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小児眼科・斜視

輻輳不全

輻輳不全(convergence insufficiency: CI)は、近方の標的に焦点を合わせる際に両眼を内側に寄せる(輻輳させる)能力が低下し、両眼の融像を維持できなくなる症候群である。輻輳近点(near point of convergence: NPC)の後退、輻輳振幅の減少、近方での外斜位(通常10プリズムジオプトリー〔∆〕超)を特徴とする。

ほぼすべての年齢層で発症するが、若年成人で最も一般的である。有病率は研究間で1.7〜33%と幅広く、一般人口における発症率は0.1〜0.2%と推定される。外斜位のある小児の11〜19%にCIが認められる。性別による差はない。成人新規発症斜視の約15.7%をCIが占める。

一般に、CIは自然に改善しにくい。しかし症状の程度は近業の量によって変動する。脳震盪後のCIは経時的に改善する場合がある。

Q 輻輳不全は子供と大人のどちらに多いのか?
A

若年成人で最も一般的であるが、小児から高齢者まで幅広い年齢層に発症する。外斜位のある小児では11〜19%にCIがみられ、成人の新規発症斜視の約15.7%をCIが占める。

CIの自覚症状は近業により悪化する。読書・パソコン・スマートフォンなどの長時間使用で顕著になる。

  • 眼精疲労(asthenopia):最も一般的な訴えである。眼の中や周囲の緊張感を伴う。
  • 複視(diplopia):近方視で交叉性複視を自覚する。複視ではなく「感覚異常」として自覚されることもある。
  • 頭痛:前頭部を中心とした鈍痛。近業後に増悪する。
  • 近方での視界のかすみ:短時間の近業後に生じる。
  • 読書困難:ページ上の文字が動く、読書中に頻繁に場所を見失うなど。
  • 幼児の行動徴候:まぶたをこする、頭を振る、眼瞼裂を狭める、片目を閉じるなどの行動として現れる。

CITTグループが開発したCISS(Convergence Insufficiency Symptom Survey)は、15項目の質問をリッカート尺度で回答し、0(最良)〜60(最悪)のスコアで症状の重症度を定量化する。16点以上が有意とされる。9歳から18歳の小児および成人で信頼性が検証されている。

臨床所見(医師が診察で確認する所見)

Section titled “臨床所見(医師が診察で確認する所見)”
  • 輻輳近点(NPC)の延長:固視標を鼻に向けて近づけ、融像が破綻(外斜視出現)する距離を計測する。鼻根から6cm以上(老視前)または10cm以上(老視)で異常とする。正常値は5〜8cm程度である。完全屈折矯正下で反復測定すると徐々に近点が延長する所見もCIを示唆する。
  • 輻輳振幅の減少:基底外方プリズムを用いて近方の正の融像性輻輳(PFV)を測定する。正常値は近方で38∆、遠方で14∆。近方で15〜20∆未満であればCIを示唆する。
  • 近方での外斜位:遠方よりも近方で大きい(4∆以上の差)外斜位または間欠性外斜視を認める。
  • 低AC/A比:2:1未満。AC/A比の正常値は4±2程度である。
  • 全方向の眼位測定:下方視で外斜位が増大する上斜筋過動や下斜筋過動を除外する。
Q CISSスコアとは何か?
A

CISS(Convergence Insufficiency Symptom Survey)は、15項目のリッカート尺度質問票で、CIの症状の重症度を0〜60点で定量化するツールである。16点以上がCIを疑う閾値とされ、治療効果の評価にも用いられる。

原発性CI

先天的な輻輳・開散運動の不均衡:神経支配の違いにより、近方視に対する輻輳能力が制限される。

融像性輻輳の不全:CIは主に融像性輻輳(両眼の網膜像を一致させるために生じる輻輳)が不完全なために生じる。

後天性CI

疲労・近業過多:長時間のVDT作業(テクノストレス眼症)や近業従事者に生じやすい。

薬物・全身疾患:副交感神経遮断薬、ぶどう膜炎、脳震盪後、パーキンソン病などのCNS疾患が原因となる。

外傷・その他:頭部外傷、基底外方プリズム効果を誘発する眼鏡、脳炎なども原因となりうる。

輻輳は4つの要素で構成される(Maddox分類)。

  • 緊張性輻輳(tonic):刺激がない状態での輻輳角を維持する。
  • 近接性輻輳(proximal):知覚された距離や奥行きにより刺激される。
  • 融像性輻輳(fusional):網膜像の視差からのフィードバックで眼位を調整する。
  • 調節性輻輳(accommodative):調節と結合して誘発される輻輳。

CIでは主に融像性輻輳が不十分となるが、調節性輻輳の低下を伴う場合(調節不全を伴うCI)もある。長時間の不適切な環境での近業が、持続的な調節・輻輳機能の低下をもたらす。

Q スマートフォンやパソコンの長時間使用は輻輳不全の原因になるのか?
A

直接的な因果関係は確定していないが、長時間のVDT作業は輻輳・調節機能の低下を引き起こし、CIの症状を悪化させる要因となる。テクノストレス眼症として認識されており、近業従事者に生じやすい。

CIの診断は自覚症状と以下の臨床検査所見に基づく。包括的な感覚運動検査、屈折状態の評価、散瞳眼底検査を含む精密検査が推奨される。

主な検査法を以下に示す。

検査方法の概要異常値の目安
輻輳近点検査(NPC)固視標を40〜50cmから鼻へ移動≧6cm(老視前)/ ≧10cm(老視)
融像性輻輳検査(PFV)基底外方プリズムで測定近方 <15〜20∆
AC/A比heterophoria法 or gradient法<2:1

指やおもちゃなどの視標を顔の正面40〜50cmの位置から、水平よりやや下方をゆっくりと鼻根部へ向けて移動させる。視標が二重に見え始めるか、いずれかの眼が外転する点(分離点)と鼻根部の距離を計測する。正常値は6〜8cm程度である。検査には集中力を要するため、1回で判定せず、粘り強い声かけをしながら複数回行うのがよい。

完全屈折矯正下で行うことが重要である。heterophoria法では、遠方(5m)と近方(33cm)の斜視角の差から算出する。正常値は4±2程度であり、CIでは低値を示す。

大型弱視鏡、ロータリープリズム、Bagolini線条レンズなどを用いて、調節を一定に保ちながら両眼単一視を維持できる輻輳域を測定する。正常値は−5度〜+15度である。

  • 未矯正の屈折異常遠視や過矯正の近視。屈折矯正により症状が改善する。
  • 調節不全(accommodative insufficiency):調節振幅の減少による近方焦点維持困難。4∆基底内方プリズムは調節不全では文字をぼやけさせるが、CIでは鮮明さを向上させる点で鑑別に有用である。
  • 輻輳麻痺(convergence paralysis):近方固視時のみに生じる急性外斜視と複視。内転と調節は正常。四丘体や動眼神経核の病変に起因し、パリノー症候群に関連することがある。頭蓋内病変を除外するため速やかな神経画像検査を要する。
  • 上斜筋過動:下方視で外斜位を増大させ、CIと誤認される可能性がある。

CIの治療は重症度に応じて段階的に行う。屈折矯正を基盤とし、輻輳訓練、プリズム眼鏡、手術を組み合わせる。

症状のあるCIではまず屈折異常の矯正から開始する。遠視のわずかな低矯正や近視の完全矯正を含む。良好な照明と近業の合間の休憩を推奨する。

輻輳訓練により融像性輻輳を改善する。毎日、短時間でも行うことが重要である。

自宅訓練

ペンシルプッシュアップ:小さな標的に焦点を合わせ、両眼単一視を維持しながら標的を鼻に向けてゆっくり近づける。

輻輳カード:鼻根にカードをかざし、最も遠い点から徐々に近い標的へ視線を移動させる。

ステレオグラム:水平に離れた2つの画像を交差視させ、中央に3番目の融像像を出現させる。

院内訓練

院内ビジョンセラピー:抑制除去や輻輳・調節の正常化を目的に、標的のぼけ・視差・近接性を意図的かつ制御的に操作する。

コンピュータ輻輳訓練(CVS):ランダムドットステレオグラムを用い、必要な輻輳量を漸増させるプログラム。進行状況を監視できる。

Scheimanら(2020)のコクラン系統的レビュー(12件のRCT、1289例)では、小児において自宅補強を伴う院内療法がペンシルプッシュアップ単独やコンピュータ療法と比較してより優れた輻輳能力をもたらすという「確実性の高いエビデンス」が示された。基底内方プリズム読書用眼鏡で治療された小児では有意な改善はみられなかった。成人では基底内方プリズム眼鏡が症状を改善したが、輻輳能力は改善しなかった1)

輻輳訓練で改善しない場合に処方する。近方で快適な両眼単一視を得るために必要な最小限のプリズム量を用いる。両眼に2〜4∆基底内方(計4〜8∆矯正)を、近見用の屈折矯正眼鏡に組み込んで装用テストし、最適なプリズム度数を決定する。近業作業時に常時装用する。

難治性CIや間欠性外斜視を伴うCIに適応となる。

手術の適応:

  • 時間の半分以上で発生する外斜視
  • 外斜視コントロールの悪化、立体視の低下、外斜位の増大
  • 4歳未満の若年患者で急速にコントロールが喪失する場合
  • 持続的な複視

主な術式は、両眼外直筋後転術、両眼内直筋短縮術、単眼外直筋後転・内直筋短縮術などである。難治例にはボツリヌス毒素注射も選択肢となる。

Q 輻輳訓練はどのくらいの期間続ける必要があるか?
A

輻輳訓練の報告されている成功率は70〜80%であり、ほとんどの患者は治療中止後1年が経過しても無症状を維持する。ただし効果の維持には個人差があるため、定期的な経過観察が推奨される。

6. 病態生理学・詳細な発症機序

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CIの正確な疾患メカニズムは完全には解明されていないが、輻輳運動を制御する神経中枢が特定されている。

  • 中脳網様体(midbrain reticular formation):融像性輻輳および調節性輻輳運動中の速度と振幅の制御に関与する。
  • 縫線核間核(nucleus raphe interpositus):速い輻輳運動の制御に関連する。
  • 橋被蓋網様核(nucleus reticularis tegmenti pontis):遅い輻輳運動中に活性化される。

調節障害を基礎として、調節性輻輳と融像性輻輳の双方が不十分となり、十分な輻輳運動ができない状態をいう。輻輳と調節の関係はある程度の幅をもって成り立っているが、不適切な環境での長時間の近業が、この関係を破綻させ持続的な機能低下をもたらす。VDT作業によるテクノストレス眼症がその代表である。

CIはいくつかの神経疾患に関連して発症する。

  • 大脳基底核疾患:パーキンソン病、進行性核上性麻痺(PSP)、ハンチントン舞踏病ではCIの発症率が高い。
  • 背側中脳病変:前蓋・後交連の病変はパリノー症候群を引き起こし、CIを合併しやすい。
  • その他:頭部外傷、重症筋無力症甲状腺眼症動眼神経麻痺、核間眼筋麻痺などに関連する。

7. 最新の研究と今後の展望(研究段階の報告)

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輻輳不全治療試験-注意力および読書試験(CITT-ART)は、症状のあるCIの治療が9〜14歳の小児の読解力を向上させるかを検討したランダム化多施設共同臨床試験である。

参加者は院内輻輳・調節療法群と院内プラセボ療法群にランダム割付された。16週間後のCISSスコアは2群間で有意差がなく、院内輻輳・調節療法は症状のあるCIの小児の読解力改善においてプラセボ療法より有効ではないという結果であった。

この結果は、CIの治療が輻輳能力や症状を改善しても、読解力の向上には直結しない可能性を示唆している。

2005年のCITTに対しては複数の眼科専門医から方法論的限界が指摘されている。院内治療群には他群より有意に長い治療時間が処方されていた(治療用量の不平等)。また「ペンシルプッシュアップ」は調節標を用いた多様な訓練を含む従来の視能訓練を正確に代表するものではないとの批判がある。

CI患者では症状の自然寛解が報告されている。このため治療効果の評価にはプラセボ群を含めることが重要とされている。


  1. Scheiman M, Kulp MT, Cotter SA, et al. Interventions for convergence insufficiency: A network meta-analysis. Cochrane Database Syst Rev. 2020;12:CD006768.

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