眼科的所見
視神経萎縮:視神経乳頭蒼白が最も古典的な所見である。
視神経乳頭異常:陥凹や形成不全を伴うこともある。
眼振:多くの症例で認められる。
皮質視覚障害:視覚情報の中枢処理の障害である。
無涙症:涙液分泌低下を示すことがある。

ボッシュ・ボーンストラ・シャーフ視神経萎縮症候群(Bosch-Boonstra-Schaaf optic atrophy syndrome; BBSOAS)は、NR2F1遺伝子の変異による稀な常染色体優性遺伝疾患である。幼児期に発症し、視神経萎縮・知的障害・発達遅滞を主徴とする。
2014年、Boschらが皮質視覚障害または視神経異常を有し、NR2F1遺伝子に変異を認める6症例を初めて報告した。以後、症例の蓄積が進み、2022年時点で世界中で約200例が確認されている。
皮質視覚障害を伴う遺伝性疾患の一つとしても位置づけられている1)。
常染色体優性遺伝形式をとるため、理論上は50%の確率で子に遺伝する。しかし報告例のほとんどは新規(de novo)変異であり、家族歴がない状態で発症している。
BBSOASは幼児期に発症するため、患児自身の訴えは限られる。保護者が気づく症状は以下の通りである。
眼科的所見と全身所見の両面にわたる多彩な表現型を示す。
眼科的所見
視神経萎縮:視神経乳頭蒼白が最も古典的な所見である。
視神経乳頭異常:陥凹や形成不全を伴うこともある。
眼振:多くの症例で認められる。
皮質視覚障害:視覚情報の中枢処理の障害である。
無涙症:涙液分泌低下を示すことがある。
全身所見
知的障害:程度は軽度から重度まで多様である。
発達遅滞:運動・言語の両面に及ぶ。
てんかん:点頭てんかん(乳児痙攣)を含む。
筋緊張低下:体幹や四肢の筋緊張が低い。
顔貌異常:突出耳、高い鼻梁、上向きの鼻など。
その他の特徴的所見として、自閉スペクトラム症、聴覚障害、口腔運動機能不全、脳梁の異常が報告されている。また、音楽を好む傾向、長期記憶の良好さ、高痛覚閾値(痛みに強い)、睡眠障害なども認められることがある。
きわめて多様である。視神経萎縮を中心としつつ、知的障害の程度、てんかんの有無、顔貌異常の程度などは症例ごとに大きく異なる。変異の種類や位置が表現型の重症度に影響する。
BBSOASは第5染色体(5q15)に位置するNR2F1遺伝子(別名COUP-TF1)のヘテロ接合型変異によって発症する。NR2F1はオーファン核内受容体タンパク質をコードする遺伝子である。
報告されている変異の種類は以下の通りである。
DNA結合ドメインの変異は、てんかん発作・触覚過敏・運動遅滞・独歩不能・言語的コミュニケーション不能の高い発症率と関連する。
常染色体優性遺伝であるため、NR2F1変異を持つ親がいることがリスク要因となる。ただし、報告されている症例のほとんどは新規(de novo)変異による発症であり、家族歴がない場合がほとんどである。
BBSOASは特徴的な徴候と症状の組み合わせから疑われ、遺伝学的検査により確定される。通常は小児期に診断されるが、2014年の疾患概念確立以前に誤診されていた成人で後に判明する例もある。
確定診断には以下の検査が用いられる。
| 検査法 | 評価対象 | 留意点 |
|---|---|---|
| 眼底検査 | 視神経乳頭蒼白・陥凹 | 最も基本的な検査 |
| OCT | 視神経線維層の厚み | 患児の協力が必要 |
| 視野検査 | 視野欠損の範囲 | 発達障害・眼振で制限あり |
MRIでは以下の所見が報告されている。
視神経萎縮を主徴とするため、鑑別範囲は広い。遺伝性・圧迫性・中毒性・感染性・炎症性の視神経萎縮が鑑別対象となる。過去にALG6-CDG(糖鎖付加異常症の一型)と誤診されていた例が、後にBBSOASと判明した報告がある。
通常は小児期に視覚異常や発達遅滞を契機に発見される。2014年の疾患概念確立以前は、多くの症例が未診断または誤診であったと考えられている。遺伝学的検査の普及により診断率の向上が期待される。
BBSOASに対する根本的な治療法は現時点で存在しない。管理の目標は、症状の緩和と発達の最大化である。
NR2F1遺伝子はオーファン核内受容体タンパク質をコードする。マウスモデルを用いた研究では、NR2F1が以下の過程に関与することが示されている。
NR2F1は主に視神経、視床、大脳皮質で発現する。これは以下の発達過程におけるNR2F1の特異的な役割を反映している。
NR2F1の変異はタンパク質の機能喪失を引き起こし、神経発達を阻害する。これがBBSOASの視神経萎縮、皮質視覚障害、知的障害の発症基盤となる。
ミスセンス変異が全遺伝子欠失よりも重篤な表現型を示す傾向は、変異タンパク質によるドミナントネガティブ効果の関与を示唆している。
現時点の知見では、BBSOASにおける視神経萎縮の進行は報告されていない。視神経異常は先天性かつ静止性と考えられており、生後早期に確立された状態が維持される。ただし疾患概念が新しく、長期的なデータは限られている。