副腫瘍性
小児:OMS患者の約50%に潜在的神経芽腫。神経芽腫児の約2%がOMSを発症する。
成人:OMS症例の20〜40%が副腫瘍性。小細胞肺癌(SCLC)が最多、次いで乳腺腺癌8)。30歳未満女性では卵巣奇形腫が関連する6)。
関連抗体:anti-Ri(ANNA-2)が最典型的2)。anti-Hu、anti-Maなど。抗体陰性の副腫瘍性OMSも存在する7)。

オプソクローヌス・ミオクローヌス症候群(Opsoclonus-Myoclonus Syndrome; OMS)は、1962年Marcel Kinsbourneが初めて報告した稀で不均一な神経症候群である。Kinsbourne症候群、dancing eyes syndromeとも呼ばれる。
オプソクローヌス、ミオクローヌス、小脳失調、認知障害、行動・睡眠障害を主な症状とする自己免疫性疾患である。
疫学
年間発症率は500万人に1人、有病率は100万人に1人と極めて稀な疾患である。小児と成人の両方に発症するが、成人での発症はさらに稀と推定されている4)。
小児と成人では初発症状が異なる。
小児の主な症状
成人の主な症状
OMSの診断的特徴として4項目が挙げられる:①オプソクローヌス、②失調および/またはミオクローヌス、③行動変化または睡眠障害、④副腫瘍性の場合は神経芽腫の診断。
オプソクローヌス
サッカード嵌入(saccadic intrusion)の一種で、サッカード間隔のない多方向・不規則・自発的な共同性サッカードの群発である。固視を妨げ、全方向の高頻度・高振幅の無秩序な眼球運動として観察される。初期評価時に認められないことがあり、運動症状から数週間遅れて出現する場合がある。
ミオクローヌス
多様な性質を持ち、全身のあらゆる部位に影響する。感情的ストレスや運動の試みで悪化する。COVID-19関連症例では全身性の刺激感受性ミオクローヌスと活動時ミオクローヌスが報告されている1)。
小脳失調(ataxia)
歩行障害、体幹失調、広基性歩行を呈する。
その他
構音障害(dysarthria)、四肢・顎の振戦、声の振戦を伴う場合がある1)5)8)。
下表にオプソクローヌスと類似する眼球運動異常の鑑別点を示す。
| 所見 | 緩徐相 | 方向 | 特徴 |
|---|---|---|---|
| 眼振 | あり | 一定方向 | 緩徐相+急速相 |
| 眼球フラッター | なし | 水平のみ | 純粋水平方向 |
| 矩形波律動 | なし | 水平 | 正常なサッカード間隔あり |
| オプソクローヌス | なし | 多方向 | 全方向の無秩序な眼球運動 |
眼振には緩徐相(ゆっくりした動き)があるが、オプソクローヌスにはない。また眼球フラッターも緩徐相なく水平方向のみの急速な眼球運動で、オプソクローヌスは多方向に及ぶ点で区別される。矩形波律動は急速なサッカード運動だが、正常なサッカード間隔を保つ点で異なる。
正確な病因は不明だが、感染性または副腫瘍性プロセスによる自己免疫性炎症が有力な仮説とされる。細胞性・体液性免疫機序が関与し、大部分の患者は既知の抗神経抗体に対して血清陰性である。
病因は大きく3つに分類される。
副腫瘍性
小児:OMS患者の約50%に潜在的神経芽腫。神経芽腫児の約2%がOMSを発症する。
成人:OMS症例の20〜40%が副腫瘍性。小細胞肺癌(SCLC)が最多、次いで乳腺腺癌8)。30歳未満女性では卵巣奇形腫が関連する6)。
関連抗体:anti-Ri(ANNA-2)が最典型的2)。anti-Hu、anti-Maなど。抗体陰性の副腫瘍性OMSも存在する7)。
感染後/感染随伴性
主な関連病原体:Lyme病、EBV、HIV(免疫再構築症候群)、Mycoplasma pneumoniae、ロタウイルス。
COVID-19関連:呼吸器症状から2日〜3週間後に発症1)。
West Nile virus関連:IVIGで改善した症例報告あり3)。
ワクチン後:水痘・麻疹・DPTワクチン後の発症が報告されている。
毒性・代謝性
フェニトインの過剰投与、高浸透圧非ケトン性糖尿病性昏睡、コカイン中毒などでも発症しうる。
小児では約50%に神経芽腫が潜在するため、小児OMSでは全例で神経芽腫の評価が必要である9)。成人ではOMS症例の20〜40%が副腫瘍性で、小細胞肺癌や乳癌が関連腫瘍として多い。いずれの年齢でも感染後に発症することがある。
OMSは臨床所見に基づく臨床診断であり、確定的な検査・バイオマーカーはない。診断の遅れが一般的で、症状から診断までの中央値は11週間とされる4)。
眼振・眼球フラッター・矩形波律動との鑑別は「臨床所見」の項を参照。前庭神経炎、良性発作性頭位めまい症、脳卒中、脳腫瘍、自己免疫性脳炎、多発性硬化症も鑑別に挙がる4)7)。
脳画像検査(MRI)
原発性CNS疾患の除外が目的である。多くのOMS症例でMRIは正常。一部の症例でT2-FLAIR高信号(小脳・側頭葉)が報告されており3)2)、慢性期には小脳萎縮を認めることがある9)。
脳脊髄液(CSF)分析
CNS疾患の除外に用いる。多くの症例で正常〜軽度異常。一部でoligoclonal bands陽性・蛋白軽度上昇が認められる2)4)。CSF中のCD19+ B細胞拡大(最大29%)は疾患活動性バイオマーカー候補として研究されている4)。
悪性腫瘍スクリーニング
抗神経抗体パネル
anti-Ri(ANNA-2)、anti-Hu、anti-Yo、anti-Ma、anti-NMDA受容体等を検索する。ただし多くの患者で抗体陰性である。
PNS-Careスコアリングシステム(2021年国際パネル)は臨床表現型・抗体タイプ・癌の有無・フォローアップ期間を考慮し、definite(8点超)、probable(6〜7点)、possible(4〜5点)に分類する7)。
治療の主軸は免疫調節療法である。副腫瘍性の場合は腫瘍標的治療が不可欠であり、腫瘍治療と免疫調節療法を並行して行う。診断の遅れは神経学的・心理学的・行動学的予後の悪化と関連するため、早期治療が重要である。
副腎皮質ステロイド(corticosteroids)
methylprednisolone静注パルス(1g/日×3〜5日)が標準的プロトコールである2)6)7)。
ACTH(副腎皮質刺激ホルモン)
小児・成人の標準治療として位置づけられる。
IVIG(静注用免疫グロブリン)
総量2g/kgを3〜5日間に分割投与するのが一般的である1)6)。COVID-19関連症例で1週間後に改善開始・4週後に完全回復した報告1)、West Nile virus関連症例で5日間投与後に改善した報告3)がある。
リツキシマブ(rituximab)
ステロイド・IVIGで不十分な症例に追加する。卵巣奇形腫関連OMSで1g×2回投与後、6ヶ月・12ヶ月に追加し30ヶ月再発なしの報告がある6)。多剤併用による免疫抑制が単剤より効果的である可能性が示唆されている。
その他の免疫抑制薬
アザチオプリン、ミコフェノール酸モフェチル8)7)、シクロホスファミドなどが用いられる。
ミオクローヌスの軽減には以下の薬剤が使用される。
腫瘍標的治療(手術・化学療法・放射線療法)が不可欠である。腫瘍切除が必ずしも神経学的改善につながるとは限らず、切除後1ヶ月でOMSが発症した報告もある6)。小細胞肺癌ではcarboplatin+etoposide化学療法8)、乳癌ではneoadjuvant化学療法+rituximabで改善した報告がある7)。
治療期間は病因・重症度・治療反応性によって異なる。IVIGで数週〜数ヶ月で改善する例がある一方3)4)、再発防止のためrituximabなど長期にわたる免疫抑制療法が必要な場合がある6)。副腫瘍性OMSは特発性より重症で治療抵抗性の傾向がある8)。
OMSの発症機序として脳幹説と小脳説の2つの主要理論がある。
脳幹説
サッカード・バースト細胞の異常:バースト細胞は通常、オムニポーズ細胞(全休止細胞)から持続的抑制を受ける。
発症機序:膜特性変化によるバースト細胞の神経興奮性亢進、またはオムニポーズ細胞からの抑制減少→眼球振動が生じる。
小脳説
小脳尾側室頂核の脱抑制:機能不全のプルキンエ細胞が室頂核を抑制できなくなる。
発症機序:室頂核がオムニポーズニューロンへの抑制を強化→サッカード・バーストニューロンが自由に振動→オプソクローヌス。支持所見として小脳虫部へのグリオーシス・炎症、急性期の小脳血流増加・慢性期の低灌流・萎縮がある9)。
自己免疫性炎症が有力な仮説であり、細胞性・体液性免疫の両方が関与する。
オプソクローヌス自体は治療の有無にかかわらず通常消失する。しかし寛解後の再発がありえ、オプソクローヌス消失後も追従眼球運動(smooth pursuit)の異常が長期残存する。患者の60〜80%に行動障害・精神運動障害が残存し、長期的な神経学的予後は不良な場合が多い。
Emamikhahら(2021)の7例シリーズでは、COVID-19呼吸器症状から2日〜3週間後にOMSが発症し、IVIGで改善した1)。成人レビューで約1/3にインフルエンザ様前駆症状、40%にIgG index上昇またはoligoclonal bandsが認められた。
COVID-19後のOMSは脳症を伴わない独立した免疫性パラ感染症候群として認識が進んでいる。
Yangら(2024)は、初回MRI正常→10日後にT2-FLAIR高信号出現→4ヶ月後に完全消失という経過を報告した3)。症状発現とMRI異常検出に特定の時間窓が存在する可能性が示唆される。
従来OMS+失調と考えられていたanti-Ri症候群が、より複雑な多系統疾患として再定義されつつある。
Freydlら(2024)は歩行障害+眼球運動障害+顎ジストニアのtriadを特徴的症候群として提案した2)。症状診断後4〜6ヶ月以内に約80%のPNS患者で腫瘍が診断されるとされる。
Pranzatelli研究(Lawrence 2025で引用)では、CSF中のCD19+ B細胞拡大がOMSの疾患活動性バイオマーカー候補として提案されている4)。標準化には至っていない。
腫瘍切除後の抗原暴露による免疫惹起で発症する遅発性OMSが認識されている6)。また、免疫チェックポイント阻害薬がimmune-related adverse effectとしてOMS・脳幹脳炎を惹起・悪化させる可能性が報告されており5)、PD-L1高発現腫瘍でも投与回避の判断が求められる場合がある。