視神経性原因

相対的瞳孔求心路障害(RAPD)
ひとめでわかるポイント
Section titled “ひとめでわかるポイント”1. 相対的瞳孔求心路障害(RAPD)とは
Section titled “1. 相対的瞳孔求心路障害(RAPD)とは”相対的瞳孔求心路障害(relative afferent pupillary defect; RAPD)は、片眼ずつ交互に光刺激を与える「交互点灯試験(Swinging flashlight test)」で検出される臨床所見であり、Marcus Gunn瞳孔ともほぼ同義で用いられる。一側の網膜または視神経(外側膝状体より前方)に片側性・非対称性の障害が存在することを示す重要な所見である。
RAPDは神経内科医・眼科医・検眼士が行う最も基本的な眼科検査の一つであり、視神経炎・多発性硬化症など多くの重要疾患の早期診断に有用である。初期段階での視神経疾患の誤診は不可逆的視力喪失につながりうる。
重要な原則を以下に示す。
- 両側性かつ対称的な場合はRAPDではない:左右均等な障害では左右差が生じず、両側性APDとなる。
- 中間透光体の混濁ではRAPDは陽性にならない:白内障や硝子体出血など光の入射を遮る病変でも瞳孔求心路に直接障害がなければRAPDは陽性にならない。
- 視交叉以降の病変では原則として陽性にならない:ただし視索は非交叉線維より交叉線維が多いため、視索病変では対側眼に軽度RAPDを生じうる。
白内障などの中間透光体混濁は光の入射量を減少させるが、瞳孔求心路の障害を直接引き起こすわけではないため、RAPDは陽性にならない。重度の白内障があってもRAPDが陽性であれば、背景に視神経・網膜疾患が存在する可能性が高い。
2. 主な症状と臨床所見
Section titled “2. 主な症状と臨床所見”RAPDは患者が自覚する「症状」ではなく、医師が検査で検出する「所見」である。患者が自覚するのは原因疾患による症状であり、以下のものが多い。
- 視力低下:視神経炎・虚血性視神経症などで生じる。
- 眼痛・眼球運動痛:視神経炎で約6割に認められる。
- 視野欠損:中心暗点・盲点中心暗点など。
- 色覚異常:特に赤色の鈍化(視神経炎に特徴的)。
臨床所見(医師が診察で確認する所見)
Section titled “臨床所見(医師が診察で確認する所見)”- 交互点灯試験での瞳孔散大:患眼に光を当てているにもかかわらず瞳孔が散大する(または縮瞳の程度が減弱する)。これがRAPD陽性の本質的所見である。
- 直接対光反射の減弱:障害側では縮瞳速度が遅くなり、反応量が減弱する。
- 瞳孔不同は生じない:入力系の異常のため、両眼開放下では直接反応と間接反応がほぼ同等となり、安静時の瞳孔不同は生じない。
- 遠心路障害との鑑別:動眼神経麻痺などの遠心路障害では患眼は常に散瞳し、光を当てても縮瞳しない。RAPDでは健眼照射時に両眼とも縮瞳する(遠心路は正常なため)。
3. 原因とリスク要因
Section titled “3. 原因とリスク要因”視神経性の原因が最も多い。代表的な疾患を以下に示す。
- 脱髄性視神経炎:好発年齢15〜45歳、女性に多い。
- MOG-IgG関連視神経炎(MOGAD):眼球運動痛86%・乳頭浮腫86%。視力低下は重篤だが回復良好(視力20/200以下の予後不良は5〜14%)2)。
- 抗AQP4抗体陽性視神経炎:特発性視神経炎の約10%。男女比1:9。ステロイド抵抗性で予後不良。
- 転移性視神経症:乳癌などからの眼窩転移。視神経への転移は眼転移の4.5%。原発診断から平均4.5〜6.5年後に発症1)。
- 眼窩コンパートメント症候群:RAPD陽性は緊急減圧の適応基準となる。産後外直筋血腫の例では、RAPD陽性を契機に外側眼角切開・血腫排出を行い、視力が光覚弁(NPL)から6/6に回復した3)。
- 脈絡膜結核腫:粟粒結核に合併する眼内病変によってもRAPDが生じうる4)。
- 薬物性視神経症:エタンブトールなどで生じる。造影MRIで視神経に造影効果をきたさない。
- 栄養障害性視神経症:ビタミンB12・B1不足。
対称的な両側性網膜疾患ではRAPDは出現しない。左右の光入力に差がなければ、交互点灯試験で瞳孔散大は起こらないためである。RAPDは「左右の差(非対称性)」を検出する検査であることを理解することが重要である。
4. 診断と検査方法
Section titled “4. 診断と検査方法”交互対光反射検査(Swinging flashlight test)
Section titled “交互対光反射検査(Swinging flashlight test)”ペンライト1本で実施可能。特殊な機器を必要とせず、短時間で簡便かつ診断価値が高い。
手技の詳細:
- 半暗室にて暗順応後に実施する。
- 患者に遠方を注視させる。
- 明るいペンライト(または手持ちスリット)で真下から左右眼に交互に約2秒間光を当てる。
- 光を当てている眼の瞳孔のみを観察する。
- 正常:他眼に素早く移動しても同様に十分な縮瞳が観察される。
- RAPD陽性:患眼に光を移動すると、対光反射が起こらず両眼とも散瞳する(または縮瞳の度合いが明らかに減弱する)。
注意点:光源を左右で同じ角度(できれば正面)から入れることが重要。斜めからの照射は偽陽性を生じやすい。
手動評価の検者間不一致率は39%に及ぶ。虹彩の色が濃い・瞳孔不同・小瞳孔・遠心路障害がある場合、微妙な左右差の検出が困難になる。
RAPDの定量化
Section titled “RAPDの定量化”- 中性濃度フィルター(NDフィルター)法:健眼の前にNDフィルターを置いてswinging flashlight testを行い、RAPDが消失するフィルター濃度で定量化する。治療効果判定にも有用。
- 主観的グレーディング:各瞳孔の初期収縮量と再散大量に基づくグレーディング。NDフィルター法と同等の定量精度とされる。
デジタル瞳孔計(Pupillography)
Section titled “デジタル瞳孔計(Pupillography)”赤外線ビデオ装置による客観的・定量的評価が可能であり、手動評価の限界を補う。片眼ずつ完全に隔離した機械的フレームを使用し、フルカラーLEDで刺激・高解像度カメラで両眼前眼部をリアルタイム撮影する。肉眼では測定不可能な散大速度・瞳孔面積などの詳細情報が得られる。本邦で使用可能な機器としてIriscorder Dual C-10641(青色470nm・赤色635nmの2波長選択、両眼同時記録)やET-200(2台カメラ・3色マルチカラーLED)がある。
- **遠心路障害(動眼神経麻痺・外傷性散瞳)**との鑑別が最重要。遠心路障害では患眼は常に散瞳し、健眼照射時の間接反応でも患眼は縮瞳しない。RAPDでは健眼照射時に両眼が縮瞳する点が異なる。
- Argyll Robertson瞳孔:対光-近見反応解離を呈するが両側性の高度縮瞳。
- 瞳孔緊張症(Adie瞳孔):対光反射減弱〜消失・近見反応保持・tonic反応。0.125%ピロカルピンで脱神経性過敏を示す。
NDフィルター法により定量化が可能である。健眼の前にNDフィルターを置いてRAPDが消失する濃度で表現し(例:0.3 log unit)、治療経過の追跡にも活用できる。デジタル瞳孔計では散大速度や瞳孔面積など複数のパラメータで客観的な定量が可能である。
5. 標準的な治療法
Section titled “5. 標準的な治療法”RAPD自体に対する特異的治療は存在しない。治療は原因疾患に対して行う。予後は原因疾患によって異なる。
特発性視神経炎(典型的視神経炎)
Section titled “特発性視神経炎(典型的視神経炎)”9割以上で視力回復が期待できる。無治療でも発症3週間以内に約8割で改善が開始する。
- ステロイドパルス療法:メチルプレドニゾロン1,000 mg/日点滴静注を3日間。
- パルス後のプレドニゾロン内服(後療法)は行わない(再発率上昇のため禁忌)。
- 副腎皮質ステロイドの単独内服療法は視神経炎再発の可能性を高めるため行わない。
- 効果不十分な場合:4〜5日あけて2回目のパルスを検討。
- ステロイド全身投与前にB型肝炎等の感染症を除外する。
- 矯正視力が比較的良好な場合:メコバラミン1,500 μg/日内服(保険適用外)で経過観察も選択肢。
抗AQP4抗体陽性視神経炎
Section titled “抗AQP4抗体陽性視神経炎”ステロイド治療への抵抗性が高い。NMOスペクトラム障害として扱われ、神経内科との連携が必要。
MOG-IgG関連視神経炎(MOGAD)2)
Section titled “MOG-IgG関連視神経炎(MOGAD)2)”- 急性期:メチルプレドニゾロン静注(IVMP)、続いてプレドニゾロン漸減(1〜3か月)。
- IVMP無効時:血漿交換またはIVIG。
- 長期免疫療法:再発例に限定。リツキシマブ・アザチオプリン・ミコフェノール酸モフェチル・月1回IVIG(最大の再発減少効果の可能性)。
- 約半数で再発するが、視力回復は一般に良好(予後不良20/200以下は5〜14%)。
感染性視神経炎
Section titled “感染性視神経炎”梅毒などでは抗菌薬をステロイドに優先して使用する。
眼窩コンパートメント症候群3)
Section titled “眼窩コンパートメント症候群3)”RAPD陽性+視力低下は緊急減圧の適応。外側眼角切開・下眼角靭帯切開(lateral canthotomy and inferior cantholysis)を行う。血腫が限局性の場合は画像誘導下の外科的排出が必要となる場合がある。
RAPDは疾患そのものではなく視神経・網膜障害の程度を反映する「所見」であるため、RAPD自体に対する特異的治療は存在しない。原因疾患を診断し、それに対応した治療(例:視神経炎へのステロイドパルス療法)を行うことが原則である。
6. 病態生理学・詳細な発症機序
Section titled “6. 病態生理学・詳細な発症機序”対光反射の神経回路
Section titled “対光反射の神経回路”- 求心路:網膜→視神経→視交叉(同側と対側に分岐)→外側膝状体手前で主視覚経路を離れ→中脳の視蓋前域核→両側のEdinger-Westphal核(EW核)
- 遠心路:EW核→動眼神経→毛様体神経節→短毛様体神経→瞳孔括約筋→縮瞳
RAPDが生じる機序
Section titled “RAPDが生じる機序”一眼を刺激した際の縮瞳量が他眼刺激時より少なければ、左右眼の視入力に差があることを意味する。直接反応と間接反応はほぼ同等であるため、両眼開放下では瞳孔不同は生じない。交互刺激によって初めて患側と健側の反応差が顕在化する。
視交叉・視索の関係
Section titled “視交叉・視索の関係”視交叉では交叉線維(約53%)が非交叉線維より多い。視索病変では対側眼に軽度RAPDを生じうる。視索障害による同名半盲では、耳側視野欠損のある側の眼(鼻側網膜=耳側視野=交叉線維)にRAPDが生じる。
近見反応との解離
Section titled “近見反応との解離”近見反応のEW核への核上性線維は対光反射の求心線維より腹側を走行する。毛様神経節における対光反射と調節反応の神経細胞比は3:97であり、対光反射が障害されても近見反応による縮瞳は保たれやすい。
各原因疾患の病態機序(概要)
Section titled “各原因疾患の病態機序(概要)”- 脱髄性視神経炎:髄鞘の破壊により視神経の神経伝導が障害される。
- 抗AQP4抗体陽性視神経炎:抗体+補体によるアストロサイト攻撃。視神経・視交叉のアストロサイトはAQP4を多く発現する。
- MOGAD:MOG-IgGがミエリンオリゴデンドロサイト糖タンパク質を標的とする2)。
- 虚血性視神経症:視神経への血流障害による軸索変性。
- 圧迫性視神経症:物理的圧迫による軸索障害と髄鞘損傷。
7. 最新の研究と今後の展望(研究段階の報告)
Section titled “7. 最新の研究と今後の展望(研究段階の報告)”デジタル瞳孔計の発展
Section titled “デジタル瞳孔計の発展”赤外線ビデオ装置を用いたデジタル瞳孔計(pupillography)は、従来の手動検査の限界(検者バイアス、主観性、再現性)を排除し、RAPDの客観的定量化・記録・フォローアップの質的改善をもたらしている。パーソナルコンピュータベースのシステムの開発により、従来は専門機関でしか行えなかった精密な瞳孔計測が一般臨床でも利用可能になりつつある。
MOG-IgG関連疾患(MOGAD)の解明2)
Section titled “MOG-IgG関連疾患(MOGAD)の解明2)”MOGADはMSや抗AQP4抗体陽性NMOSDとは独立した疾患概念として確立されつつある。視神経炎が成人の最も多い初発症状であり、頭痛が約半数で発作に先行する。持続的なMOG-IgG陽性は再発予測因子となりうるが、一過性陽性では再発リスクは低い。最適な長期免疫療法は未確立であり、国際的な前方視的研究が続いている。
8. 参考文献
Section titled “8. 参考文献”- Shahrudin NFH, Muhammed J, Wan Hitam WH. Infiltrative Optic Neuropathy in Advanced Breast Carcinoma. Cureus. 2023;15(12):e50994.
- Leishangthem L, Beres S, Moss HE, Chen JJ. A Tearfully Painful Darkness. Surv Ophthalmol. 2021;66(3):543-549.
- Hurley DJ, Murphy R, Farrell S. Spontaneous postpartum lateral rectus haemorrhage. BMJ Case Rep. 2022;15:e248133.
- Jojo V, Singh P, Samanta RP, Ahmad R. Unilateral Choroidal Granuloma and a Pupillary Abnormality in a Case of Miliary Tuberculosis: A Dilemma for the Physician. Cureus. 2022;14(9):e28713.