)平均3.1±2.4日
Q COVID-19やワクチン接種でAMNになるリスクはありますか?
A

COVID-19パンデミック以降、感染後・ワクチン接種後のAMNが世界各地で報告され、発生率は劇的に増加した4)。ただし絶対的なリスクは依然として極めて低い。ワクチン接種後21例のレビューでは、90%が接種後8日以内に発症している9)。経口避妊薬使用者は特に注意が必要とされる。

AMNは通常の眼底検査やFAでは見逃されることが多く、特殊な撮影装置が診断に不可欠である。

  • NIR(近赤外線反射):楔状・涙滴状・花弁状の暗灰色低反射病変を確実に描出できる。AMN診断において最も鋭敏な画像モダリティの一つ。
  • SD-OCT:外層網膜の変化を経時的に把握できる。急性期のOPL/ONL高反射、EZ(IS/OS)・IZ(COST線)破壊、慢性期のONL菲薄化が特徴的所見。
  • OCTA:DCP血流信号低下を検出する。初回検査が正常でも後に進行性DCP血管密度低下が生じる場合があり4)、経時的評価が重要。
  • LSFG(レーザー血流計)黄斑部血流速度(MBR)は急性期に低下し、慢性期に増加することが報告されている2)
  • FAF(眼底自発蛍光):低自発蛍光を示す。経過とともに改善する場合がある3)
  • FA・ICG:大多数の症例で異常を認めない。AMN診断感度は低い。

主要な検査モダリティを以下にまとめる。

NIR

特徴:楔状・涙滴状の暗灰色低反射病変を鮮明に描出。

診断感度:眼底正常例でも病変を検出できる最も重要な初期検査。

経過:治癒とともに病変が縮小・消失する3)

SD-OCT

初期所見:OPL・ONL高反射、EZ・IZ不連続。

慢性期所見:ONL菲薄化、EZ/IZ不鮮明残存が多い。

意義:外層網膜障害の程度と経時的回復を客観的に評価できる3)

OCTA

急性期:DCP血流信号の低下を検出。初回正常でも後に低下進行の例がある4)

意義:DCPの微小循環障害を非侵襲的に可視化できる。PAMMとの鑑別にも有用。

  • mfERG(多焦点ERG):黄斑機能障害の客観的評価。振幅低下・潜時延長を呈する7)
  • 全視野網膜電図:通常正常であり、病変が外層網膜に限局していることを示す7)
  • VEP:COVID-19後AMN例では振幅低下・潜時延長を認めることがある1)
  • マイクロペリメトリー(MAIA):密な傍中心暗点を客観的に記録できる8)

AMNとの鑑別が必要な主な疾患は以下の通りである。

疾患主な鑑別点
PAMMINL障害・中間DCP閉塞。合併例も増加4)
MEWDS多発白点。FAで花環状染色
APMPPERPE・脈絡膜毛細血管板病変。FA早期低蛍光
CSCR神経上皮剥離。FAで漿液性滲出
視神経炎RAPD陽性。VEP・視野に特徴的変化
Q AMNの診断にはどの検査が最も重要ですか?
A

NIRとSD-OCTが最も重要な検査である。通常の眼底検査やFAでは病変が見えないことが多く、これらの撮影が行える施設での精査が不可欠である。OCTA は初回正常でも後に DCP 血管密度の低下が進行する例があるため4)、経時的な評価が推奨される。

AMNに確立された治療法はなく、経過観察が基本である。多くの症例で自然経過により部分的な改善が得られる。

外層網膜病変はONL菲薄化・EZ/IZ不鮮明として残存することが多く、傍中心暗点が長期持続するケースが大多数である。19歳男性の症例では、COVID-19ワクチン接種30日後にEZ不連続の改善が始まり、86日後にほぼ消失、366日後に完全正常化が確認された3)

確立された適応はないが、一部の症例で使用が報告されている。渗出性所見が強い場合や炎症が強い場合に考慮されることがある。

報告されている投与例を以下に示す。

  • プレドニゾロン40mg/日→20mg/日(AstraZenecaワクチン後AMN):15週で構造的改善が得られたが、暗点は持続5)
  • プレドニゾロン25mg/日×10日(Sinopharmワクチン後AMN):14日後にVF改善・自覚症状消失9)
  • プレドニゾン20mg単回+ジフルプレドナート0.05%点眼(Modernaワクチン後AMN):投与後経過を追跡中に眼圧上昇23mmHg→ブリモニジン0.1% TID追加8)
  • STTA(テノン嚢トリアムシノロンアセトニド)40mg両眼(SARS-CoV-2感染後AMN):20週後にEZ/IZ破壊の改善・変視症改善が認められ、脈絡膜循環指標(MBR・CCT)も回復した2)

いずれもステロイドの有効性を確定的に示すエビデンスではなく、自然回復との区別が困難である。

経口避妊薬が微小血管内皮機能障害に寄与する可能性から、AMN発症後は中止を指導する6)8)

Q AMNに有効な治療法はありますか?
A

確立された治療法はなく、経過観察が基本である。ステロイドの投与例が複数報告されているが、自然回復との区別が困難であり、有効性の証明には至っていない。経口避妊薬を使用している場合は中止が推奨される6)8)。若年例では数か月で自然回復することもある3)

6. 病態生理学・詳細な発症機序

Section titled “6. 病態生理学・詳細な発症機序”

AMNの病態は、外層網膜の栄養供給を担う脈絡膜毛細血管板(DCP)の微小循環障害を中心に展開する。

SD-OCT所見では、急性期のOPL/ONL高反射に続き、EZ(IS/OS境界)・IZ(COST線)の破壊、最終的なONL菲薄化・光受容体消失という段階的変化をたどる。OCTA解析では DCP の血流信号低下が確認される一方、中間毛細血管叢(ICP/SCP)は通常保たれており、PAMM(傍中心急性中間部黄斑症)とは対照的な分布を示す。視細胞層の栄養の約10%をDCPが担うとされ、DCP微小循環障害がAMN発症に直接関与する。

SARS-CoV-2はACE2受容体を介して脈絡膜中大血管・脈絡膜毛細血管板に結合し、直接的な血管障害を引き起こす2)。その結果、急性脈絡膜血流うっ滞→外層網膜虚血という経路が想定される。LSFG(レーザー血流計)を用いた研究では、黄斑部血流速度(MBR)・脈絡膜厚(CCT)・管腔面積(LA)・間質面積(SA)がいずれも急性期に低下し、慢性期に漸増することが実測されている2)

Mitamuraら(2023)は COVID-19後AMN症例(24歳女性)において、LSFGと脈絡膜OCT二値化法を用いて急性期から慢性期(20週後)の脈絡膜循環変化を定量評価した。MBRはOD 20.4%増、OS 29.6%増に回復し、CCTはOD 13.6%増、OS 16.1%増。管腔面積(LA)もOD 12.6%増・OS 14.2%増と著明な改善を示した2)。これはCOVID-19後AMNにおける脈絡膜循環の定量評価の初報告である。

さらに、SARS-CoV-2は組織学的に視神経・脈絡膜・網膜組織内(特に神経節細胞層・IPL・OPL)に検出されており、光受容体への直接的なウイルス侵襲および炎症性血管反応も発症に関与する可能性がある4)

デング熱ウイルスによる免疫複合体沈着→毛細血管内皮欠損・集合細静脈閉塞→脈絡膜毛細血管板虚血という機序が提唱されている6)。デング黄斑症の有病率は入院患者の10%とされ、うち過半数がAMN所見を示す6)

COVID-19後AMNでは、OPL高反射・EZ/IZ低反射・INL高反射を呈するAMN+PAMM合併例が増加している4)。これはSARS-CoV-2による汎網膜循環障害の広がりを示唆する。


COVID-19パンデミックによるAMN急増と疫学的知見

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COVID-19パンデミックはAMNの疫学を一変させた。フランスの後方視的研究によれば、AMN発生率は2019年の0.66/10万から2020年には8.97/10万へ約14倍増加した4)。COVID-19後36例のレビュー(平均年齢35.5±15.7歳、69%女性)では、約72%が両眼性であり2)、非COVID-19関連AMNと比べて重症例の割合が高い。

従来、AMNの急性期OCTAは正常範囲内とされることが多かった。しかし複数のCOVID-19後AMN症例において、初回OCTA正常でも1〜6か月後にDCP血管密度が進行性に低下することが確認された4)。これはOCTA単独での急性期評価の限界を示すとともに、定期的な長期フォローアップの必要性を示唆する。

Biら(2024)は3症例のCOVID-19後AMNで、発症時OCTA正常であっても1か月後・6か月後にDCP血管密度の低下が進行することを報告した4)。一方で視力(VA)は2〜6か月で正常化する例もあり、視力改善が外層網膜のOCTA所見と必ずしも相関しないことを示した。

LSFG・二値化法による脈絡膜循環の定量評価

Section titled “LSFG・二値化法による脈絡膜循環の定量評価”

LSFG(レーザー血流計)とOCT二値化法の組み合わせは、AMNにおける脈絡膜循環を定量評価できる新たな手法として注目される。Mitamuraら(2023)はCOVID-19後AMNの単一症例でこれらを縦断的に適用し、急性期の脈絡膜循環障害とその慢性期への回復過程を数値化することに初めて成功した2)

COVID-19ワクチン後AMNの因果関係について、Naranjo薬物有害反応確率スケールによる評価では、スコア7(probable:おそらく関連あり)という結果が得られており9)、因果関係の客観的評価が進んでいる。

Fekriら(2023)の文献レビュー(21例)では、ワクチン種別の内訳として組換え型が57%(AstraZeneca・J&J)、mRNA型が29%(Pfizer・Moderna)、不活化型が9%(Sinopharm)と報告されており、全ワクチン種でAMNが生じる可能性が示された9)。症状消失までの期間は4〜15週以上と幅があった。

19歳男性のCOVID-19ワクチン後AMN例では、86日での完全臨床回復と366日での再発なしが確認されており3)、若年男性でも良好な長期予後が得られる例が存在することが示された。しかし70歳デング熱後AMN例では5年後も重篤な視力障害が残存しており7)、年齢・基礎疾患・発症機序による予後の差が大きいことが課題として残る。


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