第三脳室背側
垂直注視麻痺:後交連(posterior commissure)の圧迫により生じる。上方注視障害が典型的。

脈絡叢乳頭腫(choroid plexus papilloma: CPP)は、脳室を裏打ちする脈絡叢上皮から発生する稀な良性の中枢神経系(CNS)腫瘍である。脈絡叢の立方上皮細胞は脳脊髄液(CSF)の産生を担っており、CPPはCSFの過剰産生や髄液路の閉塞によって頭蓋内圧(ICP)亢進を引き起こす。その結果、乳頭浮腫、視力障害、一過性視覚暗黒感(transient visual obscurations: TVO)、および外転神経麻痺による複視などの神経眼科学的所見を呈し、眼科受診の契機となることがある。
CPPは全CNS腫瘍の0.4〜0.6%を占めるにすぎない1)。小児に多く、小児CNS腫瘍の2〜6%を構成する1)。5歳未満に好発し、診断時の年齢中央値は3.5歳である。成人ではCNS腫瘍の0.5〜1%を占める。男女比は1.6:1と男児にやや多い1)。
腫瘍の好発部位は年齢によって異なる。成人では第四脳室に多いのに対し、小児では側脳室三角部(atrium of the lateral ventricles)に最も多く発生する1)。その他の稀な部位として第三脳室や小脳橋角部(cerebellopontine angle: CPA)がある。
脈絡叢腫瘍はWHO分類でグレードI(CPP)、グレードII(非定型CPP)、グレードIII(脈絡叢癌)に分類される2)。良性の乳頭腫が脈絡叢腫瘍の約80%を占める。
小児では側脳室三角部に好発し、頭囲拡大や大泉門膨隆で発見されることが多い。成人では第四脳室に好発し、頭蓋内圧亢進症状(頭痛・嘔吐・乳頭浮腫)で発見される傾向がある1)。小児CNS腫瘍の2〜6%を占めるのに対し、成人では0.5〜1%と頻度が低い。
CPPはゆっくりと進行する神経学的欠損を呈し、腫瘍がかなりの大きさに成長してから症状が顕在化することがある。
乳幼児では、頭囲拡大、大泉門の膨隆、哺乳不良、傾眠、嘔吐として現れる1)。言語発達や意識レベルの低下を呈することもある。
頭蓋内圧亢進の徴候として**乳頭浮腫(papilledema)**が認められる。検眼鏡的に両眼の視神経乳頭の発赤・腫脹、乳頭境界の不鮮明、乳頭面上の出血・白斑、網膜静脈の拡張がみられる。頭蓋内圧亢進が数か月間持続すると、下鼻側または求心性の視野狭窄が出現し、その後視力低下に至る。
外転神経麻痺は頭蓋内圧亢進に伴う非局在性の脳神経麻痺であり、内斜視と外転制限を呈する。両側性となることもある。小児では外転神経麻痺による内斜視で頭蓋内圧亢進が発見されることが多い。
腫瘍の部位によって神経眼科学的所見は異なる。
第三脳室背側
垂直注視麻痺:後交連(posterior commissure)の圧迫により生じる。上方注視障害が典型的。
小脳橋角部
外転神経麻痺:内斜視と片側性の外転制限を呈する。
顔面神経麻痺・難聴:三叉神経・顔面神経・内耳神経が近接しているため、三叉神経痛を伴うこともある。
運動失調:小脳への圧迫による。
側脳室・第四脳室
乳頭浮腫:髄液路閉塞または過剰産生による頭蓋内圧亢進を反映する。
外転神経麻痺:頭蓋内圧亢進に伴う非局在性所見として出現。
頭蓋内圧亢進が数か月間持続すると、乳頭浮腫に伴う出血や白斑が吸収され、下鼻側または求心性の視野狭窄が出現する。さらに進行すると視力低下に至り、視神経萎縮が生じると視機能障害は不可逆的となる。早期の頭蓋内圧降下が視機能保存に不可欠である。
CPPは脈絡叢の立方上皮細胞から発生する腫瘍であり、脳室系内の脈絡叢が存在する部位から生じる。確立されたリスク要因は知られていない。
CPPが頭蓋内圧亢進を引き起こす機序は複数ある。
MRIが第一選択の画像診断法である。
CPPの確定診断には腫瘍生検が必要である。WHO分類に基づくグレーディングを以下に示す。
| グレード | 名称 | 主な組織学的特徴 |
|---|---|---|
| I | 脈絡叢乳頭腫 | 高分化、有糸分裂・壊死なし |
| II | 非定型脈絡叢乳頭腫 | 有糸分裂 ≧2/10 HPF |
| III | 脈絡叢癌 | 有糸分裂 >5/10 HPF、浸潤 |
肉眼的には、血管に富み軟らかいピンク色のカリフラワー状腫瘤である。組織学的には線維血管性芯(fibrovascular cores)を持つ乳頭構造で構成され、正常脈絡叢に類似した立方上皮で裏打ちされている。
免疫組織化学ではサイトケラチン、S-100、トランスサイレチン、ビメンチンが陽性となる2)。Ki-67増殖指数はCPPでは極めて低値(正常脈絡叢ではほぼ0%)を示す2)。
腫瘍の部位と患者年齢から鑑別診断を絞り込む。
外科的全摘出(gross total resection: GTR)がCPPの第一選択治療である。GTRは根治的であり、多くの研究でGTR後の5年生存率は100%と報告されている。
頭蓋内圧降下治療は占拠性病変摘出術や脳室腹腔シャント術などの脳外科的処置が基本となる。
脈絡叢癌は悪性であり再発リスクが高い。GTRは生存に好影響を与えるが、達成できるのは症例の50%未満である。放射線療法や化学療法による補助療法が適応となる場合がある。
通常、GTRによって脳室シャントの必要性はなくなる。手術中に留置された一時的な外部脳室ドレナージで頭蓋内圧を制御できることが多い。ただし、術後も髄液循環が回復しない場合には永久的なシャント留置が必要となることがある。
CSFは脈絡叢上皮によって産生される。正常な循環経路は以下の通りである。
CPPによる水頭症は複数の機序で発生する1)。
頭蓋内圧の上昇はくも膜下腔を介して視神経周囲にも波及する。視神経周囲のくも膜下腔の圧が上昇すると視神経が締め付けられ、軸索流(axoplasmic flow)が視神経乳頭部で停滞する。この軸索流の停滞が乳頭浮腫(うっ血乳頭)の本態である。初期にはMariotte盲点の拡大のみであるが、慢性化すると視神経萎縮に至り、視野狭窄と視力低下をきたす。
良性CPP(WHO グレードI)であっても、CSF経路を介した脊髄drop転移が報告されている。
Nozzoliら(2025)は、文献上の24例を集計し、CPPの脊髄drop転移について検討した。診断時年齢の中央値は38歳(範囲:7〜74歳)、原発腫瘍から脊髄転移までの期間の中央値は3年(範囲:0〜19年)であり、24例中9例は初診時にすでに脊髄転移を認めた。脊髄転移は稀な事象と考えられてきたが、報告例の蓄積は、その頻度が過小評価されている可能性を示唆している2)。
CPPの悪性度と臨床行動を予測するバイオマーカーの探索が進められている。
Ki-67増殖指数は脈絡叢腫瘍のグレーディングにおいて参考となる。
| 腫瘍型 | Ki-67(平均値) |
|---|---|
| CPP(グレードI) | 1.3〜4.5% |
| 非定型CPP(グレードII) | 5.8〜9.1% |
| 脈絡叢癌(グレードIII) | 13.4〜20.3% |
WHO第5版分類では、有糸分裂活性の増加が再発の独立した予測因子とされ、グレーディングの主要基準に位置づけられている2)。
染色体異常の検討では、CPPに染色体7、12、15、17、18の重複が認められている。しかし、特異的な染色体の増減の総数は全生存期間に有意な影響を与えないとされる。CPPと非定型CPPは細胞遺伝学的に類似する一方、脈絡叢癌は多数の染色体欠失を示し、両群とは明確に異なるプロファイルを有する2)。
メチル化プロファイリングは組織学に加えた予後情報を提供し、再発リスクの高い患者の同定に資する可能性が報告されている2)。