屈折異常弱視
ametropic amblyopia:両眼に同程度の高度屈折異常(遠視・乱視・強度近視)があり、中心窩網膜上への結像が妨げられ両眼の視力が発達しない状態。遠視度数3D以上、乱視度数1.5D以上でリスクが高まる。
経線弱視:強度乱視眼に生じる特殊型。特定方向の縞パターンに対する感度が低下する。

弱視(amblyopia)は、視覚発達の感受性期に視性刺激遮断や異常な両眼相互作用が生じることで、片眼または両眼の矯正視力が十分に発達しない状態である。器質的疾患では説明がつかない視力低下を特徴とし、適切な治療により改善が見込める7)。
amblyopiaはギリシャ語のamblus(ぼんやりした)とops(眼)を語源とし、紀元前480年頃にヒポクラテスが使い始めたとされる。わが国では植村(1993)の定義が広く受け入れられており、「視覚の発達期に視性刺激遮断あるいは異常な両眼相互作用によってもたらされる片眼あるいは両眼の視力低下で、眼の検査で器質的疾患はみつからず、適切な症例は予防・治療が可能なもの」とされる。
弱視の有病率は海外を含めると0.14〜4.8%と報告に幅がある。わが国では3歳児健診のメタアナリシスから0.58%と推測されており、滋賀県立小児保健医療センターでの10年間の調査では弱視頻度は1.4%であった。米国ではアフリカ系で1.5%、ヒスパニック系で2.6%とされ、人種間差がある。弱視の分類別では、不同視弱視が最も多く、屈折異常弱視、斜視弱視、形態覚遮断弱視の順に続く。
弱視のリスクが高い因子として、未熟児、発達遅滞、1親等に弱視の家族歴がある場合が挙げられる。オッズ比が高いのは不同視で、次いで斜視である。
弱視は視覚発達の感受性期(概ね生後から8歳頃まで)に生じる。成人で新たに発症することはないが、小児期の弱視が未治療のまま残存することはある。12歳以降に治療を開始しても視力が改善した症例や、僚眼の障害により弱視眼の視力が改善した成人例が報告されている。
片眼性弱視では多くの場合無症状である。健眼で日常視が補われるため、小児自身が視力低下に気づくことは少ない。
弱視の臨床所見は原因により異なる。以下の所見を総合して診断する。
弱視眼では文字が密集して並んでいると識別しにくくなる現象である。一列の視力表よりも単独文字のほうがよく見えるため、単一視標での検査では弱視の重症度を過小評価する恐れがある。視力検査では混雑棒付きの視標を用いることが推奨される。
弱視は原因別に4型に大別される。
屈折異常弱視
ametropic amblyopia:両眼に同程度の高度屈折異常(遠視・乱視・強度近視)があり、中心窩網膜上への結像が妨げられ両眼の視力が発達しない状態。遠視度数3D以上、乱視度数1.5D以上でリスクが高まる。
経線弱視:強度乱視眼に生じる特殊型。特定方向の縞パターンに対する感度が低下する。
不同視弱視
anisometropic amblyopia:左右の屈折差が大きく、屈折異常が強い側の視力が発達しない状態。一般に2D以上の不同視差で発症リスクがある。遠視性不同視では1D程度の差でも弱視となりうる7)。
最も頻度が高い弱視の病型である。
斜視弱視
strabismic amblyopia:斜視により偏位眼の中心窩に明瞭な網膜像が投影されず、非優位眼への抑制がかかることで生じる片眼性弱視。内斜視に多い。交代視がある場合は弱視になりにくい。
形態覚遮断弱視
form deprivation amblyopia:先天白内障・角膜混濁・重度の眼瞼下垂などにより視性刺激が遮断されて生じる。最も頻度は低いが最も重症で治療抵抗性が高い7)。片眼性は両眼性より予後が不良である。
主なリスク因子を以下に示す。
弱視は除外診断であり、視力低下を説明する器質的疾患がないことが診断の前提となる。
| 検査 | 目的 | 備考 |
|---|---|---|
| 調節麻痺下屈折 | 屈折異常の評価 | 初回はアトロピン推奨 |
| カバーテスト | 眼位評価 | 近見が特に重要 |
| 立体視検査 | 両眼視評価 | TNO・Randot等 |
視力低下が弱視以外の原因による場合を除外する必要がある。不適切な眼鏡矯正、網膜ジストロフィ(特にスターガルト病は初期に眼底正常を呈する)、視交叉前病変、視神経障害などが鑑別に挙がる7)。
弱視治療の基本は、根本原因の除去と弱視眼への視覚刺激の促進である。治療は2002年以降、米国の小児眼疾患研究グループ(PEDIG)による大規模ランダム化比較試験により多くのエビデンスが蓄積されてきた。
弱視治療の第一歩は調節麻痺下屈折検査に基づく眼鏡処方である。眼鏡装用のみで2段階以上の視力改善が得られる症例は約75%とされる。不同視弱視で不同視差が小さい場合(2D程度)は眼鏡のみで治療可能なこともある。
眼鏡装用開始後1か月以内に再診し、度数・フィッティング・装用状況を確認する。なお、わが国では9歳未満の小児弱視等の治療用眼鏡に対して療養費が給付される制度がある(平成18年4月適用)。更新条件は5歳未満では前回給付から1年以上、5歳以上では2年以上後である。眼鏡常用で改善が不十分な場合に次のステップへ進む。
非弱視眼を遮閉し、弱視眼の視覚刺激を促す方法である。絆創膏型遮閉具(アイパッチ)や布パッチによる完全遮閉法と、Bangerter遮閉膜による不完全遮閉法がある。
遮閉時間に関するエビデンスは以下のとおりである。
健眼にアトロピン硫酸塩1%を点眼し、調節力を失わせることで健眼の雲霧を誘発する方法である。
| 比較 | 結果 |
|---|---|
| 遮閉2時間 vs アトロピン毎日点眼 | 長期予後に有意差なし |
| 毎日点眼 vs 週末のみ点眼 | 長期予後に有意差なし |
ペナリゼーション法は近見ペナリゼーション・遠見ペナリゼーション・完全ペナリゼーションに分類され、弱視の重症度に応じて選択する。健眼にアトロピン、弱視眼にジスチグミン臭化物を点眼するMoore-Johnson-石川変法もある。
PEDIGの研究により、強度弱視では6時間と終日遮閉で、中等度弱視では2時間と6時間遮閉で改善度に有意差がないことが示されている。弱視の重症度に応じて2〜6時間の遮閉が推奨され、過剰な遮閉は遮閉弱視のリスクを高める。詳細は「標準的な治療法」の項を参照。
12歳までは2段階以上の視力改善の可能性がある。13歳以上でも未治療例では改善の可能性があるが、年齢とともに反応は衰える。治療終了時は急に中止せず、段階的に遮閉時間を減量する。弱視治療を終了した7〜13歳児282名を平均3.9年追跡した研究では、2.1%が1段階、27%が2段階の視力低下をきたしたが、その95%は2年以内に起こっており、遮閉治療の再開で速やかに視力が回復した。このため、治療中止後少なくとも2年間はフォローアップが必要である。
Jostら(2023)は、両眼分離提示治療で改善した弱視児100例を最大3年間追跡した前向き研究で、再発リスクが24%(95% CI: 16〜35%)であったと報告した3)。再発の平均時期は11.8か月で、パッチングやアトロピン治療中止後の報告値(12か月時点で24%)と同程度であった3)。
Hegdeら(2023)は、COVID-19パンデミック中に弱視治療児217例の追跡調査を行い、受診予定の保護者のうち69%が治療を中断していたことを報告した2)。治療中断の主な理由はフォローアップ受診の困難であり、テレメディシンなどの代替手段の必要性が示唆された2)。
ヒトの視力は出生直後で0.02〜0.05程度であり、1歳で0.1、2歳で0.5、3歳で1.0に達するとされる。視覚の感受性は生後1か月から18か月が最も高く、その後徐々に減衰するが、8歳頃まではかなりの感受性が残存している。近年、8歳以降でも視覚感受性は残存し、10〜16歳の弱視患者に対する終日遮閉治療で81%に視力改善がみられたとの報告もある。
視覚発達には複数の感受性期が存在する8)。
視覚発達の感受性期における異常な視覚刺激は、外側膝状体および線条体皮質(一次視覚野)に構造的・機能的変化をもたらす。結合の萎縮、シナプス間の架橋の消失、眼優位性の変化が生じる。
視力やコントラスト感度など線条体皮質が主に関与する機能は、遮断眼と非遮断眼の間の競合的相互作用により障害される8)。一方、グローバルモーションやグローバルフォームの知覚など線条外皮質が関与する機能では、両眼間の協調的相互作用が関与する8)。
弱視眼では視力低下だけでなく、コントラスト感度・調節機能の低下も認められる7)。健眼にも微細な機能的欠損が存在する場合がある7)。弱視の病態は主として視覚皮質および外側膝状体の異常が考えられるが、fMRI研究では弱視眼刺激時の外側膝状体の反応低下が報告されており、まだ完全には解明されていない。
従来の遮閉療法が弱視眼を受動的に刺激するのに対し、両眼分離提示治療は両眼にコントラストを調整した異なる映像を提示し、両眼視を積極的にバランスさせるアプローチである。
VRヘッドセットを用いたデジタル治療薬「Luminopia One」は、クラウドベースの映像コンテンツをリアルタイムで修正して提示する。4〜7歳の不同視または斜視弱視児105例を対象としたランダム化比較試験では、弱視眼の視力が眼鏡単独群の0.8ライン改善に対して治療群で1.8ライン改善した。2021年10月にFDAが承認している。
アイトラッキング技術を用いた「CureSight」は、健眼の中心窩周囲にリアルタイムでぼかしを付与する両眼分離提示治療デバイスである。4〜9歳未満の弱視児103例を対象とした16週間の多施設試験で、CureSight(1日90分、週5日)はパッチング(1日2時間、週7日)に対して非劣性が示された。
Arnoldら(2024)は、重度不同視弱視の6歳女児において従来のパッチングやアトロピン治療でコンプライアンスが得られなかった症例に対しCureSight治療を施行した4)。1か月の治療でlogMAR 0.9から0.7に改善し、立体視も400秒角から140秒角へ向上した。5か月後には視力0.6に到達し、眼鏡の装着確認やアイトラッキングによるリアルタイム監視がコンプライアンス向上に寄与した4)。
Molina-Martinら(2023)は、不同視弱視児4例に対し没入型VR環境でのGaborパッチ刺激を用いた知覚学習トレーニング(18セッション、各30分)を実施した1)。8歳以下の若年被験者2例で遠見視力が3〜4ライン改善し、全例で立体視が少なくとも1段階改善して3例が60秒角に達した。3 cpdのコントラスト感度も約0.5 CS単位の向上を示した1)。
Jostら(2023)の100例の前向き研究では、両眼分離提示治療後の弱視再発リスクはKaplan-Meier解析で36か月時点24%であった3)。追加治療を受けた群(19%)と受けなかった群(32%)で有意差はなかった(P = 0.12)。再発リスクは年齢・最終視力・立体視・眼位との間に有意な関連を認めなかった3)。
AlTurkiら(2024)は、近視性不同視弱視(右眼-11.00D、左眼-4.00D)の4歳女児で、パッチング後に通常とは異なり近視度の低い側の眼(左眼)に逆弱視が生じた症例を報告した5)。遮閉中止と眼鏡矯正継続により逆弱視は解消し、最終視力は両眼とも20/22に到達した5)。
Aleneziら(2021)は、両側性有髄神経線維層(MNFL)と高度遠視(+10D/-2.5D)を合併した24歳男性の弱視症例を報告した6)。眼軸長は両眼とも19.4mm前後と短く、矯正視力は両眼20/40であった。MNFLよりも屈折異常のほうが視力に強い影響を与えることが示唆された6)。
現時点では標準治療を完全に置き換えるものではない。PEDIGの研究ではパッチングのほうが初期のゲームベース治療より優れていた。しかしLuminopia OneやCureSightのように改良された方法では同等以上の効果が報告されており、コンプライアンス面での利点から今後の選択肢として期待される。