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神経眼科

下垂体腺腫

下垂体腺腫は、下垂体前葉の腺細胞から発生する良性腫瘍である。成人における視交叉圧迫の最も一般的な原因であり、トルコ鞍領域では最も頻度の高い腫瘍である。

症状を伴う頭蓋内腫瘍の12〜15%を占める。剖検・画像研究を含めると人口の最大25%が有するが、大部分は偶発的発見で無症状であり、平均発生率は16.7%(剖検14.4%、画像22.5%)とされる。日本脳腫瘍全国集計調査では、原発性脳腫瘍の約18%を占める。症例の3%はMEN1型に関連する。異所性下垂体腺腫(EPA)は全体の約0.48%とされる6)

サイズによる分類ホルモン活性による分類の2軸が臨床上重要である。

日本での頻度分布を以下に示す。

腺腫の種類割合(目安)
ホルモン非産生腺腫約50%(最多)
プロラクチン産生腺腫約25%
GH産生腺腫約20%
その他(ACTH・TSH・LH/FSH産生)残余

2017年WHO分類では、細胞系譜(Pit-1、Tpit等のマスター転写因子)に基づく分類が採用された。「非定型腺腫」という用語は非推奨となった。下垂体癌は転移を伴うものに限定され、全体の1%未満である。

Q 下垂体腺腫はどのくらい多い疾患か?
A

剖検・画像研究を含めると人口の最大25%が有するとされ、きわめて一般的な腫瘍である。ただし、症状を伴うものは頭蓋内腫瘍全体の12〜15%に限られる。大部分は無症状のまま偶発的に発見される。

  • 視覚異常:視力低下・視野欠損が最も多い自覚症状である。ホルモン非産生腺腫では視野障害が唯一の初発症状となることが多い。
  • 頭痛:トルコ鞍外への進展がなくても頭痛を訴えることがある。鞍隔膜への物理的影響が主な原因と考えられる。
  • プロラクチン産生腺腫(プロラクチノーマ)による症状:女性では無月経・乳汁漏出・不妊、男性では性腺機能低下症・勃起不全。男性は症状が微妙で発見が遅れやすい。
  • GH産生腺腫による症状:小児では巨人症、成人では末端肥大症(顔貌変化・手足肥大・多毛症)。
  • ACTH産生腺腫による症状:クッシング症候群(満月様顔貌・中心性肥満・高血圧・多毛・色素沈着)。
  • TSH産生腺腫による症状:甲状腺機能亢進(体重減少・発汗過多・甲状腺腫)。甲状腺眼症とは関連しない。
  • 急性発症(下垂体卒中):既存腫瘍内の出血・壊死により急性の激しい頭痛・視野障害・眼球運動障害が出現する。

臨床所見(医師が診察で確認する所見)

Section titled “臨床所見(医師が診察で確認する所見)”

上方に進展した腫瘍は視交叉の交叉線維(鼻側半網膜由来)を下方から選択的に障害する。このため、典型的には垂直子午線を順守する両耳側半盲を呈する。

  • 初期所見:左右ともに上耳側の視野障害から始まる。
  • 左右差:不完全かつ非対称な半盲が多い。
  • 接合部暗点(junction scotoma):視交叉前角部の障害による特徴的所見。
  • 進行例:圧迫が強まると非交叉線維も障害され、鼻側視野にも欠損が拡大する。
  • 帯状萎縮(band atrophy / bow-tie atrophy):慢性圧迫で視神経乳頭の水平象限が選択的に萎縮する。視交叉障害に特異的な所見である。うっ血乳頭はまれである。
  • OCT黄斑部網膜内層)中心窩の垂直経線より鼻側領域の選択的菲薄化。OCTは眼底検査より軽度の視神経萎縮を早期に検出できる。治療後の視機能予後推定にも有用である。
  • OCT(cpRNFL:耳側および鼻側象限の菲薄化。
  • 瞳孔:両眼の視野障害に左右差がある場合、RAPD(相対的瞳孔求心路障害)陽性となる。
  • 眼球運動障害:腫瘍が海綿静脈洞へ浸潤すると第III・IV・VI脳神経麻痺をきたし、複視が生じる。
  • 下垂体卒中の重篤合併症:稀に前大脳動脈が圧迫され脳梗塞に至る。系統的レビューでは文献上47例の報告があり、死亡率は26.8%に達する3)
Q 下垂体腺腫でなぜ両耳側半盲になるのか?
A

視交叉は下垂体のほぼ直上に位置する。上方に発育した腺腫が視交叉の交叉線維(左右の鼻側半網膜からの線維)を下方から圧迫することで、垂直子午線を境界とする耳側視野欠損が両眼に生じる。圧迫に加え虚血の関与も示唆されている。

下垂体腺腫の大部分は良性で単発性に発生する。以下の遺伝的要因の関与が知られている。

  • PTTG(下垂体腫瘍形質転換遺伝子):ホルモン分泌腺腫で過剰発現する。
  • AIP遺伝子変異:侵襲性GH産生腺腫のリスク増加に関連する。
  • MEN1(多発性内分泌腺腫症1型):症例の3%が関連する。

下垂体卒中(腫瘍内の出血・梗塞)を誘発するリスク因子は多岐にわたる2)

カテゴリ主なリスク因子
ホルモン関連妊娠・産後、エストロゲン療法、GnRH/TRH負荷試験
血液・血管凝固障害・血小板減少、抗凝固療法
血流変動急激な血圧上昇(運動)、心臓手術後、脊椎麻酔後
その他放射線療法、糖尿病、頭部外傷、ドパミンアゴニスト療法

妊娠中の下垂体卒中についてはレビューで36例が報告されており、多くは妊娠第2三半期に発生する。頭痛が最も多い初発症状であり、半数以上で手術が必要となった1)

  • MRI(第一選択):T1・T2強調画像でともに脳実質と等信号を示すことがあり、造影MRIを行うべきである。冠状断撮影が視交叉との解剖学的関係を把握するうえで特に有用である。
  • CT:補助的に施行する。微小腺腫では診断困難なことが多い。鞍上槽の低吸収域が消失し、軽度の高吸収域として描出される。
  • 視野検査:垂直子午線を順守する両耳側半盲の検出に必須。定期的な視野検査は病期進行と治療効果の判定に重要である。
  • 光干渉断層計(OCT):眼底検査より軽度の視神経萎縮の検出力が高く、網膜内層の局所的菲薄化を定量的に評価できる。
  • 異所性腺腫の診断:68Ga標識ソマトスタチンアナログと18F-FDGを組み合わせたPET/MRIが腫瘍局在の鑑別に有用である5)

機能性腺腫の評価に必須である。

  • プロラクチン(PRL):正常値は男性20 ng/mL未満、女性25 ng/mL未満。プロラクチノーマでは200 ng/mL超(10,000超の場合もある)に上昇する。下垂体茎圧迫(ストーク効果)による軽度上昇との鑑別が必要。
  • 鞍結節部髄膜腫:下垂体腺腫が対称性の両耳側半盲を呈するのに対し、鞍結節部髄膜腫は片側の中心暗点や接合部暗点を呈することが多い。MRIでdural tail signが特徴的。
  • 頭蓋咽頭腫:視交叉を上方から圧迫するため、下方から始まる両耳側半盲を呈する。
  • リンパ球性下垂体炎:下垂体全体が腫大し上方に凸な三角形を呈する。生検以外での鑑別は困難。
  • 傾斜乳頭・視神経低形成:注意深い視野検査で鑑別可能なことが多い。

プロラクチノーマを除けば、手術が治療の第一選択である。

  • Hardy手術(経蝶形骨洞アプローチ):鼻から蝶形骨洞を経由して下垂体腫瘍に到達し、全摘出を目指す。最近は内視鏡下経蝶形骨洞手術も広く行われる。
  • 視交叉の圧迫が解除されると視力・視野の改善が期待できる。ただし、すでに明らかな視神経萎縮が生じている場合は視機能予後不良である。
  • プロラクチノーマ:ブロモクリプチンやカベルゴリンなどのドパミンアゴニスト内服が治療の中心である。80〜90%のプロラクチノーマで腫瘍縮小とホルモン正常化が達成可能とされる4)
  • 手術後の補助療法として施行される。定位放射線治療(ガンマナイフ等)も選択肢の一つである。

下垂体卒中は緊急疾患であり、迅速な対応が必要である。

  • 副腎皮質ステロイド補充:血行動態が不安定またはコルチゾール欠乏の徴候がある場合、ヒドロコルチゾン100〜200 mgを静脈内ボーラス投与後、2〜4 mg/時の持続静注または50〜100 mg 6時間ごとの筋注を行う2)
  • 手術適応:高度の視力低下・持続的または悪化する視野欠損・意識レベル低下を伴う場合は、経蝶形骨洞手術を検討する2)。急性期の手術的治療で大部分の症例において視野障害の改善が期待できる。
Q プロラクチノーマの治療は手術が第一選択か?
A

プロラクチノーマのみが例外であり、ドパミンアゴニスト(ブロモクリプチン・カベルゴリン)内服が治療の中心である。80〜90%の症例で腫瘍縮小とホルモン正常化が達成可能とされる4)。その他の腺腫は手術が第一選択である。

6. 病態生理学・詳細な発症機序

Section titled “6. 病態生理学・詳細な発症機序”

腫瘍の進展パターンと視交叉障害の機序

Section titled “腫瘍の進展パターンと視交叉障害の機序”

下垂体腺腫はトルコ鞍内の柔らかく境界明瞭な病変として発生し、成長とともに上方に進展して視交叉を圧迫する。前床突起・トルコ鞍の骨侵食や、海綿静脈洞・蝶形骨洞への進展が生じることもある。

視交叉は下垂体のほぼ直上に位置する。上方へ発育した腺腫は交叉線維(鼻側半網膜由来)を選択的に障害することで、垂直子午線を境界とする耳側視野欠損を両眼に引き起こす。圧迫に加え虚血の関与も示唆されている。下垂体腺腫は内頸動脈硬膜枝からの血流供給を受けており、全身循環系の影響を強く受ける。

  • 単一形態的外観を示し、シート状または索状配列をとる。
  • レチクリン線維網が乏しく、非腫瘍性下垂体組織との鑑別点となる。
  • 免疫組織化学染色により分泌ホルモンの種類を同定する。
  • 低分子量ケラチン(LMWK)免疫染色で密顆粒型と疎顆粒型を区別する。

下垂体卒中の機序と特殊な病態

Section titled “下垂体卒中の機序と特殊な病態”

下垂体卒中とは、腫瘍内に出血または梗塞が生じ病巣が急激に膨隆する状態である。下垂体腺腫特有の血液支配が腫瘍内出血の一因となる。プロラクチン産生腫瘍が最も卒中をきたしやすいとされる。

ネルソン症候群は、クッシング症候群治療のための両側副腎摘出後に、副腎ステロイドによるフィードバック抑制が消失することでACTH分泌腺腫が急激に増大する病態である。

下垂体癌は全体の0.1〜0.2%にとどまり、大部分は治療抵抗性の侵襲性腺腫から進展する。Ki-67標識指数の経時的増加が指標の一つとなる4)

Rathke嚢の遊走経路に沿った胎生期の下垂体細胞遺残から発生する。全体の約0.48%と稀な病態である6)。好発部位は鼻咽頭(66.67%)、次いで鞍上部(25%)とされる5)6)

Q 下垂体卒中とは何か?
A

既存の下垂体腺腫内に出血または梗塞が生じ、病巣が急激に膨隆する緊急疾患である。急激な頭痛・視力低下・眼球運動障害・意識障害が出現する。稀に前大脳動脈領域の脳梗塞を合併し、死亡率は26.8%に達するとの報告もある3)


7. 最新の研究と今後の展望(研究段階の報告)

Section titled “7. 最新の研究と今後の展望(研究段階の報告)”

Zoliら(2023)は下垂体卒中に伴う脳梗塞について系統的レビューを実施し、文献上47例を集積した。内頸動脈の鞍傍拡張部での圧迫が最多の原因であり、前大脳動脈領域の梗塞は10研究11例と特に稀であった。全体の死亡率は26.8%に達し、早期の経蝶形骨洞手術による血流回復が転帰改善に重要と結論づけた3)

Gamitoら(2023)は妊娠中の下垂体卒中について文献上の36例を集積した。多くは妊娠第2三半期に発生し、頭痛が最頻の初発症状であった。半数以上で手術が必要となり、早産3例・母体死亡1例が報告された1)

COVID-19ワクチン接種と下垂体卒中

Section titled “COVID-19ワクチン接種と下垂体卒中”

Alibertiら(2022)は3回目のCOVID-19 mRNAワクチン(モデルナ)接種翌日に重度頭痛・嘔気・複視で発症した50歳男性の症例を報告した。MRIで35×27×39 mmの巨大腺腫内出血が確認された。免疫組織化学染色で下垂体組織内にSARS-CoV-2核タンパク質が初めて検出され、接種前の無症候性感染が下垂体血管内皮に持続していた可能性が示唆された2)

テモゾロミド(TMZ)が欧州内分泌学会(ESE)において下垂体癌の第一選択化学療法として推奨されている。

Daiら(2021)は、治療抵抗性プロラクチノーマから下垂体癌へと進展した症例を報告した。Ki-67標識指数は経過とともに3%→10%→20%→30%と増加した。TMZの奏効率は65.2%、奏効期間中央値30ヶ月であったが、多くの症例でTMZ抵抗性が獲得された。Ki-67、P53、P27、テロメラーゼなどの分子マーカー研究が進行中である4)

異所性TSH産生微小腺腫への対応

Section titled “異所性TSH産生微小腺腫への対応”

Liら(2021)は10歳女児での鞍上部異所性TSH産生微小腺腫の症例を報告した。68Ga標識ソマトスタチンアナログPET/MRIが局在診断に有用であり、内視鏡下経蝶形骨洞手術で術後4年間の寛解が達成された5)


  1. Gamito MAPO, Amaral NYB, Rodrigues CF, et al. Pituitary Apoplexy in Pregnancy: What do We Know? Rev Bras Ginecol Obstet. 2023;45(5):273-280.
  2. Aliberti L, Gagliardi I, Rizzo R, et al. Pituitary apoplexy and COVID-19 vaccination: a case report and literature review. Front Endocrinol. 2022;13:1035482.
  3. Zoli M, Guaraldi F, Rustici A, et al. Bilateral anterior circulation stroke: A rare but threatening consequence of pituitary apoplexy. Neuroradiol J. 2023;36(6):746-751.
  4. Dai C, Sun B, Guan S, et al. Evolution of a refractory prolactin-secreting pituitary adenoma into a pituitary carcinoma: report of a challenging case and literature review. BMC Endocr Disord. 2021;21:217.
  5. Li X, Zhao B, Hou B, et al. Case Report and Literature Review: Ectopic Thyrotropin-Secreting Pituitary Adenoma in the Suprasellar Region. Front Endocrinol. 2021;12:619161.
  6. Li Y, Zhu JG, Li QQ, et al. Ectopic invasive ACTH-secreting pituitary adenoma mimicking chordoma: a case report and literature review. BMC Neurol. 2023;23:81.

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