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小児眼科・斜視

斜視手術における調整縫合

1. 斜視手術における調整縫合とは

Section titled “1. 斜視手術における調整縫合とは”

調整縫合(adjustable suture)は、斜視手術後に外眼筋の位置を再調整して手術量を変更できる手技である。術後の低矯正や過矯正を減らし、短期・長期いずれの予後も改善することを目的とする。

最も初期の報告は1907年のBielschowskyによる。結膜から露出させた手術用ループを作成し、術後2日まで操作可能とした。余剰な縫合糸は術後3日目に除去された。

1975年、Jampolskyが蝶結び(bow-tie knot)を用いた調整縫合を発表した。甲状腺眼症や再手術例など目標手術量が不明確な症例が適応とされた。その後、Jampolskyはほぼすべての成人斜視手術で調整縫合を検討すべきと提唱した。以来、一部の外科医はすべての成人症例で本手技を推奨している。小児にも利用可能である。

調整縫合は再手術例や予測困難な症例で特に有用とされる1)。具体的な適応は以下の通りである。

  • 再手術例:癒着や筋の変性により術後眼位の予測が困難な症例
  • 拘束性斜視:甲状腺眼症に伴う外眼筋の伸展性低下
  • 麻痺性斜視:筋の回復が不確実で手術量の設定が難しい症例
  • 眼窩骨折後の斜視:外眼筋の偏位や嵌頓による非定型的な眼位異常

調整縫合の支持者は、満足のいく眼位を得る再調整の機会と、術後複視のリスクを最小化できる点を利点として挙げる1)

Q 調整縫合はすべての斜視手術で必要か?
A

必ずしもすべての症例に必要ではない。再手術例や拘束性・麻痺性斜視など術後眼位の予測が困難な症例で特に有用とされる1)。単純な共同性斜視では非調整縫合でも良好な成績が得られることが多い。

調整縫合は手術手技であり、疾患そのものではない。調整の対象となる術後の症状は以下の通りである。

  • 複視:過矯正の場合に特に問題となる。下方視での過矯正は忍容性が低い1)
  • 眼位ずれの自覚:低矯正では外観上の改善が不十分と感じられる。

調整の必要性は交代遮閉試験などの眼位検査で判断する。点眼麻酔下で両眼開放のまま眼位を確認しながら調整を行う。

術後評価で確認すべき事項は以下の通りである。

  • 眼位のアライメント:プリズム交代遮閉試験で残余偏位を定量する
  • 眼球運動制限:外眼筋の伸展性や可動域を確認する
  • 複視の有無と範囲:両眼単一視野検査で複視の分布を確認する

斜視手術で過矯正・低矯正が生じる原因は多岐にわたる。

  • 斜視角定量の誤差:測定のたびに斜視角が変動する症例がある
  • 術中定量の誤差:筋間膜の操作や通糸位置のばらつきによる
  • 筋の変性・癒着:再手術例や甲状腺眼症では組織の状態が不均一
  • 術後の筋の位置変動:術直後と最終的な眼位が一致しないことがある

再手術率は疾患により異なるが、一般的に20〜30%とされている。

斜視手術に先立ち、以下の検査を行う。

  • 眼位検査:9方向眼位で斜視角を測定する。最も重要な術前検査である。調節視標を用いて遠見(5m)と近見(30cm)の斜視角を測定する
  • 両眼視機能検査:抑制・立体視網膜対応を評価する。成人では抑制の除去により耐えられない複視が出現する可能性がある
  • 画像検査:甲状腺眼症・外傷・強度近視ではCTやMRIで眼窩と外眼筋の状態を確認する

調整のタイミングは術者の好みにより異なる。術直後に手術室で行う場合、数時間後に行う場合、数日後まで延期する場合がある1)

点眼麻酔下で交代遮閉試験を行い、眼位を確認しながらスライド結節の位置を変更する。Tenon嚢下麻酔を使用した場合は、眼球運動への麻酔作用が消失するまで約6時間待機してから調整を行う。術翌日には腱が強膜に癒着するため調整が困難になる。

Q 調整はいつまで可能か?
A

術式により異なる。一般的に術翌日には腱が強膜に癒着し調整困難となる。ショートタグ・ヌース法では結膜が手術部位を覆えるため、やや遅延した調整も可能である。Tenon嚢下麻酔を用いた場合は眼球運動の回復を待つ必要があり、約6時間後に調整を行う。

日本の教科書では、アジャスタブル法は吊り下げ法(hang-back recession)を基盤とした手技として記述されている。

筋腱を付着部から切離し、吊り下げ法で付着部に通糸する。結紮する代わりに、別の縫合糸(6/0バイクリル®)でスライド結節(sliding noose)を作製する。術後に点眼麻酔下で交代遮閉試験を行いながら結節の位置を変えて眼位を微調整する。目的の矯正効果が得られたら、吊り下げ糸を結紮し余分な縫合糸を切除する。

蝶結び法

原理:Jampolsky(1975)が考案した最初の調整縫合法。

手技:筋を付着部の強膜に固定し、hang-back量を設定する結び目を作る。その上に蝶結びの第2結び目を置く。

調整:蝶結びを解いて手術量を変更する。

スライディング・ヌース法

原理:筋の縫合糸とは別の結び目で筋を保持する方法。

手技:筋の縫合糸の周りに手術用結び(noose)を通し、平結びで締める。結節が糸に沿ってスライドする。

調整:ヌースを筋側に進めると後転量が減少し、遠ざけると後転量が増加する。

ショートタグ・ヌース法

原理:スライディング・ヌースの変法で、縫合糸を短く切る。

利点:結膜が手術部位を完全に覆えるため、調整不要時は追加操作が不要。遅延調整にも対応可能。

除去可能ヌース法

原理:Guytonが考案。クローブヒッチに3つのスリップノットを組み合わせる。

利点:調整後にヌース縫合材料を完全に除去でき、結膜下の異物が残らない。

その他、半調整法(semi-adjustable technique)、小切開法、レーザー支援手技なども報告されている。調整縫合は直筋後転術だけでなく、直筋移行術、原田・伊藤法、上斜筋腱手術など特殊な術式にも応用される1)

下直筋後転術では半調整縫合法が予期しない筋のドリフトを軽減しうるとされている1)。下方視での過矯正は忍容性が低いため、やや低矯正を目標として調整縫合を併用することが推奨される1)

Q 調整中に痛みはあるか?
A

通常は点眼麻酔で対応可能である。小児を対象とした研究では89%の症例で点眼麻酔のみで十分であった。成人でも局所麻酔下に行うため強い痛みは生じにくいが、不快感は伴う場合がある。

6. 病態生理学・詳細な発症機序

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斜視手術は外眼筋の付着位置を変えることで筋の張力や作用方向を変化させ、眼位を矯正する。筋の弱化法には後転術・切腱術・後部縫着術があり、強化法には短縮術・前転術がある。

後転術では筋腱を付着部から切離し、予定の術量分だけ後方に強膜上へ縫合固定する。後転筋の作用方向で最大の矯正効果が得られる。調整縫合では、この固定位置を術後に変更できるよう結紮を仮のものとしておく。

筋縫合部が安定するまでに3〜4か月を要する。この間に筋と強膜の癒着が進行し、最終的な眼位が決定される。術直後のアライメントと長期的な眼位は必ずしも一致せず、この予測困難性が調整縫合の限界でもある。

調整縫合を用いない外科医は、術直後のアライメントが術後数日〜数週間で変化する可能性を指摘し、術直後の調整が長期成績を保証しない点を論拠としている1)

小児のTenon嚢は厚く、十分な処理を要する。小児の斜視手術は原則として全身麻酔で行うため、調整縫合を用いる場合は調整のために2回目の麻酔曝露が必要となりうる。ショートタグ・ヌース法は調整不要時に2回目の麻酔を回避でき、小児に適した手技である。


7. 最新の研究と今後の展望(研究段階の報告)

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調整縫合の有効性について、現在のエビデンスは決定的ではない。

あるランダム化比較試験では間欠性外斜視の成人40人を対象に調整縫合の効果を分析した。調整群の成功率は90%、非調整群は85%であったが、統計的有意差は認められなかった(p = 0.3)。

11研究のレビューでは、7研究中3研究のみが調整群と非調整群の間で統計的有意差を示した。有意差を示した3研究はいずれも100人以上の大規模研究であった。再手術率を指標とした場合は5研究中4研究で有意差が認められた。ただし「成功」の定義が研究間で異なるため、直接比較は困難である。

水平斜視の小児60人を対象としたランダム化比較試験では、調整群と非調整群で術後6か月時点の成功率に統計的有意差を認めなかった(成功の定義:8プリズムジオプトリー以下の残余偏位)。

小児では最近の研究で89%の症例において点眼麻酔のみで術中の縫合糸調整が可能であったと報告されている。

甲状腺眼症(TED)における調整縫合の役割はなお論争的である1)。一部の術者はより良好な成績を主張するが、晩期の過矯正やmuscle slippage(筋滑脱)への懸念から使用しない術者もいる1)。永久縫合糸(ポリエステル)の使用やrelaxed muscle positioning techniqueなど、代替手法の検討も進んでいる。

Q 調整縫合は非調整縫合より優れているのか?
A

現時点のエビデンスでは明確な優位性は確認されていない。大規模研究では再手術率の低下が示唆されるが、小規模研究では有意差を示せていない。特に再手術例や予測困難な症例では利益がある可能性が高い。


  1. American Academy of Ophthalmology. Adult Strabismus Preferred Practice Pattern. San Francisco: AAO; 2019.

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