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小児眼科・斜視

ヘス試験

ヘス試験(Hess test)は、外眼筋の機能不全(underaction)または過動(overaction)の程度を記録するために用いられる検査法である。注視方向によって眼位のずれが変化する非共同性斜視(incomitant strabismus)の評価・モニタリングに適している。

ヘスチャートと注視野検査の主な意義は、眼球運動障害複視の程度を「記録」することにある。他の眼科検査と異なり、この検査で初めて異常が検出されたり確定診断に至ることは少ない。視診による眼球運動検査のほうが得られる情報量は多いが、障害の程度を客観的に記録し経時変化を追跡する点においてヘス試験は優れている。

  • 麻痺性の眼球運動障害・複視:障害の程度や経時的な変化を記録したい場合
  • 眼窩底骨折・外転神経麻痺・甲状腺眼症:眼球運動障害の程度の記録
  • 麻痺性斜視の術前術後:治療による変化の評価

非共同性斜視は以下のような原因で生じる。

  • 神経麻痺:第III(動眼神経)・第IV(滑車神経)・第VI(外転神経)脳神経の障害
  • 甲状腺眼症:外眼筋および周囲組織に影響を及ぼす自己免疫疾患
  • 吹き抜け骨折眼窩骨折による外眼筋の絞扼
  • 重症筋無力症:筋力低下を引き起こす神経筋疾患
Q ヘス試験はどのような場合に行われるか?
A

麻痺性の眼球運動障害や複視があり、その程度や経時変化を客観的に記録したい場合に行われる。眼窩底骨折・外転神経麻痺・甲状腺眼症の運動障害記録や、麻痺性斜視の術前術後の評価にも用いられる。

ヘスチャートは、異なる注視方向における眼筋機能と偏位をグラフィカルに表現する。解釈の第一歩はチャート中心点(第1眼位)の偏位の確認であり、これにより斜視のタイプと大きさの初期評価が可能となる。

小さいチャート

麻痺筋のある眼:緑レンズを装用した側の眼に麻痺がある。

最大制限:麻痺筋の作用方向に最も縮小する。格子から最も離れた部位の作用筋が麻痺筋である。

内画の縮小:通常より小さい内画は筋の機能不全を示す。

大きいチャート

対側共同筋の過動:麻痺筋の対側にある共同筋(yoke muscle)が過動している眼を示す。

最大進展:過動共同筋の作用方向に最も拡大する。

外画の拡大:通常より大きい外画は筋の過動を示唆する。

  1. 正面位の確認:正面位(第1眼位)での眼位ずれを読む。外斜・内斜・上下の方向と偏位量を評価する
  2. 共同性の判定:左右のチャートが対称であれば眼筋麻痺なしまたは共同性斜視。共同性斜視やskew deviation(斜偏位)ではパターンサイズは両眼で等しく、左右・上下のずれのみが記録される
  3. 原因筋の推定:動きの悪い眼のチャートで眼球運動制限を確認し、位置ずれが最大となる注視方向から原因筋を推測する
  • 単眼性麻痺性斜視:健眼固視時の麻痺眼の眼位(第一偏位)はチャートが圧縮され、麻痺眼固視時(第二偏位)はチャートが拡大する
  • V型・A型パターン:チャート上の視野の内側または外側への傾斜として出現する
  • 開散麻痺:軽度V型外斜視の形を示すことが多い
  • 輻湊麻痺内斜視の形を示すことが多い
  • 同側拮抗筋の過動:麻痺筋がある眼で、麻痺筋の拮抗筋が過動を示すことがある。麻痺筋の正常な機能が欠如しているため、拮抗筋の作用が抑制されないことが原因である
  • 対側拮抗筋の機能不全:対側共同筋の過動がその対側拮抗筋を抑制する結果として生じる。この相互作用の存在は陳旧性麻痺を示唆する
Q チャートの大小で何がわかるか?
A

小さい方のチャートが麻痺筋のある眼(患眼)を示し、その中で最も縮小した方向が麻痺筋の作用方向である。大きい方のチャートは対側の共同筋(配偶筋)が過動している眼を示す。

ヘス試験は中心窩投影(foveal projection)に依拠し、「混同(confusion)」の原理に基づいている。この原理は「複視(diplopia)」とは異なる概念である。

複視

二重視:眼位のずれにより、単一の物体が2つの像として認識される状態。

一つの対象物から両眼に異なる像が投影されることで生じる。

混同

像の重畳:両眼の対応点(通常は中心窩)が同時に刺激され、2つの異なる物体が重なって見える現象。

ヘス試験はこの混同を利用して眼位偏位を評価する。

ヘス試験では、赤緑眼鏡のような解離ツール(dissociative tools)を用いて人工的に混同を作り出す。赤レンズを固視眼の前に、緑レンズを検査眼(非固視眼)の前に配置し、固視眼で見ている像と非固視眼で見ている像を重ね合わせるために必要な非固視眼の位置を記録する。

Q 複視と混同はどう違うか?
A

複視は眼位のずれにより一つの物体が二重に見える状態である。一方、混同は両眼の対応点(中心窩)が刺激されることで、2つの異なる物体が重なって見える現象である。ヘス試験はこの混同の原理を利用して眼位偏位を測定する。

ヘススクリーンは、濃いグレーの背景に市松模様が描かれたタンジェントスクリーンである。25個の赤色光が個別に制御され、診断眼位方向を表す。グリッドは内画(中心から15°)と外画(中心から30°)で構成され、格子1つが眼球回転の5°に相当する。

  • 距離:スクリーンから50cmの位置に立つ
  • 頭部固定:顎台(chin cup)で頭部を固定する
  • 照明:薄暗い部屋(暗室)で施行する
  • ゴーグル:リバーシブルの赤緑ゴーグルを装着する。赤レンズ越しには赤色光が、緑レンズ越しには緑色光が見える
  1. 両眼をスクリーン中心点(第1眼位)に合わせる
  2. 赤レンズを固視眼の前に、緑レンズを検査眼(非固視眼)の前に配置する
  3. 検者がスクリーン上の赤色光を点灯する
  4. 患者は手持ちの緑色ポインターを操作し、各赤色光の位置に緑色光を重ね合わせる
  5. 非固視眼の偏位量が記録される
  6. ゴーグルを左右入れ替え、もう一方の眼を固視眼として同様に検査する
  7. 患者が緑色光を投影した各点を結び、9方向眼位における偏位の最終グラフを作成する
  8. 左眼の動きはグラフの左側に、右眼の動きは右側に記録する
  • 軽度の麻痺:ずれが小さい場合は中央の15°の内画では検出しにくいため、30°の外枠まで検査する必要がある
  • 吹き抜け骨折:眼位ずれが明確でない場合も周辺の30°の外画まで検査する
  • 不同視:検査困難となることがある。強い度の矯正が必要な場合は矯正レンズのプリズム効果に注意する
  • 小児:座位での頭位が安定しない場合は検査が困難である

筋続発症とは、非共同性斜視において発症後に順次現れる筋肉の過動と機能不全のパターンである。シェリントン(Sherrington)の相反神経支配の法則とヘーリング(Hering)の等量神経支配の法則に基づく。

筋続発症の発現順序は以下の通りである。

順序変化法則
第1段階対側共同筋の過動ヘーリングの法則
第2段階同側拮抗筋の過動シェリントンの法則
第3段階対側拮抗筋の機能不全両法則の複合

筋続発症が見られない場合は発症間もない麻痺を示唆する。筋続発症が存在する場合は長期にわたる陳旧性の麻痺を意味し、その範囲が広いほど慢性的である可能性が高い。

多形性松果体細胞腫(pleomorphic pineocytoma)の脳神経外科手術後に右第IV脳神経麻痺(滑車神経麻痺)を発症した66歳男性の症例が報告されている。

  • 主訴:左方注視時の複視、右高位(右眼が左眼より高い位置)
  • ヘスチャート所見:右上斜筋の機能不全(内旋・下転の障害)が特に左方注視時に顕著
  • 筋続発症:左下直筋(対側共同筋)の過動、右下斜筋(同側拮抗筋)の過動、左上直筋(対側拮抗筋)の機能不全

すべての筋続発症が出現しており、陳旧性麻痺であることが示唆された。

ヘス試験にはいくつかの限界がある。

  • 患者の協力:検査の正確性は患者の理解力・集中力に大きく依存する
  • 時間:実施に時間を要し、検者・患者の双方に忍耐が必要である
  • 両眼視の必要性:正常な両眼視機能が前提となる。抑制(脳が片眼の像を無視する状態)や異常網膜対応がある場合は施行できない
  • 視力不良:片眼の視力不良例では施行不能である
  • 色覚異常:赤緑色覚異常では正確な検査ができない
  • 大角度偏位:偏位が非常に大きい場合、認識される点がチャート範囲外に出るため正確な評価が困難となる
  • 回旋偏位:グリッドスケールは水平・垂直方向の偏位測定を主としており、回旋偏位の評価は困難である
  • 小児:座位での頭位が安定しない患者では検査が難しい
  • 両眼性麻痺:両眼に運動制限がある場合は偏位が相殺されることがあり、むき眼位検査の結果も参考にして総合的に判断する必要がある。両眼に麻痺がある場合は判定不能となる
  • 陳旧性麻痺:二次的な運動適応が発達し、初期診断が不明確になることがある
  • 顕性 vs. 潜性偏位:ヘス試験では顕性斜視(tropia)と潜性斜視(phoria)を区別できない

近年、アイトラッカー(eye tracker)デバイスなどの技術進歩により、患者や検者の要因に左右されにくい、より客観的で正確な評価が可能な代替手段も登場している。

Q 色覚異常がある場合、ヘス試験は行えるか?
A

赤緑色覚異常がある場合、従来の赤緑眼鏡を用いたヘス試験は正確に施行できない。代替として、両面鏡を使用するリーズチャート(Lees chart)の使用が検討される。

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