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神経眼科

逆相対的瞳孔求心路障害(逆RAPD)

1. 逆相対的瞳孔求心路障害(逆RAPD)とは

Section titled “1. 逆相対的瞳孔求心路障害(逆RAPD)とは”

逆RAPD試験とは、交互対光反射試験(swinging flashlight test)を行いながら、正常な(障害のない)瞳孔の散瞳を評価する手法である。

**通常のRAPD(マーカス・ガン瞳孔)**は、瞳孔経路の求心路側における病的な欠損を定義する検査所見である。両眼間の瞳孔対光反射の差として現れ、RAPDのある患者には瞳孔不同は認められない。

通常の交互対光反射試験は、反応する瞳孔(患眼の瞳孔)を観察することを前提とする。しかし一方の眼に遠心路性瞳孔障害がある場合、患眼の瞳孔が光に反応しないため、通常の手法ではRAPDを評価できない。

逆RAPD試験では健眼の瞳孔を観察し続ける。光を異常眼へスイングしたときに健眼が散瞳すれば、異常眼のRAPDを示唆する。

逆RAPD試験が必要となる遠心路性瞳孔障害の原因

  • 虹彩後癒着
  • 外傷性散瞳
  • 動眼神経麻痺
  • 薬剤性散瞳
  • 絶対性瞳孔強直(虹彩炎による虹彩萎縮、急性原発閉塞隅角緑内障、アトロピンによる括約筋麻痺など)
Q 逆RAPD試験と通常のRAPD検査はどう違うのですか?
A

通常のswinging flashlight testでは患眼の瞳孔を観察するが、逆RAPD試験では健眼の瞳孔を観察し続ける。光を異常眼にスイングしたときに健眼が散瞳すれば、異常眼の求心路障害(RAPD)の存在を示唆する。

reverse rapd posterior subcapsular cataract
reverse rapd posterior subcapsular cataract
Bilateral macular hole secondary to remote lightning strike. Indian J Ophthalmol. 2009 Nov-Dec; 57(6):470-472. Figure 2. PMCID: PMC2812771. License: CC BY.
Left eye posterior subcapsular cataract

逆RAPD自体は検査所見であり、患者の自覚症状は原因疾患に依存する。

求心路障害(RAPDの原因)に伴う症状

  • 片眼の視力低下:視神経障害や重度の網膜疾患に伴う。
  • 視野欠損:視神経症や視索病変に特徴的。

遠心路障害に伴う症状

  • 瞳孔散大:動眼神経麻痺では眼瞼下垂眼球運動障害を伴うことが多い。

臨床所見(医師が診察で確認する所見)

Section titled “臨床所見(医師が診察で確認する所見)”

以下に、求心路障害と遠心路障害の所見の違いを示す。

求心路障害(RAPD)

瞳孔不同:生じない。

swinging flashlight test:患眼に光を移すと両眼散瞳。

対光反射:直接・間接ともに減弱。

視神経炎外傷性視神経症緑内障末期、広範な網膜疾患

遠心路障害

瞳孔不同:生じる(患眼が散瞳)。

健眼に光を当てると:健眼のみ縮瞳、患眼は反応しない。

患眼に光を当てると:間接反応で健眼が縮瞳、患眼の直接反応はない。

:動眼神経麻痺、虹彩後癒着、外傷性散瞳

RAPDを引き起こす前部視路の病変

  • 視神経症(視神経炎、緑内障、圧迫、感染症)
  • 視交叉・視索・視蓋前域の病変

RAPDを引き起こす網膜・後極部の病変

  • 広範囲の網膜剥離
  • 虚血性疾患(虚血性網膜中心静脈閉塞症網膜中心動脈閉塞症
  • 重度の黄斑病変(脈絡網膜瘢痕)
  • AZOOR(急性帯状潜在性網膜外層症):検眼鏡的所見に乏しい網膜疾患でもRAPDは陽性となる。

RAPDが陽性とならない場合:白内障など中間透光体の混濁ではRAPDは陽性にならない。黄斑円孔でもRAPDは陽性とならない。

逆RAPD試験の適応となる原因(遠心路性瞳孔障害の原因)

  • 虹彩後癒着:炎症後に虹彩と水晶体が癒着した状態。
  • 外傷性散瞳:眼球打撲などで虹彩括約筋が損傷した状態。
  • 動眼神経麻痺:第3脳神経の障害。遠心路の虹彩括約筋支配が障害される。
  • 薬剤性散瞳:アトロピンなどの散瞳薬による括約筋麻痺。
  • 絶対性瞳孔強直:虹彩炎による虹彩萎縮、急性原発閉塞隅角緑内障など。

RAPD(求心路障害)の原因

  • 視神経障害:視神経炎、外傷性視神経症、圧迫性視神経症。
  • 緑内障(末期):視神経が高度に障害された段階。
  • 広範な網膜疾患:網膜剥離、網膜中心静脈閉塞症、網膜中心動脈閉塞症。
  • 重度の黄斑病変:脈絡網膜瘢痕。
  • AZOOR:急性帯状潜在性網膜外層症。
Q どのような場合に逆RAPD試験が必要になるのですか?
A

虹彩後癒着・外傷性散瞳・動眼神経麻痺・薬剤性散瞳などで片眼の瞳孔が光に反応しない場合に適応となる。これらの遠心路性瞳孔障害があっても、健眼の瞳孔を観察することでRAPDの有無を評価できる。

通常の交互対光反射試験(Swinging Flashlight Test)

Section titled “通常の交互対光反射試験(Swinging Flashlight Test)”
  • 半暗室にて患者に遠方を固視させる。
  • 明るいペンライト(または手持ちスリット灯)で真下から左右眼に交互に1〜2秒間光を当てる。
  • ペンライト程度の弱い光のほうが検出に優れる(強すぎる光より)。
  • 光を当てた眼の縮瞳が維持できずに散瞳してくる場合、RAPD陽性と判定する。
  • 光源を左右眼で同じ角度(できれば正面)から入れることが重要。斜めから当てると左右差ありと誤判定しやすい。

交互対光反射試験を行いながら、正常な(障害のない)瞳孔の散瞳を評価する。

  1. 検査中は健眼(正常眼)の瞳孔を観察し続ける。
  2. 光を健眼(例:左眼)に当てると→左瞳孔が縮瞳、固定された右瞳孔は反応しない。
  3. 光を左から右眼(異常眼)へスイング→左瞳孔(正常側)が散瞳する。
  4. この散瞳反応は右眼のRAPD(求心路障害)を示唆する。

以下に、2つの検査手技の違いを整理する。

比較項目通常のSwinging Flashlight Test逆RAPD試験
観察する瞳孔光を当てた患眼の瞳孔健眼の瞳孔
陽性所見患眼への光で両眼が散瞳患眼への光で健眼が散瞳
適応両眼の瞳孔が反応する場合片眼の瞳孔が固定されている場合
  • 健眼の前にneutral density filter(NDフィルター)を置き、swinging flashlight testを行う。
  • RAPDが消失するNDフィルターの程度でRAPDを定量化でき、治療効果の判定にも用いる。
  • 瞳孔に細隙灯の焦点を合わせて光の照度を増減することで瞳孔反応を顕微鏡で観察できる。
  • ペンライトより簡便で検出しやすい。

赤外線瞳孔計(Infrared Videopupillography)

Section titled “赤外線瞳孔計(Infrared Videopupillography)”
  • 高精度の瞳孔径計測が可能。
  • 微小な瞳孔反応の記録・左右差の有無・経過観察・治療効果判定に有用。
  • 日内変動を考慮して午前10時〜午後2時に測定する。昼食後1時間以内は避ける。

求心路障害(RAPD陽性)と遠心路障害(瞳孔不同あり)の区別が重要である。入力系障害(視神経疾患)のみでは対光反射異常が生じるが、瞳孔不同は生じない。

対光-近見反応解離を呈する疾患との鑑別として以下が挙げられる。

  • Adie症候群(緊張性瞳孔):若年女性に多く片眼性。対光反射消失だが近見反応は保たれる。
  • Argyll Robertson瞳孔:両眼性の縮瞳。対光反射消失だが近見反応保存(梅毒に関連)。
  • Parinaud症候群(中脳背側症候群):中等度散瞳。垂直性眼球運動障害を伴う。
Q 瞳孔が片方しか動かない場合でもRAPDは検査できるのですか?
A

両眼があり少なくとも1つの機能する瞳孔があれば、逆RAPD試験を用いることでRAPDの評価が可能である。健眼の瞳孔を観察し続け、光を異常眼にスイングしたときの健眼の散瞳反応をRAPDの指標とする。

逆RAPD試験は検査手技・所見であり、逆RAPD自体に対する特異的治療は存在しない。治療は原因疾患に対して行う。

求心路障害(RAPDの原因)に対する治療

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視神経炎

  • 第一選択:メチルプレドニゾロン1,000mg点滴静注3日間(ステロイドパルス療法)。
  • 副腎皮質ステロイドの単独内服療法は視神経炎再発の可能性を高めるため行わない。
  • パルス後:プレドニゾロン0.5mg/kg/日から3〜4日ごとに5〜10mgずつ漸減。

外傷性視神経症

  • 受傷後24〜48時間以内の診断が重要。
  • ステロイドパルス療法(プレドニゾロン換算1,000mg)2〜3日、または大量ステロイド(プレドニゾロン換算80〜100mg)+高張浸透圧薬(グリセオール、D-マンニトール300〜500mL)3〜7日。

遠心路障害(瞳孔反応障害の原因)に対する対応

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動眼神経麻痺への対応

  • 瞳孔散大を伴う動眼神経麻痺では、後交通動脈瘤の可能性があり緊急の血管画像診断(CT/CTA)が必要。
  • ただし同じ患者にRAPDが認められる場合、病変の局在は後交通動脈から眼窩尖端へ移るため、診断の方針が変わる。
Q 逆RAPDが確認された場合、どのような治療が行われるのですか?
A

逆RAPD自体に対する特異的治療はなく、原因疾患に対して治療を行う。視神経炎であればステロイドパルス療法(メチルプレドニゾロン1,000mg点滴静注3日間)が第一選択となる。動眼神経麻痺では原因精査(後交通動脈瘤の除外など)が優先される。

6. 病態生理学・詳細な発症機序

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求心路(光の情報が脳へ向かう経路):

  • 網膜 → 視神経 → 視交叉(一部交叉)→ 視索 → 視蓋前域(pretectum)→ Edinger-Westphal(EW)核(両側性に投射)

遠心路(脳から瞳孔へ向かう経路):

  • EW核 → 動眼神経 → 毛様神経節 → 短後毛様体神経 → 瞳孔括約筋

片眼の求心路障害により、患眼への光刺激時にEW核への入力が減弱する。その結果として対光反射が減弱し、光を患眼に移した際に両眼の散瞳として観察される。

ヒトでは直接対光反射と間接対光反射の大きさがほぼ同じである。一側の視神経が障害されていても、両眼開放下では瞳孔不同は生じない。これが「RAPDは瞳孔不同を生じない」理由である。

  1. 遠心路障害があると、患眼の瞳孔括約筋は収縮できない。
  2. RAPDがあれば「両方の瞳孔が散瞳する」はずだが、患眼が固定されているため直接観察できない。
  3. 健眼の瞳孔を観察することで、光を患眼にスイングしたときに健眼が散瞳する反応(=求心路障害の存在)を捉えられる。

近見反応のEW核への核上性線維は、対光反射の求心線維が通る中脳視蓋前域や後交連より腹側を走行している。このため、視蓋前域の障害では対光反射が障害されても近見反応は保たれる。

毛様神経節における対光反射と調節反応に関わる神経細胞の比は3:97とされており、対光反射に関わる線維が元々少数であることも、この解離が生じやすい理由の一つである。


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