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神経眼科

血栓性血小板減少性紫斑病(TTP)の眼科的徴候

1. 血栓性血小板減少性紫斑病(TTP)の眼科的徴候とは

Section titled “1. 血栓性血小板減少性紫斑病(TTP)の眼科的徴候とは”

血栓性血小板減少性紫斑病(Thrombotic Thrombocytopenic Purpura; TTP)は、モシュコビッツ病(Moschcowitz disease)とも呼ばれるまれな血液疾患である。微小血管症性溶血性貧血(MAHA)、血小板減少性紫斑病、急性腎障害、神経学的異常(精神状態の変動)、発熱の5徴(pentad)を特徴とする。

眼科的徴候は症例の14〜20%で報告されており、網膜・脈絡膜血管での微小血栓形成に由来する多彩な所見が出現する。

発症率は100万人あたり年間3.7〜11例とされる。フランスの成人集団では100万人あたり年1.5例と報告されている5)。年間有病率は100万人あたり約10例であり7)、女性への好発が知られる。

  • 性差:女性は男性の2〜3倍の頻度で発症する6)
  • 好発背景:アフロ・カリブ系、肥満患者に多い。
  • 未治療死亡率:約90%。血漿交換導入により10〜20%に低減する3)

TTPは先天性と後天性に分類される。

  • 先天性TTP(Upshaw-Schulman症候群):ADAMTS13遺伝子変異による。全症例の約5%を占める。NCBI ClinVarデータベースに260以上の変異部位が同定されており、約60%がミスセンス変異、約20%が小断片欠失・挿入である6)
  • 後天性TTP:ADAMTS13に対する自己抗体が原因であり、全症例の約95%を占める3)
Q TTPの眼科的徴候はどのくらいの頻度で起こるのか?
A

眼科的徴候は症例の14〜20%で報告されている。網膜出血、血管閉塞、漿液性網膜剥離、乳頭浮腫などが含まれる。眼症状が全身症状に先行して出現する場合もあるため、眼科医がTTPを最初に疑うことがある。

ttp postoperative disc hemorrhage fundus
ttp postoperative disc hemorrhage fundus
Bilateral proliferative retinopathy and ischemic optic neuropathy in a patient with atypical hemolytic-uremic syndrome: A case report. Medicine (Baltimore). 2019 Sep 27; 98(39):e17232. Figure 4. PMCID: PMC6775429. License: CC BY.
Fundus color photograph of the right eye after surgery. Although there is visible hemorrhage around the optic disc, the retina is well-attached.

眼科的な自覚症状としては以下が報告されている。

  • 急激な視力低下:網膜病変による。
  • 霧視:乳頭浮腫に続発して出現する。
  • 複視(diplopia):脳神経麻痺による眼球運動障害に伴う。
  • 一過性のかすみ目・黄視:妊娠TTP症例での報告がある3)

TTPの全身的な自覚症状としては、頭痛・意識変容・精神障害・てんかん・局所神経学的欠損・発熱・倦怠感・関節痛・黄疸・悪心嘔吐などが認められる1)。皮膚粘膜出血(紫斑・点状出血・歯肉出血)も血小板減少に続発して出現する3)

眼科的な臨床所見は、網膜所見と神経眼科所見に分類される。

網膜・脈絡膜所見

網膜出血:微小血管障害に伴い認められる。

網膜動脈または静脈閉塞症:血栓性網膜血管閉塞による網膜虚血が原因。

漿液性網膜剥離:脈絡膜循環障害に続発して発症する。

新生血管:網膜虚血に続発して形成される。

網膜症:腎症を併発した場合に発症しやすく、約10%に認められる。

神経眼科所見

乳頭浮腫(papilledema):頭蓋内圧亢進に起因する。

瞳孔不同(anisocoria):脳神経障害時に出現する。

眼位異常(ocular misalignment):脳神経障害時に出現する。

高血圧性網膜症・視神経:併発腎不全による悪性高血圧に続発する。

TTPの根本原因はADAMTS13活性の低下である。ADAMTS13はフォン・ヴィレブランド因子(vWF)巨大マルチマーを切断するプロテアーゼであり、その活性が低下するとvWF巨大マルチマーが切断されず血流中に蓄積し、血小板に富む微小血栓が形成される。

ADAMTS13遺伝子変異が原因であり、妊娠によるトリガーで顕在化することが多い。先天性TTPでは妊娠中の再発リスクが100%に達し、後天性では0〜50%とされる3)

  • 感染:敗血症、サルモネラ菌感染など8)
  • 妊娠:妊娠後期にvWF値が1.5〜3.0倍に上昇し、ADAMTS13は25〜30%に低下する3)
  • 自己免疫疾患SLE、抗リン脂質抗体症候群(APS)、シェーグレン症候群など1)7)
  • 薬剤チロシンキナーゼ阻害薬など。
  • ワクチン:COVID-19ワクチン接種後の発症が報告されており、BNT162b2接種後が最多(文献上10例中7例)5)
  • 外科手術:心臓手術(弁置換術、TAVR)後の発症例がある4)
  • HIV感染7)
Q TTPは遺伝するのか?
A

先天性TTP(Upshaw-Schulman症候群)はADAMTS13遺伝子の変異によって発症し、遺伝性疾患である。NCBI ClinVarデータベースには260以上の変異部位が登録されており、複合ヘテロ接合変異の形式をとることが多い。ただし全TTPの約95%は後天性であり、ADAMTS13に対する自己抗体が原因である。

TTPの診断は、微小血管症性溶血性貧血(MAHA)と血小板減少性紫斑病の2つを確認することが主要な診断基準である。ADAMTS13活性の検査結果を待たずに治療を開始する必要がある。

  • 血小板数:通常 <20×10⁹/L1)
  • ヘモグロビン:通常 <8 g/dL(80 g/L)1)
  • LDH・ビリルビン:血管内溶血を反映して上昇する1)
  • 末梢血塗抹:破砕赤血球(schistocytes)の確認2)
  • 網状赤血球:増加2)
  • ハプトグロビン:低下5)
  • ADAMTS13活性:<10%で確定診断的意義をもつ。<5%の例も報告されている5)
  • ADAMTS13抗体:後天性TTPの確認に用いる2)
  • トロポニン:心臓障害の指標。0.25 μg/L以上は独立した死亡予測因子(OR 2.87)とされる3)

PLASMICスコアはTTPのリスク層別化に用いるスコアリングシステムである。

項目内容
PLT <30×10⁹/L1点
溶血所見1点
活動性がんなし1点
臓器移植歴なし1点
MCV <90 fL1点
INR <1.51点
Cr <2 mg/dL1点
  • 0〜4点:低リスク、5点:中間リスク、6〜7点:高リスク4)
  • ADAMTS13活性が10〜30%であってもTTPを除外できない場合がある(中間・高リスク患者)4)

妊娠関連では以下の疾患との鑑別が重要である。

  • HELLP症候群溶血性尿毒症症候群(HUS)急性脂肪肝産科APS3)

その他、ADAMTS13低値を呈する疾患として、敗血症・DIC・肝疾患・熱帯熱マラリアとの鑑別も必要である。

眼科的所見が認められる場合は、他の全身症状について詳細な問診を行い、TTPの古典的5徴の有無を確認する。

血漿交換が第一選択治療である。以下の4つの効果が期待される。

  • ADAMTS13の補充
  • インヒビター(自己抗体)の除去
  • 超巨大分子量vWFマルチマー(UL-vWFM)の除去
  • 正常vWFの補充

妊娠TTPでは2,000 mL/回(40〜60 mL/kg)を1日1〜2回施行する3)。未治療死亡率90%を、血漿交換導入により10〜20%に低減できる3)

重度の後天性ADAMTS13欠損症がない場合は、新鮮凍結血漿の輸注も選択肢となる。

  • グルココルチコイド:中等度以上の臨床的疑いがある場合は直ちに開始する4)
  • ステロイドパルス療法:高用量メチルプレドニゾロンの静脈内投与。

難治・再発例の補助療法として用いられる。

  • 標準用量:375 mg/m²を週1回×4週5)
  • 低用量(100 mg/週×4回)も完全寛解を達成した例が報告されている2)。完全寛解率は83〜100%とされる2)
  • 難治・反復例:ビンクリスチン硫酸塩・シクロホスファミドなどの免疫抑制薬、脾摘も考慮される。
  • 網膜虚血に対する眼科的治療:光凝固術を施行する。新生血管への対応として行われる。
Q なぜTTPでは血小板輸血が禁忌なのか?
A

TTPでは血小板に富む微小血栓が全身の微小血管に形成されている。この状態で血小板を輸血すると、さらなる微小血栓形成を促進し病態を悪化させる危険がある。治療の第一選択は血漿交換であり、血小板輸血は緊急の生命を脅かす出血がある場合を除いて行ってはならない。

Q 眼科的合併症に対する治療はどのように行われるのか?
A

網膜虚血が生じた場合は光凝固術を施行する。網膜虚血に続発した新生血管への対応として行われる。乳頭浮腫は頭蓋内圧亢進や悪性高血圧による場合があり、原疾患(TTP)の治療と並行して管理する必要がある。

6. 病態生理学・詳細な発症機序

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TTPにおける眼科的徴候の発症機序は、ADAMTS13欠損に端を発する微小血栓形成の連鎖に起因する。

vWFは血管内皮や巨核球から分泌されるタンパク質であり、正常ではADAMTS13により切断・分解される。後天性TTPではADAMTS13に対する自己抗体が形成され、先天性ではADAMTS13遺伝子座の変異が原因となる。

ADAMTS13の欠損・活性低下により、血漿中の分解酵素に抵抗性の高分子量vWF(超巨大分子量vWFマルチマー)が血流中に蓄積する。これが血小板と結合して血小板に富む微小血栓を形成し、全身の微小血管を閉塞する。機械的溶血による貧血(微小血管症性溶血性貧血)も同時に生じる。

  • 網膜・脈絡膜血管での微小血栓→網膜への血液供給障害→網膜出血・血管閉塞・漿液性網膜剥離が出現する。
  • 網膜虚血への二次変化→新生血管が形成される。
  • 血栓性虚血に続発する脳神経障害→瞳孔不同・眼位異常が出現する。
  • 併発腎不全→高血圧緊急症(悪性高血圧)→乳頭浮腫・高血圧性網膜症・視神経症が生じる。

TTPでの脳卒中有病率は13.9%と報告されており、一般高齢者の6.3〜7.8%と比較して高い1)。可逆性後頭葉白質脳症(PRES)はTTPに合併しうる病態であり、血管性浮腫と細胞毒性浮腫の鑑別には拡散強調MRI(DWI)が有用である1)

7. 最新の研究と今後の展望(研究段階の報告)

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vWFのA1ドメインを標的としたヒト化ナノボディ(単一ドメイン抗体)である。HERCULES試験において、血小板数正常化の早期化、血漿交換セッション数の減少、再発率の低下が確認されている2)3)。難治性TTPへの効果も報告されている5)

Xu et al(2024)の妊娠TTP症例レビューでは、リコンビナントADAMTS13が阻害抗体を凌駕してvWF切断活性を正常化する可能性が示されており、将来の治療選択肢として期待されている3)

  • N-アセチルシステイン:vWFのサイズと活性を減少させる3)
  • ボルテゾミブ:ADAMTS13抗体の枯渇を目的として検討されている3)
  • 遺伝子発現タンパクによる酵素補充療法:近い将来の治療選択肢として研究が進んでいる。

Galindo-Calvillo et al(2021)は、COVID-19パンデミック中に血漿交換なしで低用量リツキシマブ(100 mg/週×4回)とプレドニゾン(1 mg/kg)のみで完全血液学的寛解を達成した再発TTP例を報告した2)。臓器障害のない安定した再発TTP患者のサブセットでは、血漿交換を必要としない治療戦略の可能性が示唆されている。

BNT162b2接種後のTTP発症報告が文献上最多(10例中7例)であり、多くは2回目接種後に発症している5)。エピトープミミクリー機序が推定されているが、因果関係の確立には更なる研究が必要である。


  1. Zhu H, Liu J-Y. Thrombotic thrombocytopenic purpura with neurological impairment: A Review. Medicine. 2022;101(49):e31851.
  2. Galindo-Calvillo CD, Torres-Villalobos G, Higuera-Calleja J, et al. Treating thrombotic thrombocytopenic purpura without plasma exchange during the COVID-19 pandemic. Transfus Apher Sci. 2021;60:103107.
  3. Xu J, Cai H, Xu J, et al. Case report of thrombotic thrombocytopenic purpura during pregnancy with a review of the relevant research. Medicine. 2024;103(20):e38112.
  4. Shao X, Hao P, Dong X, et al. Thrombotic Thrombocytopenia Purpura (TTP) following emergent aortic valve replacement after a complicated TAVR procedure. J Cardiothorac Surg. 2024;19:545.
  5. Hammami E, Mdhaffar M, Jamoussi K, et al. Acquired Thrombotic Thrombocytopenic Purpura After BNT162b2 COVID-19 Vaccine: Case Report and Literature Review. Lab Med. 2022.
  6. Li P, Lv T, Chen S, et al. An ADAMTS13 mutation that causes hereditary thrombotic thrombocytopenic purpura: a case report and literature review. BMC Med Genomics. 2021;14:252.
  7. Lin HC, Chen PC, Chen YF, et al. Concurrence of immune thrombocytopenic purpura and thrombotic thrombocytopenic purpura: a case report and review of the literature. J Med Case Rep. 2023;17:38.
  8. Wang Z, Xu H, Peng B, et al. Flavorubredoxin, a Candidate Trigger Related to Thrombotic Thrombocytopenic Purpura. Front Cell Infect Microbiol. 2022;12:864087.

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