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小児眼科・斜視

甲状腺眼症における斜視

1. 甲状腺眼症における斜視とは

Section titled “1. 甲状腺眼症における斜視とは”

甲状腺眼症(thyroid eye disease; TED)は甲状腺機能亢進症(バセドウ病)患者に多くみられる自己免疫疾患である。臨床的に明らかなバセドウ眼症を呈するのは患者の約20〜25%にとどまる。甲状腺機能低下症や甲状腺機能正常の患者でも発生しうる。

甲状腺眼症に伴う斜視は、外眼筋の炎症とその後の線維化によって筋の腫脹・肥厚が生じ、眼球運動が制限される結果として発症する。甲状腺眼症患者の30〜50%が拘束性筋症を発症する。

  • 発生率:白人女性で16/100,000/年、男性で2.9/100,000/年1)
  • 発症ピーク:40〜50歳代が多く、女性に好発する(男女比8:1)
  • 日本の特徴:発症年齢に20歳代と40歳前後の2つのピークがある
  • 内分泌性眼球突出:片眼性眼球突出の50%、両眼性眼球突出の90%を占める
Q 甲状腺眼症による斜視はどのくらいの頻度で起こるのか?
A

甲状腺眼症患者の30〜50%が拘束性筋症を発症する。成人における後天性垂直偏位の一般的な原因の一つである。一方、小児が運動障害をきたすことは稀である。

  • 複視:最も主要な症状である。拘束性筋症による眼位のずれが原因となる。
  • 異常頭位:複視を代償するために顎を挙げるなどの頭位をとる。
  • ドライアイ症状:乾燥、刺激感、流涙、羞明が早期からみられる1)
  • 眼窩周囲腫脹:眼窩内組織の炎症による浮腫を反映する。

臨床所見(医師が診察で確認する所見)

Section titled “臨床所見(医師が診察で確認する所見)”

罹患筋は下直筋が最多で、内直筋、上直筋、外直筋の順に頻度が減少する。患眼の下斜視と内斜視が最も多い偏位パターンである。

好発する運動障害

上転障害:下直筋の肥厚・拘縮により最も高頻度にみられる。

外転障害:内直筋の拘縮に起因する。上転障害に次いで多い。

複合型障害:2方向以上の障害で、上転+外転の組み合わせが多い。

随伴する眼所見

眼瞼後退:甲状腺眼症の最も一般的な徴候である。Müller筋の交感神経緊張や挙筋複合体の線維化による1)

眼球突出:正常値は<18mm。甲状腺眼症患者は21mmを超えることが多い1)

圧迫性視神経:症例の約5%に発生し、緊急対応を要する1)

強制牽引試験により拘束を確認できる。線維化が進行すると牽引試験は強陽性となり、眼球の著明な偏位がみられる。

甲状腺眼症の斜視は、外眼筋の炎症とその後の線維化による運動制限が本態である。自己免疫機序によりTSH受容体抗体(TRAb)が眼窩組織を標的とし、外眼筋の腫脹・肥厚をきたす。

主なリスク要因は以下の通りである。

  • 女性:男性の6〜8倍リスクが高い
  • 喫煙:リスク増大および重症化因子。非喫煙者に比べて活動期が長期化する
  • 放射性ヨード治療:甲状腺眼症を増悪させるリスクを15〜20%高める
  • 年齢:加齢に伴い拘束性斜視のリスクが増大する
  • ビタミンD欠乏:独立したリスク因子として報告されている
  • 眼窩減圧術の既往:術後に斜視リスクが増加する
Q 喫煙は甲状腺眼症の斜視にどのような影響があるのか?
A

バセドウ病患者で喫煙者は甲状腺眼症の発症リスクが高く、重症化しやすい。視力を脅かすような活動期が長期化し、非喫煙者では平均約1年で鎮静するのに対し、喫煙者では2〜3年持続する。

甲状腺眼症の診断には、以下の3つの徴候のうち2つを満たす必要がある。

  1. 甲状腺疾患の併発、または甲状腺機能正常患者における甲状腺抗体の存在
  2. 特徴的な眼症状(眼瞼後退、拘束性斜視、眼球突出、圧迫性視神経症など)
  3. 画像診断における直筋または上眼瞼挙筋の肥大
  • 甲状腺機能検査:遊離T3(FT₃)、遊離T4(FT₄)、TSHを測定する。バセドウ病ではFT₃・FT₄高値、TSH低値となる。
  • TSH受容体自己抗体(TSI/TBII):眼疾患の臨床的活動性スコアとより強く相関する。
  • アセチルコリン受容体抗体重症筋無力症の合併(患者の5%)を除外するために測定する。
  • MRI:T1強調画像で外眼筋の形態を、STIR法で炎症の有無を評価する。STIR法は造影不要で炎症部位が高信号として描出される。
  • 画像上の特徴:腱の肥厚は軽度で筋腹が紡錘状に肥厚するのが甲状腺眼症に特徴的である。外眼筋炎との鑑別に有用。
  • 冠状断:下斜筋以外の外眼筋の形態が評価できるため必須である。
鑑別疾患鑑別のポイント
脳神経麻痺拘束性ではなく麻痺性の運動障害
重症筋無力症変動する複視・眼瞼下垂。AChR抗体陽性
外眼筋炎腱からの肥厚がみられる(甲状腺眼症は筋腹主体)
慢性進行性外眼筋麻痺(CPEO)緩徐進行性の全方向運動制限

甲状腺機能亢進症がある場合、甲状腺ホルモンの正常化が最優先である。眼症のすべてが甲状腺機能の安定で改善するわけではなく、眼科的治療が並行して必要となる。

  • 支持療法:禁煙、人工涙液による眼表面保護、低塩分食、頭部挙上
  • プリズム療法:フレネル膜プリズムまたは組み込みプリズムにより複視を矯正する。小角度の斜視に対する根治的治療として、あるいは斜視が安定するまでの暫定的治療として有用
  • パルス療法:メチルプレドニゾロン500〜1,000mg/日を3日間1クールとし、症状をみながら1週間おきに2〜3クール施行する。その後は漸減療法を行う。
  • 局所投与:肥大した外眼筋周囲のTenon嚢下に注射を行う。

副腎皮質ステロイド薬による治療が行えない場合や、ステロイド治療後に再燃した場合などに、球後組織に1.5〜2.0Gy/日を10日間照射する。

手術が必要な場合は、通常以下の順序で段階的に施行する。

第1段階

眼窩減圧術:視神経障害や著明な眼球突出に対して行う。術後に眼位が変化するため、斜視手術に先行して施行する。

第2段階

斜視手術:偏位が少なくとも6ヶ月間安定した後に施行する。拘束された外眼筋の後転術が主体。肥厚した直筋の後転を行う。

第3段階

眼瞼手術:垂直筋の手術が眼瞼位置に影響するため、斜視手術の後に固定した眼瞼後退に対して行う。

複視に対する斜視手術は非炎症期に行うのが基本である。手術の主な目標は、第一眼位と下方視において複視のない状態を得ることである。

Q 甲状腺眼症の斜視手術はいつ行うべきか?
A

急性期の炎症が収まり、偏位量と甲状腺機能検査が少なくとも6ヶ月間安定した後に手術を行うのが原則である。ただし、極端な代償性頭位をとっている場合など日常生活への支障が著しい場合には、より早い段階で手術が検討されることもある。

Q 斜視手術の成功率はどの程度か?
A

運動学的成功(垂直偏位≦5Δかつ水平偏位≦10Δ)は69%、感覚的成功(第一眼位で複視なし)は58%と報告されている。再手術率は50%に達する。低矯正が59%、過矯正が41%である。

6. 病態生理学・詳細な発症機序

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甲状腺眼症の病態には、眼窩線維芽細胞を中心とした自己免疫性炎症が関与する。

眼窩線維芽細胞は、体内の他の線維芽細胞とは異なるCD40受容体を発現している。CD154を持つT細胞によりこの受容体が活性化されると、IL-6、IL-8、プロスタグランジンE2などの炎症性サイトカインの産生が亢進する。続いてヒアルロン酸やグリコサミノグリカン(GAG)の合成が増加し、眼窩内容物の炎症と容積増大をきたす。

眼窩線維芽細胞は発生学的に神経堤由来であるため、一部は脂肪細胞への分化能を有する。これが眼窩脂肪の拡大を招き、眼窩腔内の圧力をさらに上昇させる。

外眼筋では以下の段階的変化が生じる。

  • 初期(炎症期):間質に浮腫とリンパ球浸潤が生じる。筋線維そのものは電子顕微鏡的にもほぼ正常に保たれている。
  • 後期(線維化期):間質の線維化により筋の伸展障害が生じる。周囲組織との癒着も加わり、眼球運動が著しく制限される。

線維芽細胞にはHLA-DR抗原やICAM-1が発現しているが、筋細胞自体にはこれらの発現がみられないことから、線維芽細胞が自己免疫性炎症の標的細胞として注目されている。

腫大した外眼筋が眼窩漏斗部で視神経を圧迫すると、圧迫性視神経症を発症する。


7. 最新の研究と今後の展望(研究段階の報告)

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テプロツムマブ(IGF-1R阻害薬)

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テプロツムマブはIGF-1受容体(IGF-1R)を標的とするヒトモノクローナル抗体であり、米国FDAで活動性甲状腺眼症の治療薬として承認されている。眼球突出の軽減および複視スコアの改善が報告されている。

Congら(2024)は5つの研究(411例)を対象としたメタ解析で、テプロツムマブ投与群はプラセボ群と比較して24週時点の眼球突出が有意に改善し、複視反応率も有意に高かったと報告した2)。臨床活動性スコア(CAS)0または1の達成率もテプロツムマブ群で有意に高かった。

甲状腺眼症における複視の主因は外眼筋の変性による拘束性斜視であり、リツキシマブトシリズマブなどの他の生物学的製剤は複視に対する効果が限定的であるのに対し、テプロツムマブは複視改善に独自の優位性を示す可能性がある2)

近年の研究では、線維化が進行した慢性甲状腺眼症にもテプロツムマブが有効な可能性が示唆されている2)

テプロツムマブの主な副作用は以下の通りである。

  • 高血糖:糖尿病患者では注意を要する
  • 聴覚障害:7〜10%に報告されている2)
  • その他:筋肉痙攣、脱毛、悪心、疲労、頭痛

  1. Kumar M, Raja S, Kumar P, Kumar P. Thyroid Eye Disease: A Comprehensive Review. Int J Sci Res. 2025;14(4). DOI: 10.21275/SR25402105309.
  2. Cong X, Pei L, Hu H. Teprotumumab for treating active thyroid eye disease: A meta-analysis. Medicine. 2024;104:e42966.

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