静的立体視
定義:視差が時間的に変化しない立体視。
測定ツール:Titmus・TNO・Lang・Frisby・Randotなど多くの検査が対応。
用途:基本的な立体視能力の定量評価。

立体視(stereopsis)は、視覚対象が左右の網膜に投影されたときに生じる像の水平方向のずれ(両眼視差)を脳が検出して奥行きに換算する機能である。両眼視差の再構成によって奥行き知覚を得る、両眼視の最上位機能に位置づけられる。
語源はギリシャ語で「立体(solid)」と「視力(power of sight)」に由来する。1830年代後半、Charles Wheatstoneが両眼視差の概念を提唱し、両眼を空間内の一点に固視すると近く・遠くの物体が網膜上の異なる位置に像を結ぶことを示した。
両眼視の3段階構造として、同時視(simultaneous perception)→融像(fusion)→立体視(stereopsis)の順に成立する。立体視は融像が成立して初めて獲得できる。
立体視の精密さは秒角(seconds of arc)で定量化される。360°→各度60分角→各分60秒角という関係であり、値が小さいほど精密である。正常な立体視がある場合、10m先の8cmの奥行き差を見分けられるほど精密な奥行き知覚が可能である。
立体視と日常の遠近感の違いについても整理が必要である。立体視は両眼の情報処理によって得られる感覚であるが、いわゆる立体感は片眼の奥行き手がかり(透視図法・大きさ・テクスチャなど単眼性手がかり)でも成り立つ。立体視を獲得できていなくても世界が平面的に見えるわけではなく、日常動作に大きな支障をきたすことは少ない。
発達と臨界期については以下の通りである。立体視は出生時には存在せず、眼位が安定する生後3ヶ月頃から発達を開始する。感受性は生後6ヶ月〜1歳で最大となり、15歳頃に感受性が消失する。細かい立体視(fine stereopsis)の獲得には生後数週間〜遅くとも数ヶ月以内の眼位矯正が必要であり、それ以降2歳前後までの手術では粗い立体視(coarse stereopsis)しか獲得できない。
立体視がなくても、透視図法や大きさの変化など単眼性手がかりによって奥行き知覚は可能であるため、日常動作に大きな支障をきたすことは少ない。ただし10m先の8cmの差を識別するような精密な奥行き知覚は立体視でのみ可能であり、球技のキャッチや精密な作業に困難を感じる場合がある。
正常な両眼視機能が成立するためには、以下の3条件が必要とされる。
これらを阻害する以下の要因が立体視欠損の主な原因となる。
生後8年間の視覚中断は、重症度・期間にかかわらず視覚認知の発達を妨げる可能性がある。この時期を過ぎて起こった視覚中断では立体視は失われないが、適応的変化が生じる。
立体視は生後3ヶ月頃から発達を開始し、6ヶ月〜1歳で感受性が最大となる。細かい立体視の獲得には生後数週間〜数ヶ月以内の眼位矯正が必要であり、それ以降では粗い立体視しか獲得できない場合がある。視力の臨界期は8歳まで(実臨床では10歳前後まで改善の可能性)だが、両眼視機能の感受性期は立体視・視力よりも早期に終了する。
立体視検査はすべて自覚的検査であり、被検者の反応を正しく判定するには正常・異常両眼視機能の理解と各検査法の特性把握が不可欠である。
検査条件の選択原則:融像は部屋が暗くなるほど困難になる。抑制は日常視に近いほどかかりやすく、日常視から離れるほどかかりにくい。「日常視での両眼視状態を知りたいのか、潜在的な両眼視能力を知りたいのか」によって検査方法・条件を変える必要がある。また感覚機能検査は解離検査(遮閉試験など)の前に行うべきである。
立体視検査は静的検査と動的検査に大別される。さらに静的検査は両眼分離法によって偏光方式・赤緑方式・実在立体法・円柱回折法・分離眼鏡なしに分類される。
主要な近見立体視検査の概要は以下の通りである。
| 検査名 | 分離法 | 視差範囲(秒角) | 適応年齢 | 特徴 |
|---|---|---|---|---|
| Titmus stereo test | 偏光 | 40〜3,000″ | 2歳〜 | 最も一般的。偽陽性あり |
| TNO stereo test | 赤緑 | 15〜480″ | 2.5歳〜 | 偽陽性なし。高度な立体視判定に優れる |
| Frisby stereo test | なし(実在立体) | 20〜600″ | 3歳〜 | 日常視に最も近い |
| Lang stereo test | 円柱回折 | 200〜1,200″ | 2歳〜 | 眼鏡不要。スクリーニング向き |
| Randot stereo test | 偏光 | 20〜500″ | 2歳〜 | random dot。偽陽性が少ない |
最も一般的に使用される近見立体視検査である。偏光眼鏡で両眼を分離し、比較的日常視に近い状況で検査できる。検査距離40cm・完全矯正下で実施する。
構成と手順は以下の通りである。
solid patternのため単眼手がかりによる偽陽性が起こり得る点が欠点である。訴えが曖昧なときは眼鏡を裏返してかけさせ奥行き知覚の有無を確認する。Fly下のR/LおよびCircle(1)を用いて抑制の検出も可能である。
Random dot patternを用いた近見立体視検査である。赤緑眼鏡で両眼を分離する。日常視とはかけ離れており、抑制がかかりやすい条件での検査となる。検査距離40cm・完全矯正下で実施する。
最大の特長は単眼手がかりによる偽陽性がない点であり、TNO stereo testの成績が良好であれば高度な立体視機能を有すると判定できる。
シートに回折格子(レンチキュラー)が埋められた近見立体視検査である。検査眼鏡なしで実施可能であり、2歳前後の低年齢でも検査できる。3歳児検診・学校検診のスクリーニングとして広く活用されている。
random dot patternだが、プレートを傾けると単眼手がかりが見えてしまう欠点がある。プレートは必ず正面で被検者に提示する。
透明プラスチックプレート2枚を使用する。前面に1つ・後面に3つの同じ模様が印刷されており、プレートの厚みそのものが視差となる。3種類の異なる厚さ(6mm・3mm・1.5mm)のプレートがあり、検査距離を変えることで視差を変えることも可能である。検査眼鏡を使用せずに実在の立体物で検査するため、日常視に最も近い立体視評価が可能である。適応年齢3歳〜、立体視差度600〜20秒、検査距離30〜80cm。
なお、これら実用検査は訓練によって検査にパスすることが可能なため、厳密な立体視機能の測定よりも近見の奥行き知覚を大まかに評価するものとして位置づける。
Titmusは偏光方式でsolid patternのため単眼手がかりによる偽陽性が起こり得る。TNOは赤緑方式でrandom dot patternのため偽陽性がなく、TNOの成績が良好であれば高度な立体視機能を有すると判定できる。日常視に近い条件での評価にはTitmus、立体視機能の厳密な定量にはTNOがそれぞれ適している。
立体視欠損そのものを直接治療する標準的治療法はなく、原因疾患の治療が基本となる。
脳は両眼視差を検出し、視差選択性ニューロンを刺激して活動電位の発生頻度を高め、2つの画像間の関係を符号化する。
**ホロプター(単一視軌跡)**は、注視点とほぼ同じ奥行きにあり両眼の網膜対応点に投影される点の集合である。幾何学的ホロプターと経験的ホロプターが存在する。ホロプター上の点は対応する網膜対応点に投影されるため単一に見えるが、ホロプターから外れると両眼視差が生じる。
Panum融像圏は、ホロプターからわずかにずれた物体が生じる視差に対し、複視を生じることなく融像が成立する領域である。Panum融像圏内の視差は立体視に変換され、圏外の大きな視差は複視となる。
網膜対応点については、両眼の中心窩が共通の視方向を持ち、中心窩から等距離にある耳側網膜点と他眼の鼻側網膜点が対応する。中心窩融像で精密な立体視が、周辺融像でおおまかな立体視が成立する。
静的立体視
定義:視差が時間的に変化しない立体視。
測定ツール:Titmus・TNO・Lang・Frisby・Randotなど多くの検査が対応。
用途:基本的な立体視能力の定量評価。
動的立体視
定義:視差が時間的に変化する(視標が動く)立体視。
測定ツール:三杆法、3D multi vision tester。
用途:実際の動作環境における奥行き知覚の評価。
正常な両眼視機能は「抑制がなく同時視が可能で、正常融像を有し、60″未満の両眼視差を検出して立体視が得られること」と定義される。
運動性融像の正常値:輻湊方向25°・開散方向5°・上下方向1〜2°・回旋方向8°程度。
融像域の正常値(大型弱視鏡):水平-4〜+25°・上下方向1〜2.5°・回旋方向6〜10°。
視力差が脳での克服限界を超えると、脳は悪い方の眼を抑制する。これにより立体視は失われるが、複視からは保護される。抑制は独立した修正可能なパラメータとみなされており、抑制の低減が立体視改善につながる可能性が注目されている。
片眼のみでも奥行き知覚が成立する手がかりとして以下がある。透視図法・大きさ・順序(重なり)・テクスチャの変化と勾配・デフォーカス・色・霞・相対的な大きさなどである。これらは有用であるが、錯視の影響を受けやすいという特性がある。
Li et al.(2024)は、正常視力の若年成人40名(全員非ゲーマー)を対象としたランダム化比較研究を実施した1)。3DVG群(21名)はPlayStation 3Dファーストパーソンシューターゲームを合計40時間(2時間×20セッション、4〜5週間)プレイし、2DVG群(19名)は同一ゲームの2Dモードで同時間プレイした。32インチアクティブ3Dテレビ(240Hzリフレッシュレート)を使用し、3DVG群のみアクティブシャッター3Dメガネを着用した。
結果、3DVG群で立体視が33%向上(改善率26.6±4.8%)し、2DVG群では有意な変化がなかった(改善率1.8±3.0%)。統計解析では二元配置反復測定ANOVA F=17.621, p<0.001、3DVG群の改善 Bonferroni t=5.544, p<0.001であった1)。ベースラインの立体視閾値が高い参加者ほど改善幅が大きい傾向があった。両眼コントラスト感度には有意な変化がなく(F=0.423, p=0.524)、立体視特異的な向上であることが示された。
先行研究として、弱視成人での3Dビデオゲームによる視力・立体視改善の報告がある(Li et al. 2011, 2018)。本研究の臨床的示唆として、両眼視異常を有する患者の立体視向上に3Dビデオゲーム訓練が有用である可能性が提唱されている1)。
抑制をターゲットとした**両眼治療(dichoptic treatment)**は、弱視眼機能を両眼視条件下で改善するアプローチとして研究されている。また、Ding & Levi(2011)は両眼視異常の成人で知覚学習による立体視回復を報告しており、臨界期以降においても可塑性が残存する可能性が示されている。
Li et al.(2024)の研究では、正常成人が3Dビデオゲームを40時間プレイすることで立体視が約33%向上することが示された。ただしこれは研究段階の知見であり、標準的な医療行為として確立されているものではない。臨床応用にあたっては担当医との相談が必要である。