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小児眼科・斜視

セザレ・チョッツェン症候群

1. セザレ・チョッツェン症候群とは

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セザレ・チョッツェン症候群(Saethre-Chotzen Syndrome; SCS)は、尖頭合指症III型(acrocephalosyndactyly type III)とも称される。頭蓋顔面異常に加え、神経学的・骨格的・心臓の欠損を特徴とする症候群である。ICD-10コードはQ87.0。

有病率は出生25,000〜50,000人に1人と推定される。男女差はなく、常染色体優性遺伝形式をとる。表現型の多様性が大きいため、実際には過小評価されている可能性がある。

罹患した親を持つ個人が多いが、新規突然変異(de novo mutation)も観察される。知能は通常正常であるが、軽度〜中等度の知的障害・てんかん・統合失調症の報告もある。

Q セザレ・チョッツェン症候群は遺伝する疾患か?
A

常染色体優性遺伝であり、罹患した親を持つ場合は子への遺伝リスクが50%となる。ただし新規突然変異(de novo mutation)による発症も観察されており、家族歴がなくても発症する。遺伝カウンセリングの活用が推奨される。

先天性疾患のため、自覚症状は乳幼児期に保護者が気づく形が多い。

  • 眼瞼下垂による視野制限:上方からの視野が遮られ、顎を上げる代償頭位をとることがある。
  • 視力低下弱視屈折異常に伴う。
  • 斜視に伴う頭位異常複視を回避するための異常頭位。

眼科的所見

眼瞼下垂:有病率59〜82%(研究により異なる)。上眼瞼挙筋の機能不全または欠損(agenesis)に起因する。

斜視:50%以上に認められる。V型斜視(上方視で外斜視が増大)が多い。垂直斜視は約60%に認められる。内転時の過上転(偽下斜筋過動)を伴うことが多い。

屈折異常・弱視近視遠視乱視。眼瞼下垂・斜視・屈折異常に続発する弱視に注意が必要。

眼窩離開瞳孔間距離の65%以上の内眼角開離(両眼隔離症)。

全身的所見

頭蓋縫合早期癒合症:冠状縫合が最も多く(74%が短頭症)、顔面非対称を生じる。

耳の異常:後方に回旋し耳輪脚が突出した小さく低位の耳。伝音性・混合性・感音性難聴を合併。

骨格異常:皮膚性合指症(特に第2指間)、短指症、外反母趾。

顔面所見:幅広く低い鼻根部(65%)、高前頭(56%)、上顎骨形成不全。

その他の眼科所見として、単眼上方注視麻痺・回旋眼振外眼筋欠損・下眼瞼内反・涙道狭窄・眼瞼裂斜下・内眥開褶も認められる。癒合した冠状縫合と同側に上斜筋機能不全が生じることがある。

Q セザレ・チョッツェン症候群で最も多い眼の異常は何か?
A

眼瞼下垂が最大90%と最も高頻度に認められる。次いで斜視(50%以上)が多く、V型斜視が特徴的である。これらは弱視の原因となるため、早期からの眼科的評価と介入が重要である。

原因遺伝子はTWIST1(7p21.1)であり、100以上の変異が同定されている。ハプロ不全(片方のアレルの機能喪失)が病因であり、ミスセンス変異・点変異など変異の種類は多様である。

TWIST1は頭部間葉(head mesenchyme)の形成に不可欠な転写因子である。その産物の質的・量的障害が頭蓋縫合早期癒合を引き起こす。

変異の著しい多様性が表現型の多様性を反映している。TWIST1遺伝子の欠失を持つ患者は、点変異を持つ患者より知的障害の頻度が高い。

セザレ・チョッツェン症候群患者の複数の家族でホジキン病・精巣癌・上咽頭癌の診断が報告されている。

Q TWIST1遺伝子の欠失と変異で重症度は異なるのか?
A

TWIST1遺伝子の欠失(大きな染色体欠損)を持つ患者は、TWIST1の点変異を持つ患者と比較して知的障害の頻度が高いことが知られている。変異の種類と表現型の関連は複雑であり、遺伝学的検査と遺伝カウンセリングによる個別評価が重要である。

診断は病歴聴取と身体診察から始まる。ただし単一の病徴(pathognomonic feature)は存在せず、臨床的特徴のみでの確定は困難である。

遺伝学的検査が確定診断に不可欠であり、ほとんどの患者がTWIST1遺伝子に変異を有する。頭蓋縫合早期癒合症に合指症・斜指症を伴う患者には完全な遺伝学的精密検査を実施すべきである。分子標的検査が正常で臨床所見と一致しない場合は核型分析(karyotyping)を検討する。

出生前診断については、超音波検査が19週から利用可能(不規則な形状の胎児頭蓋の評価)だが確定診断はできない。家族歴や疑わしい所見がある場合は遺伝学的検査を提案する。

画像診断:眼窩のMRI(T2高速スピンエコー法、直接冠状断像)で外眼筋を可視化し手術計画の指針とする。頭蓋内圧亢進が懸念される場合は脳MRIも実施する。

眼科的診察:感覚運動機能検査・基本眼位での斜視検査(V型斜視の確認)・MRD1と挙筋機能の測定・散瞳下眼底検査(視神経乳頭浮腫の確認)を行う。

主な鑑別疾患を以下に示す。

疾患名主な鑑別点
ミュンケ症候群知的障害頻度が高い。セザレ・チョッツェン症候群は頭蓋内圧亢進・眼瞼下垂が多い
アペール症候群重度の中顔面形成不全が特徴(セザレ・チョッツェン症候群では稀)
クルーゾン症候群早期骨融合・眼球突出・うっ血乳頭が特徴
バラー・ジェロルド症候群両側性頭蓋縫合早期癒合症+眼球突出+多形皮膚萎縮症

多職種連携(multidisciplinary approach)が基本であり、小児科医・眼科医・耳鼻咽喉科医・整形外科医の連携が必要である。

定期的な包括的眼科評価の推奨スケジュールは以下の通りである。

  • 診断時:初回の包括的評価を実施
  • 頭蓋顔面手術の前後:各時点で眼科評価
  • 7〜9歳まで:半年に一度
  • 思春期まで:毎年

評価項目は、斜視・弱視・屈折異常・角膜症・視神経症・鼻涙管流出異常・視神経乳頭浮腫・眼瞼下垂を含む。散瞳下眼底検査は頭蓋内圧亢進の有病率が高いため不可欠である。

弱視予防:臨床的に有意な眼瞼下垂・斜視がある子供は、遮閉法または手術で早期治療する。

斜視手術のタイミングについては2つの考え方がある。頭蓋顔面手術後まで待つと追加矯正手術の可能性が低くなるとの研究がある一方、早期の斜視手術による両眼視機能改善が将来の解剖変化リスクを上回る可能性もあるとされる。個別の状況に応じた判断が求められる。

眼瞼下垂:上眼瞼挙筋の機能不全/欠損に起因するため、機能評価(MRD1・挙筋機能)に基づく手術適応の判断が重要である。

乳幼児期

頭蓋拡大術:生後9〜12ヶ月に実施。頭蓋内圧亢進に対処し、脳の成長を確保する。

気道・栄養管理:顔面異常による経口摂取障害への対応を出生直後から行う。

小児期以降

全層頭蓋欠損の閉鎖:3〜4歳までに手術。

中顔面形成不全の矯正:小児期後半〜思春期初期に実施。

追加頭蓋容積拡大:頭蓋容積の増加が更に必要な場合に実施。

術後は2ヶ月後に眼科フォローアップを行い、露出性角膜症・眼球突出の有無を確認する。露出性角膜症に対しては、点眼薬・眼軟膏による角膜保護を行う。兎眼が高度で自発閉瞼不能の場合は夜間テーピングによる閉瞼を検討し、重症例では一時的な瞼々縫合も考慮する。

  • 聴覚:聴覚検査を定期的に行い、両耳補聴器または人工内耳埋込術を検討
  • 心臓:定期的な心臓検査
  • 睡眠:睡眠時無呼吸のスクリーニング
  • 発達:筋骨格系異常と発達遅滞のスクリーニング
Q 斜視や眼瞼下垂の手術はいつ行うのが良いか?
A

斜視手術については、頭蓋顔面手術後まで待つと追加矯正手術の可能性が低くなるとの研究がある一方、早期手術による両眼視機能改善のメリットが将来の解剖変化リスクを上回るとの考え方もあり、一律の基準はない。眼瞼下垂手術は上眼瞼挙筋の機能評価(MRD1・挙筋機能)に基づいて判断する。弱視予防の観点から、臨床的に有意な場合は早期介入が推奨される。

6. 病態生理学・詳細な発症機序

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TWIST1遺伝子はbHLH(basic helix-loop-helix)転写因子をコードし、頭部間葉の形成に不可欠な役割を果たす。

ハプロ不全が主要な病態機序である。TWIST1の片方のアレルの機能喪失により、タンパク質産物の質的・量的障害が生じる。これが頭蓋縫合の骨芽細胞分化を異常に促進し、頭蓋縫合早期癒合を引き起こす。

変異は100以上が同定されており、ミスセンス変異・点変異・欠失など多様である。この変異の多様性が表現型の多様性を反映している。TWIST1欠失(大きな染色体欠損)はTWIST1点変異より知的障害の頻度が高く、遺伝子型と表現型の相関が存在する。

斜視のメカニズム:V型斜視が多い。癒合した冠状縫合と同側の上斜筋機能不全が関与しており、外眼筋の欠損(agenesis)も報告されている。内転時の過上転は偽下斜筋過動(眼窩プーリーの位置異常)に起因すると考えられている。

眼瞼下垂のメカニズム:上眼瞼挙筋の機能不全または欠損(agenesis)に起因する。単純な挙筋機能低下から完全な筋欠損まで重症度の幅がある。

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