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眼科縫合糸の包括的ガイド

眼科手術において縫合糸の選択は手術成功の鍵の一つである。縫合糸とは「組織を正しい位置に整復し、創傷治癒が完了するまでずれが生じないように安定に保つための方法」であり、その役割は創面の保持と治癒の促進にある。

近年は手術の無縫合化や小切開化が進んでおり、縫合糸が必要とされる場面は限定されつつある。無縫合の強角膜創・生体接着剤・眼内タンポナーデなどは縫合の目的を別の手段で達成する手技である。しかし複雑な外傷や特定の内眼手術では、適切な縫合糸の選択と縫合技術が術後予後を左右する。

眼科手術で用いられる縫合針のほとんどは無孔縫合針(糸と針が一体化したタイプ)である。有孔針は通糸の際の組織傷害が大きいためほとんど用いられない。

糸の太さの規格はUSP(アメリカ合衆国薬局方)に準拠する。数値が大きくなるほど糸は細くなり(0-0が最太、11-0が最細)、縫合糸の長さは約15〜45インチが一般的である。

Q 吸収糸と非吸収糸はどのように使い分けるのか?
A

吸収糸(代表:バイクリル®)は数週間で張力を失い、約2か月で体内に吸収される。一時的な創保持が目的の縫合(斜視手術・硝子体手術など)に用いる。非吸収糸(ナイロン・ポリプロピレン)は長期間の張力維持が必要な角膜移植・強膜縫合・眼内レンズ縫着術に用いる。

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Yang Sun et al. Application of sutureless corneal incision for patients with congenital ectopia lentis - Is it feasible, effective and safe?. International Journal of Medical Sciences. 2024 May 30; 21(8):1541. Figure 1. PMCID: PMC11186419. License: CC BY.
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縫合針の断面形状は組織特性と創傷目的に応じて選択する。

丸針

用途:軟らかい組織で傷害を最小限にしたい場合。

代表的使用場面緑内障濾過手術結膜縫合、血管縫合。

角針

用途:先端が三角形の切り込みをもち、硬い組織を貫通する。

代表的使用場面:眼瞼皮膚縫合。

ヘラ型針

用途:先端が平たく水平方向の切り込み。角針に比べ組織損傷が少ない。

代表的使用場面:強膜バックリング手術・斜視手術での強膜通糸。

逆梯型針

用途:台形を逆にした断面。強角膜への通糸に適する。

代表的使用場面:強角膜縫合・角膜縫合。

縫合糸は材質と吸収性の組み合わせで選択する。下表に主要な縫合糸の特性と使用場面を示す。

材質吸収性主な用途
ナイロン非吸収角膜移植・白内障・緑内障・硝子体・眼瞼
バイクリル®吸収(約2か月)硝子体手術創・外眼筋縫合
シルク非吸収結膜縫合・牽引糸
バージンシルク非吸収結膜縫合(シルクより組織反応少)
プロリーン®非吸収眼内レンズ縫着・虹彩縫合
ポリエステル非吸収バックル材縫着

各材質の詳細を以下に示す。

  • ナイロン:合成モノフィラメント非吸収糸。組織反応がきわめて少なく、角膜移植など長期間の組織内留置が可能。白内障手術の強角膜縫合・角膜移植の角膜縫合・緑内障手術の結膜縫合・硝子体手術の強角膜創縫合・眼瞼皮膚縫合に使用。
  • ポリグラクチン910(バイクリル®):合成素材の編み糸、吸収糸。8-0の場合、張力は2週間後で75%・3週間後で40%・4週間後で25%と減弱し、約8週間(約2か月)で加水分解により吸収。シルクより組織反応は弱いがナイロンより強い。硝子体手術の強角膜創縫合・斜視手術の外眼筋縫合に使用。
  • シルク:天然繊維の非吸収糸。異種蛋白に対する組織反応あり。結膜縫合・牽引糸に使用。
  • バージンシルク:撚り糸の非吸収糸。シルクに比べ組織反応が弱い。結膜縫合に使用。
  • ポリプロピレン(プロリーン®):合成モノフィラメント非吸収糸。抗張力が強く安定。組織反応が非常に少ない。強く縫合すると乱視を惹起しやすいため注意を要する。眼内レンズ縫着術・虹彩縫合に使用。
  • ポリエステル(ダクロン®):合成素材の編み糸、非吸収糸。生体内で安定し長期間抗張力を維持する。バックル材料の縫着に使用。

縫合糸の選択には以下の因子を考慮する。

  • 創面に加わる外力の強さ
  • 瘢痕形成を促したいのか組織反応を最小にしたいのか
  • 縫合糸が創面を保持する必要がある期間
  • 組織が繊細であるほど・創傷張力が少ないほど・瘢痕化を最小にするほど、より細い糸が必要
Q ナイロン糸を結膜縫合に使うと問題があるか?
A

結膜縫合にナイロンを用いると術後に異物感を起こしやすいため推奨されない。結膜縫合にはバイクリル®(8-0など)の吸収糸か、バージンシルクを使用するのが一般的である。

手術種類ごとの縫合糸の選択と使い方を示す。下表に代表的な組み合わせを整理する。

手術使用糸太さの目安
白内障(創閉鎖)ナイロン10-0
硝子体手術(創閉鎖)バイクリル®8-0
緑内障(強膜弁)ナイロン10-0
強膜バックリング(バックル固定)ポリエステル5-0
眼内レンズ縫着プロリーン®9-0または8-0
角膜縫合・角膜移植ナイロン10-0
斜視手術(外眼筋)バイクリル®6-0

基本的に無縫合で創の自己閉鎖が得られる。早期穿孔や房水漏出を認める場合は10-0ナイロンで縫合する。小児は組織が柔らかく自己閉鎖しにくいため、縫合が必要となる場合が多い。

周辺部硝子体を郭清した場合など、創から漏出を認める場合は8-0バイクリル®で縫合する(2-1の結紮で十分)。25Gや27Gの極小切開では縫合不要である。

強膜弁は10-0ナイロン(角針)で全層縫合する。縫合の強さにより房水漏出量をコントロールするため、術後の眼圧管理に直結する重要な手技である。結膜は10-0ナイロン(丸針)で縫合する。輪部からの房水漏出には、compression suture(10-0ナイロン、角針)を用いる。

強膜バックリング手術(強膜内陥術)

Section titled “強膜バックリング手術(強膜内陥術)”

4-0シルクで直筋を確保したうえで、5-0ポリエステルで強膜2/3層に通糸する。

ポリプロピレン(プロリーン®)を使用して眼内レンズを強膜に縫合する。9-0または8-0のプロリーン®糸を使用する。10-0ポリプロピレン糸劣化による眼内レンズ脱臼が報告されており、9-0ポリプロピレン糸は10-0ポリプロピレン糸の約2倍の強度をもつことから9-0の使用が推奨される。

Q 眼内レンズ縫着術で9-0ポリプロピレン糸が推奨される理由は?
A

10-0ポリプロピレン糸の劣化による眼内レンズ脱臼が報告されており、9-0ポリプロピレン糸は10-0ポリプロピレン糸の約2倍の強度をもつことが使用推奨の根拠である。長期間の強膜内留置が必要なため、糸の強度安定性は重要である。

10-0ナイロンを使用する。糸を締めすぎると容易に角膜乱視・不正乱視を生じるため注意を要する。バイトを長めにとり、角膜辺縁が隆起しない程度の強さで縫合する。全層角膜移植では抜糸まで6か月〜1年を要する。縫合糸の緩みや断裂は角膜上皮障害・感染・拒絶反応の誘因となり、晩発性感染の半分以上が縫合糸に起因するとされる。

原則として輪部付近の縫合を8-0や9-0ナイロンで先に行い、後極側に追加する。強膜裂傷では6-0ポリエステルで強度を確保し、間を8-0バイクリル®で縫合する方法がある。強膜縫合にはナイロンを好む術者とバイクリル®を好む術者に分かれ、糸の太さは6-0〜8-0が使用される。

6-0バイクリル®で外眼筋を強膜に縫合する。

10-0ナイロンは3-1-1、8-0バイクリル®は2-1-1あるいは2-1で十分な結紮強度が得られる。

縫合の深さと長さは「deep & short」が基本原則である。組織内で糸が深く・幅を短くとることで創の確実な把持と正確な整復が得られる。

  • 端々縫合:縫合糸は円形になろうとする力が働く。正円形の運針が理想であり、創に対して垂直方向に針を当て、スムーズな回転運動で運針する。
  • 連続縫合:縫合糸は一直線になろうとする力が働く。V字を連ねた運針が理想であり、各縫合が等間隔になるように注意する。

針の後方より1/3程度のところ(針先から2/3程度の位置)を持針器で把持する。針先には触れない(切開能が低下するため)。後端のswage部を持つと針が変形するため避ける。

縫合糸の緩みには以下の3つの主要原因がある。

  • 縫合のゆるさ:もともと縫合が緩い、あるいは隣接する縫合糸とのバランスが悪い場合。
  • チーズワイヤー現象:縫合が浅い場合や組織が脆弱な場合、糸の張力で組織が切れてしまう現象。
  • 炎症導管の発生:縫合糸周囲の炎症による組織軟化により、糸が組織内を移動する。

組織別の抜糸時期を下表に示す。組織の血管密度と治癒速度の違いにより大きく異なる。

組織抜糸時期の目安
眼瞼皮膚約1週間
結膜2〜3週間
強角膜創・表層角膜移植1〜3か月
全層角膜移植6か月〜1年

眼瞼皮膚は血管が豊富で治癒が早いため約1週間で抜糸できる。全層角膜移植は無血管組織であるため治癒に長期間を要し、6か月〜1年の留置が必要である。

Q 抜糸の時期は組織によってどのくらい異なるのか?
A

組織の血管密度と治癒速度によって大きく異なる。眼瞼皮膚は約1週間と最も短いのに対し、全層角膜移植では6か月〜1年と最も長い。強角膜創・表層角膜移植は1〜3か月が目安である。


5. 最新の研究と今後の展望(研究段階の報告)

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Hanの総説(2025)は103論文を分析し、次世代縫合糸の4つの先端特性(抗菌性・薬剤送達・生分解性・創傷再生)と2つの製造技術(エレクトロスピニング・3Dプリンティング)を体系的にレビューした1)

Han(2025)はナノシルバー粒子コーティング・curcumin@ZIF-8コーティング・再生シルクフィブロインとTiO2の内部複合化など、抗菌性縫合糸の多様なアプローチを整理した1)。これらは黄色ブドウ球菌や大腸菌に対する優れた抗菌活性を示す。

  • 抗菌性縫合糸:ナノシルバー粒子やcurcumin@ZIF-8などのコーティングにより、縫合部位の術後感染リスクを低減することが期待される1)
  • 薬剤送達縫合糸:ナノファイバーベースのポリカプロラクトン縫合糸はレボフロキサシン8%を搭載しても強度低下がなく、マウス眼で30日間の抗菌薬投与が可能であり、細菌性角膜炎モデルでの眼感染症予防が報告されている(Parikh et al.)1)。従来のモノフィラメント縫合糸は薬剤担持により強度が50%以上低下するとされる。
  • 生分解性縫合糸:天然吸収糸はタンパク質分解で、合成吸収糸は加水分解で分解する。PLAベースの生分解性縫合糸の開発が進んでいる1)
  • 創傷再生縫合糸:バイオアクティブガラス/酸化グラフェンコーティング縫合糸・活性酸素種スカベンジング縫合糸などが線維芽細胞の付着・増殖を改善し、血管新生増殖因子の分泌を促進するとされる1)
  • エレクトロスピニング:ナノファイバーの高い比表面積を利用して抗菌活性物質を担持し、生分解性も付与できる製造技術である1)
  • 3Dプリンティング:コンピュータ設計による構造最適化とバイオミミクリー(生体模倣)の応用が検討されている1)

  1. Han H-R. Antibiotic Action, Drug Delivery, Biodegradability, and Wound Regeneration Characteristics of Surgical Sutures and Cutting-Edge Surgical Suture Manufacturing Technologies. J Funct Biomater. 2025;16(4):135.

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