好発する運動障害
上転障害:下直筋の肥厚・拘縮により最も高頻度にみられる。
外転障害:内直筋の拘縮に起因する。上転障害に次いで多い。
複合型障害:2方向以上の障害で、上転+外転の組み合わせが多い。

甲状腺眼症(thyroid eye disease; TED)は甲状腺機能亢進症(バセドウ病)患者に多くみられる自己免疫疾患である。臨床的に明らかなバセドウ眼症を呈するのは患者の約20〜25%にとどまる。甲状腺機能低下症や甲状腺機能正常の患者でも発生しうる。
甲状腺眼症に伴う斜視は、外眼筋の炎症とその後の線維化によって筋の腫脹・肥厚が生じ、眼球運動が制限される結果として発症する。甲状腺眼症患者の30〜50%が拘束性筋症を発症する。
甲状腺眼症患者の30〜50%が拘束性筋症を発症する。成人における後天性垂直偏位の一般的な原因の一つである。一方、小児が運動障害をきたすことは稀である。
罹患筋は下直筋が最多で、内直筋、上直筋、外直筋の順に頻度が減少する。患眼の下斜視と内斜視が最も多い偏位パターンである。
好発する運動障害
上転障害:下直筋の肥厚・拘縮により最も高頻度にみられる。
外転障害:内直筋の拘縮に起因する。上転障害に次いで多い。
複合型障害:2方向以上の障害で、上転+外転の組み合わせが多い。
随伴する眼所見
眼瞼後退:甲状腺眼症の最も一般的な徴候である。Müller筋の交感神経緊張や挙筋複合体の線維化による1)。
眼球突出:正常値は<18mm。甲状腺眼症患者は21mmを超えることが多い1)。
圧迫性視神経症:症例の約5%に発生し、緊急対応を要する1)。
強制牽引試験により拘束を確認できる。線維化が進行すると牽引試験は強陽性となり、眼球の著明な偏位がみられる。
甲状腺眼症の斜視は、外眼筋の炎症とその後の線維化による運動制限が本態である。自己免疫機序によりTSH受容体抗体(TRAb)が眼窩組織を標的とし、外眼筋の腫脹・肥厚をきたす。
主なリスク要因は以下の通りである。
バセドウ病患者で喫煙者は甲状腺眼症の発症リスクが高く、重症化しやすい。視力を脅かすような活動期が長期化し、非喫煙者では平均約1年で鎮静するのに対し、喫煙者では2〜3年持続する。
甲状腺眼症の診断には、以下の3つの徴候のうち2つを満たす必要がある。
| 鑑別疾患 | 鑑別のポイント |
|---|---|
| 脳神経麻痺 | 拘束性ではなく麻痺性の運動障害 |
| 重症筋無力症 | 変動する複視・眼瞼下垂。AChR抗体陽性 |
| 外眼筋炎 | 腱からの肥厚がみられる(甲状腺眼症は筋腹主体) |
| 慢性進行性外眼筋麻痺(CPEO) | 緩徐進行性の全方向運動制限 |
甲状腺機能亢進症がある場合、甲状腺ホルモンの正常化が最優先である。眼症のすべてが甲状腺機能の安定で改善するわけではなく、眼科的治療が並行して必要となる。
副腎皮質ステロイド薬による治療が行えない場合や、ステロイド治療後に再燃した場合などに、球後組織に1.5〜2.0Gy/日を10日間照射する。
手術が必要な場合は、通常以下の順序で段階的に施行する。
第1段階
眼窩減圧術:視神経障害や著明な眼球突出に対して行う。術後に眼位が変化するため、斜視手術に先行して施行する。
第2段階
斜視手術:偏位が少なくとも6ヶ月間安定した後に施行する。拘束された外眼筋の後転術が主体。肥厚した直筋の後転を行う。
第3段階
眼瞼手術:垂直筋の手術が眼瞼位置に影響するため、斜視手術の後に固定した眼瞼後退に対して行う。
複視に対する斜視手術は非炎症期に行うのが基本である。手術の主な目標は、第一眼位と下方視において複視のない状態を得ることである。
急性期の炎症が収まり、偏位量と甲状腺機能検査が少なくとも6ヶ月間安定した後に手術を行うのが原則である。ただし、極端な代償性頭位をとっている場合など日常生活への支障が著しい場合には、より早い段階で手術が検討されることもある。
運動学的成功(垂直偏位≦5Δかつ水平偏位≦10Δ)は69%、感覚的成功(第一眼位で複視なし)は58%と報告されている。再手術率は50%に達する。低矯正が59%、過矯正が41%である。
甲状腺眼症の病態には、眼窩線維芽細胞を中心とした自己免疫性炎症が関与する。
眼窩線維芽細胞は、体内の他の線維芽細胞とは異なるCD40受容体を発現している。CD154を持つT細胞によりこの受容体が活性化されると、IL-6、IL-8、プロスタグランジンE2などの炎症性サイトカインの産生が亢進する。続いてヒアルロン酸やグリコサミノグリカン(GAG)の合成が増加し、眼窩内容物の炎症と容積増大をきたす。
眼窩線維芽細胞は発生学的に神経堤由来であるため、一部は脂肪細胞への分化能を有する。これが眼窩脂肪の拡大を招き、眼窩腔内の圧力をさらに上昇させる。
外眼筋では以下の段階的変化が生じる。
線維芽細胞にはHLA-DR抗原やICAM-1が発現しているが、筋細胞自体にはこれらの発現がみられないことから、線維芽細胞が自己免疫性炎症の標的細胞として注目されている。
腫大した外眼筋が眼窩漏斗部で視神経を圧迫すると、圧迫性視神経症を発症する。
テプロツムマブはIGF-1受容体(IGF-1R)を標的とするヒトモノクローナル抗体であり、米国FDAで活動性甲状腺眼症の治療薬として承認されている。眼球突出の軽減および複視スコアの改善が報告されている。
Congら(2024)は5つの研究(411例)を対象としたメタ解析で、テプロツムマブ投与群はプラセボ群と比較して24週時点の眼球突出が有意に改善し、複視反応率も有意に高かったと報告した2)。臨床活動性スコア(CAS)0または1の達成率もテプロツムマブ群で有意に高かった。
甲状腺眼症における複視の主因は外眼筋の変性による拘束性斜視であり、リツキシマブやトシリズマブなどの他の生物学的製剤は複視に対する効果が限定的であるのに対し、テプロツムマブは複視改善に独自の優位性を示す可能性がある2)。
近年の研究では、線維化が進行した慢性甲状腺眼症にもテプロツムマブが有効な可能性が示唆されている2)。
テプロツムマブの主な副作用は以下の通りである。