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小児眼科・斜視

タウンズ・ブロックス症候群

1. タウンズ・ブロックス症候群とは

Section titled “1. タウンズ・ブロックス症候群とは”

タウンズ・ブロックス症候群(Townes-Brocks syndrome; TBS)は、1972年にTownesとBrocksにより初めて報告された常染色体優性遺伝疾患である。ICD-10ではQ87.8に分類される。

発生率は約1/250,000で、文献上100例以上が報告されている1)。約50%がde novo変異で発症し、残りの50%は親からの遺伝による。REAR症候群とも呼ばれる。

原因遺伝子はSALL1(16q12.1)であり、変異タイプはフレームシフト60.5%、ナンセンス33.3%、スプライス1.2%、大欠失2.5%、ホモ接合2.5%と報告されている1)。DACT1遺伝子変異によるTBS2型(OMIM 617466)も報告されている2)

Q タウンズ・ブロックス症候群はどのくらい稀な疾患か?
A

発生率は約1/250,000で、これまでに文献上100例以上が報告されている。約半数はde novo変異(新生突然変異)で発症するため、家族歴がなくても発症しうる。

  • 難聴:感音性または伝音性の難聴を認める
  • 排便異常:鎖肛や肛門狭窄に伴う排便障害

臨床所見(医師が診察で確認する所見)

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  • 耳介形成不全(87%):上部耳輪の過折、小耳症、副耳、耳瘻孔2)
  • 母指奇形(89%):軸前性多指症、三節母指、母指低形成。橈骨低形成は伴わない2)
  • 鎖肛/肛門狭窄(84%):直腸会陰瘻・直腸膣瘻を伴うことがある2)
  • 足奇形:内反足、合趾症、重複趾、趾欠損
  • 腎異常(約42%):腎形成不全/低形成、多発性嚢胞腎、膀胱尿管逆流1)
  • 先天性心疾患(約25%):心室中隔欠損症(VSD)、心房中隔欠損症(ASD)、Fallot四徴症、動脈管開存症(PDA)、肺動脈弁閉鎖2)

Valikodathらの分類に基づき、以下の4群に整理される。

眼球形成不全

コロボーマ虹彩水晶体・脈絡網膜に生じる。胎生裂閉鎖不全に起因する。小眼球を合併する場合は視力不良のリスクがある。

その他無眼球症、小眼球症、先天白内障無虹彩症

神経支配障害

デュアン症候群:眼球外転障害と内転時の眼球後退を呈する。

その他:動眼・外転・顔面神経麻痺、味覚性流涙(ワニの涙症候群)。

ゴールデンハー様所見

輪部デルモイド:下耳側輪部に好発する充実性腫瘤。角膜乱視により弱視リスクがある。手術は表層角膜移植を併用する。

脂肪皮様嚢腫:眼球上皮に認める。

その他の眼所見

視神経交叉欠損:稀な所見として報告されている。

網膜血管蛇行・遠視:大欠失による症例で報告されている5)

後天性急性視神経症

無虹彩症を認める場合は、PAX6変異の関与が示唆され、遮光眼鏡や虹彩付きCLで対応するとともに、緑内障・白内障の経過観察が重要である。

Q どのような眼の異常が起こるか?
A

コロボーマ(虹彩・脈絡網膜)、デュアン症候群、無眼球症・小眼球症、先天白内障、輪部デルモイド、無虹彩症、網膜血管蛇行など多彩な眼科的異常が報告されている。Valikodathらはこれらを「眼球形成不全」「神経支配障害」「ゴールデンハー様所見」「その他」の4群に分類している。

TBSの原因遺伝子はSALL1(16q12.1)である。SALL1タンパク質はN末端転写抑制ドメイン(1〜87アミノ酸)、グルタミン/アラニンリッチドメイン、4つのC2H2ダブルジンクフィンガードメインから構成される1)

HGMD(ヒト遺伝子変異データベース)には2022年3月時点で116種類の変異が収録されている1)。変異ホットスポットはnt764〜1565の802bp領域に存在する1)

変異タイプ頻度
フレームシフト60.5%
ナンセンス33.3%
スプライス1.2%
大欠失2.5%
ホモ接合2.5%

遺伝形式は常染色体優性で、浸透率はほぼ完全であるが表現度には個人差がある。家族内でも世代を経るごとに症状が重症化する遺伝的表現促進(anticipation)が報告されている2)4)

Q 家族内で症状の重さが異なるのはなぜか?
A

TBSは浸透率がほぼ完全であるため変異を持つほぼ全員が発症するが、表現度に個人差がある。同じ家族内でも一方は難聴のみ、もう一方は鎖肛・母指奇形・心疾患を合併するなど、症状の重さが異なることがある。世代を経るごとに症状が重症化する遺伝的表現促進も報告されている。

主要三徴のうち3つすべてを認める場合、または主要所見2つに加え副次的所見を認める場合にTBSと臨床診断する2)

分類所見頻度
主要耳介形成不全87%
主要母指奇形89%
主要鎖肛/肛門狭窄84%
副次的腎異常約42%
副次的先天性心疾患約25%
副次的難聴高頻度
副次的眼科的異常症例報告
  • 全エクソーム解析(WES):SALL1変異の同定に有用1)
  • Sanger法:変異の確認に使用1)2)
  • 染色体マイクロアレイ(CMA):大欠失の検出5)
  • ACMG基準:変異の病的意義の判定1)

TBSが疑われた場合、以下のスクリーニングを行う。

  • 腎臓超音波検査
  • 心臓超音波検査
  • 聴力検査
  • 四肢X線
  • 眼科検査

VACTERL連合、ゴールデンハー症候群、沖浩症候群、BOR症候群、STAR症候群との鑑別が必要である。

TBSに対する根治療法はなく、集学的アプローチによる各合併症への対症療法が基本となる。

  • 鎖肛:肛門形成術(後直腸前進肛門形成術〔PRAAP〕など)を施行する2)
  • 先天性心疾患:心室中隔欠損症閉鎖術、動脈管開存症結紮術などを施行する4)
  • 難聴:補聴器装用、重度例では人工内耳が検討される
  • 四肢奇形:整形外科的手術
  • 眼科的異常:輪部デルモイドに対しては表層角膜移植を併用した手術を行う。コロボーマに対しては合併症(緑内障、白内障)の治療を行う

腎異常は約42%に認められ、進行性の腎機能障害をきたしうる。遺伝性の巣状分節性糸球体硬化症(FSGS)は免疫抑制療法に抵抗性であるため、ARB(バルサルタン40mgなど)による蛋白尿管理が中心となる3)

末期腎不全に至った場合は透析・腎移植が検討される。5例の腎移植成功が報告されているが、うち2例で拒絶反応がみられている1)

Q 腎臓の合併症にはどのような治療があるか?
A

遺伝性の巣状分節性糸球体硬化症による腎障害では免疫抑制療法が無効であるため、ARB(バルサルタンなど)で蛋白尿を管理する。末期腎不全に至った場合は透析や腎移植が選択肢となるが、腎移植後の拒絶反応も報告されている。早期の腎不全(平均23歳)を防ぐため、定期的な腎機能評価が重要である。

6. 病態生理学・詳細な発症機序

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SALL1は脳・肝・腎に高発現する転写因子で、PAX8・GDNF・FOXD1の調節を介して腎臓・四肢・聴覚器の発生に重要な役割を果たす1)。NuRD脱アセチル化複合体との相互作用を通じて転写抑制を行う3)

ドミナントネガティブ効果とハプロ不全

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SALL1変異は二重機構で病態を引き起こす。

ドミナントネガティブ(DN)効果

NMD回避変異:ナンセンス変異依存mRNA分解(NMD)を回避した場合、切断型タンパク質が産生される。野生型SALL1と相互作用し、正常機能を阻害する1)5)

発現量上昇:c.694C>T変異では発現量が野生型の約320%に上昇し、異常タンパク質が蓄積する3)

典型的TBS表現型を呈する。

ハプロ不全

NMD分解変異・大欠失:変異mRNAがNMDで分解される場合、野生型の50%のみが産生される5)

発現量低下:c.3175C>T変異では発現量が野生型の約25%に低下する3)

軽症TBS表現型を呈する(典型的三徴は30%のみ)。

重症度の階層は以下の通りである。

  1. 完全欠損(両アレル)→ 胎生致死
  2. ホモ接合変異 → 重症
  3. ハプロ不全 → 軽症
  4. ドミナントネガティブ → 典型的TBS5)

SALL1変異はCCP110/CEP97障害を介してLUZP1の分解を促進し、一次繊毛の機能障害を引き起こす1)4)。この経路はsonic hedgehog経路の制御にも関与しており、多発性嚢胞腎や難聴の病態に寄与する。

SALL1はポドサイトにおいてsynaptopodin維持、ストレスファイバー形成、遊走能に関与する。SALL1変異はポドサイト障害を介して巣状分節性糸球体硬化症を引き起こし、慢性腎臓病へと進行する3)

変異部位と腎障害の重症度に相関がみられる。aa65〜448領域(グループA)の変異では腎不全が平均23歳で発症するのに対し、aa500〜1000領域(グループC/D)の変異では腎機能異常を認めない1)

眼科的異常は、SALL1の中脳核および脳神経発生への関与を反映する。先天性脳神経異常支配疾患(CCDDs)としてデュアン症候群や顔面神経麻痺が生じる。


7. 最新の研究と今後の展望(研究段階の報告)

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Liangら(2025)は、2例のタウンズ・ブロックス症候群小児で確認された巣状分節性糸球体硬化症に対し、SALL1変異のポドサイトにおける機能解析を報告した。ナンセンス変異依存mRNA分解回避変異では異常タンパク質の蓄積が核と細胞質への異常局在を引き起こし、ポドサイト機能障害の直接的な機序が示された3)

Wangら(2023)はAlphaFold構造予測を用いてSALL1タンパク質の立体構造変化を解析し、変異の病的意義の予測に有用であることを示した1)

Chiら(2024)は分子ドッキングにより、切断型タンパク質がグルタミンリッチドメインのαヘリックスで野生型SALL1と相互作用し、立体障害を引き起こす機序を報告した2)

エピジェネティクスと治療標的

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エピシグネチャー(DNAメチル化パターン)がTBSの診断補助として検討されている5)。また、ポドサイトにおけるSALL1の再活性化が将来的な腎保護治療の標的となる可能性が示唆されている3)


  1. Wang Z, Sun Z, Diao Y, et al. Identification of two novel SALL1 mutations in Chinese families with Townes-Brocks syndrome and literature review. Orphanet J Rare Dis. 2023;18(1):250.
  2. Chi Y, Yao Y, Sun F, et al. A novel SALL1 C757T mutation in a Chinese family causes a rare disease — Townes-Brocks syndrome. Ital J Pediatr. 2024;50(1):121.
  3. Liang R, Zheng B, Wang C, et al. Functional analysis of heterozygous variants in the SALL1 gene in 2 children with Townes-Brocks syndrome with FSGS. BMC Pediatr. 2025;25(1):99.
  4. Yang G, Yin Y, Tan Z, et al. Whole-exome sequencing identified a novel heterozygous mutation of SALL1 and a new homozygous mutation of PTPRQ in a Chinese family with Townes-Brocks syndrome and hearing loss. BMC Med Genomics. 2021;14(1):24.
  5. Innoceta AM, Olivucci G, Parmeggiani G, et al. Chromosomal Microarray Analysis Identifies a Novel SALL1 Deletion, Supporting the Association of Haploinsufficiency with a Mild Phenotype of Townes-Brocks Syndrome. Genes. 2023;14(2):258.

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