涙点閉鎖症(punctal atresia)は、涙点(lacrimal punctum)が先天的に欠損している状態である。涙点欠損症(punctal agenesis: PA)とも呼ばれる。先天性に上下の涙点が1つまたは複数欠損しており、涙点閉鎖(膜状閉鎖)よりは頻度が少ないが、臨床上ときどき遭遇する疾患である。
涙点は胎生6か月で開口し、出生時に下鼻道へ開通する。涙道系の外胚葉の管腔形成(canalization)は妊娠12週から始まり、第7か月まで外側に向かって進行して眼瞼縁の頂部に涙点が開口する。管腔形成は涙嚢から始まり、近位の涙小管方向および遠位の鼻腔方向へと進む。涙点および涙小管壁の発達は、鼻上顎領域における第1・第2鰓弓の発達と密接に関連している。
単なる膜状の閉鎖とは異なり、重度の涙点閉鎖症では水平および垂直涙小管の広範な閉塞を伴うことが多い。このため、治療法の選択は涙小管の状態に大きく左右される。
Q 涙点閉鎖症と涙点狭窄はどう違うのか?
A 涙点閉鎖症は先天的に涙点そのものが欠損している状態である。涙点狭窄は感染・外傷・炎症・腫瘍・薬剤の影響など後天的な原因で涙点が狭くなった状態を指す。鑑別は詳細な病歴聴取と使用薬剤の確認によって行われる。
- 流涙(epiphora):最も一般的な症状である。涙点がないため涙液の排出が障害される。
- 眼脂:感染を伴わなければみられない。上下両方の涙点・涙小管欠損よりも、近位涙小管の関与がある場合に生じやすい。
- 充血・痛み:涙嚢炎や涙嚢腫脹を合併している場合に認められる。
- 無症状例:涙点がない眼でも、時折涙が出る場合や全く流涙がない場合がある。なお、先天鼻涙管閉塞と異なり眼脂がみられないことが特徴であるため、初診時期が遅くなる場合がある。
- 細隙灯顕微鏡所見:涙点が存在すべき部位に涙点乳頭(punctal papilla)や陥凹(dimple)が認められない。まれに本来の涙点位置より内側に睫毛が見られることがある。
- kissing現象の消失:正常では上下の涙点は瞬目時に接合する(kissing現象)。涙点の異常でkissingが起きないと涙液の吸収が低下する。
- 涙点の診察:涙点の診察は見落としがちであるが、涙点から得られる情報は非常に多い。特に流涙症の患者および小児では涙点の有無を必ず確認する。
涙点閉鎖症に伴う合併症として、涙嚢炎(dacryocystitis)、涙嚢腫脹(dacryocele)、涙道瘻(lacrimal fistula)、涙道粘液嚢胞(lacrimal mucocele)がある。
関連する眼所見として、涙丘欠損、鼻涙管閉塞、涙小管嚢胞、眼瞼スキンタグ、睫毛二重生(distichiasis)、外斜視、屈折異常、眼瞼下垂、眼瞼内反、眼瞼炎、内眥開褶、弱視、眼振が報告されている。
涙点閉鎖症の病因は大きく孤発性と遺伝性に分類される。
- 孤発性(sporadic):最も一般的な病因である。単独で発生する場合と、眼科的および全身的な症候群に関連して発生する場合がある。
- 遺伝性(inherited):変異を伴う表現型や浸透率を持つ常染色体優性遺伝が報告されている。
頭蓋顔面の発達、特に鼻上顎領域における障害は、涙道組織の形成不全やその他の眼科的欠損を伴う。涙点閉鎖症患者の約43%に全身異常または遺伝性症候群が認められ、最も一般的なのは外胚葉異形成症(ectodermal dysplasia)とダウン症候群である。また、下顎骨・上顎骨の形成不全を伴うTreacher Collins症候群やNager症候群にも合併しやすい。
涙点閉鎖症との関連が報告されている主な症候群を以下に示す。
| 分類 | 主な症候群 |
|---|
| 外胚葉異形成症 | EEC症候群、AEC症候群、Rapp-Hodgkin症候群、ADULT症候群、ALSG症候群 |
| 染色体異常 | ダウン症候群、22q11.2欠失症候群、1q21.1微細欠失症候群 |
| その他 | LADD症候群、Treacher Collins症候群、CHARGE症候群、アペール症候群 |
このほか、コーネリア・デ・ランゲ症候群、メビウス症候群、鰓弓・耳・腎症候群、神経線維腫症1型、Limb Mammary症候群、先天性無鼻症・小眼球症症候群、ヨハンソン・ブリザード症候群、パシャヤン症候群との関連も報告されている。
Q 涙点閉鎖症は遺伝するのか?
A 常染色体優性遺伝の報告がある。約43%の症例に全身異常や遺伝性症候群が認められる。家族歴がある場合は遺伝カウンセリングが有用である。
涙点閉鎖症は、詳細な病歴聴取と注意深い診察を必要とする臨床診断である。
- 細隙灯顕微鏡検査:涙点が存在すべき部位に涙点乳頭や陥凹が認められないことを確認する。涙乳頭が認められない場合は涙小管形成不全を伴っている可能性があり注意を要する。
- 涙管通水検査:涙点から生理食塩液を注入し、鼻腔への流出の有無を確認する。涙点が存在しない場合は施行不能であるが、片側の涙点が存在すればそちらから評価を行う。
- 涙嚢造影(dacryocystography):涙道排泄系の解剖学的詳細を可視化する。上下涙点のうちどちらかから造影剤を注入して撮影する。
- 涙道内視鏡検査:涙道内腔の状態を直接観察でき、閉塞部位を正確に診断可能である。
- 色素消失試験:フルオレセインで涙液を染色し、5〜10分後の色素残留状態を観察する。色素残留があれば導涙機能の障害を示す。
主な鑑別診断を以下に示す。
| 鑑別疾患 | 鑑別のポイント |
|---|
| 涙点狭窄 | 後天性。薬剤・炎症の既往 |
| 鼻涙管閉塞 | 粘性眼脂が主症状 |
| ドライアイ | 反射性流涙。涙液分泌低下 |
| 涙小管閉塞 | 感染・外傷・薬剤が原因 |
出生時には約半数に涙点の膜状閉鎖がみられるが、その後自然に開口する。この一過性の膜状閉鎖と先天涙点欠損症は区別が必要である。
涙点閉鎖症の治療は内科的治療と外科的治療に大別される。流涙や感染のない無症状の患者は経過観察が可能であり、抗菌薬の点眼は不要である。流涙のみが唯一の症状である場合、放置しても感染は起こらないため、手術を行うかどうかはきわめて慎重に考えるべきである。
- 合併症への対応:涙嚢炎・涙嚢腫脹・粘液嚢胞を有する患者には、グラム陽性菌をカバーする経験的な経口抗菌薬が必要な場合がある。
- 温罨法・マッサージ:涙嚢腫脹の減圧に有効である。
- 重症例:経口抗菌薬で改善しない場合や眼窩蜂窩織炎への進展の兆候がある場合は、培養結果に基づいた抗菌薬や静脈内投与が必要となる。
涙点閉鎖症の根治には多くの場合手術が必要である。術式は閉塞の範囲と涙小管の状態によって異なる。
膜状閉鎖のみ
涙点切開・ブジー:涙点拡張器(punctal dilator)や尖刃で膜様組織を切開し、涙小管系への通路を作成する。
涙点形成術:涙乳頭が確認でき、その陥凹した中心が膜様に見える場合は、先端の鋭な涙点拡張針で中心を突くことで容易に開放できる。涙管拡張針で涙点を拡張し、遠位で狭窄がなければチューブ留置は不要である。先天鼻涙管閉塞を合併している場合はプロービングも併せて行う。メスや針などの鋭利な器具を必要とする症例は難易度が高く、涙道専門医への紹介が望ましい。
再閉塞時:2〜4週間涙点プラグを挿入して抜去し、再閉塞すればシリコンチューブを1〜2か月留置する。
涙小管閉塞合併
近位閉塞:涙小管開窓術(canalicular marsupialization)とジョーンズ管の留置により、新涙点(neo-punctum)を作成する。
涙小管狭窄:涙小管トレフィン穿孔術とステント留置を行う。ミニモノカ(Mini-Monoka)ステントは自己保持型で成功率が高いとされる。ステントは通常6〜12か月留置する。
涙小管組織不十分
CDCR:涙小管組織が不十分な場合は、ジョーンズ管留置を伴う結膜涙嚢鼻腔吻合術(conjunctivodacryocystorhinostomy)が標準的な治療である。
全涙点欠損:上下涙点がすべて欠損している場合は結膜涙嚢吻合術が唯一の治療法であるが、治療成績はよくない。
Q 涙点閉鎖症は必ず手術が必要か?
A 流涙や感染のない無症状例は経過観察が可能である。流涙のみが症状の場合、放置しても感染は起こらない。手術の適応は症状の程度と患者の希望に基づいて慎重に判断される。
Q 涙点閉鎖症の手術方法はどのように決まるのか?
A 閉塞の範囲と涙小管の状態により術式が異なる。膜状閉鎖のみであれば涙点切開やブジーが有効であるが、涙小管閉塞を合併していればステント留置やCDCRが検討される。詳細は外科的治療の項を参照。
涙道系は胎生期に外胚葉から発生する。管腔形成(canalization)は妊娠12週から始まり、涙嚢を起点として近位方向(涙小管)と遠位方向(鼻腔)の双方に進行する。第7か月までに管腔形成は外側に向かって進行し、眼瞼縁の頂部に涙点が開口する。
涙点および涙小管壁の発達は、鼻上顎領域における第1鰓弓および第2鰓弓の発達と密接に関連している。したがって、頭蓋顔面の発達障害、特に鼻上顎領域における障害は涙道組織の形成不全を伴う。このことが、Treacher Collins症候群やNager症候群のような下顎骨・上顎骨の形成不全を伴う疾患に涙点閉鎖症が合併しやすい理由の一つと考えられている。
涙点閉鎖症の重症度にはスペクトラムがある。軽度例では涙点のみの膜状閉鎖にとどまるが、重度例では涙点のみならず水平・垂直涙小管の広範な閉塞を伴う。涙小管の発達程度が治療法の選択と予後を大きく左右する。涙乳頭が認められない症例では涙小管形成不全を伴っている可能性が高く、外科的治療の難易度が上がる。
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