DELTA-Pの各因子
D — Dysarthria:構音障害の有無
E — Erectile dysfunction:勃起不全(女性は除外)
L — Loss of weight:体重5%以上の減少
T — Tobacco use:発症時の喫煙
A — Age ≥ 50:50歳以上
P — Performance status:Karnofsky performance status < 70

ランバート・イートン筋無力症候群(Lambert-Eaton Myasthenic Syndrome; LEMS)は、運動神経終末の電位依存性カルシウムチャネル(VGCC)に対するシナプス前自己抗体を特徴とする神経筋接合部疾患である。随意筋の反復運動後に筋力が一時的に改善するという逆説的な特徴を持つ。
悪性腫瘍に伴う神経学的徴候が1953年に初報告された。1956年にLambertとEatonが電気生理学的異常を報告し、1957年に臨床症候群として確立された7)。
年間発症率は0.6/100万、有病率は2.8/100万と推定される7)。MGの発症率の10〜14分の1、有病率は46倍低い。LEMS患者の47〜62%に癌を合併する8)。
SCLC関連LEMS(SCLC-LEMS)の発症平均年齢は約60歳で、65〜75%が男性である。非腫瘍性LEMS(NT-LEMS)は35歳と60歳の二峰性ピークを示し、女性に多い。小児のLEMSは極めて稀であり、文献上13例のみの報告にとどまる5)。
MGはシナプス後のアセチルコリン受容体(AChR)に対する抗体を原因とし、眼症状・球麻痺が早期から出現する。LEMSはシナプス前のVGCCに対する抗体を原因とし、眼症状は疾患の後期に現れ軽度であることが多い。進行方向もMGが頭側から尾側へ進行するのに対し、LEMSは尾側から頭側へ進行する点が異なる。詳細は「診断と検査方法」の項を参照。
四肢筋力低下が最多の主訴である。対称的で日内変動があり、体が温まると悪化する。脚の方が腕より障害が強く、椅子からの立ち上がりや階段昇降が困難となる。
症状は数週間〜数か月かけて近位筋から遠位筋へ、尾側から頭側へと進行し、最終的に眼・球症状が出現する。
自律神経障害は患者の80〜96%に認められる。口腔乾燥が75%で最多であり、他に勃起不全、便秘、ドライアイ、起立性低血圧、無汗症、尿閉などがある。稀に筋力低下に伴う痛みやこわばりを訴える。
眼・球症状はLEMSの49〜78%で報告されている。メイヨークリニックの167人を対象とした回顧的レビューでは以下が記録されている。
自覚症状として報告された頻度:
診察で確認された臨床所見:
ドライアイと瞳孔機能障害は自律神経障害の眼内徴候である。眼症状・球麻痺はMGと比べ一般に軽度であり、過小評価されやすい。
まれに孤発性眼症状で発症する症例がある。右眼痛・眼瞼浮腫・両側眼瞼下垂を主訴として受診し、後に肺大細胞神経内分泌癌(LCNEC)が判明した症例も報告されている4)。また、両側眼瞼下垂・複視・構音障害を呈したICI誘発LEMSも記録されている8)。
以下にMGとLEMSの主要な鑑別点を示す。
| 項目 | MG | LEMS |
|---|---|---|
| 抗体標的 | シナプス後AChR | シナプス前VGCC |
| 関連腫瘍 | 胸腺腫 | SCLC |
| 眼・球症状の時期 | 初期に一般的 | 後期・重症例 |
| 疾患進行方向 | 頭側→尾側 | 尾側→頭側 |
| 運動後の筋力 | 悪化 | 改善 |
| 腱反射 | 稀に減弱 | しばしば消失、収縮後増強 |
| 自律神経障害 | 稀 | 一般的 |
| ピリドスチグミンの効果 | 顕著 | 最小限 |
LEMSでは眼・球症状は疾患の後期に出現し、49〜78%に報告されているが過小評価されやすい。LEMSの筋力低下は尾側(下肢)から頭側(眼)へと進行するため、眼症状の出現には時間がかかる。また、MGと異なりピリドスチグミンの効果が限定的であることも診断の遅れにつながる。
LEMSは副腫瘍症候群として発症するか、または自己免疫疾患に関連する後天性自己免疫疾患として発症する。
LEMSの約60%に基礎腫瘍を認め、SCLCが最多である。喫煙がSCLC関連のリスク因子となる。SCLC以外にも以下の腫瘍との関連が報告されている。
稀な関連腫瘍として、喉頭神経内分泌癌(PD-NEC)との合併が文献上2例目として報告されており2)、LCNECとの合併は文献上3例のみである4)。
基礎にある自己免疫疾患(甲状腺疾患など)と関連し、約65%にHLA-B8-DR3ハプロタイプを認める。小児のNT-LEMSでは自己免疫素因(抗TPO抗体、ANA陽性)との関連が認められる5)。
ペムブロリズマブ・ニボルマブ・アテゾリズマブなどのICIがLEMSをirAEとして誘発することが報告されている1,6,8)。ICI投与の普及に伴い、この形態のLEMSは今後増加する可能性がある。
反復神経刺激試験(RNS)はLEMSの確定診断に高感度・高特異度を示す。
具体的な数値として、PCD-LEMS症例では安静時CMAP 0.7 mV → 最大随意収縮後4.3 mVへの増大が記録されている3)。ICI誘発LEMS症例では50 Hz刺激で16.3倍増大6)、688.5%増大8)が報告されている。
SCLC-LEMSの同定に有用なバイオマーカーである。
SOX-1抗体陽性かつ傍腫瘍性小脳変性症(PCD)を合併する場合は、SCLCの存在を強く示唆する。剖検でようやく18 mmのSCLCが判明した症例も報告されており3)、腫瘍が画像で検出困難な場合も多い。
SCLCの存在確率を予測するツールとして以下のスコアが使用される。
DELTA-Pの各因子
D — Dysarthria:構音障害の有無
E — Erectile dysfunction:勃起不全(女性は除外)
L — Loss of weight:体重5%以上の減少
T — Tobacco use:発症時の喫煙
A — Age ≥ 50:50歳以上
P — Performance status:Karnofsky performance status < 70
スコアと予測確率
スコア0〜1:SCLC確率 0〜2.6%
スコア4:SCLC確率 93.5%
スコア5:SCLC確率 96.6%
スコア6:SCLC確率 100%
LEMS診断後は少なくとも2年間、3〜6か月ごとにPETまたは胸部MRIによる腫瘍スクリーニングを行う7)。DELTA-Pスコアが高い患者では特に積極的なスクリーニングが重要である。
LEMSの誤診率は約58%に達する7)。鑑別すべき疾患として以下が挙げられる。
少なくとも2年間、3〜6か月ごとのPETまたは胸部MRIによる腫瘍スクリーニングが推奨される。DELTA-Pスコアを用いてSCLC合併リスクを層別化し、スクリーニング強度を決定することが望ましい。SOX-1抗体陽性例や腫瘍が画像で検出困難な例では、剖検でようやく判明した症例報告もあることから、長期の注意が必要である。
基礎腫瘍が存在する場合、腫瘍の治療管理が最優先である。腫瘍治療によりLEMS症状も改善する。
3,4-ジアミノピリジン(アミファンプリジン):FDAが承認した第一選択薬。17歳以上用と6〜17歳用の2製剤がある。シナプス前膜の電位依存性カリウムチャネルをブロックし、脱分極を延長させることでVGCCが開く時間を延長してACh放出を増加させる。副作用として一過性感覚異常・胃腸症状・高用量でのけいれんがある。発作の既往は禁忌。日本では2022年時点で未承認である6)。
ピリドスチグミン:アセチルコリンエステラーゼ(AChE)阻害薬。LEMSでの効果はMGに比べ限定的。ある症例ではピリドスチグミン180 mg/日×5日間が無効であった8)。
グアニジン:ピリドスチグミンとの併用で使用。高用量では腎不全・骨髄抑制のリスクがある。
IVIG(免疫グロブリン静注療法):20 g/日×5日間でLEMS再発が改善した報告1)。25 g/日×5日間+ステロイドパルスで改善した報告8)。ステロイドパルス単独が無効だった例でIVIG追加後に改善した報告がある6)。
ステロイドパルス療法(mPSL):1 g/日×3日間6,8)
血漿交換(plasmapheresis):重症・急速進行例に使用
日本では3,4-ジアミノピリジンが未承認であるため、ピリドスチグミン(効果は限定的)、免疫抑制療法(プレドニゾロン・アザチオプリン)、IVIG、血漿交換などが代替として使用される。ICI誘発LEMSの場合、ステロイドパルスとIVIGの併用が有効であった報告がある。
正常の神経筋伝達では、運動神経の活動電位がP/Q型VGCC(電位依存性カルシウムチャネル)を開口させ、Ca²⁺流入によってアセチルコリン(ACh)含有小胞が神経終末膜と融合・放出される。このACh放出が筋収縮を引き起こす。
LEMSでは、VGCC(主にP/Q型、一部N型)に対する自己抗体がCa²⁺流入を阻害し、ACh放出を低下させる。これが筋力低下の根本機序である7)。反復刺激後に一時的に筋力が改善するのは、Ca²⁺が終末に蓄積してACh放出が部分的に回復するためと考えられている。
SCLC腫瘍細胞はVGCCを発現している。SCLCに対する免疫応答として産生された抗VGCC抗体が、運動神経終末のVGCCとも交差反応することでLEMSが発症する副腫瘍性自己免疫機序が想定されている。
NT-LEMSの約65%にHLA-B8-DR3ハプロタイプが認められ、遺伝的な自己免疫素因が発症に関与する。
SOX-1は気道上皮細胞の分化に関与する転写因子であり、SCLCに発現する。SOX-1抗体は小脳のBergmann膠細胞核とも反応し、小脳失調(傍腫瘍性小脳変性症; PCD)を誘導しうる3)。
LEMS患者の約10%にPCDを合併する(PCD-LEMS)。PCD-LEMS患者でSOX-1抗体が陽性の場合、SCLCの合併を強く示唆する。CTで腫瘍が検出困難であっても、剖検で初めてSCLCが判明した症例が報告されており3)、SOX-1抗体は腫瘍の早期発見に寄与する重要なバイオマーカーである。
ICIによる免疫活性化がVGCC抗体の産生を活性化させ、LEMSを誘発すると考えられている。腫瘍が完全寛解中に発症した場合はirAEを強く示唆し、副腫瘍性神経障害(PNS)との鑑別が必要となる1,6,8)。
Yamazoeら(2023)はICI誘発LEMSの文献上7症例をレビューした8)。原疾患の内訳はSCLC 4例、神経内分泌腫瘍1例、扁平上皮癌1例、扁平上皮癌+大細胞NEC 1例であった。原因薬剤はアテゾリズマブ2例、ペムブロリズマブ2例、ニボルマブ2例、ニボルマブ+イピリムマブ1例であった。治療成績は一定しなかった8)。
Yamazoeら(2023)の報告では、アテゾリズマブ維持療法5サイクル後にLEMSを発症したES-SCLC症例に対し、ステロイドパルス+IVIGで改善し、アテゾリズマブ中止18か月後も神経症状再発なく腫瘍増大もみられなかった8)。ICI中止後も抗腫瘍効果が持続する可能性を示す知見である。
Takigawaら(2023)は、22年前にSCLC関連LEMSが完全寛解した73歳女性において、NSCLCに対するペムブロリズマブ投与後にLEMSが再発したirAEの症例を報告した1)。初回時の抗P/Q型VGCC抗体価2,472.9 pmol/Lに対し、再発時は124.9 pmol/Lと低値であり、IVIG(20 g/日×5日間)単独で改善した。エドロホニウム試験で眼瞼下垂に変化がなく、MGとの鑑別が確認された1)。
SCLC診断前のLEMS発症は約93%とされており、LEMSの発症時期と腫瘍の状態がPNSかirAEかを区別する手がかりとなる。ICI誘発LEMSのirAEはICIの中央値5.5サイクルで発症する8)。
日本ではアミファンプリジンが未承認であり、ICI誘発LEMS症例でも入手不可の状況が報告されている6)。IMpower133試験などを経てSCLC治療へのICI適用が拡大しており、ICI誘発LEMSの増加が今後懸念される6,8)。
Takigawa Y, Watanabe H, Omote Y, et al. Lambert-Eaton myasthenic syndrome recurrence induced by pembrolizumab in a patient with non-small-cell lung cancer. Intern Med. 2023;62:1055-1058.
Mesolella M, Allosso S, Buono S, et al. Neuroendocrine carcinoma of the larynx with Lambert-Eaton myasthenic syndrome: a rare case report and literature review. J Int Med Res. 2021;49(5):1-7.
Wada S, Kamei M, Uehara N, et al. Paraneoplastic cerebellar degeneration and Lambert-Eaton myasthenic syndrome with SOX-1 antibodies. Intern Med. 2021;60:1607-1610.
Hernandez-Arriaga P, Gonzalez-Urquijo M, López Altamirano DF, et al. Pulmonary large cell neuroendocrine carcinoma associated with Lambert-Eaton syndrome. Clin Pathol. 2021;14:1-4.
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Viveiros L, Martins SR, Pires SX, et al. Paraneoplastic Lambert-Eaton myasthenic syndrome: a diagnostic challenge. BMJ Case Rep. 2023;16:e250947.
Yamazoe M, Hatakeyama T, Furukawa K, et al. Atezolizumab-induced Lambert-Eaton myasthenic syndrome in a patient with small-cell lung cancer. Cureus. 2023;15(1):e33557.