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小児眼科・斜視

外転神経麻痺(第VI脳神経麻痺)

外転神経(第VI脳神経)は外直筋を支配する運動神経である。この神経が麻痺すると外直筋の張力が低下し、拮抗筋である内直筋の作用が相対的に優位となる。その結果、患眼の外転(外ひき)不良と麻痺性(非共同性)内斜視を生じる。

外転神経麻痺は成人において最も頻度の高い孤立性眼運動神経麻痺であり、年間発生率は約11.3/10万人である1)。小児では約2.5/10万人と比較的まれで、眼運動神経麻痺の中では2番目の頻度を占める1)

外転神経は脳神経中で最も長い頭蓋内走行を持つ。橋背側の核に起始し、橋延髄境界で脳幹を離れた後、くも膜下腔を走行して側頭骨錐体尖を越え、ドレロ管で固定される。その後、海綿静脈洞と上眼窩裂を通過し、眼窩内でジン腱環を経て外直筋に到達する10)。この長い走行のため、多様な部位の病変で障害を受けやすい。

Q 外転神経麻痺と注視麻痺の違いは何か?
A

外転神経麻痺は末梢神経の障害であり、患眼のみの外転制限を生じる。注視麻痺は脳幹の注視中枢の障害で両眼の共同運動が障害される。核間性眼筋麻痺は内側縦束の病変で内転制限を示す。鑑別には注意深い眼球運動評価が必要である。

  • 複視(二重に見える):最も一般的な初発症状である。水平性の同側複視を呈し、近見時より遠見時に顕著となる10)
  • 複視の方向依存性:患側への注視で増悪し、対側への注視で改善する。
  • 頭痛・眼痛:頭蓋内圧亢進が原因の場合は頭痛を伴う。吐き気・嘔吐・脈拍同期性耳鳴を合併することがある。
  • 小児での注意点:乳幼児は複視を訴えられないため、眼位異常(内斜視)や異常頭位(顔回し)が発見の契機となる。

外転神経麻痺の主要所見を以下に示す。

  • 外転制限:患眼の外転(外ひき)が不良となる。制限の程度は部分麻痺から完全麻痺まで様々である。
  • 非共同性内斜視:患眼が内側に偏位する。遠見時に偏位が増大する点が共同性内斜視との鑑別に重要である10)
  • 異常頭位:患側への顔回しにより、患眼が内転した位置で固視し複視を軽減する。
  • 眼瞼裂の拡大:最大外転努力時に眼瞼裂が開大することがある。
  • 外転時眼振:感覚運動検査で患側注視時の外転眼振を認めることがある10)
所見特徴
偏位の増減遠見>近見、患側注視で増大
第二偏位第一偏位より大きい
外転制限部分〜完全まで多様
Q 両眼性の外転神経麻痺はどのような場合に起こるか?
A

両側性の外転神経麻痺は頭蓋内圧亢進、斜台腫瘍(脊索腫など)、髄膜炎、または髄膜浸潤を示唆する。両側例では腰椎穿刺を含む精査が推奨される10)

外転神経麻痺の原因は小児と成人で大きく異なる。

先天性

発達異常:神経細胞移動障害による先天性麻痺はまれである9)

分娩外傷:出生時の外傷が原因となることがある。

合併疾患:水頭症や脳性麻痺に関連する。

後天性

腫瘍:橋グリオーマ、髄芽腫、上衣腫が小児の主因。発症のピークは5〜8歳。

外傷:閉鎖性頭部外傷後に頭蓋内圧亢進を介して生じる。

感染・炎症:ウイルス感染後の良性再発性麻痺がある。

頭蓋内圧変動:シャント不全や特発性頭蓋内圧亢進症に続発する。

小児のウイルス感染後外転神経麻痺は再発しうる。7か月齢でCOVID-19感染後に発症し、その後胃腸炎・RSウイルス感染で2回再発した症例が報告されている1)。小児の再発性外転神経麻痺72例のレビューでは、平均発症年齢は3歳、81%が経過観察のみで完全回復した1)

小児の外転神経麻痺は成人と異なり緊急疾患として扱う必要がある。感染症を除けば脳腫瘍が原因のほとんどを占めるためである。先天疾患(デュアン症候群等)との鑑別が重要であり、複視を訴えられる年齢であれば複視の自覚、あるいは突然生じた頭位異常(代償頭位)が後天性を示唆する所見となる。

  • 微小血管虚血:糖尿病・高血圧を背景とし、最も頻度が高い。多くは6か月以内に自然回復する10)
  • 外傷:錐体尖部での神経走行が脆弱なため外傷を受けやすい。
  • 腫瘍:頭蓋底腫瘍(斜台髄膜腫、脊索腫、上咽頭癌、転移性腫瘍)が原因となる3)6)
  • 脱髄疾患多発性硬化症の初発症状として孤立性外転神経麻痺を呈することがある2)
  • 炎症性疾患:下垂体炎が両側性外転神経麻痺を呈した症例が報告されている7)
  • 傍腫瘍症候群:抗Hu抗体・抗CV2抗体陽性の傍腫瘍症候群で外転神経麻痺が初発症状となりうる8)

15〜50歳の孤立性外転神経麻痺の病因は、血管障害29%、腫瘍16%、多発性硬化症12%、炎症8%、外傷6%と報告されている3)

  • 核性病変:橋の外転神経核が障害される。同側顔面神経(第VII脳神経)の経路が近接するため、顔面神経麻痺を伴いやすい10)
  • 線維束性病変フォヴィル症候群(橋被蓋損傷)やミラール・ギュブレール症候群(橋腹側損傷)を生じる。
  • くも膜下腔〜ドレロ管:頭蓋内圧変動で牽引される。非局在性徴候として出現する。
  • 海綿静脈洞:腫瘍浸潤や内頚動脈瘤、頚動脈海綿静脈洞瘻で障害される5)。同側ホルネル症候群の合併は後方海綿静脈洞病変に局在価値が高い5)

外転神経麻痺の診断は臨床検査が基本となる。患眼の外転不全と非共同性内斜視が確認できれば臨床的に診断しうる。

  • 視力屈折検査:基礎データとして必須。
  • 眼球運動評価:単眼運動(ductions)と両眼運動(versions)を評価する。側方注視時のサッケード速度低下が診断の補助となる。小児では外転制限の有無の確認が難しいことがあり、「人形の目現象」を用いて確認するとわかりやすい。検者が外転位側に回り込んで観察する方法が有用である。
  • 斜視測定:遠見・近見、9方向眼位での偏位量を測定する。遮閉試験でも検出可能である。
  • 融像幅測定:両眼視機能の評価に用いる。
  • 眼底検査:うっ血乳頭の有無を確認し、頭蓋内圧亢進の評価に用いる。

ガドリニウム造影MRIが最も有用な画像検査である。

以下の場合にMRIが推奨される。

  • 50歳未満の患者10)
  • 疼痛や他の神経学的異常を伴う場合
  • 癌の既往がある場合
  • 両側性外転神経麻痺
  • うっ血乳頭を認める場合
  • 3か月経過しても改善がない場合

血管障害リスクを持つ高齢患者でも、4〜6週間で改善がなければ画像検査を考慮する10)

  • 血算、血糖値、HbA1c
  • 赤沈、CRP
  • 梅毒血清検査(FTA-ABS)
  • ライム病抗体価
  • 巨細胞性動脈炎が疑われる場合は赤沈・CRPを緊急で確認する

頭蓋内圧亢進徴候がある場合は、画像検査に引き続き腰椎穿刺を行い、開放圧測定と髄液分析(感染性・炎症性・癌性髄膜炎の評価)を実施する10)

外転制限を呈する他の疾患との鑑別が重要である。

鑑別疾患鑑別のポイント
デュアン症候群内転時の眼瞼裂狭小
甲状腺眼症眼球突出、炎症所見
重症筋無力症易疲労性、変動する複視

デュアン症候群は外転神経核の形成不全による先天性疾患で、内転時の眼瞼裂狭小化と眼球後退が特徴である。外転神経麻痺ではこれらを認めない。Fisher症候群では外眼筋麻痺に加え失調・腱反射消失を3徴とし、GQ1b抗体が90%の症例で陽性となる。

Q 小児の外転神経麻痺でまず疑うべき原因は何か?
A

小児では腫瘍と外傷が最も重要な原因である。特に橋グリオーマは小児脳腫瘍の代表であり、外転神経麻痺に運動失調や歩行障害を伴う場合は早急にMRIが必要となる。良性再発性外転神経麻痺は除外診断である。

外転神経麻痺の治療は原因疾患の治療が最優先である。

微小血管虚血による外転神経麻痺は、3〜6か月以内に自然回復することが多い10)。約3分の1は8週間以内に回復し、6か月で回復がなければ約40%に重篤な基礎疾患が見つかる。小児のウイルス感染後の良性例でも経過観察が基本となる。

  • 遮閉療法:バンガーターフィルターやパッチで患眼または健眼を遮閉し、複視を解消する。小児では弱視予防のための交代遮閉も考慮する。ただし、複視や代償頭位を避けるために片眼を終日遮閉することは遮閉弱視を招くおそれがあり禁忌である。眼鏡を嫌がる小児では、麻痺眼もしくは非優位眼の抑制による弱視を予防するために、健眼(優位眼)に1日1〜3時間の遮閉または交代遮閉を行う。
  • プリズム療法:フレネル膜プリズムまたはプリズム眼鏡による眼位矯正で、できるだけ両眼視できる状況を維持する。ただし偏位の非共同性のため、効果は限定的である。軽度の外転神経麻痺ではプリズム眼鏡で対応可能である。

患眼の内直筋へのボツリヌス毒素注入は、内直筋の二次的拘縮を予防する目的で用いられる。手術までの一時的治療としても使用される。

6か月以上にわたり視能矯正学的測定値が安定した持続例に対して斜視手術を行う。手術に先立ち牽引試験で制限の有無を評価する。

外直筋機能残存

後転・短縮術(R&R法):患眼の外直筋短縮術と同側内直筋後転術の併用が標準である。

対側内直筋後転術:患眼外直筋短縮術と対側内直筋後転術の組み合わせも選択肢となる。

外直筋機能消失

移行術:全筋腹移行術、Jensen法、Hummelsheim法などが検討される。

上直筋移行術:上直筋移行術と内直筋後転術の併用は、内斜視・頭位・外転の改善に有効である。

6. 病態生理学・詳細な発症機序

Section titled “6. 病態生理学・詳細な発症機序”

外転神経は橋背側の外転神経核に起始する。核には外直筋を支配する運動ニューロンと、対側の動眼神経核へ内側縦束を介して信号を送る介在ニューロンが含まれる。この回路により、水平共同運動(saccade)が制御される9)

外転神経(第6脳神経)は後脳に起始し、腹側に走行して外直筋を支配する9)。その走行は以下の通りである。

  1. 橋背側の核から腹側に向かい、橋延髄境界で脳幹を出る
  2. くも膜下腔を長く走行する
  3. 側頭骨錐体尖でドレロ管(錐体床突起靭帯下の骨線維性管)に固定される
  4. 海綿静脈洞内を通過する(他の脳神経と異なり静脈洞内を走行する)
  5. 上眼窩裂からジン腱環を経て外直筋に到達する

ドレロ管での固定が頭蓋内圧変動時の脆弱性の原因となる。頭蓋内圧が亢進すると、脳が下方に偏位し外転神経がドレロ管で牽引される。このため外転神経麻痺は頭蓋内圧亢進の非局在性徴候(false localizing sign)として出現する。

微小血管性外転神経麻痺は自己限定的であり、剖検例は極めて少ない。わずかな剖検所見では、広範な脱髄領域、神経鞘の断片化、および神経栄養血管(vasa nervorum)における血管壁の肥厚と硝子化が確認されている。

先天性頭蓋神経運動異常症との関連

Section titled “先天性頭蓋神経運動異常症との関連”

先天性の外転神経異常は先天性頭蓋神経運動異常症(CCDD)の一群に含まれる9)。先天性頭蓋神経運動異常症は運動ニューロンの特定化障害、または軸索の成長・ガイダンス異常の2つの機序で発生する。デュアン症候群は外転神経核の形成不全が原因であり、最も頻度の高い先天性頭蓋神経運動異常症で約1,000人に1人にみられる9)。SALL4遺伝子のハプロ不全は外転神経核の発達を障害し、常染色体優性のDuane-radial ray症候群を引き起こす9)。Moebius症候群は第6脳神経と第7脳神経が障害され、外転制限と顔面筋力低下を呈する9)

COVID-19に関連する外転神経麻痺には3つの機序が推定されている1)

Baldwinら(2024)は、COVID-19関連の孤立性外転神経麻痺19例を解析した1)。全身症状発症から外転神経麻痺までの潜伏期間の中央値は6日、回復までの中央値は30日であった。発症までの潜伏期間が長いほど回復に時間を要する相関(R²=0.401, p=0.010)が認められた。

  • 炎症仮説:自己免疫機序による神経障害。分子擬態の関与が示唆される。
  • 凝固異常仮説:血管内皮障害による微小血管虚血。
  • 直接障害仮説:ウイルスの中枢神経系直接侵入。剖検例の53%で脳神経にウイルスタンパクが検出されている1)

7. 最新の研究と今後の展望(研究段階の報告)

Section titled “7. 最新の研究と今後の展望(研究段階の報告)”

多発性骨髄腫による外転神経麻痺

Section titled “多発性骨髄腫による外転神経麻痺”

頭蓋内形質細胞腫はまれであり、全頭蓋内腫瘍の1%未満を占める。斜台や側頭骨錐体部に発生し、ドレロ管近傍の外転神経を圧迫する。

Thalambeduら(2023)は、中枢神経系多発性骨髄腫による外転神経麻痺の2症例を報告し、過去の文献28例をレビューした6)。新規診断例・再発難治例の双方で発症し、症状出現から診断までの期間は数日〜数か月と幅があった。治療は手術・放射線・化学療法の組み合わせで行われ、症状改善が得られた。

上咽頭癌は東南アジアで高頻度であり、孤立性外転神経麻痺を初発症状とすることがある。

Lekskulら(2021)は、孤立性外転神経麻痺を初発とした上咽頭癌5例を報告した3)。50歳未満2例、50歳以上3例で、うち1例は血管リスク因子を有していた。MRIでは斜台・ドレロ管・海綿静脈洞への腫瘍浸潤が確認された。化学放射線療法により4例で眼球運動の改善を認めた。

Singhら(2021)は、乳癌の海綿静脈洞転移により孤立性外転神経麻痺を初発症状として呈した40歳女性を報告した4)。造影MRIで海綿静脈洞外壁〜錐体尖に20mm×10mmの造影病変を認めた。

頚動脈海綿静脈洞瘻と複合病変

Section titled “頚動脈海綿静脈洞瘻と複合病変”

Yuanら(2022)は、頸動脈海綿静脈洞瘻による外転神経麻痺と同側ホルネル症候群の合併3例を報告した5)。両者は同時に発見される場合と順次出現する場合がある。頸動脈海綿静脈洞瘻修復後、外転神経麻痺は良好に回復するが、ホルネル症候群は持続する傾向がある。

Q 外転神経麻痺が自然に治らない場合はどうなるのか?
A

6か月以上改善がない場合は、重篤な基礎疾患の可能性があるため画像検査による精査が必要である。眼球運動が安定した段階で斜視手術が検討される。詳細は「標準的な治療法」の項を参照。


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