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小児眼科・斜視

歌舞伎症候群

歌舞伎症候群(Kabuki Syndrome; KS)は、1981年に日本の新川らおよび黒木らが独立して報告した希少先天性疾患である。 歌舞伎役者の化粧に似た特徴的顔貌から命名された。

KSの有病率は日本で32,000人に1人、オーストラリア・ニュージーランドで86,000人に1人とされる。 発生頻度は1/68,000〜1/32,000で、性差・人種差はない4)。 全世界の民族で報告がある。

5つの主徴により特徴づけられる。

  • 特徴的顔貌:長い眼瞼裂・下眼瞼外反・弓状眉毛など
  • 出生後発育障害:低身長・哺乳困難
  • 知的障害:84〜100%に認める
  • 骨格異常:短指症・脊椎異常など
  • 皮膚紋理異常:指腹部パッドなど
Q 歌舞伎症候群はどのくらい珍しい疾患ですか?
A

日本での有病率は32,000人に1人で、全世界の民族で報告されている。発生頻度は1/68,000〜1/32,000で、性別・人種による差はない4)

自覚症状(保護者が気づく症状)

Section titled “自覚症状(保護者が気づく症状)”

乳幼児期から以下の症状・所見が認められる。

  • 哺乳困難:新生児・乳児期に認められる特徴的症状
  • 筋緊張低下:60〜83%に認める
  • 発育不良・低身長:54〜75%に認める
  • 知的障害:84〜100%に認め、程度は軽度〜中等度が多い

臨床所見(医師が確認する所見)

Section titled “臨床所見(医師が確認する所見)”

KSの診断において最重要の所見である。 乳幼児期より認められ、3〜12歳で最も明瞭となる。

  • 長い眼瞼裂:95〜100%に認める最も高頻度の顔貌所見
  • 下眼瞼外側1/3の外反:83〜98%に認める。眼周囲の所見が示唆する先天異常として鑑別に重要
  • 弓状眉毛:79〜88%に認める
  • 短い鼻中隔:69〜93%に認める
  • 耳介形成不全:78〜100%に認める
  • 高口蓋・口蓋裂:50〜79%に認める

眼科的異常は多彩であり、全患者に眼科検査が推奨される。

歌舞伎症候群で報告されている主な眼科的所見を以下に示す。

所見頻度(200例中)
斜視43例
青色強膜44例
眼瞼下垂12〜63%
小眼球症コロボーマ9例
角膜混濁・ピーターズ異常5例
白内障3例
屈折異常6例

Xp11.3微小欠失(1.9 Mb)を持つ症例ではNorrie病と歌舞伎症候群が重複し、両側網膜剥離が新生児期から認められることがある10)

類似所見を呈する疾患として、キャットアイ症候群・CHARGE症候群・レンツ症候群との鑑別が必要である。

  • 指腹部パッド:75〜100%に認める
  • 短指症:63〜100%に認める
  • 心血管異常:28〜80%に認め、左心系閉塞性病変が約半数8)。漏斗胸の報告もある5)
  • 難聴:40〜50%に認める
  • 口腔所見:60%以上に認める5)
Q 歌舞伎症候群ではどのような眼の異常がみられますか?
A

長い眼瞼裂(95〜100%)と下眼瞼外側1/3の外反(83〜98%)が最も特徴的な所見である。 斜視・青色強膜・眼瞼下垂・小眼球症・コロボーマなど多彩な眼科的異常が認められ、診断時に眼科検査を行うことが推奨される。

2つの主要な原因遺伝子が同定されており、いずれもクロマチン修飾に関わる酵素をコードする。

2つの遺伝子型の比較を以下に示す。

KS1(KMT2D)KS2(KDM6A)
遺伝子座12q13.12Xp11.3
頻度56〜80%5〜8%
遺伝形式常染色体優性X連鎖優性
変異型切断型変異主体機能喪失型

KMT2DはH3K4メチルトランスフェラーゼをコードし、de novo変異が主体である6)。 KDM6AはH3K27脱メチル化酵素をコードし、X染色体不活化を部分的に逃れるためX連鎖優性の遺伝形式をとる6)。 Y染色体にはKDM6Cパラログが存在し、男性でKS2が生じにくい理由と関連する可能性がある6)

稀な原因遺伝子としてRAP1A・RAP1Bが報告されている1)

20〜45%の症例では遺伝的原因が同定されない。 既知の環境リスク因子はない。

モザイク型KSも報告されており、アレル頻度は10〜37%(最低11.2%)である8)。 モザイク型は通常型と比べて症状が軽微な場合があるが、心血管異常など重篤な合併症を呈することもある8)

Q 遺伝子変異が見つからなくても歌舞伎症候群と診断されますか?
A

20〜45%の症例では原因遺伝子変異が同定されない。 2019年の国際診断基準では、遺伝子変異が同定されなくても臨床的特徴に基づく診断(possible/probable KS)が認められている。

2019年に策定された国際診断基準では、確定・probable・possibleの3段階に分類される。

確定診断

KMT2D病的変異あり:5主徴を満たさなくても確定診断とする。

KDM6A病的変異あり:同上。

Probable KS

遺伝子変異なし:5主徴のうち典型的顔貌を含む複数の主徴を満たす場合に該当する。

顔貌が3〜12歳で最も明瞭:乳幼児期や成人期は診断が困難なことがある。

Possible KS

遺伝子変異なし:5主徴のうち一部のみを満たす場合に該当する。

追加精査が推奨:成長とともに所見が明確になる場合がある。

  • 全エクソーム解析(WES):推奨される第一選択の遺伝子検査4)6)。変異検出率は92.3%
  • エピシグネチャー解析(EpiSign):DNAメチル化プロファイリングによりモザイク型KSの確定に有用8)

診断時に以下の精査を行う。

  • 眼科検査:全患者に推奨
  • 心臓超音波検査:心血管異常の評価
  • 聴力検査:難聴のスクリーニング
  • 内分泌評価:低血糖・低身長のスクリーニング

KSに対する根治療法はなく、多職種チームによる症状別の長期管理が基本である。 小児科・眼科・心臓外科・内分泌科・耳鼻科・歯科・リハビリテーション科などが連携する。

  • 眼科スクリーニング:診断時より定期的に実施
  • 屈折矯正・弱視治療:屈折異常・斜視に対して早期介入
  • 眼瞼下垂手術:視軸を遮蔽する眼瞼下垂には手術を検討

KMT2D関連KSでの頻度は約0.3%、KDM6A変異例では45.5%と高率に認められる7)9)

  • Diazoxide:第一選択薬。3〜15 mg/kg/日で投与する7)。5歳まで継続が必要な場合がある
  • マルトデキストリン:Diazoxide中止後の管理に0.2〜0.5 gm/kgで使用2)
  • 心疾患:外科的修復を要する症例あり8)
  • 低身長:成長ホルモン(GH)治療が検討される4)
  • 口蓋裂:外科的修復・歯科矯正治療4)5)
Q 歌舞伎症候群の低血糖はどう治療しますか?
A

第一選択はDiazoxide(3〜15 mg/kg/日)であり、5歳まで必要な場合がある7)。 Diazoxide中止後はマルトデキストリン(0.2〜0.5 gm/kg)による管理が報告されている2)。 肺高血圧・高血糖高浸透圧状態などの副作用に注意しながら管理を継続する。

6. 病態生理学・詳細な発症機序

Section titled “6. 病態生理学・詳細な発症機序”

KSの病態はクロマチン修飾の異常によって引き起こされる。 2つの原因遺伝子はいずれもヒストン修飾酵素をコードする。

  • KMT2D(KS1):H3K4メチルトランスフェラーゼ(H3K4の「書き込み」酵素)として機能する6)。機能喪失変異によりH3K4メチル化が低下し、エンハンサー活性が障害される
  • KDM6A(KS2):H3K27脱メチル化酵素(H3K27の「消去」酵素)として機能する6)。機能喪失によりH3K27me3が過剰に蓄積し、遺伝子発現が抑制される

これらの機能喪失変異はクロマチン構造の変化をもたらし、多臓器にわたる発生異常(顔貌・骨格・神経・内臓)を引き起こす8)

低血糖の機序については、KMT2DおよびKDM6AがΒ細胞の発生・分化に関与している可能性が示唆されており、変異によるΒ細胞機能過剰がインスリン過剰分泌をもたらすと考えられている2)7)


7. 最新の研究と今後の展望(研究段階の報告)

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Dengら(2023)は、KMT2D exon39変異(c.12209_12210del)を持つ3歳女児がmPAP 71 mmHg、PVR 27 WUの重症PHを呈した症例を報告した1)。Ambrisentan 2.5 mg/日・Tadalafil 10 mg/日・Remodulin(トレプロスチニル)の3剤併用療法でも推定mPAP 96 mmHgと効果不十分であった。KMT2D変異がPHの病因となりうる新規表現型として注目される。

Montanoら(2022)は、全ゲノムDNAメチル化プロファイリング(EpiSign)によりアレル頻度11.2%の低比率モザイクKS1を確定診断した8)。通常の遺伝子解析では検出困難な低比率モザイクへの応用が期待される。

Owliaら(2026)は、6歳女児のKS症例における漏斗胸の初報告を記載した5)。眼瞼下垂・斜視・副鼻腔低形成も認められ、KSの表現型がさらに広範であることを示している。

Mansoorら(2023)は、Xp11.3微小欠失(1.9 Mb)によりNorrie病遺伝子とKDM6Aが同時に影響を受けた3日齢男児の症例を報告した10)。両側網膜剥離、VSD、ASDを呈し、母親もKS+FEVR(家族性滲出性硝子体網膜症)の診断であった。Xp11.3欠失型KS2では眼科的合併症が特に重篤となりうる。

Liら(2024)は、在胎29週・850 gの超低出生体重児にKS1(KMT2D c.4267C>T)を診断した症例と早産児KS10例のレビューを報告した4)。全例で特徴的顔貌、7/10例で心血管異常が認められた。早産児においても出生早期から診断が可能であることを示した。


  1. Deng X, Jin B, Li S, Zhou H, Shen Q, Li Y. Pulmonary hypertension: a novel phenotypic hypothesis of Kabuki syndrome: a case report and literature review. BMC Pediatrics. 2023;23:429.
  2. Nunez Stosic M, Gomez P. Persistent Hypoglycemia and Hyperinsulinism in a Patient With KMT2D-Associated Kabuki Syndrome. JCEM Case Reports. 2023;1(2):luad032.
  3. Kahlon H, Stanley JR, Lineen C, Lam C. Diazoxide-related Hyperglycemic Hyperosmolar State in a Child With Kabuki Syndrome. JCEM Case Reports. 2024;2(7):luae108.
  4. Li Q, Zheng Y, Guo X, Xue J. Extremely Low Birth Weight Infant (Gestational Age of 29 Weeks) With Kabuki Syndrome Type I: Case Report and Literature Review. Mol Genet Genomic Med. 2024;12:e70025.
  5. Owlia F, Irannezhad M, Bahrololoomi Z, Mosallaeipour S. A certain set of signs that could be compatible with Kabuki syndrome: a case report of an Iranian girl and review of literature. J Med Case Reports. 2026;20:47.
  6. Khodaeian M, Jafarinia E, Bitarafan F, Shafeii S, Almadani N, Daneshmand MA, Garshasbi M. Kabuki Syndrome: Identification of Two Novel Variants in KMT2D and KDM6A. Mol Syndromol. 2021;12:118-126.
  7. Misirligil M, Yildiz Y, Akin O, Odabasi Gunes S, Arslan M, Unay B. A Rare Cause of Hyperinsulinemic Hypoglycemia: Kabuki Syndrome. J Clin Res Pediatr Endocrinol. 2021;13(4):452-455.
  8. Montano C, Britton JF, Harris JR, Kerkhof J, Barnes BT, Lee JA, Sadikovic B, Sobreira N, Fahrner JA. Genome-wide DNA methylation profiling confirms a case of low-level mosaic Kabuki syndrome 1. Am J Med Genet A. 2022;188A:2217-2225.
  9. Benina AR, Melikyan MA. Congenital hyperinsulinism as a part of Kabuki syndrome. Problems of Endocrinology. 2022;68(5):91-96.
  10. Mansoor M, Coussa RG, Strampe MR, Larson SA, Russell JF. Xp11.3 microdeletion causing Norrie disease and X-linked Kabuki syndrome. Am J Ophthalmol Case Reports. 2023;29:101798.

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