コンテンツにスキップ
小児眼科・斜視

輻輳能(輻輳検査)

輻輳能(convergence ability)とは、両眼を内側に寄せて近方の対象物に視線を合わせる能力である。近距離での読書やスマートフォン操作など、日常の近業作業において不可欠な眼球運動機能である。

輻輳能の評価には以下の2つの検査法がある。

  • 輻輳近点(near point of convergence; NPC)検査:最大限の輻輳努力下で視軸が交差する最近点を測定する。
  • 跳躍輻輳(jump convergence)検査:遠方から近方の標的へ素早く視線を移す際の輻輳の質を評価する。

輻輳能の検査はルーチン検査の一部として実施すべきである。輻輳が不十分な状態を輻輳不全(convergence insufficiency; CI)と呼び、5〜6年生における有病率は3.5〜5%と報告されている1)。成人においてもCIは新規発症斜視の15.7%を占め、頻度の高い疾患である1)

輻輳には以下の4種類がある。

  • 緊張性輻輳:解剖学的安静位から生理的安静位へ眼位を調整する輻輳。幼小児期に強い。
  • 調節性輻輳:調節(ピント合わせ)の意図に伴って生じる輻輳。AC/A比で定量される。
  • 融像性輻輳:両眼の網膜像を一致させるために随意的に起こる輻輳。日常の近見で主に使用される。
  • 近接性輻輳:対象物の接近感に対して心因性に生じる輻輳。

輻輳・開散運動は生後3か月頃から発達し始め、ステップ状の視差変化への応答は生後4〜5か月で確認される。

Q 輻輳不全はどのくらいの頻度でみられるか?
A

小児では5〜6年生の3.5〜5%に認められる。成人では新規発症斜視の約15.7%を占め、比較的頻度の高い疾患である1)

輻輳が不十分な場合、読書などの近業作業時に以下の症状が現れる。

  • 眼精疲労:輻輳不全で最も多い訴えである。近業作業を続けるほど増悪する。
  • 頭痛:前頭部を中心とする頭痛を伴うことがある。
  • 複視:近見時に交叉性複視(物が交差して二重に見える)を自覚する。感覚異常として自覚されることもある。
  • 霧視:近見時にぼやけて見える。

VDT(visual display terminal)作業に長時間従事する場合、テクノストレス眼症として輻輳不全の症状が認められることも多い。一方、輻輳不全があっても無症状の場合がある。

臨床所見(医師が診察で確認する所見)

Section titled “臨床所見(医師が診察で確認する所見)”

輻輳障害には輻輳不全・輻輳麻痺・輻輳けいれんの3つの主要病態がある。

輻輳不全

近見眼位:外斜位または間欠性外斜視(遠見より大きい)

融像性輻輳:正の融像性輻輳 <20PD(Sheardの基準不合格)1)

輻輳近点:NPC延長(>6cm)1)

眼球運動:内転は正常

輻輳麻痺

近見眼位外斜視(交叉性複視)

融像性輻輳:輻輳方向の融像域がほとんど測定不能

輻輳近点:輻輳が全くできない

眼球運動:内転は正常(ひき運動で確認)

輻輳けいれん

近見眼位:高度の内斜視

瞳孔:縮瞳を伴う

調節:調節けいれんを合併

眼球運動:単眼ひき運動では制限・縮瞳ともに消失

輻輳不全では、Convergence Insufficiency Symptom Survey(CISS)や Diplopia Questionnaire を用いて症状を定量的に評価できる1)

Q 輻輳に問題があっても症状がないことはあるか?
A

ある。輻輳不全があっても無症状の患者は存在する。このため検査ではNPCの客観的な測定が重要であり、症状の有無のみでは輻輳障害を除外できない。

多くの成人では明確な先行原因を特定できない1)。以下のリスク因子が報告されている。

  • 脳振盪の既往:脳振盪後に輻輳不全を発症することがある1)
  • パーキンソン病:中枢神経系疾患として輻輳不全との関連が指摘されている1)
  • VDT作業:長時間のパソコン・スマートフォン使用により、調節性輻輳と融像性輻輳の持続的な機能低下をきたす。テクノストレス眼症の一因である。
  • 調節不全の合併:不適切な環境での長時間近業により、調節機能と輻輳機能がともに低下する状態がある。

輻輳麻痺は中脳背側レベルの障害で生じる。主な原因は以下の通りである。

  • 中脳水道近傍の腫瘍(特に松果体腫瘍)
  • 脱髄疾患多発性硬化症など)
  • 炎症性疾患
  • 血管病変(視床出血など)
  • 外傷

発作性に両眼が内転し持続する状態である。

  • 心因性(転換性障害:大多数を占める。
  • 器質的原因:中脳背側の被刺激性病変によるものはまれである。

輻輳能の標準的な検査であり、特別な器具を必要とせず実施が容易である。

固視標(ペン・鉛筆、または小児には興味を引くキャラクター付きの小玩具)と定規を用いる。専用の輻輳・調節検査用定規も存在する。屈折異常がある場合は適切な矯正下で実施する。

  1. 患者を座らせ、頭部の正中矢状面上約50cmに固視標を提示する
  2. 固視標を正中矢状面上で鼻に向かってゆっくりと移動させる(速度の目安:10秒間で約40cm)
  3. 検者は両眼を観察する(片眼が固視を外しても複視を自覚しない患者がいるため)
  4. 複視を自覚した点、または片眼が外転した点を記録する(=NPC)
  5. 固視標を遠ざけ、両眼で再固視した点を記録する(=回復点; CRP
  6. 複数回実施して再現性を確認する

NPC と CRP を併記する(例:NPC 7cm、CRP 12cm)。

主な基準値を以下に示す。

項目正常値異常値
NPC5〜10cm>10cm(輻輳能低下)
CRP約15cm
幼児のNPC鼻根部まで可能(to nose)
輻輳過多<5cm

輻輳不全が疑われる患者では、検査を反復すると NPC が徐々に延長する特徴的な所見がみられる。

典型的な近距離作業時の状況により近い検査である。

ドットカードまたはブロックストリングを使用する。カードは20cm以上の長さが必要で、中央線上に1〜2cm間隔で黒い点が配置されている。高度の屈折異常がある場合は矯正下で実施する。

  1. カードを鼻の高さに配置する
  2. 最も遠い点を固視させ、「線は何本見えるか」「固視点で交差しているか」を質問する
  3. 固視できていれば、より近い点へ順次移動する
  4. 2本の平行線に見えるか、1本しか見えなくなった(抑制)点で終了する
  5. 交差を確認できる最近点が NPC となる

「輻輳 8cm(ブロックストリング使用)」のように記録する。輻輳能が良好な場合、NPC検査と跳躍輻輳検査で同様の結果が得られる。

  • 客観的な眼の固視観察をせず、患者の主観的申告のみに頼る
  • 検査を1回のみで終了する
  • 固視標の移動速度が不適切(速すぎると過大評価、遅すぎると小児の集中力低下)
  • 患者の協力が得られない状態で検査を続ける(小児では毎回異なる物体を使用して興味を維持する)
  • 輻輳研究の標準的な視線方向(軽度下方視)で実施していない

大型弱視鏡、ロータリープリズム、Bagolini線条レンズを用いて測定する。正常値は-5度〜+15度である。blur point(ぼけ始め)と break point(複視)のどちらで測定したかを記録する。

調節性輻輳(AC)と調節(A)の比率であり、単位調節刺激に対する輻輳反応を定量する。正常値は4±2(PD/D)である。完全屈折矯正下で検査を行うことが重要である。

測定法は以下の2つがある。

  • Heterophoria法:遠方(5m)と近方(1/3m)の斜視角の差と瞳孔間距離から算出する
  • Gradient法:球面レンズの負荷による斜視角の変化量から算出する

輻輳障害の鑑別において以下の点が重要である。

  • 輻輳不全 vs 輻輳麻痺:輻輳不全は輻輳がある程度可能だがNPCが延長する状態。輻輳麻痺は輻輳が全くできない状態である。
  • 輻輳けいれん vs 両側外転神経麻痺:輻輳けいれんでは単眼ひき運動で運動制限と縮瞳が消失する。外転神経麻痺では左右差がある。
  • 開散麻痺:遠見で内斜視を呈し、全方向で斜視角が一定である。近見では複視がない。
Q なぜ輻輳検査は複数回行う必要があるのか?
A

輻輳不全の患者では、検査を反復すると輻輳近点が徐々に延長する(遠くなる)特徴がある。1回の検査では見逃す可能性があり、再現性の確認と疲労効果の評価のためにも複数回の実施が必須である。

輻輳障害の治療は、その病態に応じて異なる。

日本の教科書では、輻輳訓練とプリズム眼鏡が標準治療として記載されている。

輻輳訓練

方法:毎日短時間でも輻輳訓練を行う

機序:運動性(融像性)輻輳が改善する

予後:比較的良好

プリズム眼鏡

適応:訓練で軽快しない場合

処方:両眼に2〜4Δ基底内方(合計4〜8Δ矯正)

方法:近見用に屈折矯正した眼鏡で装用テストを行い、最適な度数を決定する

手術療法

適応:顕性の遠見偏位があり、プリズム眼鏡で不十分な場合1)

術式:外直筋後転術±内直筋短縮術1)

注意:術後遠見複視のリスクを説明する1)

小児においては、オフィスベースの輻輳訓練がホームベースの訓練より有効であり、コンプライアンスと参加状況を管理できる利点がある(エビデンスレベル I+, Good, Strong)1)。若年成人(19〜30歳)ではオフィスベース訓練は正の融像性輻輳の改善でホームベースより優れていたが、NPC と症状の改善には差がなかった1)。一般に成人では訓練結果が小児より一貫しない1)

輻輳不全の自然経過として、一般に自然改善は期待できない1)。ただし脳振盪後の輻輳不全は時間経過とともに改善する場合がある1)

  • 原疾患の治療:中脳背側の腫瘍・血管病変などの原因疾患の治療が最優先される。
  • プリズム眼鏡:近見用に基底内方のプリズム眼鏡を処方する。原疾患の改善後もプリズム眼鏡の長期装用が必要となる場合がある。
  • 心因性の場合:心理的な不安の除去に努める。片眼帯がけいれんの除去に有効なことがある。
  • 持続する場合:調節麻痺薬の点眼を行う。
  • 予後:ほとんどの症例で自然軽快する。
Q 輻輳訓練はどのように行うか?
A

ペン先などの固視標を鼻先に近づけ、複視が生じるまで輻輳させる練習を毎日短時間でも繰り返す。小児では自宅訓練よりも眼科で行うオフィスベースの訓練が有効とされる1)。訓練で改善しない場合はプリズム眼鏡を検討する。

6. 病態生理学・詳細な発症機序

Section titled “6. 病態生理学・詳細な発症機序”

輻輳は以下の4つの成分から構成される。

種類機序特徴
緊張性輻輳解剖学的安静位→生理的安静位への調整幼小児期に強い
調節性輻輳調節意図に伴い発生AC/A比で定量
融像性輻輳両眼像一致のための随意的運動日常の近見で主力
近接性輻輳接近感に対する心因性反応感覚的要素

輻輳の中枢は中脳背側レベルに位置する。この領域の障害(Parinaud症候群、中脳水道症候群)では輻輳麻痺が生じる。輻輳後退眼振は上方視で誘発され、視蓋前域の障害に特異的な所見である。

輻輳不全の本態は融像性輻輳の不完全である。輻輳と調節の関係は厳密な比例関係ではなく、ある程度の幅をもって成り立っている。この相互関係は、不適切な環境での長時間近業によって破綻し、持続的な調節・輻輳機能の低下をきたしうる。

調節不全を伴う輻輳不全では、調節性輻輳と融像性輻輳がともに低下し、近業作業を持続すると近見眼位が外斜視となる。VDT作業によるテクノストレス眼症はその代表的な病態である。

  1. American Academy of Ophthalmology. Adult Strabismus Preferred Practice Pattern. Ophthalmology. 2019.

記事の全文をコピーして、お好みのAIに貼り付けて質問できます