巨細胞性動脈炎
特徴:50歳以上の高齢者に多い大血管血管炎。
眼合併症:眼動脈・後毛様体動脈の閉塞により前部虚血性視神経症(AION)を来す。
注意点:約20%は全身症状なく視力低下のみで発症する(occult GCA)。

眼オルトナー症候群(Ocular Ortner Syndrome; OOS)は、心血管疾患による反回神経圧迫で嗄声をきたすOrtner症候群に、眼虚血による視力障害を合併した稀な病態である。
Ortner症候群の概念は1897年に始まる。オーストリアの内科医Ortnerが、僧帽弁狭窄症による左心房拡大が左反回神経を圧迫し、喉頭麻痺と嗄声をきたす病態を初報告した。その後、大動脈解離・胸部大動脈瘤・肺高血圧症など、あらゆる心血管疾患による反回神経圧迫を含む概念へと拡大した。
OOSはこの概念をさらに発展させたものである。
報告例は極めて少なく、疫学的データはほとんど確立されていない。通常、大血管血管炎(GCAまたは高安動脈炎)を基礎疾患として有する。巨細胞動脈炎は50歳以上の白人に多く、約20%は全身症状なく視力低下で発症する(occult GCA)。
通常のOrtner症候群は心血管疾患による反回神経圧迫で嗄声のみをきたす病態である。OOSはこれに加えて、大血管の炎症が総頸動脈・内頸動脈の狭窄を引き起こし、眼虚血による視力障害を伴う点が異なる。2005年に初めて報告された新しい疾患概念である。
OOSが大血管血管炎の初発所見となる可能性がある点に注意が必要である。
OOSの主な原因は大血管血管炎(large vessel vasculitis)である。
巨細胞性動脈炎
特徴:50歳以上の高齢者に多い大血管血管炎。
眼合併症:眼動脈・後毛様体動脈の閉塞により前部虚血性視神経症(AION)を来す。
注意点:約20%は全身症状なく視力低下のみで発症する(occult GCA)。
高安動脈炎
OOSに至らない通常のOrtner症候群では、以下の心血管疾患が反回神経を圧迫する。
大血管血管炎(GCA、高安動脈炎)のほか、僧帽弁狭窄症、大動脈解離、胸部大動脈瘤、肺高血圧症など多岐にわたる。OOSでは、これらのうち大血管血管炎が総頸動脈・内頸動脈の狭窄を引き起こし、眼虚血を合併する点が特徴的である。
OOSの診断は、嗄声・眼症状・炎症所見の組み合わせと、基礎疾患の同定に基づく。
巨細胞動脈炎診断のゴールドスタンダードである。結果を待たずにステロイド投与を開始すること(「標準的な治療法」の項参照)。
声帯麻痺の確認に用いる。Lo et al.の症例では、直接喉頭鏡で左声帯麻痺を確認している1)。
巨細胞動脈炎による脈絡膜虚血・脈絡膜充盈欠損の特定に有用である。
大血管血管炎(特にGCA)が原因のOOSでは、高用量副腎皮質ステロイドによる即時治療が基本となる。
巨細胞動脈炎疑い症例では、ステロイドの即時開始が対側眼の視力低下や他部位血管閉塞の予防に不可欠である。糖尿病を合併している場合は血糖コントロールに特に注意を要する。
胸部大動脈瘤を原因とするOrtner症候群では外科的治療が選択される。
Leoce et al.(2021)は、嚢状胸部大動脈瘤(4.3×5.2×5.0 cm、zone 1–3)による88歳男性のOrtner症候群に対し、段階的ハイブリッド修復術(右→左頸動脈-頸動脈バイパス+ステントグラフト留置)を施行した2)。術後1か月で嗄声は軽度改善を認めた。
巨細胞動脈炎による眼虚血は急速に視神経・網膜の不可逆的障害をもたらす。生検結果(通常数日〜1週間を要する)を待っていると、その間に対側眼の失明や他部位の血管閉塞が起こりうる。したがって、臨床的に巨細胞動脈炎が疑われた時点でステロイドを即時開始し、生検は開始後なるべく早期に施行することが推奨される。
OOSにおける嗄声は2つの経路で生じる。
左反回神経
走行:大動脈弓に近接して走行する。
脆弱性:大動脈炎・大動脈拡張・大動脈解離の影響を受けやすい。
臨床的意義:OOSの多くが左側の嗄声を呈する理由でもある。
右反回神経
走行:右鎖骨下動脈に近接して走行する。
脆弱性:右鎖骨下動脈の血管炎・動脈瘤の影響を受けやすい。
臨床的意義:右側の嗄声の場合、右鎖骨下動脈病変を疑う手がかりとなる。
炎症の進行が総頸動脈・内頸動脈に及ぶと、内腔狭窄が生じる。これにより下流の網膜・視神経への血流が低下し、以下の病態を引き起こす。
中膜・外膜における免疫細胞(主にリンパ球・マクロファージ)の増殖が血管壁の肥厚・拡張をもたらす。巨細胞動脈炎では大血管の肉芽腫性炎症が特徴的である。
Lo et al.(2021)は、56歳男性の大動脈峡部動脈瘤+解離(左鎖骨下動脈起始部遠位から左総腸骨動脈遠位まで延展)による左反回神経圧迫で1年間の嗄声を報告した1)。本症例では大動脈解離に気胸が合併しており、緊張性気胸による胸腔内圧上昇が解離を誘発した可能性が示唆されている1)。
OOSは極めて稀な疾患であり、大規模な臨床研究やランダム化比較試験(RCT)は存在しない。現時点の知見はいずれも症例報告または小規模シリーズに基づく。
Ortner症候群全般の文献では76症例の報告があり、胸部大動脈瘤によるものは24例のみとされている2)。高齢化社会の進行に伴い、胸部大動脈瘤によるOrtner症候群の有病率は増加する可能性がある2)。
胸部大動脈弓動脈瘤(zone 1–2)に対しては、脳血管合併症リスクを低減するため、段階的低侵襲アプローチ(頸動脈バイパス後にステントグラフト留置)が推奨されつつある2)。