この疾患の要点
内斜視は片眼が鼻側に偏位する眼位異常であり、乳児内斜視 と調節性内斜視 が代表的な病型である。
乳児内斜視は生後6か月以内発症・30PD以上の大角度が特徴で、発症頻度は1/400〜1/50。
調節性内斜視は内斜視の最多亜型であり、1〜3歳に多く、遠視 (平均+4〜5D)に起因する。
屈折 性調節性内斜視は遠視完全矯正眼鏡のみで正位となるため、まず眼鏡装用を試みる。
急性後天共同性内斜視(AACE)の最大10%に頭蓋内疾患が潜在しMRI検査が必須である。
乳児内斜視の手術は超早期(生後8か月以前)が融像能の獲得に有利である。
内斜視は片眼が鼻側に偏位した眼位ずれの総称である。偏位が恒常性か間欠性か、交代性か片眼性かによってさらに分類される。大きく共同性(注視方向によらず偏位量が一定)と非共同性(注視方向で偏位量が変化)に分けられる。
乳児内斜視 :生後6か月以内発症。30PD以上の大角度内斜視が特徴。発症頻度は1/400〜1/50。DVD(解離性垂直偏位)の高頻度合併、OKN(視運動性眼振 )非対称性、潜伏眼振を伴う。
調節性内斜視 :内斜視の最多亜型。1〜3歳に発症が多い。屈折性・非屈折性・部分調節性の3型に分類される。
急性後天共同性内斜視(AACE) :年長児・成人に多い特殊型。Burian分類で7型に細分される1) 。
潜行性近視 性共同性内斜視(IMCE) :徐々に発症し、近視を伴う。スマートフォン使用との関連が指摘されている4) 。
屈折性調節性内斜視の発症に関わる遠視度数は+2D以上で発症しやすく、平均+4〜5Dである。純粋調節性内斜視の平均遠視度は+5.43D±2.25Dと報告されている。
Q 乳児内斜視と調節性内斜視はどのように区別しますか?
A 乳児内斜視は生後6か月以内の発症と30PD以上の大角度が特徴である。調節性内斜視は遠視完全矯正眼鏡装用で斜視 角が10PD以上減少し残余が10PD未満となれば屈折性と診断できる。1歳未満でも遠視+2D超があれば眼鏡装用試行が鑑別の糸口となる。
複視 :成人・年長児の急性発症例では複視を自覚する。
抑制による無自覚 :小児は通常片眼の抑制を学び、複視を自覚しないことが多い。抑制が弱視 につながりうる。
眼精疲労 ・頭痛 :特に調節性内斜視でみられる。
乳児内斜視
大角度偏位 :30PD以上の内斜視が特徴。
交差固視 :右眼で左視野、左眼で右視野を固視する交差固視が典型的。
合併所見 :DVD(解離性垂直偏位)・OKN非対称・潜伏眼振が高頻度に合併する。
調節性内斜視
屈折性 :遠視完全矯正で斜視角10PD以上減少、残余10PD未満が確定基準。
非屈折性(高AC/A比) :近見>遠見の内斜視角。+3Dレンズ負荷で近見内斜視が改善。遠近差10PD以上で高AC/A比を疑う。
部分調節性 :完全矯正眼鏡下でも10PD以上残存する。
AACE症例報告では8歳女児に50PDの内斜視が認められ、手術後に正位・両眼視を回復した1) 。IMCE症例報告では15歳男性に35PDの内斜視があり、内直筋付着部-角膜 縁間距離が正常より短い(5.2〜5.3mm)ことが確認された4) 。
屈折異常(遠視) :+2D以上の遠視が調節性内斜視の主因。
乳児内斜視の危険因子 :未熟児・水頭症・発達遅滞・斜視家族歴・低出生体重。
AACE誘因 :片眼遮蔽・外傷・発熱・心的ストレス。COVID-19パンデミック中の過剰近業でのAACE誘発も報告されている1) 。
デジタルデバイス使用 :近視性内斜視(IMCE)はスマートフォンの過度使用(6時間/日以上)との関連が示されている4) 。
小児第VI神経麻痺の原因 :特発性・ウイルス感染・外傷・脳幹腫瘍・頭蓋内圧亢進・先天性5) 。小児における発生率は約10万人に1人/年5) 。
その他 :不同視・神経発達障害・脳水腫・家族歴・サリドマイド曝露(受精後20〜36日)。
日常生活における注意点
遠視性内斜視の疑いがあれば、なるべく早い時期(1歳前後から)に眼科を受診してください。
小さなお子さんが眼を細めたり、内側に眼が向いて見えたりする場合は、眼鏡が必要なサインかもしれません。
スマートフォンや近業の長時間継続は控えめにしましょう。
Q スマートフォンの使用で内斜視が起こることがありますか?
A スマートフォンを1日6時間以上使用する過度な近業が、潜行性近視性共同性内斜視(IMCE)や急性後天共同性内斜視(AACE)と関連するとの報告がある4)1) 。過剰な近方凝視が内直筋の短縮を引き起こすという仮説が提唱されている。
完全眼科検査(視力 ・両眼視・立体視 ・眼球運動・斜視角・調節麻痺下屈折検査)を実施する。小児ではアトロピン硫酸塩点眼による調節麻痺が第一選択である。
検査 方法と評価 Hirschberg法 瞳孔 縁=15°、虹彩 上=30°、角膜縁=45°遮閉試験 (順序)遮閉→遮閉除去→交代遮閉の順 プリズム遮閉試験 近見・遠見それぞれで偏位量を定量化
非屈折性調節性の診断 :遠見斜視角<近見斜視角であり、+3Dレンズ負荷で差がなくなれば確定する。
AACE疑い時 :MRIが必須。最大10%に頭蓋内疾患(後頭蓋窩病変が最多)が潜在する1) 。
偽内斜視の除外 :内眼角贅皮・扁平鼻根による外観上の内斜視(日本人の乳幼児に特に多い)。児の鼻根部をつまむと真の斜視でないことがわかりやすく、保護者の理解を得やすい。ただし仮性内斜視と診断した児のなかには真の斜視を生じるリスクが高い例が含まれるため、眼位の変化があれば必ず再診するよう指示する。
屈折性調節性内斜視 :遠視完全矯正眼鏡で正位を達成する。手術は不要。約15%のみが最終的に眼鏡不要となる。眼鏡装用後3か月以内に眼位が安定することが多い。
非屈折性調節性内斜視 :+3.0D加入の二重焦点レンズまたは累進屈折力レンズを処方する。
部分調節性内斜視 :完全矯正眼鏡下でも10PD以上残存すれば手術適応。
斜視弱視は健眼遮閉を診断確定次第に開始する。
乳児内斜視の手術
術式 :両眼内直筋後転術が基本。45PD超では眼齢に応じた後転量を選択する(6か月以前10mm、12か月以前10.5mm、24か月以前11mm、輪部 基準)。
時期 :超早期(生後8か月以前)が融像能・周辺立体視の獲得に有利。2歳までの早期手術でも良好な眼位・両眼視機能を獲得できる。
AACE・IMCE・第VI神経麻痺の手術
AACE :初期は保存的(眼鏡・プリズム・パッチ・ボツリヌス)。6か月以上安定後に手術(片眼後転・短縮術または両眼内直筋後転術)1)
IMCE :両眼内直筋後転5.5mm(Parks式+0.5mm増量)で術後正位、立体視40秒回復4)
小児急性第VI神経麻痺への内直筋注入(4単位)で50PDが1週で20PD、8週で正位に改善した報告がある5) 。発症6週以内の注入が至適タイミングとされ、小児での推奨用量は2.5〜5単位/筋である5) 。
治療における注意点
AACE疑い症例では、手術前に必ずMRIで頭蓋内疾患を除外する。
眼軸長 が短い小眼球(ナノフタルモス )では通常量の後転に対する効果が減弱する(期待矯正量25PDに対し実測12PD)3) 。術前に十分な説明が必要である。
小児の内斜視は術後外斜視 に移行しやすいため、低矯正手術とする傾向がある。良好に治癒しても成長・加齢や環境要因によって変化する可能性があり、長期的な眼位管理が必要である。
屈折性調節性内斜視への早期手術は、眼鏡による矯正効果を過小評価した判断であり推奨されない。
Q 調節性内斜視は眼鏡だけで治りますか?
A 屈折性調節性内斜視は遠視完全矯正眼鏡のみで正位を達成できる。ただし約15%のみが最終的に眼鏡不要になるため、多くの患者は長期にわたる眼鏡装用を要する。部分調節性内斜視では眼鏡だけでは不十分であり、残余偏位に対する手術が必要となる。
Q 乳児内斜視の手術はいつ行うのがよいですか?
A 生後8か月以前の超早期手術が融像能と周辺立体視の獲得に最も有利とされる。2歳までの早期手術でも良好かつ安定した眼位・両眼視機能の獲得が期待できる。手術時期は小児眼科専門医と相談の上、発達状況や全身状態を考慮して決定する。
病型 主なメカニズム 屈折性調節性 遠視→調節増大→輻湊反射→内斜視 非屈折性調節性 高AC/A比→近見での過剰輻湊 乳児内斜視 融像不全・視運動非対称(原因不明) 眼振阻止症候群 乳児眼振抑制のための過剰輻湊
調節性輻湊 :遠視を矯正するための調節が輻湊反射を引き起こし内斜視が生じる。AC/A比(調節性輻湊/調節比)が高いほど近見での内斜視が顕著になる。
乳児内斜視 :原因は未解明。視運動性眼振の非対称性・融像不全を伴うことが多い。
眼振阻止症候群 :乳児眼振を輻湊によって抑制しようとする過剰反応が内斜視を惹起する。ENGでは速度減弱型の緩徐相波形が特徴的である。
IMCEの仮説 :近方凝視の持続による内直筋短縮・付着部前方移動。遠見から徐々に近見へ複視が進行する4) 。外直筋萎縮の病理学的報告もある4) 。
AACE type V :後頭蓋窩病変が関連する内斜視。頭蓋内圧亢進により第VI神経に圧迫が加わる1) 。
Ghobrial & Kuwera(2023)は神経嚢虫症後の両側水平注視麻痺と内斜視を呈した症例に対し、非対称後転・短縮術(recess-resect)を施行し改善を報告した2) 。注視麻痺と外転神経麻痺 の術前鑑別が困難な場合はまずrecess-resect術を推奨している。
Negishiら(2024)は眼軸長15.5mmのナノフタルモスでの内斜視手術を報告した3) 。内直筋6mm後転で期待矯正量25PDに対し実測12PDにとどまり、小眼球における生体力学的特殊性とプーリー効果の影響が示唆された。
デジタルデバイス過剰使用によるAACEおよびIMCEの増加が近年注目されており1)4) 、近業制限の公衆衛生的意義が議論されている。
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Negishi T, Nakao S. Surgery for esotropia in a case of nanophthalmos. Cureus. 2024;16(7):e63728.
Tangtammaruk P, Hieda O. Insidious myopic comitant esotropia in a teenager. Int Med Case Rep J. 2024;17:945-948.
Merticariu CI, Merticariu M, Dragomir MS. Botulinum toxin injection in acute sixth nerve palsy in a 1-year-old child: case report, management strategy, and review of literature. Rom J Ophthalmol. 2025;69(1):22-27.
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