MS・視神経炎
多発性硬化症(MS):RNFLの減少は視神経炎の有無にかかわらず認められる。ONH血流インデックス(ONH-FI)が視神経炎既往例で有意に低下する。構造的OCTパラメータとの併用で検出精度が向上する。
視神経乳頭炎:炎症性乳頭浮腫では血管脱落は認められない。乳頭周囲毛細血管の放射状分布は維持される。

OCTアンギオグラフィー(optical coherence tomography angiography; OCTA)は、OCT(光干渉断層計)の原理を応用して血管を可視化する非侵襲的な画像診断技術である。OCTは1990年代に発明され、低コヒーレンス干渉法に基づく高解像度断層像を生成する。眼科で最も重要な画像診断法の一つとなっている。
従来のOCTは毛細血管と網膜組織のコントラストが低く、血管変化のモニタリングに限界があった。フルオレセイン蛍光眼底造影(FA)やインドシアニングリーン蛍光眼底造影(ICGA)は造影剤の静脈内投与が必要であり、アナフィラキシーショックのリスクを伴う。また二次元画像のみで病変の深さの情報が得られない。
OCTAはこれらの限界を克服し、造影剤を用いずに異なる深さの血管を三次元的に可視化する。網膜循環異常をきたす疾患(糖尿病網膜症・網膜静脈閉塞症など)、視神経循環異常をきたす疾患(緑内障・虚血性視神経症など)、脈絡膜新生血管を生じる疾患に有用とされる。
神経眼科領域では特に、視神経乳頭周囲の**放射状乳頭周囲毛細血管(radial peripapillary capillaries; RPC)**の評価が重要である。血管密度の減少は眼底で神経線維層欠損(NFLD)がみられる部位に一致して観察される。
OCTAは造影剤が不要で非侵襲的であり、血管網を三次元的・層別に評価できる。FA/ICGAは蛍光漏出や充盈欠損を検出できるが、造影剤投与に伴うアナフィラキシーリスクがあり、得られる画像は二次元のみである。両者は相補的な関係にあり、OCTAで蛍光漏出の評価はできない。

神経眼科疾患において、OCTAで観察される主な血管変化は以下の通りである。
MS・視神経炎
多発性硬化症(MS):RNFLの減少は視神経炎の有無にかかわらず認められる。ONH血流インデックス(ONH-FI)が視神経炎既往例で有意に低下する。構造的OCTパラメータとの併用で検出精度が向上する。
視神経乳頭炎:炎症性乳頭浮腫では血管脱落は認められない。乳頭周囲毛細血管の放射状分布は維持される。
虚血性視神経症
非動脈炎性前部虚血性視神経症(非動脈炎性):乳頭周囲毛細血管の血流障害が急性期・慢性期の両方で確認される。耳側セクターが最も血流密度が高く、非動脈炎性前部虚血性視神経症眼で最も障害される。慢性期のONHおよび乳頭周囲血管密度はRNFL損傷・視野欠損と直接関連する。
AAION(動脈炎性):浅層乳頭周囲毛細血管の拡張と、浅層・深層網膜毛細血管の局所的非灌流が特徴。
遺伝性・変性疾患
LHON(レーベル遺伝性視神経症):偽浮腫期に毛細血管拡張を確認。病期ごとの脈絡膜毛細血管板消失パターンが記載されており、早期亜急性期は耳側から減少し、慢性期には全セクターで減少する。
視神経萎縮:乳頭周囲微細血管の減少。代謝活動低下に伴い自己調節メカニズムを介して血流が減少する。
緑内障
POAG(原発開放隅角緑内障):乳頭内・黄斑・乳頭周囲の血管密度・血流インデックスが低下する。
NTG(正常眼圧緑内障):乳頭周囲毛細血管密度の低下が原発開放隅角緑内障と同様に認められるが軽度。緑内障疑い例では視力低下前にも血流束インデックスの低下を検出できる可能性がある。
OCTAは乳頭浮腫と偽乳頭浮腫の鑑別に有用である。
乳頭浮腫では浮腫が下層の毛細血管を隠すが浮腫上に毛細血管を視認でき、乳頭周囲血管密度は対照眼と同等に保たれる。一方、偽乳頭浮腫(視神経乳頭ドルーゼンなど)では血管密度の低下が認められるため、この差異が鑑別の根拠となる。
乳頭腫脹を伴う視神経炎やAIONでは、軸索輸送障害によるcpRNFL厚増加のため急性期の軸索障害検出が困難である。神経節細胞複合体(GCC)等の黄斑部網膜内層解析はcpRNFL解析よりも早期に菲薄化を検出できる。
中心暗点や盲点中心暗点をきたす視神経疾患では、乳頭黄斑線維束(PMB)の障害を反映した菲薄化パターンを示す。OCTAではPMB菲薄化領域に一致してRPCの密度減少がみられる。
OCTAは眼底の同じ場所を繰り返し撮像し、動きのある部分(赤血球)のみをランダムな信号変化として検出する。流動する赤血球は静止組織よりもスキャン間で大きな信号変動を生じることを利用する。
検出方法には主に2種類ある。
代表的なアルゴリズムとして**SSADA(分割スペクトル振幅デコリレーション血管撮影)**がある。OCTスペクトルをより狭い帯域に分割し、各帯域の強度デコリレーションを平均化することで信号対雑音比(S/N比)を大幅に向上させる。
OCTAは4つの層のアンファス(en face)画像を自動生成する。
| 層 | 名称 | 主な評価対象 |
|---|---|---|
| 浅層 | 浅層網膜血管網(SCP) | 網膜神経線維層〜神経節細胞層 |
| 深層 | 深層網膜血管網(DCP) | 内顆粒層周辺 |
| 外網膜 | 外網膜層 | 通常は無血管 |
| 深部 | 脈絡膜毛細血管板(CC) | Bruch膜外側10〜30μm |
機種ごとにセグメンテーション設定が異なる。RPCとSCPをまとめてSCPとして表示することが多い。脈絡膜毛細血管板の描出はSD-OCTよりもSS-OCTのほうが優れているとする意見もある。
OCTAの利点は以下の通りである。
一方、以下の限界・アーチファクトに注意が必要である。
主なアーチファクトとして、白内障・硝子体混濁による信号強度低下(無灌流領域との混同に注意)、眼球・顔の動きによる白線・ひずみ、浅層信号の深層への投影(プロジェクションアーチファクト)の3種類がある。読影時はBスキャンとの対応を確認することが重要である。
OCTAの実施手順と評価上の要点を以下に示す。
各検査法の特性を以下にまとめる。
| 特性 | OCTA | FA | ICGA |
|---|---|---|---|
| 造影剤 | 不要 | 必要 | 必要 |
| 深さ情報 | 三次元(層別) | 二次元 | 二次元 |
| 蛍光漏出 | 検出不可 | 検出可 | 検出可 |
| 定量性 | 高い | 低い | 低い |
| 繰り返し施行 | 容易 | 困難 | 困難 |
神経眼科でOCTAを用いる際の代表的な評価指標を以下に示す。
OCTAはレーザースペックルフローグラフィー(LSFG)と補完的な役割を持つ。OCTAが血管構造(密度・形態)を評価するのに対し、LSFGは血流速度を定量する。両者の併用がより包括的な循環評価を可能にする4)。
同一部位の繰り返しスキャンで動的成分(赤血球)と静的成分(組織)を分離する。SSADAアルゴリズムでは、微細な眼球運動による背景ノイズを平均化手法(ボリューム平均化)によって低減させる。
脈絡膜毛細血管板(CC)の描出はBruch膜外側10〜30μmの深さで行われる。アンファス画像の外観はメッシュワーク構造ではなく顆粒状である。横分解能の限界・背景ノイズ・血管の不連続性がその原因とされる。
視神経乳頭(ONH)は眼動脈終末枝である後短毛様体動脈(SPC動脈)により血液供給を受ける。SPC動脈は眼動脈から分岐し10〜20本に分かれる。
各部位の血管支配は以下の通りである。
ONH血流は眼灌流圧(OPP = 平均動脈圧 − 眼圧)に依存する。血管内皮からのエンドセリン-1・一酸化窒素による調節が関与し、動物実験ではOPP≧30mmHgの範囲で自己調節が有効とされる。
視神経萎縮では乳頭周囲の神経線維数の減少に伴い代謝活動が低下し、自己調節を介した血流減少が生じる。これが血管密度低下として観察される。
Yoshimuraら(2024)は20代女性の先天性鼻側視神経乳頭低形成(NOH)1例を報告した1)。OCTA(Nidek RS-3000 Advance 2、4.5mm×4.5mm)でRPC密度を定量評価したところ、患眼鼻側のRPC密度は19%と著明に低下していた(上方51%・耳側58%・下方38%)。cpRNFL菲薄化領域・Humphrey視野の楔状欠損部位と一致しており、OCTAがNOHの臨床的特徴と病態解明に有用であることを示した。
Erbaら(2021)は24歳男性のVKH急性期1例を報告した2)。OCTA(Topcon DRI OCT Triton Plus)で脈絡膜毛細血管板のflow void spotsを検出し、ICGAの低蛍光部位と相関することを示した。プレドニゾロン60mg/日漸減+シクロスポリンA 100mg 1日2回による治療後、最高矯正視力は両眼20/20に回復し、脈絡膜厚は初診時のRE 712μm・LE 750μmから3ヶ月後にはRE 538μm・LE 548μmに減少した。治療後にflow voidも著減し、OCTAが疾患活動性モニタリングに有用であることが示された。
Mehtaら(2022)は61歳男性の多発血管炎性肉芽腫症症例を報告した3)。右眼の表層毛細血管脱落と左眼のAIONを呈し、OCTAで表層毛細血管プレクサスのcapillary dropoutと脈絡膜毛細血管板のflow voidを非侵襲的に検出した。メチルプレドニゾロン500mg×3日+シクロホスファミド500mg単回投与の免疫抑制療法後、治療1ヶ月でOCTA所見が著明に改善した。臨床的に見えない脈絡膜病変もOCTAで検出できることが示された。
Tsaiら(2023)は50歳女性の視神経乳頭メラノサイトーマ1例でOCTAとLSFGを用いた循環評価を行った4)。OCTAで腫瘍内に深層網膜血管ネットワークを検出し、患眼の乳頭・黄斑部のLSFG MBR(平均血管密度比)が健眼と比較して低下していた(乳頭MBR: 患眼23.0±0.8 vs 健眼26.5±1.9)。FAでは色素によるブロック効果でのみ評価が可能だったが、OCTAがこの限界を克服した。LSFGとの併用でより包括的な循環評価が可能であることを示した。
MOG-ONにおいて、乳頭周囲・傍中心窩血管密度の低下が健常対照群と比較して確認されている。血管密度低下はONエピソード回数・pRNFL厚・視力と相関し、網膜血管の減少は網膜変性に伴う代謝需要低下による可能性が示唆されている。
OCTAは非侵襲的で繰り返し施行可能な特性を活かし、以下の方向での臨床応用が期待される。
緑内障の早期検出(視力低下前の血流変化検出)、視神経疾患の進行モニタリング(血管密度の経時的定量評価)、全身性血管炎における網膜・脈絡膜病変の非侵襲的評価が有望な分野である。治療後のflow void変化を指標とした免疫抑制療法の効果判定への応用も進んでいる。