遠視性不同視
弱視リスク:1〜1.5D以上の左右差で発症しうる。
特徴:遠視が強いほうの眼は中心窩に鮮明な像が結ばれず弱視になりやすい。最も頻度が高い。

不同視弱視(anisometropic amblyopia)は、両眼の屈折状態に左右差がある場合に、屈折異常が強いほうの眼に生じる片眼性の弱視である。弱視の原因で最も多いものとされる。屈折異常が弱いほうの眼で明視できるため、もう一方の網膜像が不鮮明でもそれ以上明視しようとしないことで発症する。
弱視の有病率は北米で2〜4%と報告されている1)。弱視は小児における片眼性視力障害の主な原因である。弱視の約3分の1は不同視、3分の1は斜視、残りの3分の1は両者の組み合わせに起因するとされるが、不同視が50%を占めるとの報告もある。
弱視は原因別に以下の4つに大別される。
片眼性の弱視は斜視を19〜50%、屈折異常を46〜79%の症例で伴う1)。2Dの不同視がある小児の約3分の1が弱視を有し、1〜2Dの等価球面不同視でも弱視のオッズは4.5倍に増加する1)。
不同視弱視は斜視弱視と異なり、外見上は眼が正常に見えるため潜行性の疾患である。3歳児健診や就学前健診をきっかけに発見されることが多い。
不同視弱視は屈折異常の左右差による網膜像のぼけが原因であり、外見上は眼位のずれがない。斜視弱視は眼位ずれによる非優位眼の抑制が原因である。両者が合併することもある。詳細は「原因とリスク要因」の項を参照。
不同視弱視は、外見上の異常がなく自覚症状に乏しい疾患である。
不同視弱視は症状が目立たないため、多くは視力スクリーニングで偶発的に発見される。
弱視は構造的異常を伴わない視力発達障害であり、特異的な器質的所見は認めない。以下の検査所見が診断の根拠となる。
弱視の診断基準を以下に示す1)。
| 年齢 | 片眼性弱視 | 両眼性弱視 |
|---|---|---|
| 3〜4歳 | 両眼差 ≥2行 | 両眼 ≤20/50 |
| ≥5歳 | 両眼差 ≥2行 | 両眼 ≤20/40 |
不同視弱視の発症機序は、網膜像のぼけによる視力発達への直接的影響と、眼間競合・抑制の二つの要素からなる1)。不同視がある場合、より正視に近い眼が優位眼となり、屈折異常の強い眼は視覚中枢で抑制される。
弱視を引き起こす不同視の程度は屈折異常の種類によって異なる。
遠視性不同視
弱視リスク:1〜1.5D以上の左右差で発症しうる。
特徴:遠視が強いほうの眼は中心窩に鮮明な像が結ばれず弱視になりやすい。最も頻度が高い。
近視性不同視
弱視リスク:3D以上の左右差で発症しうる。
特徴:近見では近視が強い眼のほうが鮮明な像を得るため、弱視になりにくい。
乱視性不同視
弱視リスク:2D以上の左右差で発症しうる。
特徴:経線方向により視力発達に影響を及ぼす。
年齢別に矯正が必要とされる不同視度数の目安を示す。
| 年齢 | 近視 | 遠視 | 乱視 |
|---|---|---|---|
| 0〜1歳 | ≥4.00D | ≥2.50D | ≥2.50D |
| 1〜2歳 | ≥3.00D | ≥2.00D | ≥2.00D |
| 2〜3歳 | ≥3.00D | ≥1.50D | ≥2.00D |
なお、AAOの基準未満の不同視であっても弱視となることはあり、0.5Dの不同視でも不同視弱視が生じることがある。不同視の程度や乱視が大きいほど、弱視のリスクと重症度は増加する1)。
視覚の感受性期間はおおむね8歳頃までとされ、この期間内に治療を開始すれば良好な視力回復が期待できる。ただし治療開始が遅くても反応する例があるため、年齢を理由に治療を諦めるべきではない。詳細は「標準的な治療法」の項を参照。
不同視弱視の診断は、器質的疾患や斜視を除外した上での「除外診断」である。以下の条件を満たす場合に診断する。
調節麻痺下屈折検査が不可欠である。小児は調節力が強く、自覚的検査や通常のオートレフでは不同視の程度を正確に測定できない。調節麻痺薬(アトロピンまたはサイクロペントラート)の点眼後に他覚的屈折検査を実施する。
年齢に応じた視力検査法を用いる。弱視の検出には視標視力(optotype VA)が最も一般的である。弱視眼では単独文字よりも列視力(文字列での測定)が低下しやすい(混雑現象)。
弱視の原因として器質的疾患を除外するために必須である。細隙灯顕微鏡検査と散瞳下眼底検査を実施する。
わが国の三歳児視覚健診は、家庭で保護者が行う一次健診、保健所等で医師・保健師・視能訓練士が行う二次健診、眼科で行う精密健診の3段階になっている。片眼の視力が低い場合や屈折異常が大きい場合に精密検査へ紹介される。自宅での視力検査ではうまく測定できないことも多いため、検査当日の客観的評価が重要である。なお、ランドルト環字ひとつ視標による5m視力検査の可能率は3歳0か月で73.3%、3歳6か月でほぼ95%と報告されている。
不同視弱視の治療目標は、両眼の視力を可能な限り等しくすることである1)。治療の選択は患児の年齢・視力・治療コンプライアンスに基づいて行う。
治療の第一歩は、調節麻痺下屈折検査に基づく完全矯正眼鏡の常時装用である。眼鏡を常時装用するだけで、弱視眼の視力はある程度向上する。
PEDIGの前向き研究では、3〜6歳の不同視弱視児の27%が眼鏡矯正のみで弱視が治癒した。平均0.29 logMARの改善が得られ、77%で0.2 logMAR以上の改善を認めた。改善は30週以上持続することもあった3)。
不同視差が少ない場合(2D程度)は眼鏡装用のみで治療が可能なことが多い。一方、不同視差が大きい場合(3D以上)は眼鏡のみでは十分な視力改善が得られないことが多い。
眼鏡処方後は、視力が安定するまで屈折矯正のみで経過をみることが現在の標準的な方針となっている3)。特に年少児では、遠視度数を減じて眼鏡処方すると視力改善が不良であるばかりでなく内斜視が発症することがあるため、十分に注意が必要である。乱視性の不同視では1.5D以上の左右差がある場合、早期から健眼遮閉を併用することが推奨される。
眼鏡装用のみで視力が十分に改善しない場合は、健眼遮蔽(パッチング)を追加する。健眼に粘着性のパッチを直接貼付し、弱視眼を強制的に使用させる。
パッチング中は読書や塗り絵などの近見作業を中心に、弱視眼を積極的に使わせることが重要である。
完全矯正眼鏡の装用と健眼遮蔽を同時に開始すると児のストレスが大きくなるため、まず眼鏡装用を開始し、眼鏡に慣れた時点でパッチングを指示するとよい。
1%アトロピン点眼を健眼に投与し、調節麻痺により健眼の近見を霧視させることで弱視眼の使用を促す方法である1)。
健眼の眼鏡レンズにバンゲルター(半透明)フィルターを装着する方法である。PEDIGの研究で、24週間の治療後にパッチングとの視力改善差はわずか0.5行以内であった1)。パッチングのコンプライアンスが不良な場合に有用な代替手段となる。
従来の治療に反応しない小児において、PRK(レーザー角膜切除術)が不同視弱視に対して施行された報告がある1)。矯正視力と立体視の改善が得られたとされるが、小児への適応は十分なエビデンスが確立されていない。
中等度弱視(20/40〜20/80)では1日2時間が推奨される。重度弱視(20/100以下)では1日6時間が推奨される1)。過度の遮蔽は健眼の視力低下を招くため、眼科医の指示に従った時間設定が重要である。
不同視弱視の病態は、視覚発達の感受性期間における正常な両眼視の障害に起因する。
ヒトの視覚系は出生後に急速に発達し、おおむね8歳頃までの感受性期間に大脳視覚野のシナプス形成が完了する。この期間に片眼の網膜像が不鮮明であると、その眼に対応する視覚野ニューロンの発達が障害される。
弱視による変化は主に第一次視覚野(V1)と外側膝状体(LGN)で生じる。
Mukitら(2023)は、NF1(神経線維腫症1型)に伴う片眼性巨大眼球により高度不同視弱視(-17.50D)を呈した6歳女児の症例を報告した2)。眼軸長が左右で22 mmと27 mmと著しい差を示し、1 mmの眼軸延長が-2〜-2.5Dの近視化をもたらすとされる。早期の眼科紹介がなされなかったため、発見時には弱視眼は光覚弁にまで低下し、立体視も完全に消失していた。
不同視弱視の病態には、網膜像のぼけの直接的影響に加え、健眼からの眼間抑制(interocular suppression)が関与する1)。斜視弱視における眼間抑制と類似するが、完全に同一の機序ではないと考えられている。
コントラスト感度は中〜高空間周波数域で低下し、この低下は中心視野・周辺視野の双方に及ぶ。この点が、中心視野のみに欠損を示す斜視弱視との違いである。
両眼に異なるコントラストや内容の映像を提示し、弱視眼の使用を促す治療法である3)。VRヘッドセットやタブレットを用いたゲーム・映像視聴が試みられている。
Halickaら(2021)は、22歳の不同視弱視成人にVR環境下でのdichoptic訓練を44時間実施し、弱視眼の矯正視力が0.05から0.5に改善したと報告した4)。さらに訓練を通じて立体視が徐々に獲得され、fMRIでは視覚野の活動パターンに変化がみられた。訓練終了1年後も視力0.4が維持された。
Xiao(Luminopia)らの報告では、小児に対し72時間のheadset使用で0.15 logMARの視力改善が得られた3)。成人の不同視弱視でもdichoptic治療群で0.15 logMAR(27時間あたり1行改善)の視力改善が報告されている3)。
二眼視治療が従来の遮蔽療法を上回るかどうかはまだ明確になっていない3)。
従来、視覚感受性期間を過ぎた成人の弱視は治療困難と考えられてきた。しかし、動物実験やヒトでの研究により、感受性期間後も視覚路の可塑性が一定程度残存することが示されている4)。
知覚学習(perceptual learning)、抗抑制訓練、VR環境でのdichoptic訓練などが成人弱視に対して試みられており、視力および立体視の改善が報告されている3)4)。ただし、これらの手法の長期的な効果の安定性や既存治療との比較については、さらなる研究が必要である。
レボドパ(ドーパミン前駆体)をパッチングに併用することで弱視の治療効果を増強する試みが報告されている。PEDIGによる多施設共同ランダム化比較試験が実施されている。