皮膚病変
紫斑様の腫瘤:硬く紫色で境界不明瞭な板状の病変。急速に増大し、著しく腫脹する。
革様の質感:触診で結節状、熱感を伴うことがある。
多毛症・多汗症:病変部に認められることがある。
点状出血:血小板1万未満で皮膚の点状出血が出現する。

カサバッハ・メリット現象(Kasabach-Merritt Phenomenon; KMP)は、カポジ様血管内皮腫(kaposiform hemangioendothelioma; KHE)または房状血管腫(tufted angioma; TA)に伴う、血小板減少症・消耗性凝固障害・紫斑を特徴とする臨床症候群である。1940年にKasabachとMerrittにより、毛細血管腫に伴う血小板隔離の最初の臨床的関連として報告された2)4)。
KHEとTAは同一の腫瘍スペクトラム上にあり、組織学的にも類似する。KHEは局所侵襲性の腫瘍であるのに対し、TAは良性である。KHE患者の約70%、TA患者の約10%にKMPが認められる。KMPはより一般的な乳児血管腫(infantile hemangioma)には伴わない。乳児血管腫はGLUT-1陽性であるのに対し、KHE・TAはGLUT-1陰性であり、免疫組織化学的に鑑別が可能である。
KMPの症例の約80%は生後1年以内に発症し、発症年齢の中央値は5週である5)。報告症例は約200例とされる5)。男女差や民族的偏りはない。最も一般的な病変部位は顔面、頭部、頸部、胸腔、腹部・後腹膜、および四肢である。KMPの死亡率は20〜40%とされ、主因は消耗性凝固障害による難治性出血である5)。
KMPはKHEまたはTAに伴う現象であり、乳児血管腫(いわゆる苺状血管腫)には伴わない。乳児血管腫は生後6か月〜2歳で増大傾向が収まり、7〜9歳までに約9割が自然消失する良性腫瘍であり、KMPとは病態が異なる。
KMPの自覚症状は基礎となる血管腫瘍の部位と大きさにより異なる。
KMPの臨床像は病変部位により異なる。
皮膚病変
紫斑様の腫瘤:硬く紫色で境界不明瞭な板状の病変。急速に増大し、著しく腫脹する。
革様の質感:触診で結節状、熱感を伴うことがある。
多毛症・多汗症:病変部に認められることがある。
点状出血:血小板1万未満で皮膚の点状出血が出現する。
内臓病変
後腹膜腫瘤:最も多い内臓病変部位。増大スペースが広いため臨床的特定が困難。
腹部膨満:腫瘍の増大に伴い出現する。
臓器不全の徴候:高拍出性心不全、多臓器不全を呈することがある。
触知可能な腫瘤:腹部触診で認められることがある。
眼科的病変
眼瞼腫脹:TAは上下眼瞼に無痛性の緩徐な腫脹として現れる。感染症と誤認されることがある。
眼球突出:眼窩のKHEによりproptosisを呈する。
眼瞼下垂・乱視:増大する眼瞼病変が弱視の原因となりうる。
眼窩コンパートメント症候群:視神経圧迫と視力喪失を招く最も重大な合併症。
検査所見では以下が認められる。
眼瞼・眼窩のTA・KHEにより霧視・複視・眼瞼下垂・弱視を生じうる。最も重大な合併症は眼窩コンパートメント症候群であり、視神経圧迫による視力喪失を招く恐れがある。幼児期の早期診断が将来の弱視・斜視・乱視の予防に重要である。
KMPはKHEまたはTAの合併症として発症する。KHE・TAは血管内皮細胞が異常増殖する腫瘍であり、先天的な血管の形成異常である血管奇形とは区別される。
KMPの発症リスクに関連する因子は以下の通りである。
Schmidらのレビューによれば、KHE患者のうちKMPを呈する割合は年齢により異なり、乳児期では79%、1〜5歳で47%、6〜12歳で43%、13〜21歳で10%と報告されている1)。
KMPの診断には、血管腫瘍の特定と凝固検査異常の確認が必要である。
KHEとTAの鑑別および病変の範囲評価にはMRIが有用である。
| 所見 | KHE | TA |
|---|---|---|
| 造影パターン | びまん性、境界不明瞭 | 均一、境界不明瞭 |
| 層への浸潤 | 複数の層にわたる | 単一層に限局 |
| ヘモジデリン沈着 | あり | なし |
血管造影はKMPに関連する血管病変の栄養血管や側副血管の評価に有用であり、塞栓術の術前計画に用いられる。MRIと血管造影を組み合わせた磁気共鳴血管撮影(MRA)が最も情報量の多い画像診断となりうる。
KMPの治療に組織学的診断は必須ではないが、血管腫瘍のサブタイプ特定のため生検が検討される。
以下の疾患を鑑別する。
KMPの治療は、凝固障害の安定化と基礎腫瘍の縮小を目標とする。
副腎皮質ステロイドは反応が迅速で管理が容易であるため初期治療に使用されるが、単剤での有効性は限定的である。シロリムスの抗血管新生作用・アポトーシス促進作用と併用する。
Jiら(2020)のランダム化比較試験では、シロリムス+プレドニゾロン併用群の94.6%が4週後に持続的血小板応答を達成したのに対し、シロリムス単剤群では66.7%であった1)。
Pengら(2019)のメタ分析では、腫瘍縮小に対する奏効率はシロリムスが0.91、ビンクリスチンが0.72であり、KMPの血小板正常化ではシロリムスが0.94、ビンクリスチンが0.82と報告された1)。
シロリムスの主な副作用は免疫抑制、肝酵素上昇、高脂血症、口内炎である。血中濃度は10〜13 ng/mLを超えないようモニタリングが必要である5)。
凝固障害が安定した後は、ステロイドの副作用を考慮して漸減し、シロリムスを数か月間継続する。
以前はステロイドとの併用で第一選択であったが、中心静脈カテーテルの必要性と末梢神経障害のリスクから、現在は補助的治療に位置づけられている1)。
腫瘍が巨大である場合、内科的治療に抵抗性の場合、または栄養血管が多い場合に検討される。ブレオマイシン、エタノール、ポリビニルアルコール粒子などが使用される。
KMP発症中は凝固障害のため手術リスクが高い。内科的治療で血小板数が正常化し腫瘍が縮小した後に検討される。単発の皮膚病変は外科的切除で治癒可能である。
輸血された血小板が血管腫瘍内に捕捉・消費されるため、KMPを悪化させる。また輸血血小板に含まれる血管新生増殖因子により腫瘍が増大する可能性もある1)。活動性出血や手術前を除き、血小板輸血は推奨されない。
KMPの病態生理は完全には解明されていないが、KHE・TAの複雑な血管構造が中心的役割を果たすと考えられている。
KMPの発症機序は以下のサイクルで説明される。
このサイクルは腫瘍が消失するか治療が行われるまで継続する。
KMPの重症化により以下を合併しうる。
血小板が腫瘍内に捕捉されることで凝固カスケードが活性化し、腫瘍内出血が生じる。この出血が腫瘍の急速な増大をもたらし、さらに多くの血小板を捕捉するという悪循環が形成される。
Jiら(2022)のランダム化比較試験では、コルチコステロイド+シロリムス併用群はシロリムス単剤群と比較して、KMPの凝固障害改善が有意に速かったことが報告された2)。
Pérezら(2022)は、シロリムス0.8 mg/m²投与後48時間で消化管出血が完全消失した成人KMS症例を報告した5)。血小板は59,000から205,000/μLに回復し、フィブリノゲンは50未満から98 mg/dLに改善した。シロリムスの作用機序として、mTORシグナル経路阻害→VEGFR活性化抑制→内皮細胞増殖抑制→病変縮小が示されている。
KMPは乳児に多い疾患であるが、成人発症の報告も蓄積されつつある。
Yeら(2025)は肝血管肉腫に伴うKMP(Kasabach-Merritt症候群)の系統的レビューを行い、8症例を解析した3)。中央値年齢は66歳、血小板は21〜95×10⁹/L、フィブリノゲンは通常1.5 g/L未満であった。成人の血管肉腫に伴うKMPは予後不良であり、外科的切除が可能であれば最良の治療選択肢であると結論した。
Zhaoら(2022)は巨大肝血管腫26例の文献レビューを行い、13例(50%)にKMP(KMS)が合併していたと報告した4)。切除不能病変にはステロイドとαインターフェロンが第一選択、ビンクリスチンと化学療法が後続治療とされた。