眼所見
視神経乳頭異形成:最も一般的な眼所見。中心的陥凹、周辺部からの蛇行した網膜血管出現、周辺網膜菲薄化を特徴とする。
視神経コロボーマ:視神経乳頭の深い陥凹。朝顔症候群に類似しうる。
その他:小眼球症・網膜コロボーマ・黄斑異常・視神経ピット・視神経嚢胞。なお虹彩コロボーマは本症候群には関連しない。

乳頭腎症候群(papillorenal syndrome: PRS)は、腎臓と眼の発達に影響を及ぼす先天性の常染色体優性遺伝疾患である。典型的に腎形成不全(renal hypoplasia)と視神経異形成(optic nerve dysplasia)を特徴とする。
別名として、腎コロボーマ症候群(renal coloboma syndrome: RCS)、PAX2関連疾患(PAX2-related disorder)、コロボーマ・尿管・腎症候群が用いられる。
歴史は1977年にRiegerが最初に記述し、1988年にWeaverらが正式命名した。1995年にSanyanuusinらがPAX2遺伝子変異を同定した2)。
疫学については正確な有病率は不明であり、Human Variome ProjectのPAX2データベースに268人が登録され、文献上200例未満の報告にとどまる2)。片側性または両側性の腎形成不全を持つ小児の約10%がPAX2遺伝子点変異を有すると推定される1)。人種・民族による偏りは報告されていない。
正確な有病率は不明で、PAX2データベースへの登録は268人、文献報告は200例未満である。腎形成不全を持つ小児の約10%にPAX2変異が認められるため、腎疾患の精査の中で発見されることが多い。
眼所見
視神経乳頭異形成:最も一般的な眼所見。中心的陥凹、周辺部からの蛇行した網膜血管出現、周辺網膜菲薄化を特徴とする。
視神経コロボーマ:視神経乳頭の深い陥凹。朝顔症候群に類似しうる。
その他:小眼球症・網膜コロボーマ・黄斑異常・視神経ピット・視神経嚢胞。なお虹彩コロボーマは本症候群には関連しない。
腎所見
腎形成不全:最も一般的な腎症状。通常両側性で罹患者の65%に認められる。
組織学的変化:正常より少ない糸球体数・糸球体肥大・糸球体硬化症・多発性嚢胞。
末期腎不全(ESRD):平均診断年齢19.5歳。成人発症の巣状分節性糸球体硬化症(FSGS)も報告される2)。
眼外・腎外所見(まれ):高周波感音難聴(7%)・CNS奇形(Chiari I奇形含む)・発達遅延・自閉症・低身長・関節靭帯弛緩が報告されている1)。
OCT・画像所見:OCTでは網膜内液貯留や黄斑上膜の合併が認められることがある2)。超音波では眼球後部の視神経乳頭レベルに欠損(硝子体ヘルニア)を確認できる1)。
正常視力から光覚弁のみまで個人差が大きい。軽度の視神経乳頭異形成では正常視力が維持されることもあるが、患者の75%が何らかの視力障害を報告する。重度例では高度の視力障害に至ることもある。
PAX2遺伝子:染色体10q24に位置し、患者の約50%に変異が認められる。paired-box転写因子ファミリーの一員で、眼・腎臓・耳・脳・脊髄の胚発生に不可欠な転写因子タンパク質をコードする1)。
変異機序:ハプロ不全(haploinsufficiency)またはミスセンス変異による異常タンパク質産生が病因となる。ホモ接合型は周産期致死とされる。変異の種類としてフレームシフト変異(例:c.76dupG, p.Val26Glyfs*28)やエクソン4の微小欠失などが報告されている2)4)。
遺伝様式:常染色体優性遺伝であるが、約65%に家族歴がなく、新規変異(de novo)や親の生殖細胞系列モザイクによる発症を示唆する。PAX2変異がなくてもPRSを呈しうる(多遺伝子疾患の可能性)。
その他のリスク要因:
主要疾患との鑑別を以下に示す。
CHARGE症候群
遺伝子:CHD7遺伝子変異
特徴的な相違点:コロボーマ・心奇形・後鼻孔閉鎖・発達遅延・生殖器低形成・耳異常の組み合わせ。頭蓋顔面奇形・認知異常がPRSとの鑑別点1)。
Joubert症候群
主な相違点:コロボーマと腎異形成を合併するが、発達障害・小脳低形成・小脳機能障害がみられる。PRSにはこれらの所見がない1)。
その他の鑑別疾患:
否定できない。PAX2変異は患者の約50%にしか検出されず、かつSNPマイクロアレイやエクソーム解析では微小欠失を見逃す可能性がある。全ゲノム解析での追加検査が有用な場合があり、臨床所見が典型的であれば遺伝子検査陰性でも診断を除外すべきでない4)。
PRSに特化した薬剤や遺伝子治療は現時点で存在しない。治療は合併症の予防と管理が中心となる。
血圧管理・膀胱尿管逆流の治療・腎毒性薬剤の回避により慢性腎不全の進行を遅延させることができる。ESRDに至った場合は透析または腎移植が選択される。定期的な腎機能モニタリングが不可欠である。
PAX2は染色体10q24に位置するpaired-box転写因子ファミリーの一員で、ヒト泌尿器系と眼の発生において最も重要な遺伝子の一つである1)。胎内では眼・腎臓・耳・脳・脊髄の初期発達のための遺伝子発現を調節し、出生後も細胞のストレス応答・アポトーシスシグナル伝達・血管発達に関与する。他の核タンパク質と多タンパク質複合体を形成して機能し、変異によりこの相互作用が不能となる。
PAX2は眼球の腹側を決定する遺伝子であり、胎生裂の閉鎖に関与する。
正常な腎間葉分化・増殖はPAX2依存性であり、PAX2は腎管と尿管芽に集中的に発現する2)。PAX2はWT1遺伝子(Wilms腫瘍抑制遺伝子)の発現を正に調節し、腎発生における間葉上皮転換に関与する3)。PAX2発現の破綻により腎・尿管の低形成・異形成(嚢胞性変化を含む)が生じる。
胚発生中のPAX2発現は動的な勾配を示す:視胞全体への発現→腹側視杯・視茎への限局→胎生裂閉鎖縁への限局→出生後の完全抑制2)。
視神経乳頭異形成は異常な血管新生と網脈絡膜低形成に起因する。真のコロボーマ(胎生裂閉鎖不全)とは異なる機序と考えられている2)。視神経乳頭が周辺まで掘削されると、破壊されたグリア境界組織から脳脊髄液が流入し、漿液性網膜剥離を引き起こしうる。
PAX2は中枢神経系全体で発現し、転写ネットワークにおいて多数の遺伝子を活性化・抑制する4)。マウスモデルではPAX2ヘテロ接合ノックアウトが行動変化・マイクログリア減少・学習記憶障害を示す。神経発達障害(自閉症・発達遅延・軽度知的障害)との関連が日本・中国のコホート研究で報告されている4)。
Wells ら(2025)は、PAX2関連疾患において急性運動失調・自閉退行(幼児期の発語・社会性の急速退行)・鼠径ヘルニア・脂肪萎縮など、従来の腎・眼症状以外の表現型を報告した4)。SNPマイクロアレイやエクソーム解析では検出できなかった微小欠失が全ゲノム解析(不完全浸透フィルター使用)によりはじめて同定された症例であり、PAX2関連疾患のより広い表現型が系統的に文書化される必要性を示した。
Nguyen ら(2021)は、自然軽快する羊水過少が腎コロボーマ症候群の早期超音波所見であることを報告した3)。2世代にわたる家族内モニタリングと出生前診断の重要性を示す症例であり、CAKUT次世代シークエンシングパネルによる出生前遺伝子診断が有用であった。
日本のCAKUT患者457名中6.5%(38名)にPAX2変異が検出されており、PAX2変異の臨床的・遺伝的多様性の解明が進行中である1)。現時点でPRSに特化した遺伝子治療は開発されていない。
Shanmuga Jayanthan S, Senthilkumar S, et al. Renal Coloboma Syndrome—An Autosomal Dominant Genetic Disorder. Indian J Radiol Imaging. 2023;33(1):55-58.
Ng B, De Silva SR, Bindra MS. Papillorenal syndrome: a systemic diagnosis not to be missed on fundoscopy. BMJ Case Rep. 2021;14(7):e243476.
Nguyen A, Nguyen AV, Lipa KL, et al. Resolving severe oligohydramnios as an early prenatal presentation of renal coloboma syndrome. Clin Case Rep. 2021;9(9):e04740.
Wells PA, Basu AP, Yates LM. ‘No causative variants found’: an unusual presentation of PAX2-related disorder. BMJ Case Rep. 2025;18(1):e262455.