矩形波状振動
矩形波様律動(SWJ):固視中の水平共同性サッケード(典型的に<2°)。上丘・omnipauseニューロン・小脳室頂核の機能不全による。2)
大矩形波眼球運動(MSWJ):振幅>5°。小脳疾患・PSP・MS・水頭症で生じる。サッケード間に短い休止期を伴う。1)
マクロサッケード振動:固視点を中心にクレッシェンド・デクレッシェンドパターンで振動。小脳室頂核/虫部の障害による。2)

サッケードは、注視点を視界の一方から他方へ急速に移動させる同向性眼球運動(conjugate eye movement)である。テキストを読む際の眼球移動や眼振の急速相、REM睡眠中の眼球運動がその例である。
中心窩は直径約1.0 mm(視角約3°)の領域で、錐体視細胞が最高密度に分布する。サッケードで視線を急速移動させることにより、周囲環境をすばやく評価することが可能になる。
以下のパラメータが臨床評価に用いられる。
| パラメータ | 内容 |
|---|---|
| 振幅 | 眼球移動の角度(°) |
| 潜時 | 刺激提示からサッケード開始までの時間(約200 ms) |
| ピーク速度 | 15°で約300〜350°/秒、35°で約475〜525°/秒 |
| 持続時間 | 振幅と線形関係。振幅と速度も線形関係にある |
| ゲイン | 実際の振幅/目標振幅の比 |
サッケード開始には約200ミリ秒を要し、最大速度は約700°/秒に達する。開始後は軌道が固定され、飛行中の修正はできない(弾道学的性質)。
ピーク速度は振幅に依存し、15°のサッケードで約300〜350°/秒、35°で約475〜525°/秒、最大で約700°/秒に達する。振幅と速度の間には線形関係がある。
サッケード異常自体は患者が自覚しにくいことが多い。以下の症状で気づかれる場合がある。
サッケード侵入は眼振と異なる異常眼球運動である。眼振は緩徐相ドリフトが一次的に生じるのに対し、サッケード侵入は急速眼球運動が一次的に生じる。2)
矩形波状振動
矩形波様律動(SWJ):固視中の水平共同性サッケード(典型的に<2°)。上丘・omnipauseニューロン・小脳室頂核の機能不全による。2)
大矩形波眼球運動(MSWJ):振幅>5°。小脳疾患・PSP・MS・水頭症で生じる。サッケード間に短い休止期を伴う。1)
マクロサッケード振動:固視点を中心にクレッシェンド・デクレッシェンドパターンで振動。小脳室頂核/虫部の障害による。2)
正弦波状振動
眼球フラッター(ocular flutter):水平方向の高頻度サッケードバースト。サッケード間に休止期がない。PPRF・小脳室頂核の障害。傍腫瘍症候群・ウイルス性脳炎で生じる。2)
オプソクローヌス:多方向性の不規則・高頻度サッケード。サッケード間に休止期がない。opsoclonus-myoclonus症候群(小児の神経芽細胞腫)が代表的。2)
サッケードパルス:固視点から短いサッケード後、直ちに修正サッケードを生じる。SWJとの違いはサッケード間の休止期がない点。2)
SWJはサッケード侵入であり、急速眼球運動が一次的に固視点からの逸脱を引き起こす。眼振は緩徐相ドリフトが一次的であり、急速相はその修正運動である。SWJには律動性があるが、緩徐相ドリフトを伴わない点が眼振との鑑別点となる。2)
サッケード異常は多様な神経疾患の症候として現れる。以下に代表的な疾患と異常パターンを示す。
| 侵入の種類 | 代表的原因疾患 |
|---|---|
| SWJ | パーキンソン病・PSP・小脳性失調・MS・傍腫瘍性脳炎 |
| マクロサッケード振動 | 脊髄小脳変性症・小脳腫瘍・遺伝性小脳変性症 |
| サッケードパルス | 中毒性/代謝性脳症・MS・脳幹病変 |
| 眼球フラッター | 傍腫瘍性(抗Ri)・MS・ウイルス性脳炎後 |
| オプソクローヌス | OMS・神経芽細胞腫(小児)・抗Hu・抗Ri脳炎 |
垂直サッケードの緩徐化はPSPの早期所見であり、眼筋麻痺に先行することがある。ハンチントン病ではサッケード開始障害が特徴的である。SCA2では水平サッケードの緩徐化が典型的に認められる。
Termsarasabの5項目評価が基本的な枠組みとなる。
水平・垂直方向を独立して評価することが重要である。異なる疾患が各方向に独立して影響するためである。
外転サッケード速度が正常であれば、外見上の外転制限は第6脳神経麻痺ではなく見かけの外転障害(ADAD)と判断できる。5)
サッケード異常は多くの場合、基礎疾患の症候として現れる。そのため、原疾患の診断と治療が最優先となる。
各神経変性疾患・精神疾患に対する疾患固有の治療が基本である。サッケード異常への直接的な介入は二義的である。
水頭症により可逆的にMSWJが出現することがある。脳室ドレナージや VP shunt により、水頭症の改善とともにMSWJが消失する。1)
Tanakaら(2021)は、54歳男性の右視床出血・急性水頭症の症例を報告した。緊急脳室ドレナージ後にMSWJ(右方への侵入サッケード、2〜3 Hz、振幅>5°、修正潜時中央値200 ms)が出現し、day 2に水頭症改善とともに消失した。day 36にドレナージクランプ後MSWJが再出現したが、VP shunt後 day 39に再消失し、6か月後の再発はなかった。1)
サッケード侵入に対する特異的薬物療法は確立されていない。一部の眼球運動障害に対しバクロフェン・ガバペンチン・メマンチン等が試みられる。2)
正常なサッケード精度は継続的な適応プロセスの結果である。加齢や疾患による変化に対して無意識的に修正が行われる。
FEF → SC → PPRF(橋網様体傍正中核)→ 外転神経核 → MLF → 動眼神経核
外転神経核には2種のニューロンが存在する。(1)同側外側直筋を直接支配する下位運動ニューロン、(2)正中線を越えMLFに合流し、対側の内側直筋支配動眼神経核ニューロンに終止する核間ニューロンである。
FEF → SC → riMLF(内側縦束吻側間質核)→ 滑車神経核・動眼神経核 → 上斜筋・下斜筋・上直筋・下直筋
riMLFは両側の滑車神経核・動眼神経核に軸索を送る。riMLFのバーストニューロン障害によりPSP初期の下方サッケード緩徐化が生じる。Cajal間質核(iC)は上下方向の注視眼位保持に関与し、片側iC病変はocular tilt reactionをきたす。
正しいアンチサッケード生成には2つのプロセスが必要である。(1)反射的プロサッケードの抑制、(2)ターゲット鏡像位置への随意サッケードの生成。4)
サッケードはpulse-step刺激で生成される。burst neuronからの高頻度発射(pulse信号)が眼球を動かし、tonic neuronへの眼位保持刺激(step信号)で眼位を保持し、pause neuronが眼位を維持する。脳幹局所神経回路が破綻するとサッケード侵入が生じる。矩形波状振動(intersaccadic intervalあり)と正弦波状振動(intervalなし)に大別される。
第4脳室出口孔の閉塞による水頭症→第3脳室・中脳水道拡大→上丘への機械的伸展→固視ニューロン活性低下→omnipauseニューロン活性低下→MSWJ発生という経路が想定される。水頭症治療で可逆的に改善することは、機能的機序であり破壊的機序ではないことを示唆する。1)
Opwonyaら(2022)は35件の原著論文を系統的にレビューし、27件のメタアナリシスを実施した。プロサッケード潜時はAD群がMCI群より有意に延長(gap・overlap条件下)、アンチサッケードエラー率はAD群がMCI群より有意に高い(gap条件下)ことが示された。アンチサッケードパラダイムはプロサッケードよりも患者と健常者の鑑別に有効であり、特定のサッケードパラダイムと条件の選択によりMCI・AD・健常者の区別が可能であることが示唆された。眼球追跡技術は非侵襲的・安価なADバイオマーカーとしての可能性を有する。3)
Siら(2022)は、慢性アルコール使用が抑制制御の障害を引き起こすことを示した。高用量(0.8 g/kg)・低用量(0.4 g/kg)ともにアンチサッケード潜時を増加させ、速度を低下させる。アンチサッケードの抑制制御はアルコール使用障害(AUD)の初期バイオマーカーとなりうることが示唆され、VR技術・モバイルデバイスを用いたサッケード評価の可能性も論じられた。4)
アンチサッケード課題はMCI・ADの鑑別に有用であり、非侵襲的バイオマーカーとしての研究が進んでいる。3)ただし、現時点では臨床診断補助の研究段階であり、確立した標準検査として用いられているわけではない。