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小児眼科・斜視

先天性脳神経異常支配症候群

1. 先天性脳神経異常支配症候群とは

Section titled “1. 先天性脳神経異常支配症候群とは”

先天性脳神経異常支配症候群(congenital cranial dysinnervation disorders; CCDDs)は、外眼筋への異常支配(dysinnervation)により麻痺性斜視を呈する先天性かつ非進行性の疾患群である。1879年にHeukが先天性眼球運動異常の一群を初めて特定し、2002年に欧州神経筋センター(European Neuromuscular Centre)が「CCDD」の名称を制定した。

CCDDsは侵される脳神経に基づいて分類され、孤立性の眼球運動障害として、または遺伝子変異に応じて他の神経・非神経学的特徴を伴う症候群の一部として発症する1)。含まれる主な疾患は以下の通りである。

  • マーカスガン下顎瞬目現象(MGJWS)三叉神経と動眼神経の異常連絡による瞬目現象
  • メビウス症候群:外転神経・顔面神経を中心とした多発脳神経麻痺
  • デュアン後退症候群(DRS):最も頻度が高く、約1,000人に1人1)
  • 先天性外眼筋線維化症(CFEOM):両側性の眼筋麻痺と眼瞼下垂

各疾患は独自の共同運動パターンをもち、特徴的な臨床像を呈する。

Q CCDDsにはどのような疾患が含まれるか?
A

マーカスガン下顎瞬目現象、メビウス症候群、デュアン症候群、先天性外眼筋線維化症(CFEOM)などが含まれる。デュアン症候群が最も頻度が高く、約1,000人に1人に認められる1)

CCDDsは先天性のため、患者自身が異常を自覚することは少ない。家族や医療従事者により発見されることが多い。

  • 眼球運動制限:片眼または両眼の特定方向への運動制限
  • 眼瞼下垂:CFEOMで顕著。視軸を確保するために代償姿勢をとる
  • 異常頭位:顎挙上(CFEOM)や顔回し(DRS)などの代償的頭位
  • 弱視に起因する視力低下:眼位異常や眼瞼下垂に伴い発症する

疾患ごとに特徴的な臨床像を呈する。

MGJWS

三叉神経刺激による瞼挙上:微笑む・噛む・吸う・口を開けるなどの動作で同側上眼瞼が一過性に挙上する。

発見契機:授乳時に初めて気づかれることが多い。

片側性または両側性:片側性が多い。

弱視の併存:30〜60%に治療を要する弱視が認められる。

メビウス症候群

外転・顔面神経障害:外転神経(CN VI)と顔面神経(CN VII)が最も多く侵される。

顔面の垂れ下がり:側方注視制限に加え、額・眉を含む顔面の表情筋麻痺を認める。

垂直眼球運動は保持:水平方向の運動制限が主体である1)

随伴異常:ポーランド異常、四肢異常、発達遅滞、嚥下障害を伴うことがある。

DRS

外転制限と眼球後退:内転時の眼球後退・瞼裂狭小が共通所見である。

I型(最多):外転制限が主体。II型は内転制限、III型は内転・外転両方の制限を示す。

片眼性が多い:80%以上が片眼性で、左眼に多い。

代償性頭位:頭位回旋をとることが多い1)

CFEOM

両側性眼筋麻痺:眼瞼下垂を伴う/伴わない非進行性の両側性眼球運動障害である。

垂直注視障害:垂直方向の障害が多く、水平方向の障害も様々な程度で認められる。

代償的顎挙上:視軸確保のための異常頭位をとる。

MRI所見:上直筋・上眼瞼挙筋の著明な低形成、眼窩内運動神経の低形成と走行異常1)

DRSでは動眼神経下枝の外直筋への迷入により内外直筋が同時収縮し、眼球後退が生じる。MRIではCN6の低形成・欠損、CN3による外直筋支配が確認されている1)

CCDDsの病因は、脳神経の発達過程における2大メカニズムに大別される1)

神経細胞特定異常

PHOX2A:ホモ接合体喪失変異 → CFEOM2(CN3, CN4と運動核の先天性欠損)

HOXA1:ホモ接合体喪失変異 → 両側DRS+感音性難聴+顔面神経麻弱+中枢性低換気+血管奇形+知的障害

SALL4:ハプロ不全 → デュアン橈骨列症候群(DRS+上肢奇形、常染色体優性)

MAFB:ヘテロ接合体喪失変異 → 孤立性DRS。ドミナントネガティブ変異 → DRS+聴力障害

軸索成長・誘導異常

KIF21A:ヘテロ接合体ミスセンス変異 → CFEOM1(キネシン-4ファミリー運動タンパク)

TUBB3:ミスセンス変異 → CFEOM3(神経特異的β-チューブリン)

CHN1:ヘテロ接合体変異 → DRS(α2-キマエリン)。両側DRSが多い

ROBO3:ホモ接合体変異 → HGPPS(水平注視麻痺+進行性側弯症)。交連軸索の正中交差を阻害

遺伝形式は大多数が常染色体遺伝だが、孤発性もある。

  • DRS:最大90%が孤発性、残り10%が常染色体優性
  • メビウス症候群:ほとんどが孤発性。子宮内血管障害(コカイン・ミソプロストール使用)が病因に関与する可能性が指摘されている
  • CFEOM:当初は筋原性疾患と考えられていたが、現在は神経疾患で筋線維化は二次的と判明している1)

その他の関連遺伝子として、TUBB2B、ECEL-1、ACKR3、COL25A1、TUBB6、CDH2(N-cadherin)が様々なCCDD表現型に関与する1)

Q CCDDsの原因は遺伝子変異だけか?
A

常染色体遺伝が多いが孤発例も多い。デュアン症候群は90%が孤発性である。メビウス症候群では子宮内血管障害の関与も示唆されている。

新生児脳卒中や腫瘍など重篤な原因の除外が先決である。CCDDsの診断は、共同運動パターン・眼球後退・瞼裂狭小などの特徴的な臨床所見に基づく。

  • 共同運動パターンの評価:各疾患に特徴的な異常連動を確認する
  • 眼球運動検査:各方向への運動制限の範囲と程度を評価する
  • 検影法(retinoscopy):不同視の評価に用いる
  • MRI:DRSではCN6の低形成・欠損、CN3による外直筋への異常支配を確認できる。CFEOM1では上直筋・上眼瞼挙筋の低形成と運動神経の走行異常が報告されている1)
  • DRSの眼球牽引試験:外眼筋自体の拘縮性変化を確認する

CCDD表現型に応じた原因遺伝子のパネル検査を行う。

主な鑑別診断を以下に示す。

鑑別疾患鑑別のポイント
新生児脳卒中急性発症、画像所見
CHARGE症候群多発奇形の合併
先天性脳神経麻痺進行性の有無
新生児腫瘍画像所見、進行性

全CCDDsに共通する管理原則は、弱視の早期発見と関連臨床症状の矯正である。

マーカスガン下顎瞬目現象(MGJWS)

Section titled “マーカスガン下顎瞬目現象(MGJWS)”
  • 視軸遮断があれば外科的矯正を検討する。両側性前頭筋吊り上げ術が最適な場合がある
  • 30〜60%で弱視治療が必要である
  • 不同視矯正のため早期に検影法を施行する
  • 理学療法・言語療法による早期リハビリテーションが中心となる
  • 弱視の素因因子(先天性眼瞼下垂、斜視)を早期に特定する
  • 斜視手術・眼瞼下垂矯正の必要性を個別に判断する
  • 異常頭位(AHP)の治療が中心である
  • 斜視手術は眼瞼下垂矯正前に行う
  • 露出性角膜症・ベル現象消失への懸念から眼瞼下垂は低矯正を目指す
  • 拘束的性質のため手術結果の予測が困難である
Q CCDDsにおける弱視管理はなぜ重要か?
A

全CCDDsで弱視は重要な合併症である。マーカスガン下顎瞬目現象では30〜60%に治療を要する弱視が認められる。眼位異常や眼瞼下垂に伴う視覚遮断が弱視の原因となるため、早期発見と屈折矯正が鍵となる。

6. 病態生理学・詳細な発症機序

Section titled “6. 病態生理学・詳細な発症機序”

CCDDsの本態は、発達初期における外眼筋への異常支配(dysinnervation)である。原因遺伝子の同定により、頭蓋運動ニューロンの不適切な発達と、未支配筋の二次的線維化が病態の中心であることが明らかとなった1)

神経細胞特定異常(neuronal specification defect)

Section titled “神経細胞特定異常(neuronal specification defect)”

脳幹パターニングに必要な転写因子の機能喪失変異により、特定の運動ニューロンが形成されない1)

  • PHOX2A:中脳-後脳接合部での運動ニューロン特定に必須の転写因子である
  • HOXA1:後脳パターニングに必須である
  • SALL4:胚性幹細胞の維持に必要であり、完全喪失は胎生致死となる
  • MAFB:菱脳節5-6に発現する塩基性ロイシンジッパー転写因子である。発達中の眼球運動ニューロンには発現しないため、CN3の外直筋への異常分岐はCN6支配欠如の二次的結果と考えられる

軸索成長・誘導異常(axon growth/guidance defect)

Section titled “軸索成長・誘導異常(axon growth/guidance defect)”

運動ニューロンは形成されるが、軸索が標的筋へ正しく到達できない1)

  • KIF21A:キネシン-4ファミリーのモータータンパク質。微小管に沿った分子カーゴの順行性輸送を担う。Kank1(アクチン重合調節因子)と相互作用する
  • TUBB3:神経特異的β-チューブリンモノマー(微小管構成要素)。変異は微小管動態・キネシン相互作用・軸索誘導を障害する
  • α2-キマエリン(CHN1):Rac-GAPタンパク質。セマフォリン/プレキシンシグナリングの下流で機能し、変異はRacGAP活性を亢進させる
  • ROBO3:Roundaboutファミリーの Slitレセプター。交連軸索の正中交差に必要であり、軸索は最初正中線に誘引されるが交差後は反発に切り替わる

原因遺伝子と疾患表現型の対応を以下に示す。

遺伝子表現型
KIF21ACFEOM1
TUBB3 / TUBB2BCFEOM3
PHOX2ACFEOM2
CHN1DRS(両側性多い)
ROBO3HGPPS
COL25A1先天眼瞼下垂/DRS

1つの神経が欠損すると、その正常標的筋が他の運動ニューロンを誘引する。CN3の完全な走行異常時にCN6がCN3の正常標的筋に投射する例も報告されている1)

CFEOM1のKIF21A変異例の剖検では、CN3上枝と運動ニューロンの欠損が確認されている1)。また、COL25A1のKOマウスでは運動軸索束が標的筋に到達するが筋束内への伸展に失敗する1)

Q CFEOMは筋肉の病気か神経の病気か?
A

当初は筋原性疾患と考えられていたが、KIF21AやTUBB3などの原因遺伝子の同定により、一次性の神経疾患であることが判明した1)。外眼筋の線維化は神経支配欠如に伴う二次的変化である。


7. 最新の研究と今後の展望(研究段階の報告)

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軸索を標的へ導くシグナルについてはまだ不明な点が多く、以下の研究が進められている。

CDH2(N-cadherin)変異による神経発達症候群が報告されている。知的障害、脳梁欠損/低形成、DRSを含む多彩な表現型を呈する1)

CN3の走行にはCXCR4/CXCL12シグナリングが関与し、ACKR3(CXCR7、CXCR4のスカベンジャー受容体)の喪失により眼窩内のCN3走行異常が生じることが報告されている1)

CN3軸索の発達タイミングには吻尾方向の差異がある。吻側サブポピュレーションは先に生まれて下枝を形成し、尾側は後に生まれて上枝を形成し正中交差する。尾側サブポピュレーションがCCDD原因変異に対してより感受性が高いことが示されている1)

外眼筋を欠損させたモデルマウスの研究では、終末枝まで適切な軸索の方向性が見られた。これにより誘導は間葉系シグナル・軸索間相互作用・細胞自律的プロセスによることが示唆されたが、終末枝形成には筋肉由来シグナルが重要であることも明らかになった。


  1. Whitman MC. Axon Guidance Mechanisms and Congenital Cranial Dysinnervation Disorders. Annu Rev Vis Sci. 2020;6:817-847.

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