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神経眼科

眼科的寄生虫妄想症

眼科的寄生虫妄想症(ophthalmic delusional parasitosis; DP)は、寄生虫妄想症(delusional parasitosis)の亜型である。目に寄生虫が感染しているという強固かつ揺るがない信念を抱く疾患で、単一主題性の身体的妄想性障害に分類される。Ekbom症候群、delusional infestation(DI)とも呼ばれる。

DSM-5では妄想性障害の身体型(somatic type)として、統合失調症スペクトラムおよび他の精神病性障害に分類される。

  • 発症率:10万人年あたり1.9人2)
  • 有病率:10万人あたり27.3人9)、ドイツでは100万人あたり83.2人7)
  • 好発年齢:50〜70歳。40歳以降に増加する2)
  • 性差:50歳未満では男女比ほぼ1:1、50歳超では女性が男性の約3倍
  • 罹病期間:平均3年2)
  • 精神疾患の併存:74〜80%にうつ病等の既往が認められる1) 2)
  • 共有妄想:DI患者の5〜15%に家族間の共有妄想(folie à deux)が認められる9)

Thieberge(1894)とPerrin(1896)が初めて臨床像を詳述した。スウェーデンの神経科医Ekbomが1937〜1938年に詳細な報告を公表し、Ekbom症候群とも呼ばれるようになった5)

Q 寄生虫妄想症と実際の寄生虫感染はどう区別するか?
A

実際の感染は皮膚擦過検査・生検・眼科的検査で除外する。すべての検査が陰性にもかかわらず確信が変わらない「揺るがない信念」が真の妄想性障害の特徴である9)。詳細は「診断と検査方法」の項を参照。

  • 確信(揺るがない信念):眼に寄生虫が感染しているという信念。すべての検査が陰性でも揺るがない9)
  • 掻痒感(pruritus):眼周囲・眼瞼の痒み
  • 触幻覚:眼瞼を虫が這ったり噛んだりする感覚
  • 蟻走感(formication):皮膚を虫が這うような感覚4)
  • 刺激感・充血・流涙:過度のかきむしりに伴う症状

臨床所見(医師が診察で確認する所見)

Section titled “臨床所見(医師が診察で確認する所見)”
  • 擦過傷・潰瘍:感知された寄生虫を取り除こうとする自傷に伴う皮膚所見
  • 角膜上皮剥離:過度のかきむしりによる角膜上皮の剥離
  • 化学性皮膚炎・眼障害:酸・アルカリ・過酸化物・消毒液等の家庭療法による8)
  • matchbox sign(specimen sign):皮膚片・血塊等を容器に入れて「証拠」として持参する行動1) 9)
  • 細隙灯顕微鏡検査フルオレセイン染色(コバルトブルー照明)で角膜上皮剥離を検出
  • プロパラカイン点眼:局所麻酔薬で真の感染症に伴う痒みは改善するが、妄想性症状は改善しないことがある。一次性DPの除外補助として有用
  • 瞼板翻転:眼瞼縁・睫毛根元・上下円蓋部を検査し、真の寄生虫感染を排除する
  • 散瞳眼底検査:全身疾患や真の寄生虫症の徴候を評価する

DPの病因は大きく3つに分類される。Mayo Clinicの調査では、DP患者54人中一次性は26%にとどまった。

一次性DP

定義:基礎疾患なしで妄想が出現する。他の原因をすべて除外した上での診断(除外診断)。

予後:慢性経過をたどりやすく、予後は比較的不良。

二次性DP(精神医学的)

原因疾患:統合失調症、うつ病、不安症、強迫性障害(OCD)、双極性障害。

予後:基礎疾患への治療で改善する場合がある3)

器質性DP

医学的要因:甲状腺機能低下症、糖尿病、貧血、ビタミンB12欠乏、葉酸欠乏。

感染症:梅毒、結核、HIV、ハンセン病

神経変性疾患:パーキンソン病、多発性硬化症、ハンチントン舞踏病、レビー小体型認知症5) 8)

薬物・薬剤:コカイン、アンフェタミン、メチルフェニデート、アルコール(使用中および離脱時);ケトコナゾール、ステロイド5)

脳腫瘍・脳血管障害:右前頭部髄膜腫がDPの唯一の症状として発症した例がある5)

  • 社会的孤立:COVID-19パンデミック中に症例が増加したことも孤立の関与を示唆する2) 8)
  • 高齢:40歳以降でリスクが上昇する
  • 認知機能低下9)
  • ストレスの多いライフイベント
  • 代理によるDP:介護者が小児・認知症・知的障害者に不必要な治療を施すケース
Q 家族にも同じ症状が出ることはあるか?
A

DI患者の5〜15%に共有妄想(folie à deux)が認められる9)。介護者や同居家族が同じ妄想を共有することがある。原発患者と二次患者の分離も治療選択肢となりうる。

DPの診断は除外診断であり、真の寄生虫感染と器質的原因の除外が必須である。

DSM-5診断基準(妄想性障害・身体型)

Section titled “DSM-5診断基準(妄想性障害・身体型)”
  • 少なくとも1ヶ月間持続する妄想
  • 統合失調症の診断基準を満たさない
  • 妄想の直接的影響を除き機能が著しく損なわれていない
  • 躁病/抑うつエピソードがあっても妄想期間より短期
  • 薬物・身体疾患・他の精神疾患が原因でない

器質的原因を除外するために以下の検査を行う。

検査項目目的
CBC(好酸球含む)・IgE寄生虫感染スクリーニング
CMP(グルコース・BUN・肝機能)・HbA1c代謝疾患・糖尿病
TSH・ビタミンB12・葉酸内分泌・栄養欠乏
梅毒・HIV・結核検査感染症
尿中薬物スクリーニング薬物使用
  • 画像検査:造影/非造影の脳・眼窩MRIで脳腫瘍・脳血管障害等の器質的原因を除外する。40歳以上の新規発症例では神経画像検査が特に推奨される5)
  • 皮膚検査:ミネラルオイルを用いた皮膚擦過検査・生検で真の寄生虫感染を除外する
  • 眼科的検査:細隙灯顕微鏡検査(フルオレセイン染色)、散瞳下眼底検査、瞼板翻転
  • 精神医学的評価:うつ病・不安症・統合失調症等の併存疾患をスクリーニングする1)
  • 真の寄生虫感染(疥癬・蠕虫・皮膚糸状菌等)
  • 統合失調症・うつ病等の精神疾患
  • 薬物使用・離脱による症状
  • モルゲロンズ病:線維等が皮膚から出現するという確信を伴う疾患1) 9)
  • 口腔体感症(cenesthopathy):歯科的・医学的証拠なく口腔内異物感を訴える8)

治療における最重要事項は患者との信頼関係(治療的同盟)の構築である。精神科紹介を受け入れるDP患者はわずか8%にとどまるとされ、非審判的態度が不可欠である9)。「統合失調症のためではなく掻痒感を和らげる薬」と説明することで服薬アドヒアランスが向上する。多角的アプローチ(プライマリケア・精神科・皮膚科・眼科・感染症科)が推奨される1)

非定型抗精神病薬が第一選択である。

  • リスペリドン:錐体外路症状が少なく、第一選択とされる1)
  • オランザピン:10〜15mg/夜が一般的な用量1) 2) 3)
  • アリピプラゾール:比較的穏やかな副作用プロファイル2) 6)
  • クエチアピン:25mg/日から開始5)
  • アミスルプリド2)

定型抗精神病薬も選択肢となる。

  • ピモジド:古典的選択肢だが心臓副作用に注意が必要1) 4)
  • ハロペリドール・スルピリド・ペルフェナジン2)

治療成績:抗精神病薬により60〜100%の患者に部分的〜完全寛解が得られる5) 6)

補助的薬物療法

  • SSRI(フルボキサミン・セルトラリン等):うつ病の併存時や強迫的掻破行動に使用6) 7) 8)
  • ベンゾジアゼピン系(アルプラゾラム・ロラゼパム等):不安症状の緩和に使用2) 4)
  • CBT(認知行動療法):軽症うつ病を併存するDP患者では第一選択となりうる1) 8)。ただし心理療法単独の有効率は10%にとどまる1)
  • ECT(電気痙攣療法):複数の薬剤が無効な治療抵抗性例で検討する。82歳の治療抵抗例にECT 9回施行で部分的改善が得られた報告がある2)

掻痒感・痛みに対する局所ステロイド・NSAIDs等の対症治療を並行して行う。軽症例では治療的関係の構築と対症療法のみで改善する場合がある。

Q なぜ患者は精神科の治療を拒否することが多いのか?
A

妄想が強固であるため「虫が本当にいる」と確信しており、精神疾患とは認識していない。精神科紹介の受け入れ率はわずか8%と報告されている。妄想を否定せず、かつ肯定もしない非審判的態度で接することが重要である9)

Q 抗精神病薬はどの程度有効か?
A

抗精神病薬により60〜100%の患者に部分的〜完全寛解が得られる5) 6)。ただし服薬アドヒアランスが大きな課題であり、自己中断による妄想の再燃に注意が必要である6)

6. 病態生理学・詳細な発症機序

Section titled “6. 病態生理学・詳細な発症機序”

Huberらが提唱したドパミン仮説が、DPの主要な病態仮説である。線条体ドパミントランスポーター(DAT)受容体の機能低下により細胞外ドパミンが上昇し、妄想症状が誘発されると考えられている。

DATの機能を低下させる状態——コカイン使用、アルコール使用、統合失調症、パーキンソン病、ハンチントン病——はいずれも二次性DPの既知の原因でもあり、この仮説を支持する。非定型抗精神病薬(ドパミン受容体阻害薬)の有効性もこの仮説と一致する。

線条体-視床-頭頂回路の関与が示唆されている2)。器質性DPの発症に関わる病変部位として以下が報告されている。

  • 右前頭部髄膜腫:DPの唯一の症状として発症し、腫瘍摘出後7日目に妄想が消失した5)
  • 左側脳梗塞・左後部視床血腫後:口腔DPの発症との関連が報告されている1)
  • 後頭葉脳血管障害:DP発症との関連が報告されている6)

SARS-CoV-2はACE2受容体への高い親和性を持ち、ACE2受容体は中枢神経系に高発現している。これにより脳血管障害・痙攣・脳症を引き起こす可能性があり、既存の精神病を増悪させ二次性DPを誘発する経路として注目されている3)


7. 最新の研究と今後の展望(研究段階の報告)

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Wang et al.(2024)は、COVID-19感染後に既存の精神病を持つ患者で新規DPが発症した症例を報告した3)。頭部CTで構造異常は認められず、COVID-19が脳構造変化を伴わずに精神病を悪化させる未知の経路が存在する可能性が示唆された。

Frewen et al.(2022)は英国の多施設で381名のDI患者中12名(3%)が医療従事者(HCP)であったことを報告した7)。HCPの一次性DI患者における治療エンゲージメント率は20%と著しく低かった。精神疾患のスティグマ・薬剤知識による抵抗・同業者との治療関係構築の困難さが要因として挙げられており、HCP向けの新たな介入戦略の開発が求められている。

Romine et al.(2023)は12〜15ヶ月にわたる家族間(妻・夫・孫娘)の共有DI症例の縦断的経過を報告した9)。複数回の救急受診を経て精神科入院に至ったが、抗精神病薬投与記録がなく、妄想は入院後も持続した。共有妄想ではペアの分離が治療上の選択肢となりうる。

Alsafwani et al.(2022)はCOVID-19パンデミック中の12ヶ月間に口腔DI 4症例を報告した8)。通常より高頻度であり、社会的孤立と精神医学的支援の制限がトリガーとなった可能性がある。パンデミック状況がDIの発症に寄与する要因として今後の検討が必要である。


  1. Alhendi F, Burahmah A. Delusional parasitosis or Morgellons disease: a case of an overlap syndrome. Case Rep Dent. 2023;2023:3268220.
  2. Suparmanian A, Cardona NJ. A longitudinal perspective case study of delusional parasitosis in a geriatric psychiatry unit. Cureus. 2023;15(5):e39434.
  3. Wang J, Kato B, Li S, Agustines DA. Delusional parasitosis in a patient with a history of COVID-19 and substance use disorder. Perm J. 2024;28:24.006.
  4. Tumbi A, Mistry A, Le BA, Lippmann S. Can you properly manage delusional parasitosis? Innov Clin Neurosci. 2025;22(7-9):40-41.
  5. Konnakkaparambil Ramakrishnan K, Mohan L, Jacob JJ, Gopinath R. Right frontal meningioma presenting as delusional parasitosis. BMJ Case Rep. 2021;14:e245249.
  6. Armin S, LaPointe G, Jacob R. Importance of early recognition and management of delusional parasitosis. Proc (Bayl Univ Med Cent). 2022;35(2):256-258.
  7. Frewen J, Lepping P, Goulding JMR, Walker S, Bewley A. Delusional infestation in healthcare professionals: outcomes from a multi-centre case series. Skin Health Dis. 2022;2(4):e122.
  8. Alsafwani Z, Aljishi M, Shiboski C, Jordan R, Villa A. Oral manifestations of delusional infestation: a case series. BMC Oral Health. 2022;22:652.
  9. Romine D, Winston Bush S, Reynolds JC. A longitudinal case of shared delusional infestation. Cureus. 2023;15(2):e34546.

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