眼の所見

ゴールデンハー症候群
ひとめでわかるポイント
Section titled “ひとめでわかるポイント”1. ゴールデンハー症候群とは
Section titled “1. ゴールデンハー症候群とは”ゴールデンハー症候群(Goldenhar syndrome)は、第1・第2鰓弓の発生異常に起因する先天性頭蓋顔面症候群である。別名として、顔面耳介椎体(facio-auriculo-vertebral; FAV)異形成症、片側性頭蓋顔面短小症(hemifacial microsomia)、眼耳椎体(oculoauriculovertebral; OAV)異形成症とも呼ばれる。
1861年にCantonが最初に報告し、1952年にGoldenharが眼・耳・口の三徴を記述した。1963年にGorlinが椎体異常を加えてOAV異形成症と命名し、1978年にSmithがFAVシーケンスと提唱した。
有病率は1:3,500〜1:7,000とされ、男女比は3:2で男性に多い。1) 西オーストラリアの人口ベース研究では15.8/100,000という推計も示されている。3) 症例の85%は片側性で、右側への好発傾向がある。3) 発達遅延・知的障害は5〜15%の患者に認められる。1)
大多数は孤発性だが、常染色体優性の家族性報告もあり、同胞再発率は2〜3%とされる。MSXホメオボックス遺伝子の関与が示唆されている。5)
有病率は1:3,500〜1:7,000と推定されており、希少疾患に分類される。男女比は3:2で男性に多く、85%が片側性である。1)3) 大多数は孤発性であるが、家族性発症も報告されている。
大多数は孤発性であるが、常染色体優性遺伝の家族性症例も報告されており、同胞再発率は2〜3%とされる。兄弟に類似症状を呈した家族例の報告もある。3) 特異的な遺伝子変異は同定されておらず、array CGHなどの染色体検査が補助的に用いられる。
2. 主な症状と臨床所見
Section titled “2. 主な症状と臨床所見”- 視力低下・乱視:輪部デルモイドが角膜を歪ませ、高度乱視(10D程度)と弱視を引き起こす7)
- 難聴:伝音性または感音性。内耳・聴神経の形成異常による場合は重度になりうる6)
- 開口障害:下顎骨・顎関節の形成不全に伴う
耳・顔面の所見
副耳・耳前瘻孔:耳介前方の皮垂・瘻孔。GSの3主徴の一つ。
耳介奇形:無耳症〜軽度奇形まで幅広い。5)
感音性難聴:VIII脳神経無形成・内耳道閉鎖を伴う重度例の報告がある。6)
顔面非対称:片側性の巨口症・下顎枝および下顎顆の形成不全。CBCTで下顎枝高・幅の減少を確認できる。3)
骨格・全身合併症:椎体異常(半椎・蝶形椎・癒合椎)は約60%に頸椎癒合として認められる。5) 後弯側弯症(Cobb角42°の症例報告)から後方脊椎固定術を要した症例も報告されている。5) 心奇形(VSD・Truncus arteriosus・PDA・Fallot四徴症)を伴う重症例では、SpO2が68%まで低下した小児の報告がある。5)
輪部デルモイドは角膜を歪ませ、10D程度の高度乱視を引き起こすことがある。乱視が弱視の原因となるため、早期の外科的切除が推奨される。7) デルモイド切除と層状角膜移植を組み合わせることで、乱視が10Dから6Dへ軽減した症例が報告されている。
3. 原因とリスク要因
Section titled “3. 原因とリスク要因”胚形成のブラストジェネシス期(胎生30〜45日)における神経堤細胞の遊走異常または異常血管供給が、発生障害の主な機序と考えられている。1) 中胚葉または神経堤細胞の遊走異常が第1・第2鰓弓の発生障害をもたらし、眼・耳・顎・椎体の多彩な形態異常が生じる。1)
環境的リスク要因(いずれも資料より):
- 薬剤曝露:サリドマイド、コカイン、レチノイン酸、タモキシフェン
- 母体糖尿病:胎児の発生異常との関連が示唆される3)
- 多胎妊娠・妊娠中の喫煙曝露
- 染色体異常:del(5p)、del(6q)、del(22q)などとの関連
- 近親婚
兄弟に類似症状を呈した家族例の報告は、遺伝的関連の可能性を示唆する。3)
4. 診断と検査方法
Section titled “4. 診断と検査方法”診断は主に臨床的に行われる。以下の最低2項目の存在が診断に必要とされる。5)
- 片側小下顎症
- 眼球上皮皮様嚢胞
- 片側下顎形成不全
- 椎体奇形
画像診断:CBCT(コーンビームCT)で下顎低形成の詳細評価が可能である。3) MRIは脳梁異常・VIII脳神経無形成の評価に有用である。1)6) 産前診断として妊娠11〜15週の超音波検査が行われることもある。
遺伝子検査:GSに特異的な遺伝子検査は確立されていないが、array CGH(染色体マイクロアレイ解析)を検討する。
類似疾患との鑑別ポイントを以下に示す。
| 疾患 | 特徴的所見 | GSとの鑑別点 |
|---|---|---|
| Treacher Collins症候群 | 頬骨・下顎形成不全 | 通常両側性 |
| Townes-Brocks症候群 | 副耳・難聴 | 親指異常・肛門欠損・腎異常を伴う |
| CHARGE症候群 | 半規管異常 | 心奇形・食道閉鎖・脳神経障害が主体 |
| Pierre Robin症候群 | 小下顎・舌根後退 | 軟口蓋裂・気道閉塞が主体 |
5. 標準的な治療法
Section titled “5. 標準的な治療法”多職種連携(眼科・形成外科・口腔外科・耳鼻科・心臓外科・整形外科・言語療法)によるアプローチが必須である。治療は患者の年齢・重症度に応じた段階的プロトコルに従う。
新生児〜2歳
呼吸・摂食・睡眠の評価:気道閉塞・哺乳困難・睡眠時無呼吸の有無を確認する。
心奇形の管理:Truncus arteriosusやPDAなど生命に関わる心奇形は早期手術を行う。5)
眼科評価:輪部デルモイドの有無と弱視リスクを評価し、早期介入を計画する。
2〜8歳
下顎形成不全:重度例では2〜4歳に肋軟骨移植または骨延長を検討する。
外耳奇形の矯正:6〜8歳に外耳奇形の外科的矯正を行う。
輪部デルモイド切除:早期切除により弱視・斜視を予防する。デルモイド切除+層状角膜移植で乱視が10Dから6Dへ軽減し、術後2年でも安定を維持した症例が報告されている。7)
ティーンエイジャー以降:顎変形の外科的矯正を行う。骨格成長が完了した後に最終的な顔面再建を施行するのが原則である。
眼科的管理の詳細
Section titled “眼科的管理の詳細”- 眼瞼コロボーマの再建:硬口蓋粘膜を用いた複合移植による眼瞼後壁再建が選択肢の一つである2)
- 眼瞼共有術(tarsal sharing):遮断弱視リスクがあるため施行時期に注意が必要である
- 神経栄養性角膜炎の管理:防腐剤フリー人工涙液を使用し、必要に応じて一時的瞼板縫合を行う。3ヶ月での治癒が報告されている6)
補聴器が第一選択である。内耳・聴神経の形成異常が高度な場合は人工内耳が適応となるが、両側VIII脳神経無形成例では脳幹インプラントの検討が必要となる。6)
年齢別プロトコルに従い、新生児期から段階的に対応する。新生児期は呼吸・摂食管理と心奇形への対処が優先であり、輪部デルモイドは乱視・弱視リスクが高い場合に小児期早期に切除を検討する。外耳奇形の矯正は6〜8歳、顎変形の最終矯正はティーンエイジャー以降が目安である。
6. 病態生理学・詳細な発症機序
Section titled “6. 病態生理学・詳細な発症機序”第1鰓弓は下顎骨・槌骨・砧骨・咀嚼筋・三叉神経V2/V3領域の発生を担い、第2鰓弓は舌骨体・小角・鐙骨・顔面表情筋・顔面神経の発生を担う。1) これらの鰓弓に由来する中胚葉または神経堤細胞の遊走異常が、眼・耳・顔・顎・脊椎の多彩な形態異常をもたらす。1)
異常血管供給仮説:発達中の耳・顎領域への局所血腫が分化組織を破壊するという機序も提唱されている。
輪部デルモイドの発生機序:眼杯形成過程において外胚葉組織が中胚葉中に取り残されることで、毛嚢・皮脂腺・汗腺などの皮膚付属器を含む皮様腫が輪部に形成される。
脳梁との関連:MRI研究では、GSに合併する脳梁菲薄化は脱髄・軸索消失に基づく二次的変化(グリオーシス)と解釈されており、これが発達遅延・てんかんの一因となりうる。1)
Jayaprakasanら(2023)は、両側眼瞼コロボーマ・輪部デルモイド・耳介皮垂を呈した8歳女児の非典型例を報告した。1) MRIで脳梁後部の菲薄化とcentrum semiovale・後部corona radiataのグリオーシスを確認した。臨床的に発達遅延と痙攣を呈しており、GSにおける脳梁異常の意義が考察されている。
両側性脳神経障害の機序:海綿静脈洞外壁または上眼窩裂部における微細な両側異常が、三叉神経眼枝の障害を引き起こすと推察されている。6) 角膜知覚脱失による神経栄養性角膜炎はこの機序で生じる。6)
7. 最新の研究と今後の展望(研究段階の報告)
Section titled “7. 最新の研究と今後の展望(研究段階の報告)”幹細胞治療:胎児組織移植による輪部デルモイドの「再プログラミング」の試みが報告されており、腫瘤の再増殖停止を目指す研究が行われている。
脳梁異常とGSの関連研究:MRI研究によりグリオーシスに基づく二次的脳梁菲薄化という新しい解釈が提案されており、神経発達への影響を解明するための継続的な研究が進んでいる。1)
全身血管解剖変異の把握:43歳のGS患者が胆石膵炎の手術を受けた際、血管造影で総肝動脈がSMA(上腸間膜動脈)から分岐するという解剖学的変異が発見された。4) GS患者の手術に際しては、多彩な解剖学的バリエーションの存在を念頭に置く必要がある。
8. 参考文献
Section titled “8. 参考文献”- Jayaprakasan SK, Waheed MD, Batool S, et al. Goldenhar Syndrome: An Atypical Presentation With Developmental and Speech Delay. Cureus. 2023;15(3):e36225.
- Bagheri A, Feizi M, Tavakoli M. Tessier number 9 craniofacial cleft associated with Goldenhar syndrome and its surgical management: A report of a rare case. J Curr Ophthalmol. 2023;35:93-5.
- Kunjumon SP, Mathew アカントアメーバ角膜炎, Suma MS, Iqbal MZ. Diagnostic imageology of Goldenhar syndrome: Report of a rare case. Contemp Clin Dent. 2023;14:313-6.
- Borra R, Hamidullah A, Ren T, Bhaskara V. A Curious Case of Multimorbidity in a Patient With Goldenhar Syndrome Presenting With Vomiting. Cureus. 2024;16(10):e72662.
- Varma AR, Meshram RJ, Varma AR, et al. Multicorrection Goldenhar syndrome (facio-auriculo-vertebral dysplasia): a rare follow-up case of 12-year-old female. Pan Afr Med J. 2021;39:96.
- Pandey S, Sati A, Kumar P, Kaushik J. Bilateral cranial nerve involvement with facial asymmetry in a case of Goldenhar syndrome. Med J Armed Forces India. 2022;78:S296-S299.
- Sharma B, Bajoria SK, Breh R, Rana F. Astigmatic reduction after dermoid excision in a child with Goldenhar syndrome. Med J Armed Forces India. 2023;79:109-112.