MGJWS
三叉神経刺激による瞼挙上:微笑む・噛む・吸う・口を開けるなどの動作で同側上眼瞼が一過性に挙上する。
発見契機:授乳時に初めて気づかれることが多い。
片側性または両側性:片側性が多い。
弱視の併存:30〜60%に治療を要する弱視が認められる。

先天性脳神経異常支配症候群(congenital cranial dysinnervation disorders; CCDDs)は、外眼筋への異常支配(dysinnervation)により麻痺性斜視を呈する先天性かつ非進行性の疾患群である。1879年にHeukが先天性眼球運動異常の一群を初めて特定し、2002年に欧州神経筋センター(European Neuromuscular Centre)が「CCDD」の名称を制定した。
CCDDsは侵される脳神経に基づいて分類され、孤立性の眼球運動障害として、または遺伝子変異に応じて他の神経・非神経学的特徴を伴う症候群の一部として発症する1)。含まれる主な疾患は以下の通りである。
各疾患は独自の共同運動パターンをもち、特徴的な臨床像を呈する。
マーカスガン下顎瞬目現象、メビウス症候群、デュアン症候群、先天性外眼筋線維化症(CFEOM)などが含まれる。デュアン症候群が最も頻度が高く、約1,000人に1人に認められる1)。
CCDDsは先天性のため、患者自身が異常を自覚することは少ない。家族や医療従事者により発見されることが多い。
疾患ごとに特徴的な臨床像を呈する。
MGJWS
三叉神経刺激による瞼挙上:微笑む・噛む・吸う・口を開けるなどの動作で同側上眼瞼が一過性に挙上する。
発見契機:授乳時に初めて気づかれることが多い。
片側性または両側性:片側性が多い。
弱視の併存:30〜60%に治療を要する弱視が認められる。
メビウス症候群
外転・顔面神経障害:外転神経(CN VI)と顔面神経(CN VII)が最も多く侵される。
顔面の垂れ下がり:側方注視制限に加え、額・眉を含む顔面の表情筋麻痺を認める。
垂直眼球運動は保持:水平方向の運動制限が主体である1)。
随伴異常:ポーランド異常、四肢異常、発達遅滞、嚥下障害を伴うことがある。
DRS
外転制限と眼球後退:内転時の眼球後退・瞼裂狭小が共通所見である。
I型(最多):外転制限が主体。II型は内転制限、III型は内転・外転両方の制限を示す。
片眼性が多い:80%以上が片眼性で、左眼に多い。
代償性頭位:頭位回旋をとることが多い1)。
CFEOM
両側性眼筋麻痺:眼瞼下垂を伴う/伴わない非進行性の両側性眼球運動障害である。
垂直注視障害:垂直方向の障害が多く、水平方向の障害も様々な程度で認められる。
代償的顎挙上:視軸確保のための異常頭位をとる。
MRI所見:上直筋・上眼瞼挙筋の著明な低形成、眼窩内運動神経の低形成と走行異常1)。
DRSでは動眼神経下枝の外直筋への迷入により内外直筋が同時収縮し、眼球後退が生じる。MRIではCN6の低形成・欠損、CN3による外直筋支配が確認されている1)。
CCDDsの病因は、脳神経の発達過程における2大メカニズムに大別される1)。
神経細胞特定異常
PHOX2A:ホモ接合体喪失変異 → CFEOM2(CN3, CN4と運動核の先天性欠損)
HOXA1:ホモ接合体喪失変異 → 両側DRS+感音性難聴+顔面神経麻弱+中枢性低換気+血管奇形+知的障害
SALL4:ハプロ不全 → デュアン橈骨列症候群(DRS+上肢奇形、常染色体優性)
MAFB:ヘテロ接合体喪失変異 → 孤立性DRS。ドミナントネガティブ変異 → DRS+聴力障害
軸索成長・誘導異常
KIF21A:ヘテロ接合体ミスセンス変異 → CFEOM1(キネシン-4ファミリー運動タンパク)
TUBB3:ミスセンス変異 → CFEOM3(神経特異的β-チューブリン)
CHN1:ヘテロ接合体変異 → DRS(α2-キマエリン)。両側DRSが多い
ROBO3:ホモ接合体変異 → HGPPS(水平注視麻痺+進行性側弯症)。交連軸索の正中交差を阻害
遺伝形式は大多数が常染色体遺伝だが、孤発性もある。
その他の関連遺伝子として、TUBB2B、ECEL-1、ACKR3、COL25A1、TUBB6、CDH2(N-cadherin)が様々なCCDD表現型に関与する1)。
常染色体遺伝が多いが孤発例も多い。デュアン症候群は90%が孤発性である。メビウス症候群では子宮内血管障害の関与も示唆されている。
新生児脳卒中や腫瘍など重篤な原因の除外が先決である。CCDDsの診断は、共同運動パターン・眼球後退・瞼裂狭小などの特徴的な臨床所見に基づく。
CCDD表現型に応じた原因遺伝子のパネル検査を行う。
主な鑑別診断を以下に示す。
| 鑑別疾患 | 鑑別のポイント |
|---|---|
| 新生児脳卒中 | 急性発症、画像所見 |
| CHARGE症候群 | 多発奇形の合併 |
| 先天性脳神経麻痺 | 進行性の有無 |
| 新生児腫瘍 | 画像所見、進行性 |
全CCDDsに共通する管理原則は、弱視の早期発見と関連臨床症状の矯正である。
全CCDDsで弱視は重要な合併症である。マーカスガン下顎瞬目現象では30〜60%に治療を要する弱視が認められる。眼位異常や眼瞼下垂に伴う視覚遮断が弱視の原因となるため、早期発見と屈折矯正が鍵となる。
CCDDsの本態は、発達初期における外眼筋への異常支配(dysinnervation)である。原因遺伝子の同定により、頭蓋運動ニューロンの不適切な発達と、未支配筋の二次的線維化が病態の中心であることが明らかとなった1)。
脳幹パターニングに必要な転写因子の機能喪失変異により、特定の運動ニューロンが形成されない1)。
運動ニューロンは形成されるが、軸索が標的筋へ正しく到達できない1)。
原因遺伝子と疾患表現型の対応を以下に示す。
| 遺伝子 | 表現型 |
|---|---|
| KIF21A | CFEOM1 |
| TUBB3 / TUBB2B | CFEOM3 |
| PHOX2A | CFEOM2 |
| CHN1 | DRS(両側性多い) |
| ROBO3 | HGPPS |
| COL25A1 | 先天眼瞼下垂/DRS |
1つの神経が欠損すると、その正常標的筋が他の運動ニューロンを誘引する。CN3の完全な走行異常時にCN6がCN3の正常標的筋に投射する例も報告されている1)。
CFEOM1のKIF21A変異例の剖検では、CN3上枝と運動ニューロンの欠損が確認されている1)。また、COL25A1のKOマウスでは運動軸索束が標的筋に到達するが筋束内への伸展に失敗する1)。
当初は筋原性疾患と考えられていたが、KIF21AやTUBB3などの原因遺伝子の同定により、一次性の神経疾患であることが判明した1)。外眼筋の線維化は神経支配欠如に伴う二次的変化である。
軸索を標的へ導くシグナルについてはまだ不明な点が多く、以下の研究が進められている。
CDH2(N-cadherin)変異による神経発達症候群が報告されている。知的障害、脳梁欠損/低形成、DRSを含む多彩な表現型を呈する1)。
CN3の走行にはCXCR4/CXCL12シグナリングが関与し、ACKR3(CXCR7、CXCR4のスカベンジャー受容体)の喪失により眼窩内のCN3走行異常が生じることが報告されている1)。
CN3軸索の発達タイミングには吻尾方向の差異がある。吻側サブポピュレーションは先に生まれて下枝を形成し、尾側は後に生まれて上枝を形成し正中交差する。尾側サブポピュレーションがCCDD原因変異に対してより感受性が高いことが示されている1)。
外眼筋を欠損させたモデルマウスの研究では、終末枝まで適切な軸索の方向性が見られた。これにより誘導は間葉系シグナル・軸索間相互作用・細胞自律的プロセスによることが示唆されたが、終末枝形成には筋肉由来シグナルが重要であることも明らかになった。