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小児眼科・斜視

季節性超急性全ぶどう膜炎(SHAPU)

1. 季節性超急性全ぶどう膜炎(SHAPU)とは

Section titled “1. 季節性超急性全ぶどう膜炎(SHAPU)とは”

季節性超急性全ぶどう膜炎(Seasonal Hyperacute Panuveitis; SHAPU)は、ネパールを中心に報告される原因不明の破壊的な全ぶどう膜炎である。

1975年以来ネパールから報告が集積し、1978年にMallaが「Tussock mothによる眼内炎」として初めて記載した。その後Upadhyayらが詳細な研究を行い、SHAPUと命名した。

疫学的特徴は以下の通りである。

  • 好発年齢:患者の71.4%は小児。ネパールの小児ぶどう膜炎原因の最多(27.7%)を占める2)
  • 側性:ほぼ常に片側性。
  • 失明率:受診時にすでに2/3が失明(光覚なし)している。
  • 季節性:主に雨季明け〜冬のはじめ(8月〜1月)、歴史的には奇数年(1975、1977、1979年など)に2年周期で大規模発生3)
  • 地理的分布:主にKaski地区周辺の温帯〜亜高山帯(標高1,000〜3,000m)。近年は高地(標高4,371m)からの発症報告もある1)

最後の大規模アウトブレイクは2019年8〜12月(約50眼)であった3)。偶数年の夏季(2008、2010、2020年5月)にも散発例が報告されており、従来の「奇数年・秋季限定」というパターンは変化しつつある3)。ブータンからの報告もあり、ネパール以外への分布拡大が示唆されている1)

Q SHAPUはなぜネパールでしか報告されていないのか?
A

ヒマラヤに沿ったインドやブータンにも類似した気候帯が存在するにもかかわらず、報告はネパールに集中し(散発的なブータン例を除く)、その理由は未解明である。原因と考えられる白蛾(Gazalina属)の分布・生態と、ネパール特有の環境要因の組み合わせが関係していると推測されているが、確たる説明はなされていない。

SHAPUの最も特徴的な点は、重篤な眼内炎症にもかかわらず疼痛がほとんどないことである。

  • 急速な視力低下:発症から短時間で高度の視力障害に至る。
  • 充血(毛様充血):発症早期から認められる。
  • 白色瞳孔(leukocoria)前房・硝子体内の滲出物による。
  • 無痛または軽度の疼痛:SHAPUのhallmark(特徴的所見)。痛みがないため受診が遅れやすい。
    • ただし壊死性強膜炎を合併した場合は強い眼痛を呈する1)

眼圧:発症時に低眼圧(malignant hypotony)を呈することが特徴的である。

  • 報告症例:眼圧 8mmHg2)、眼圧 6mmHg3)、眼圧 <5mmHg1)

前眼部・前房所見

  • 毛様充血(circumciliary congestion):強い充血。
  • 前房内フィブリン反応(fibrinoid anterior chamber reaction):cells 4+、flare。
  • 前房蓄膿(hypopyon):1〜2mmのクリーム色の蓄膿が認められる2)3)
  • 混濁した虹彩(muddy iris)散瞳困難。
  • 浅前房

後眼部・その他

  • 白色瞳孔(leukocoria)硝子体混濁・滲出物による2)3)
  • USG Bスキャン所見:硝子体内高エコー混濁、脈絡膜肥厚、retina-choroid-sclera(RCS)complex肥厚。浅い下方網膜剥離を認める例もある1)2)3)

特殊な合併所見

  • 壊死性強膜炎(下鼻側、2×2mm、blanching test陰性):SHAPUと強膜炎の合併は1例(標高4,371mのトレッカー)で初報告された1)
  • 角膜合併症(偶数年型に特徴的):角膜浮腫→角膜融解(corneal melting)→血管新生瘢痕へと進行する例が報告されている3)
  • スペキュラーマイクロスコピー所見:内皮細胞密度著明低下(641 cells/mm²)、中心角膜厚増加(693μm)、変動係数増加(46%)1)

SHAPU診断基準(Kharel Sitaulaら2022)

主要基準

充血眼の白色瞳孔:発症早期から認められる特徴的所見。

無痛/軽度疼痛:重症炎症にもかかわらず疼痛に乏しい。

ほぼ片側性:両眼例はきわめてまれ。

急速な視力喪失:短時間での高度視力障害。

副基準

malignant hypotony:低眼圧(IOP <10mmHg)。

主に小児:患者の大多数が小児。

hypopyon・線維性滲出物:前房内の滲出性変化。

散瞳困難・眼底不可視:炎症による後眼部評価困難。

  • 疑い例:主要基準1項+副基準1項、または主要基準2項
  • 可能性の高い例:主要基準2項以上+副基準1項以上、または主要基準1項+副基準3項
  • 確定例:すべての主要基準+副基準に合致
Q SHAPUは痛みがないのになぜ危険なのか?
A

痛みがほとんどないため、保護者や患者が症状の深刻さを認識しにくく、受診が遅れる。しかし炎症は急速に進行し、受診時にすでに2/3が失明している。放置すれば眼球癆(phthisis bulbi)に至る。痛みのない充血・白色瞳孔・視力低下の組み合わせは、SHAPUを強く疑うべき警戒サインである。

白蛾(Gazalina属、ネパール名「Seto Putali」)との接触または曝露が最大のリスク因子として確立されている。

  • 疫学的関連:SHAPU患者の48.6%が蛾との身体的接触歴を有する(対照群11.4%)2)
  • 間接曝露でも発症:蛾の腹部毛束(setae)は容易に脱落して空気中に飛散するため、直接接触がなくても発症しうる3)

蛾のライフサイクルと季節性

蛾(Gazalina属)は標高2,000m以上に多く生息し、3月〜10月にネパールで観察される1)。ライフサイクルは以下の通りである3)

  1. 卵期(8月中旬〜)→ 幼虫期(11〜11.5か月)→ 蛹期(6月中旬〜7月末)→ 成虫出現

奇数年の秋(8〜12月)に成虫が大量発生し、大規模アウトブレイクを引き起こす。偶数年の散発例については、未孵化卵が気温上昇・降雨・湿度増加などの好条件で孵化・成虫化することで説明されている3)

以下の表に奇数年型と偶数年型の違いを示す。

特徴奇数年型(秋季)偶数年型(夏季)
発症時期8〜12月5〜6月頃
規模大規模アウトブレイク散発例
角膜合併症少ない多い(角膜融解含む)
重症度比較的均一より重症、治療反応不良
Q 蛾に触れなくてもSHAPUになるのか?
A

なる可能性がある。蛾の腹部毛束は容易に脱落し、空気中に浮遊するため、直接接触がなくても眼表面に付着しうる。実際にSHAPU患者の約半数は蛾への直接接触歴がなく、間接曝露(同じ空間にいた等)のみで発症している3)

SHAPUには確立された診断的バイオマーカーがなく、臨床診断が基本となる。診断の遅れが予後を直接左右するため、疑わしい症例では速やかに検査を開始する。

すべての疑い症例で実施すべき最も重要な手技である。

  • 硝子体液の採取:希釈・未希釈の両方を無菌シリンジで採取する。
  • 前房水穿刺:26G針を用いて実施する2)
  • 結膜スワブ:両眼から採取(対照として使用)。
  • 血液サンプル:内因性眼内炎除外のために採取する。
  • 培養・染色:グラム染色、ギムザ染色、KOH染色を実施。
    • 培地:BHI broth、チョコレート寒天、Robertson肉汁培地、血液寒天、MacConkey寒天、Sabouraud寒天。
    • 結果:ほとんどの症例で培養陰性1)2)3)。一例で結膜スワブからグラム陽性球菌が検出されたが、硝子体液は陰性であった3)
  • ウイルスPCR:保存サンプルで16SシーケンシングおよびウイルスPCRを実施すべきである。過去の研究でanellovirusが硝子体液中に高率検出された報告がある。
  • 基礎血液検査:CBC、ANA、ANCA、HLA-B27(すべて正常であったと報告される1))。

全症例で実施する。硝子体混濁の評価・範囲確認、浅い下方網膜剥離の有無確認に有用である1)2)3)

以下の疾患との鑑別が重要である。

疾患SHAPUとの鑑別ポイント
外因性/内因性眼内炎免疫正常者+手術・外傷歴なし+培養陰性で除外1)
Ophthalmia nodosa蛾の毛による慢性肉芽腫性炎症。緩徐発症・限局性で急性視力喪失と関連しにくい1)
VKH病両側性、肉芽腫性KP、皮膚・毛髪症状を伴う
内因性細菌性眼内炎全身感染巣(菌血症)の検索が陽性

SHAPUには現時点で確立された標準治療プロトコールは存在しない。以下は症例報告から集積された現在の管理法である。

局所点眼(全症例)

  • moxifloxacin点眼:1時間毎
  • prednisolone acetate点眼:1時間毎
  • atropine点眼:1日3回2)3)

全身投与

  • 抗菌薬静注
    • 小児:ceftriaxone 50〜75mg/kg 1日1回静注
    • 症例報告例:ceftriaxone 250mg 1日2回×7日(4歳児)2)
    • 成人:ceftriaxone+metronidazole 静注1)
  • ステロイド静注:methylprednisolone IV(体重による用量調整)を最大3日間、その後経口ステロイド1〜2mg/kg 4〜6週間漸減2)3)
    • 症例:IV prednisolone 125mg 1日1回×3日(成人)1)

中心硝子体切除術(core vitrectomy):治療の中心であり、受診24時間以内の施行が推奨される。

  • 手技パラメータ:20G、輪部から4mm、1,500 cuts/min、vacuum 350mmHg(報告例)2)
  • 水晶体温存:小児では弱視予防のため水晶体温存(lens-sparing)が推奨される2)

硝子体内注入(vitrectomy後)

  • vancomycin 1.0mg+amikacin 400μg+dexamethasone 400μg
  • または vancomycin 1mg/0.1ml+ceftazidime 2.25mg/0.1ml+dexamethasone 0.4mg/0.1ml2)3)
  • 改善不良・培養陰性が持続する場合:48時間後に再穿刺+再注入3)

結膜下注入

  • gentamicin 40mg/0.4ml+dexamethasone 4mg/0.4ml3)

特殊な投与(強膜炎合併例)

  • 前房内moxifloxacin 0.05ml
  • 硝子体内triamcinolone acetonide 4mg/0.1ml+dexamethasone 0.4mg/0.1ml+moxifloxacin 0.6mg/0.1ml(30G pars plana経由)1)
  • 後部テノン嚢下triamcinolone acetonide+gentamicin(強膜炎持続時)1)
  • 白内障(SHAPU後またはvitrectomy後に発生)
    • 炎症沈静確認後(8週間以上)に水晶体吸引+3mm後嚢切開+前部硝子体切除+眼内レンズ(IOL)挿入2)
    • SHAPU小児では一期眼内レンズ挿入よりも二期挿入を推奨(術後炎症合併症リスクが高い)2)
    • 白内障術前:oral steroid 0.5mg/kg、7日前から開始2)
  • 閉塞瞳孔・虹彩膨隆・続発閉塞隅角緑内障
    • prednisolone 1%点眼1時間毎、atropine 1日3回、beta blocker 1日2回1)2)
    • 周辺虹彩切除術(PI)1)2)
    • 360度虹彩癒着解離(synechiolysis)+周辺虹彩切除術(360度4象限への結膜下mydricaine無効例)2)
  • 眼球癆(phthisis bulbi):多くの重症例における最終転帰。眼圧 <5mmHg1)3)。偶数年型では3例中2例(66.6%)が眼球癆に至った3)
Q SHAPUの治療で視力は回復するのか?
A

早期のcore vitrectomyと硝子体内注入により一部症例では良好な転帰が得られる(報告例:視力 HM → 6/63)、手動弁 → 6/602))。しかし多くの重症例や治療が遅れた例では眼球癆(phthisis bulbi)に至る。偶数年型では3例中2例が眼球癆となった3)。受診24時間以内の手術介入が視力温存の鍵となる。

6. 病態生理学・詳細な発症機序

Section titled “6. 病態生理学・詳細な発症機序”

SHAPUの発症機序は未解明であり、複数の仮説が提唱されている。

最有力仮説:蛾の体毛(setae)による眼表面微小外傷→微生物/毒素/アレルゲンの導入→炎症カスケード3)。急速な症状発現はI型アレルギー反応によるサイトカインストームを示唆する3)

一部症例の角膜実質内でintrastromal follicles(蛾の毛と思われる構造物)が確認されているが、多くの症例ではこの所見は認められず、普遍的な所見ではない。

感染性か非感染性かの議論

培養・染色結果は複数の症例シリーズで一貫して陰性であり、特定の微生物が病因として確定されていない1)2)3)。一部症例では微生物が分離されているが、二次感染の可能性が否定できない。Anellovirusが硝子体液中に高率で検出されたとの過去の報告があるが、再現性は確認されていない。

蛾がベクター(微生物/毒素/アレルゲンを眼表面に運ぶ媒介役)として機能するという仮説が有力とされている3)

強膜炎を合併した症例(標高4,371mのトレッカー)の存在は、ぶどう膜組織を超えた炎症の波及能力を示しており、SHAPUの病態生理に新たな側面を加えている1)。通常は無痛性であるが、強膜炎合併例では強い疼痛を呈したことは、病態のバリエーションを示している1)

動物実験(モルモット、ウサギ)では発症を再現することができておらず、病態解明は困難な状況にある。


7. 最新の研究と今後の展望(研究段階の報告)

Section titled “7. 最新の研究と今後の展望(研究段階の報告)”

高地(アルパイン帯)でのSHAPU初報告

Section titled “高地(アルパイン帯)でのSHAPU初報告”

2025年、標高4,371mのPheriche(ネパール)でのSHAPU発症例が報告された1)。従来、SHAPUは標高1,000〜3,000mの温帯〜亜高山帯に限定されると考えられていたが、Gazalina蛾の生息域が想定より高い可能性が示された。また、壊死性強膜炎との合併例として初の報告であり、SHAPUの病態が全層眼炎に及びうることが明らかになった。

Sitaulaら(2025)の報告では、発症から1年後も光覚なし(NPL)が持続し、眼球癆が進行中であった1)。この症例は成人(27歳)であり、小児に多いとされるSHAPUが成人にも発症しうることを改めて示した。

Gurungら(2021)は、2020年5月(偶数年夏季)に発症した3例を報告し、偶数年型が奇数年型より重症で治療反応が不良であることを示した3)。3例中2例(66.6%)が眼球癆に至り、そのうち1例では初のcorneal meltingが報告された。

偶数年型の重症化メカニズム、および通常の大規模アウトブレイクとの生物学的な差異は不明であり、今後の研究課題である。

SHAPUの未解明課題と今後の研究方向

Section titled “SHAPUの未解明課題と今後の研究方向”
  • 発症機序の解明:蛾の関与経路(毒素か、アレルゲンか、微生物ベクターか)の特定が最優先課題である。
  • 小児優位性の理由:なぜ小児に発症が集中するのかは未解明である。
  • ネパール局在性の理由:ヒマラヤに沿った類似気候帯を持つ近隣国でなぜ発生しないのか不明である。
  • 確立された治療プロトコールの構築:現在は症例報告の集積に基づく経験的治療のみ1)
  • Gazalina蛾の生態研究(Poudel 2024修士論文):蛾の分布と生態の詳細調査が進んでいる1)

Sitaulaら(2025)が報告した高地症例の虹彩組織病理組織学的所見では、focal areas of exudatesが認められた1)。SHAPUとしては初の組織学的報告であるが、所見は非特異的であり、診断的価値は限定的であった。

Q SHAPUの原因解明は進んでいるのか?
A

蛾(Gazalina属)との疫学的関連は複数の研究で確立されているが、具体的な発症機序は依然不明である。毒素・アレルゲン・微生物ベクターの仮説がいずれも提唱されているが、確証はない。培養結果が一貫して陰性であることは感染性病因を否定する方向に働くが、非感染性とも断定できていない1)2)3)。動物モデルでの再現も困難であり、解明には今後の研究の蓄積が必要である。


  1. Sitaula RK, Karki P, Poudel P, et al. Seasonal Hyperacute Panuveitis from the highest reported altitude: co-occurrence with scleritis — an unusual presentation. BMC Ophthalmology. 2025;25:484.

  2. Karki P, Kharel Sitaula R, Khatri A, et al. Challenges of Pediatric Cataract Surgery in a Case of Seasonal Hyperacute Panuveitis (SHAPU). Case Reports in Ophthalmological Medicine. 2021;2021:5591859.

  3. Gurung H, Kharel Sitaula R, Karki P, et al. Sporadic summer outbreak of SHAPU in even years: Does the pattern match with the usual autumn outbreak? American Journal of Ophthalmology Case Reports. 2021;24:101198.


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