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小児眼科・斜視

先天性鼻涙管閉塞

先天性鼻涙管閉塞(congenital nasolacrimal duct obstruction; CNLDO)は、鼻涙管遠位端のハスナー弁における膜性閉塞を主因とする涙液排泄系の先天的閉塞である。新生児の6〜20%に発生し、小児に最も頻度の高い涙器疾患である1)。涙道は胎生期に外側鼻突起と上顎突起の間の鼻涙溝底部に外胚葉が埋没し、遊離して形成される涙索より発生する。鼻涙管下端の膜状物は胎生第32週頃から消失し始めるが、出生直前の胎生第38週でも約20%は残存している。

約80%が片側性であり、性差や明確な遺伝的素因は認められていない1)。胎生8か月で鼻涙管下部開口部が開口するが、この開口が不完全なまま出生した状態が本疾患に相当する。

自然治癒率は高く、生後3か月で約70%、6か月で約80%、12か月で80〜100%が自然治癒する。生後1年以内の自然治癒率は89〜96%と報告されている1)

Q 先天性鼻涙管閉塞は自然に治るのか?
A

生後1年以内に89〜96%が自然治癒する1)。涙嚢マッサージを併用することで治癒が促進される。1歳を過ぎても症状が持続する場合は、プロービングなどの介入が検討される。

自覚症状(保護者が気づく症状)

Section titled “自覚症状(保護者が気づく症状)”

生後早期から認められる流涙と眼脂が主症状である。

  • 流涙:出生直後から持続する。涙が頬を伝って流れ落ちる。
  • 眼脂:粘液性〜粘液膿性の分泌物が眼周囲に付着する。
  • 発症時期:95%が生後1か月以内に症状を呈する1)
  • 増悪因子:上気道感染症の併発時に症状が悪化する。
  • 分泌物の性状:ハスナー弁閉塞では粘液膿性、ローゼンミュラー弁付近の閉塞では水様性となる1)
  • 涙液メニスカスの増大:涙丘部での涙液貯留が観察される。
  • 涙嚢部圧迫テスト(Micro-Reflux test):内眼角-鼻根部を圧迫すると涙点から粘液-粘液膿性物質が逆流する。
  • 眼周囲皮膚の荒れ:持続的な流涙によるまつ毛の痂皮形成を伴う1)
  • 眼球充血:通常は認められず、眼球は白色である。
  • 弱視:約5%に認められる1)
  • 屈折異常:臨床的に有意な遠視が2〜8%に生じる1)
  • 急性涙嚢炎・眼窩前隔蜂巣炎:まれではあるが重篤な合併症である。

CNLDOの最も一般的な原因は、ハスナー弁における退縮遅延による膜性閉塞である。その他の原因として以下がある。

  • 骨性閉塞:鼻涙管全体の狭窄や骨性管の狭小化。
  • 先天性近位涙道形成不全:涙点・涙小管の発育不全。

CNLDOのリスク因子は以下の通りである。

重症CNLDOの内訳として、完全閉塞35%、涙点無形成15%、先天瘻10%、頭蓋顔面骨欠損5%が報告されている1)

涙嚢瘤は鼻涙管の上下が同時に閉塞した状態であり、涙嚢の拡張を生じる。鼻腔内嚢胞を11〜24%に、涙嚢炎を20〜74%に合併する。

Q ダウン症候群と鼻涙管閉塞に関連はあるのか?
A

ダウン症候群では最大30%にCNLDOが発生するとされ、一般の新生児(6〜20%)より高頻度である1)。合併する頭蓋顔面の構造異常が関与すると考えられている。

CNLDOの診断は臨床所見と病歴に基づく。主な検査法を以下に示す。

検査法特徴
FDDT感度90%、特異度100%
涙管通水検査通過障害の確認
CT骨性閉塞の評価
  • FDDT(fluorescein dye disappearance test)フルオレセイン色素を点眼し、5分後の残留を観察する。感度90%、特異度100%と報告されている1)
  • 涙管通水検査:生理食塩水を涙点から注入し、鼻腔への通過を確認する。
  • 細隙灯顕微鏡検査:眼表面の評価と他疾患の除外に用いる。
  • CT検査:骨性閉塞が疑われる場合に施行する。

以下の疾患との鑑別が必要である。

  • 後天性鼻涙管閉塞
  • 新生児結膜炎
  • 発達緑内障(流涙・羞明角膜混濁を呈する)
  • 涙点・涙小管の先天異常
  • 眼瞼内反

生後6か月までは保存療法が第一選択である。

内眼角-鼻根部間および鼻翼部を指で圧迫し、鼻涙管内の圧力を高めてハスナー弁の膜を破る手技である。成功率は85%以上と報告されている1)

眼脂が多い場合にはトスフロキサシン点眼液0.3%を1日4回使用する。ただし、抗菌薬の長期投与は控え、眼脂の多い時期のみ使用する。

日本では生後6か月以降に推奨される。6か月未満は敗血症のリスクがあり非推奨であるが、眼瞼炎・急性涙嚢炎・涙嚢ヘルニアの合併例では例外的に早期介入が考慮される。

手技は05-06ブジーを涙点から挿入し、眼瞼を外側に牽引して涙小管を直線化しながら約10mmで涙嚢に到達させ、膜性閉塞を穿破する。上涙小管からの挿入が有利であり、涙嚢手前の抵抗が少なく涙小管を傷つける可能性が低い。ブジーの先端を10mmの位置で約15度曲げておくことで、涙嚢鼻涙管移行部のバリエーションに対応しやすくなる。1歳〜1歳半以降で抑制が困難な場合は全身麻酔下で施行する。

年齢別のプロービング成功率を以下に示す。

年齢成功率
0〜6か月90.67%
6〜12か月85.18%
12〜24か月82.34%
24〜48か月85.33%
48か月超63.47%

(17研究・7110眼のメタアナリシス)3)

12か月未満、特に全身麻酔下での施行が最も良好な成績を示す(0〜6か月:全身麻酔下95.42%、局所88.82%)3)。早期プロービングと晩期プロービングの解消率に有意差は認められていない(RR 1.00 [95%CI 0.76-1.33]; p=0.99)2)

再プロービングの成功率は40〜60%に低下する。初回プロービング失敗例の44%に医原性涙小管閉塞が認められるため、涙道内視鏡の使用が望ましい。涙道内視鏡を使用すると涙道内腔を確認しながら安全に閉塞部位を開放でき、可視下で正確にチューブを挿入できる。涙小管に医原性閉塞を生じた場合、後の修復が非常に困難となるため、プロービング中に涙小管等の閉塞部以外に抵抗を感じた場合は操作を中止し、涙道専門施設への紹介を検討する。

プロービングのまれな合併症として菌血症、髄膜炎、股関節炎、心内膜炎が報告されている。術後は抗菌薬点眼とマッサージを続行する。

プロービングが不成功の場合に検討される。初回留置の成功率は90〜96%1)、プロービング失敗後は約84%である。留置期間は2か月以上が推奨される。

複雑型CNLDOでは、双涙小管シリコンステントが晩期プロービングよりも有効であることが示されている(RR 0.56 [95%CI 0.34-0.92]; p=0.02)2)

成功率は53〜95%と報告されているが、プロービングに対する明確な優位性は示されていない。

上記の治療が奏効しない場合や骨性閉塞では涙嚢鼻腔吻合術(dacryocystorhinostomy; DCR)が適応となる。小児に対するDCRは骨膜への侵襲を伴うため、顔面骨の成長が完成する15歳前後以降が望ましいとされるが、重症例では早期手術に踏み切る場合もある。鼻外法の成功率は96%、内視鏡下DCRは82〜94%である1)。涙嚢鼻腔吻合術鼻内法は顔面に瘢痕を残さず骨切除量が少ない利点があるが、習熟した手技を要する。術後は8〜12週間のステント留置が行われる。骨性閉塞では唯一の治療法である。

保存療法

涙嚢マッサージ:Crigler法。成功率85%以上。

抗菌薬点眼:眼脂が多い場合のみ使用。

適応:生後6か月まで第一選択。

プロービング

手技:05-06ブジーで膜を穿破。

時期:日本では生後6か月以降推奨。

成功率:年齢により63〜91%。

ステント・DCR

ステント留置:プロービング不成功時。成功率84〜96%。

DCR:骨性閉塞や難治例。鼻外法96%。

Q プロービングはいつ行うのが最適か?
A

日本では生後6か月以降が推奨される。16か月齢までは早期と晩期で成功率に有意差がないとされる2)。自然治癒の可能性が高い生後12か月まではマッサージを中心とした保存療法を行い、改善がない場合にプロービングを検討するのが一般的である。

Q プロービングが失敗した場合はどうするのか?
A

再プロービングの成功率は40〜60%に低下する。再プロービングが不成功であればステント留置(成功率約84%)、さらに奏効しない場合は涙嚢鼻腔吻合術(DCR)が検討される。

6. 病態生理学・詳細な発症機序

Section titled “6. 病態生理学・詳細な発症機序”

涙道の発生は胎生3〜5週に開始する。表面外胚葉から涙溝が形成され、胎生3か月頃に管腔化が進行する1)。鼻涙管の最遠位部(ハスナー弁)は最後に開口し、通常は胎生8か月までに完成する。この開口が不完全なまま出生した場合にCNLDOが生じる。

涙道の解剖は以下の通りである。

  • 涙点:上下眼瞼の内側端に存在する涙液の入口。
  • 涙小管:涙点から続く管で、垂直部と水平部から構成される。
  • 総涙小管:上下涙小管が合流する部位。
  • 涙嚢:涙骨の涙嚢窩に位置する貯留嚢。
  • 骨性鼻涙管:涙嚢から下鼻道へ至る骨性管。
  • 膜性鼻涙管:骨性管内を走行する軟部組織。下鼻道に開口する。

涙道の生理的狭窄部は総涙小管、涙嚢-鼻涙管移行部、鼻涙管、鼻涙管開口部の4箇所に存在する。

閉塞の部位と病型は以下の通りである。

  • ハスナー弁の膜残存:最も一般的。膜性閉塞であり自然治癒が期待できる。
  • ローゼンミュラー弁付近の閉塞:まれ。水様性分泌物を呈する1)
  • 骨性閉塞:鼻涙管の狭小化を伴い、プロービングでは改善せずDCRが必要となる。

7. 最新の研究と今後の展望(研究段階の報告)

Section titled “7. 最新の研究と今後の展望(研究段階の報告)”

年齢層別プロービング成功率のメタアナリシス

Section titled “年齢層別プロービング成功率のメタアナリシス”

Sultanbayevaら(2025)は17研究・7110眼を対象としたメタアナリシスで、年齢層別のプロービング成功率を検討した3)。0〜6か月では全体90.67%(全身麻酔下95.42%、局所88.82%)、6〜12か月では85.18%(全身麻酔下89.60%、局所82.33%)、12〜24か月では82.34%(全身麻酔下84.75%、局所75.37%)であった。48か月超では63.47%まで低下した。全サブグループでエビデンスの確実性は低と判定された。

早期プロービングの費用対効果

Section titled “早期プロービングの費用対効果”

Faratら(2021)のRCT4件(423名)を対象としたメタアナリシスでは、早期プロービングと晩期プロービングの解消率に有意差は認められなかった(RR 1.00; p=0.99; エビデンス確実性:低)2)。一方、PEDIG研究では早期プロービングの方がコスト効率的であることが示された($562 vs $701)。

内視鏡補助プロービングと涙道内視鏡

Section titled “内視鏡補助プロービングと涙道内視鏡”

従来の盲目的プロービングに対し、内視鏡補助下での施行が検討されている1)。涙道内視鏡の使用により閉塞部位の直接観察が可能となり、医原性損傷のリスク低減と成功率の向上が期待される。

DCRにおけるマイトマイシンC補助

Section titled “DCRにおけるマイトマイシンC補助”

内視鏡下DCRの成功率向上を目的として、吻合部へのマイトマイシンC塗布が検討されている1)。肉芽形成や瘢痕性閉塞の予防効果が期待されるが、長期的な安全性については今後のデータ蓄積が必要である。


  1. Blaszczyk K, Biedka K, Estreicher A, et al. Congenital Nasolacrimal Duct Obstruction: Natural Course, Diagnosis and Therapeutic Strategies. J Clin Med. 2025;14(11):3716.
  2. Farat JG, Schellini SA, El Dib R, et al. Probing for congenital nasolacrimal duct obstruction: a systematic review and meta-analysis of randomized clinical trials. Arq Bras Oftalmol. 2021;84(1):91-98.
  3. Sultanbayeva Z, Dzhumabekov A, Aldasheva N, et al. A Systematic Review and Meta-Analysis of the Success Rate of the Primary Probing in Pediatric Patients with Congenital Nasolacrimal Duct Obstruction in Different Age Groups. Medicina. 2025;61(8):1432.

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