水晶体所見
前部円錐水晶体:水晶体嚢の菲薄化により前面が円錐状に突出する。アルポート症候群に病因的(pathognomonic)な所見である。通常は軸性で2〜7mm。油滴状徴候(oil droplet sign)を呈する。
白内障:円錐水晶体の進行に伴い形成される。
前嚢自然破裂:稀だが、脆弱化した前嚢が自然破裂し水晶体物質が前房に漏出する3)。若年男性に多い。

アルポート症候群(Alport syndrome; AS)は、IV型コラーゲンのα3・α4・α5鎖をコードする遺伝子(COL4A3・COL4A4・COL4A5)の変異に起因する遺伝性基底膜疾患である。1927年にA. Cecil Alportにより初めて報告された。
本症候群は小児期に発症し、慢性血尿に始まり、進行性腎障害・感音難聴・眼異常を三徴とする。推定有病率は出生5万人に1人、変異頻度は1/5,000〜1/10,000と推定される6)。小児の慢性腎臓病の原因の約3%、成人の末期腎不全の約0.2%を占める1)。常染色体優性多発性嚢胞腎に次いで2番目に多い遺伝性腎疾患である3)。
遺伝形式は3型に分類される。
| 遺伝形式 | 頻度 | 原因遺伝子 |
|---|---|---|
| X連鎖型(XLAS) | 約85% | COL4A5 |
| 常染色体劣性型(ARAS) | 約15% | COL4A3/COL4A4 |
| 常染色体優性型(ADAS) | 5%未満 | COL4A3/COL4A4 |
次世代シーケンサーの報告では、常染色体優性型が従来の推定より高頻度(20〜30%)である可能性が示されている1)。
X連鎖型では男性(半接合体)が重症化しやすく、40歳までに約90%が末期腎不全に至る。一方、X連鎖型女性(ヘテロ接合体)は多様な経過をたどり、末期腎不全に至るのは約12%にとどまる。常染色体劣性型・常染色体優性型は男女同等の発症率・重症度を示す。
本症候群の眼症状は緩徐に進行する。
全身症状としては以下がある。
眼科的所見は、異常なIV型コラーゲンが存在する眼組織(水晶体嚢・内境界膜・ブルッフ膜・ボウマン膜・デスメ膜)に生じる。X連鎖型の男性で約40%の小児が眼所見のみで診断可能とされる3)。
水晶体所見
前部円錐水晶体:水晶体嚢の菲薄化により前面が円錐状に突出する。アルポート症候群に病因的(pathognomonic)な所見である。通常は軸性で2〜7mm。油滴状徴候(oil droplet sign)を呈する。
白内障:円錐水晶体の進行に伴い形成される。
前嚢自然破裂:稀だが、脆弱化した前嚢が自然破裂し水晶体物質が前房に漏出する3)。若年男性に多い。
網膜所見
点状・斑点状網膜症:表層の白〜黄色顆粒状変化。菱形徴候(lozenge sign)を伴う。視力には影響しない。
耳側黄斑菲薄化:OCTで確認される。視力には影響しない。
黄斑円孔:層状または全層の黄斑円孔を生じることがある。手術への反応は不良。
そのほかの眼所見として以下がある。
腎臓の臨床所見として、微量アルブミン尿・蛋白尿の増悪、腎生検における糸球体基底膜(GBM)の菲薄化・肥厚・層状化(バスケットウィーブパターン)が特徴的である1)。
点状・斑点状網膜症と耳側黄斑菲薄化は視力に影響しない。ただし黄斑円孔は中心視力の低下を来し、手術への反応も不良である。網膜症の存在は早期腎不全への進行を示す予後因子となる。
アルポート症候群の原因はCOL4A3・COL4A4・COL4A5遺伝子の変異である。これらの遺伝子はIV型コラーゲンのα3・α4・α5鎖をコードする。
COL4A5遺伝子はX染色体(Xq22)に位置し、51エクソンから構成される6)。変異の種類はミスセンス変異(約38%)が最多で、欠失変異(約15.9%)、スプライシング変異(約14.9%)が続く6)。中国人X連鎖型AS患者の文献レビューでは、欠失変異を有する男性はミスセンス変異に比べ末期腎不全に進行する割合が高い(36.0% vs 15.4%、P=0.041)6)。
COL4A3遺伝子は第2染色体(2q36-37)に位置し、52エクソンからなる4)。COL4A3のスプライシング変異を有する患者では末期腎不全の平均発症年齢が28歳と報告されている4)。近親婚家系では常染色体劣性型のホモ接合変異がみられ、ミニジーン実験によりエクソンスキッピングとα3(IV)鎖のコラーゲンドメインの一部欠損が確認された例がある4)。
唯一のリスク要因は罹患者を親に持つことである。遺伝カウンセリングと家系内スクリーニングが重要である。
異なる。X連鎖型では大欠失・ナンセンス・フレームシフト変異が最も重症で、30歳以前の末期腎不全リスクが90%に達する。スプライシング変異は約70%、ミスセンス変異は約50%とされる6)。常染色体劣性型のホモ接合・複合ヘテロ接合変異も重症化しやすい4)。
以下のいずれかが認められる場合、アルポート症候群の可能性が高い。
以下のいずれかで診断が確定する。
| 疾患 | アルポート症候群との違い |
|---|---|
| 菲薄基底膜腎症 | 腎外所見はほぼなし |
| IgA腎症 | 免疫蛍光でIgA沈着陽性 |
| ピアソン症候群 | LAMB2変異。より重症 |
アルポート症候群はIgA腎症と誤診されることがある1)。ある50歳女性はIgA腎症として4年間治療されたが、電子顕微鏡所見と家族歴の再評価によりアルポート症候群と診断された1)。家族歴の詳細な聴取と電子顕微鏡検査が鑑別に不可欠である。
アルポート症候群に対する根治的治療は現時点で存在しない。レニン–アンジオテンシン系阻害薬による腎保護が治療の柱となる。
前部円錐水晶体や白内障に対する水晶体摘出+眼内レンズ挿入術により、良好な視力回復が期待できる。報告された症例では術後矯正視力20/25以上が得られている3)。ただし黄斑円孔が併存する場合は中心視力の回復が困難である。
IV型コラーゲンは6種のα鎖(α1〜α6)から構成される。各α鎖はアミノ末端の7Sドメイン、約1,400回のGly-X-Yリピートからなるコラーゲンドメイン、カルボキシ末端のNC1ドメインの3領域からなる6)。
α3(IV)・α4(IV)・α5(IV)鎖は小胞体内で会合しα345(IV)ヘテロ三量体を形成する4)。この三量体はGBM・水晶体嚢・角膜(ボウマン膜・デスメ膜)・内耳(血管条)・網膜(内境界膜・ブルッフ膜)の基底膜に分泌される。
いずれかの遺伝子に病的変異が生じると、異常なα鎖が三量体の形成を阻害する。COL4A3ノックアウトマウスでは糸球体にα4・α5鎖が消失することが確認されている4)。ある家系では、COL4A3のスプライシング変異(c.687+1G>T)によりエクソン12のスキッピングが起こり、14アミノ酸の欠失とコラーゲンドメインのGly-X-Yリピートの部分的喪失が確認された4)。免疫蛍光染色では、プロバンドのGBMにおけるα3・α4・α5鎖すべての発現低下と部分的欠損が認められた4)。
α345(IV)ネットワークが消失した基底膜では、代償的にα1α1α2(IV)ネットワークが残存する。このネットワークは構造的安定性に乏しく、生体力学的歪みに脆弱である。
Chenら(2025)は、COL4A3のスプライシング変異(c.687+1G>T)を有する近親婚家系を報告した。22名の家族のうちホモ接合変異は1名(プロバンド)、ヘテロ接合変異は9名であった。ヘテロ接合キャリアの表現型は無症状〜微小血尿まで幅広く、同一家系内でも多様であった4)。
アルポート症候群の世代間伝達を予防する手段として、着床前遺伝学的検査(PGT-M)の応用が報告されている。
Huら(2021)は、XLAS家系において標的次世代シーケンサーとSNPハプロタイピングを組み合わせたPGT-Mを実施した。COL4A5のINDEL変異(c.349_359del / c.360_361insTGC)を有する母親から得た3胚のうち1胚が正常と判定され、移植後に健常な男児が出生した7)。
ASに対する遺伝子治療は前臨床段階にある。シャペロン療法や幹細胞治療など、新規治療法の開発が進められている。
Mismettiら(2022)は、アルポート症候群由来の慢性腎不全で透析中の48歳女性に転移性肺石灰化症を報告した。骨シンチグラフィで両肺のびまん性集積が認められ、29年間の経過観察で安定していた。慢性腎不全に伴う肺石灰化症はアルポート症候群患者でも発生しうることを示す初の報告である8)。
Liuら(2026)は、常染色体優性多発性嚢胞腎とアルポート症候群が合併した4歳男児を報告した。COL4A5の病的変異とPKD1のVUSが同定された。これまで文献上4例のみ報告されている稀な合併例で、両疾患の合併は腎予後を悪化させる可能性がある5)。