先天性
上斜筋の形態異常:上斜筋腱の低形成や付着部異常が原因である。70%以上で滑車神経が欠損している。
主訴は斜頸:小児期から健側への頭部傾斜を呈し、異常頭位で両眼視を維持するため弱視の頻度は低い。
自然治癒なし:診断確定後に手術適応を検討する。

3段階テスト(Parks-Bielschowsky 3段階テスト、Parks-Helveston 3段階テストとも呼ばれる)は、後天性上斜視においてどの回旋垂直筋が麻痺しているかを同定するための診断法である。1935年にBielschowskyが初めて記述し、後にMarshall M. Parksが体系化して普及させた。
カバーテスト(遮閉試験)を用いて、第一眼位・側方視・頭部傾斜時の偏位量を測定し、3つのステップで候補筋を段階的に絞り込む。臨床実務では上斜筋(滑車神経)麻痺の診断に最も有用であるが、より稀な下斜筋や垂直直筋の麻痺にも適用できる。解離性垂直偏位(DVD)と他の垂直斜視の鑑別にも役立つ。
上斜筋麻痺は上下斜視の原因として最も多い疾患である。垂直斜視の中では、第IV脳神経(滑車神経)麻痺が最も一般的なタイプで、年間発症率は10万人あたり6.3例と報告されている1)。滑車神経は脳神経の中で最も長い頭蓋内走行を持ち、脳幹背側から出る唯一の脳神経であるため、後天的な損傷を受けやすい。
本テストは単一の垂直筋麻痺の診断のために設計されている。複数の麻痺筋がある場合や拘束性斜視の場合は信頼性が低くなる。
複数の垂直筋が同時に麻痺している場合、拘束性斜視、解離性垂直偏位、過去の垂直筋手術歴がある場合に信頼性が低下する。重症筋無力症やスキュー偏差も偽陽性の原因となる。
回旋垂直筋麻痺(特に上斜筋麻痺)では以下の症状を呈する。
上斜筋麻痺(回旋垂直筋麻痺の最も一般的な原因)は以下の3型に分類される。リスク因子として頭部外傷と加齢(先天性の代償不全)が報告されている1)。
先天性
上斜筋の形態異常:上斜筋腱の低形成や付着部異常が原因である。70%以上で滑車神経が欠損している。
主訴は斜頸:小児期から健側への頭部傾斜を呈し、異常頭位で両眼視を維持するため弱視の頻度は低い。
自然治癒なし:診断確定後に手術適応を検討する。
代償不全性
先天性の増悪:先天性の軽度麻痺が加齢により融像を維持できなくなり顕在化する。
発症年齢:20〜30歳代で上下複視を自覚して発症することが多い。回旋複視の自覚はまれである。
鑑別の手がかり:幼少時の写真で斜頸を確認できる。広い融像幅(10〜15プリズム)が特徴的である。
後天性
外傷性:最も多い原因である。バイク事故等の頭部正中〜頭頂部への衝撃で両側性になることがある。
虚血性:高血圧・糖尿病・高脂血症に合併する。2〜6か月で自然改善する例が多い。
その他:膠原病血管炎、水頭症、脳炎、脳腫瘍、帯状疱疹、頭蓋内手術後の合併症がある。
MRI/CTで上斜筋の付着部異常や筋低形成の程度を比較する。先天性では筋の異常が高度で、牽引試験で上斜筋の張りが緩い。幼少時の写真で斜頸が確認できれば先天性(代償不全性)を示唆する。後天性では上斜筋付着は基本的に正常である。
プリズムを用いて第一眼位・側方視・頭部傾斜時の眼位ずれを定量化する。小さな偏位はプリズムとマドックス小桿またはレッドフィルターを用いて測定できる。
3段階テストの各ステップの概要を以下に示す。
| ステップ | 判定内容 | 絞り込まれる候補筋 |
|---|---|---|
| ステップ1 | どちらの眼が上斜視か | 上斜視眼の降下筋2つ+下斜視眼の挙上筋2つ(計4筋) |
| ステップ2 | 右方視・左方視のどちらで増強するか | 4筋から2筋に絞り込み |
| ステップ3 | 右・左どちらの頭部傾斜で増強するか | 2筋から1筋を同定 |
第一眼位(正面視)でどちらの眼が上斜視かを判定する。上斜視眼の降下筋(下直筋・上斜筋)または下斜視眼の挙上筋(上直筋・下斜筋)のいずれかが麻痺筋の候補となる。この段階で8つの回旋垂直筋から4筋に絞り込まれる。
上斜視が右方視と左方視のどちらで増強するかを判定する。各回旋垂直筋の作用方向(主作用が最大となる方向)に基づき、ステップ1で残った4筋のうち、側方視で該当する作用を持つ2筋に絞り込まれる。
上斜視が右への頭部傾斜と左への頭部傾斜のどちらで増強するかを判定する。頭部を傾斜させると内回旋筋と外回旋筋が作動するため、残った2筋のうち麻痺筋を最終的に同定できる。
3つのステップすべてで候補として挙がった筋が麻痺筋である。筋肉を特定できない場合は、スキュー偏差の可能性を考慮する。
以下の状態では、3段階テストの結果が偽陽性となるか信頼性が低下する。
3段階テストに追加して回旋成分を定量化するための検査である。異なる色(赤と白)の2つのマドックス小桿レンズを使用する。
マドックス小桿を垂直に配置すると水平線が見える。外回旋のある眼では斜めの線として知覚される。2本の線が平行になるまでレンズを回転させ、回旋偏位の大きさと方向を測定する。
10度を超える外回旋は両側性の滑車神経麻痺を示唆する。自覚的検査であり、検者によって結果が変動する欠点がある。
スキュー偏差(核上性由来の垂直眼位ずれ)と他の原因による垂直斜視を鑑別するための追加検査である。スキュー偏差は眼運動核への耳石器入力の不均衡から生じるため、仰臥位で重力ベクトルが変化すると偏位が減少する。
立位から仰臥位にかけて垂直偏位が50%以上減少した場合を陽性とする。スキュー偏差に対する感度は80%、特異度は100%と報告されている1)。ただし、急性スキュー偏差(発症2か月以内)ではこの減少が安定して認められず、信頼性が低下するとされる1)。滑車神経麻痺や拘束性斜視では立位と仰臥位の間で有意な差は認められない。
スキュー偏差の可能性を考慮し、立位-仰臥位テストを追加する。また、MRIによる上斜筋の萎縮や滑車神経の有無の確認、HESS赤緑試験や大型弱視鏡による詳細な眼球運動評価が有用である。重症筋無力症や甲状腺眼症の除外も必要となる。
3段階テストで同定された回旋垂直筋麻痺(主に上斜筋麻痺)に対する治療を述べる。複視・代償性頭位(頸部痛を伴うことがある)・眼精疲労が治療の根拠となる1)。治療目標は良好な視力、良好な両眼視、異常頭位の改善である。
手術術式の選択基準を以下に示す。
| 病態 | 推奨される術式 |
|---|---|
| 斜視角が小さい場合 | 下斜筋減弱術(部分切除術・後転術) |
| 第一眼位で15度超の上斜視 | 下斜筋減弱術+他筋の手術追加 |
| 回旋複視のみ | 上斜筋前部前転術(原田-伊藤法) |
| 後天性で回旋複視がメイン | 健眼下直筋後転+鼻側移動術 |
追加手術の選択肢として、上斜筋縫い上げ術、上直筋後転術、健眼下直筋後転術、下斜筋前方移動術がある。下直筋鼻側移動術による外方回旋偏位の矯正量は1筋腹で約6〜7度である。
自然治癒の可能性があるため、原則として6か月間はプリズム眼鏡などの保存的治療で経過を観察する。6か月経過後も第一眼位での複視が残存する場合に手術適応となる。詳細は「標準的な治療法」の項を参照。
3段階テストのステップ3(Bielschowsky頭部傾斜試験)は、前庭眼反射における代償的回旋運動の機序に基づいている。
頭部を一方に傾斜させると、耳石器系が回旋を代償する外眼筋にインパルスを送る。例えば右への頭部傾斜では、右眼は右上斜筋と右上直筋の作用により内回旋し、左眼は左下斜筋と左下直筋の作用により外回旋する。
正常な状態では、上斜筋の降下作用と上直筋の挙上作用が互いに相殺するため、垂直方向の眼球偏位は生じない。しかし、上斜筋が麻痺している場合、上直筋の挙上作用を拮抗する力が失われるため、患側への頭部傾斜時に患眼が上転し、上斜視が増強する。
非患側への頭部傾斜では、患眼の上斜筋は刺激されないため偏位は減少または消失する。この原理がBielschowsky頭部傾斜試験の基盤である。
上斜筋は眼窩深部で起始し、眼窩内前方の滑車で走行を変え、上直筋の耳側で強膜に付着する。上斜筋腱は扇状に広く付着しており、後部線維は主に下転作用、前部線維は主に内方回旋作用を司る。この機能分担は手術術式(原田-伊藤法など)の理論的根拠となっている。
滑車神経核は中脳背側に存在し、神経線維は背側へ走行して前髄帆で対側へ交差した後、海綿静脈洞を経て上眼窩裂から眼窩内へ至る。前髄帆の交差部は外傷で障害されやすく、これが外傷性の両側滑車神経麻痺の好発機序である。
スキュー偏差は、脳幹や小脳などの核上性病変による垂直眼位ずれである。眼運動核への耳石器入力の不均衡から生じる。3段階テストで上斜筋麻痺と類似のパターンを示すことがあるが、上斜視側に斜頸を生じ、眼球は内方回旋を示す点が滑車神経麻痺と異なる。仰臥位で重力ベクトルが変化するため偏位が減少し、これが立位-仰臥位テストの原理である。
3段階テストは回旋垂直筋麻痺の診断におけるゴールドスタンダードであるが、近年の研究ではその感度に疑問が投げかけられている。
MRIで上斜筋萎縮の確実な証拠がある50例を対象とした研究では、3段階テストは上斜筋麻痺症例の30%を検出できなかったことが明らかになった。3つのステップのうち2つしか陽性にならないことがしばしばあったと報告されている。
別の研究では、MRIで確認された滑車神経の有無に基づいて感度を分析した。166例のうち、3段階テストの一側性上斜筋麻痺に対する診断感度は75%であった。
3段階テスト陽性でも回旋垂直筋麻痺とは限らないことが指摘されている。垂直直筋の拘縮、複数垂直筋の麻痺、解離性垂直偏位、過去の垂直筋手術、スキュー偏差、重症筋無力症、水平斜視に関連する小さな非麻痺性垂直偏位が偽陽性の原因となりうる。また、眼窩プーリーの異常がParks 3段階テスト陽性の一因となりうることも報告されている。
ベッドサイドでの自覚的検査(赤色ガラステスト・ダブルマドックス小桿テスト)の検者間変動という課題に対して、複視を定量化・局在化するためのコンピュータ化された赤色ガラステストの開発が進められている。
3段階テストは依然として臨床における標準的な診断法であるが、垂直斜視の鑑別診断が多岐にわたることから、MRIなどの画像診断と組み合わせた総合的な評価が求められている。