先天性嚢胞眼
一次眼胞の陥入障害:2〜7mm段階で発生。
表面外胚葉由来構造の欠如:角膜・水晶体など表面外胚葉由来の要素を欠く。
嚢胞壁:神経膠組織で裏打ちされる。

先天性嚢胞眼(congenital cystic eye; CCE)は、眼球の代わりに眼窩内に嚢胞が存在する極めて稀な先天性眼奇形である。胚発生2〜7mm段階(妊娠第4週頃)における一次眼胞の陥入の完全または部分的な失敗が原因とされる。
1906年にTaylorとCollinsが最初の症例を報告した。1939年にIda Mannが臨床像を詳細に記述し、「嚢胞を伴う無眼球症」の概念を確立した。ICD-10ではQ11.0に分類される。
眼窩嚢胞性病変は非甲状腺性眼窩病変の10〜30%を占めるが、CCEはその中で最も稀である。1966〜2022年の英語文献でわずか53例が報告されているにすぎない。通常は片側性であるが、両側性の報告もある。
CCEは神経上皮で裏打ちされた眼窩内嚢胞であり、水晶体・毛様体・視神経を通常形成しない。ただし眼内組織の分化度には変異があり、不完全ながら一部の眼構造が認められる症例も報告されている1)。
1966〜2022年の英語文献でわずか53例の報告にとどまる極めて稀な疾患である。眼窩嚢胞性病変の中でも最も頻度が低い。
CCEの臨床像は発見時期によって異なる。
CCEの明確なリスク要因は特定されていない。遺伝形式・原因遺伝子はいずれも不明である。
近縁疾患である小眼球症・無眼球症では、SOX2、OTX2、PAX6、RAXなど多数の原因遺伝子が同定されている。環境要因としては風疹、トキソプラズマ、サイトメガロウイルス、サリドマイド、アルコール、放射線などが小眼球症のリスクとして知られるが、CCEに特異的なリスク因子としては確立されていない。
CCEの診断は3段階で進められる。
眼および全身の身体診察が第一歩となる。眼球の欠如、眼窩内嚢胞性腫瘤の触知、眼瞼異常、全身合併奇形の有無を確認する。
確定診断には組織病理が必須である。
先天性嚢胞眼
一次眼胞の陥入障害:2〜7mm段階で発生。
表面外胚葉由来構造の欠如:角膜・水晶体など表面外胚葉由来の要素を欠く。
嚢胞壁:神経膠組織で裏打ちされる。
嚢胞を伴う小眼球症
胎生裂閉鎖不全:7〜14mm段階で発生。
小眼球の存在:不完全ながら眼球構造が存在する。
嚢胞壁:神経網膜組織を含むことがある。
その他の鑑別疾患として、上皮嚢胞、眼窩嚢胞性テラトーマ、異所性脳組織、脳髄膜瘤、視神経髄膜瘤、リンパ管腫が挙げられる。
小眼球症の評価には眼軸長・角膜径・瞼裂幅の測定、超音波Aモード・Bモード、光学的眼軸長測定器が用いられる。
CCEでは角膜・水晶体など表面外胚葉由来の構造が完全に欠如する点が最大の鑑別点である。嚢胞を伴う小眼球症では不完全ながら眼球構造が存在する。確定診断には組織病理学的評価が必須である。
CCEの治療は外科的介入が中心であり、薬物療法は長期管理において役割を持たない。
段階的な外科的アプローチが標準である。
嚢胞摘出
第一段階:嚢胞の完全摘出を行う。眼瞼は温存する。
術前評価:脳脊髄液漏を防ぐため、髄膜瘤のスクリーニングを術前に行う。
インプラント挿入
第二段階:球状シリコン眼窩インプラントまたはバイオセラミック・インプラントを挿入する。
眼窩容積の維持:顔面対称性の確保に寄与する。
義眼装着
第三段階:眼窩コンフォーマーを経て、最終的に義眼を装着する。
低年齢での摘出:長期義眼前に眼窩拡張器の挿入が有益である。
重度の小眼球症で左右差がある場合には、結膜拡張器やコンタクト義眼を用いて眼窩の発育を促すことがある。3歳以降は装着が困難になるため、早期からの介入が望ましい。
眼窩発達の大部分は2歳までに完了する。無症状の嚢胞は眼窩骨の拡大を促し、顔面対称性の維持に寄与するため、2歳まで温存する選択肢もある。嚢胞の増大や合併症がなければ経過観察が許容される。
眼の発生は、眼領域転写因子(eye field transcription factors; EFTFs)の協調的な発現により制御される。Pax6、Rax、Six3、Lhx2が眼領域の細胞で発現し、眼の形態形成を主導する。
発生の分子機構は以下のように整理される。
CCEはこの一次眼胞の陥入が完全または部分的に失敗した結果生じる。障害は胚発生2〜7mm段階(妊娠第4週頃)に起こる。
嚢胞のサイズは眼柄の開存度と関連する。眼柄が開存していれば嚢胞内の液体が排出されるため小さな嚢胞にとどまるが、閉鎖していれば液体が貯留し大きな嚢胞を形成する。また、陥入障害後も個々の眼内組織の発達が部分的に継続しうることが示されており、組織分化度の変異はこの現象で説明される1)。
組織病理で炎症細胞が認められることから、炎症が介在する病因も仮説として提唱されているが、詳細な機序は未解明である。CCEに特異的な遺伝子変異は現時点で同定されていない。
従来、CCEは眼内組織をほとんど含まない嚢胞と定義されてきた。しかし近年、嚢胞壁内に水晶体や毛様体の部分的な分化を認める症例が蓄積されており、CCEの定義を拡大すべきかが議論されている1)。
Sanoら(2025)は馬における両側性CCEの症例で、嚢胞壁内に神経上皮の裏打ちと不完全な水晶体・毛様体・視神経の形成を報告した1)。眼内組織の分化度に変異があることは、一次眼胞の陥入障害後も個々の組織の発達が継続しうることを示唆している。
CCEの遺伝的原因は依然として不明である。近縁疾患である小眼球症・無眼球症ではSOX2、OTX2、PAX6、RAXなどの原因遺伝子が同定されており、これらとの関連性は今後の研究課題である。次世代シークエンシングの普及により、CCE特異的な遺伝子変異の同定が期待される。