内科的治療
アセタゾラミド(第一選択):炭酸脱水素酵素阻害薬。CSF産生を抑制しICPを低下させる。6か月間のアセタゾラミドと低ナトリウム減量食の併用で頭蓋内圧軽度低下・QOL改善・鬱血乳頭軽減が報告されている。2)
トピラマート:抗てんかん薬。ICP低下と視機能改善効果が一部の患者で報告されている。2)
フロセミド(ループ利尿薬):CSF産生抑制によりICPを低下させる。2)
生活習慣改善:体重管理(5〜10%の減量で症状軽減)、低ナトリウム食、定期的な運動。2)

虚血性視神経症(ION)は、視神経への血流不足による視神経症である。急性期に視神経乳頭浮腫を伴うものを前部(AION)、伴わないものを後部(PION)と分類する。AIONはさらに、巨細胞性動脈炎(GCA)に続発する動脈炎性(A-AION)と、巨細胞動脈炎を伴わない非動脈炎性(NAION)に分類される。
NAIONは中高年に好発する急性の片眼性・無痛性の視神経症で、緑内障に次いで2番目に多い急性視神経症である。年間発症率は10万人あたり2.3〜10.2人と推定される。1)
本疾患が対象とする「IIHに続発するNAION」は、特発性頭蓋内圧亢進症(IIH)による鬱血乳頭を基盤として生じる特殊な病型である。IIHは出産可能年齢の肥満女性に多く、過体重女性での有病率は10万人あたり7.9〜20人とされる。2) IIHとNAIONの合併は、それぞれの疾患単独の発症頻度よりも低い。
NAIONの最初の記載は1817年のSaint-Yvesによるものであり、1935年にC. Miller Fisherが「急性発症・無痛性・乳頭浮腫を伴う」という臨床像を詳述した。1970年代初頭にHayreh博士が「anterior ischemic optic neuropathy」という用語を定着させた。1)
IIHの鬱血乳頭に続発してNAIONが生じることがあり、同一患者に同時に発生しうる。IIHによる鬱血乳頭が視神経乳頭の萎縮・軸索流遮断を引き起こし、前部視神経虚血の素因となる。
IIHによる両側対称性の鬱血乳頭ではRAPDは認めないが、NAIONが加わると患側でRAPDが出現する。また、NAIONでは分節状の視神経乳頭浮腫や蒼白化が特徴的で、視野検査では盲点拡大にとどまらない水平半盲などの神経線維束欠損パターンを示す。
NAIONの病因は、視神経乳頭への短後毛様動脈(SPC動脈)の一過性低灌流と考えられている。脳梗塞のような血栓塞栓による明確な閉塞ではなく、夜間低血圧などの一過性灌流障害が主たるメカニズムと推定されている。
以下にNAIONとIIHそれぞれの主なリスク因子を示す。
| 疾患 | 主なリスク因子 |
|---|---|
| NAION | 高血圧、糖尿病、睡眠時無呼吸症候群、降圧薬の過剰内服、片頭痛 |
| IIH | 肥満(最大の因子)、女性、18〜44歳、低所得層 |
視神経乳頭周囲を囲む短後毛様動脈が輪状構造をなしており、上下で血流が分かれているためと考えられている。この解剖学的特性により、虚血が生じると水平半盲、特に下方半盲として現れやすい。
NAIONの診断は、臨床所見・眼底検査・病歴・他疾患の除外に基づく臨床診断が基本である。診断への決定的所見はなく、いくつかのキーワードを積み重ねて疑いを強め、最終的には経過をみることで診断する。
以下の疾患との鑑別が特に重要である。
| 疾患 | 鑑別のポイント |
|---|---|
| A-AION(GCA) | 蒼白浮腫、全身症状、赤沈・CRP亢進、側頭動脈生検 |
| 視神経炎 | 亜急性発症、眼球運動時痛、若年女性、MRI造影増強 |
| 頭蓋内腫瘍 / 悪性高血圧 / 静脈洞血栓症 | IIHの鑑別として必ず除外する |
NAIONに対する確立された有効な治療法は現時点で存在しない。抗凝固療法、血管拡張薬、ステロイド内服、視神経鞘減圧術、抗血小板薬、昇圧剤、神経保護薬など様々な治療が試みられてきたが、いずれも有意な視力予後の改善は証明されていない。
基礎疾患であるIIHの治療による頭蓋内圧(ICP)の管理が、二次的なNAION発症リスクの軽減につながる可能性がある。
内科的治療
アセタゾラミド(第一選択):炭酸脱水素酵素阻害薬。CSF産生を抑制しICPを低下させる。6か月間のアセタゾラミドと低ナトリウム減量食の併用で頭蓋内圧軽度低下・QOL改善・鬱血乳頭軽減が報告されている。2)
トピラマート:抗てんかん薬。ICP低下と視機能改善効果が一部の患者で報告されている。2)
フロセミド(ループ利尿薬):CSF産生抑制によりICPを低下させる。2)
生活習慣改善:体重管理(5〜10%の減量で症状軽減)、低ナトリウム食、定期的な運動。2)
外科的治療
視神経鞘窓術(ONSF):急速または進行性の視力低下を伴うIIHに対して行われる。視神経鞘に小孔を開け視神経腫脹を軽減する。
CSFシャント術(脳室腹腔シャントなど):CSFを腹腔へ分流し、ICPを低下させる。
静脈洞ステント留置術:横静脈洞狭窄を伴う症例に対して考慮される。
肥満外科手術:重度肥満を伴うIIH患者で根治的効果が期待できる。
劇症型IIHは急性発症で急速な視力悪化を呈し、積極的な治療なしには重大な永続的視力・視野障害をきたす。3)
巨細胞動脈炎が疑われる場合は直ちに大量ステロイド点滴療法(1 g/日×3〜5日)を開始し、引き続きステロイド内服(1 mg/kg/日)をゆっくり漸減する。少なくとも4〜6か月かけて漸減し、状況によっては1年以上の治療期間が必要となる。
NAION自体に対する確立された有効な治療法はない。IIHの治療による頭蓋内圧管理と、血管障害リスク因子(高血圧・糖尿病・睡眠時無呼吸症候群など)の是正が現在の治療戦略の中心である。劇症型IIHでは腰椎ドレナージや緊急手術を含む積極的な頭蓋内圧管理が必要となる。3)
NAIONにおける病態連鎖は以下のように仮説されている。1)
第1段階:SPC動脈の一過性低灌流
短後毛様動脈(SPC動脈)とその分枝の一過性非灌流または低灌流イベントが生じる。組織学的所見では視神経乳頭後篩状板部の虚血性梗塞が示されており、SPC動脈には血栓塞栓による明確な機械的閉塞は認められず、加齢に伴う変化のみが確認されている。
第2段階:視神経乳頭の血液脳関門の早期破綻
毛細血管透過性亢進による視神経乳頭浮腫が、臨床症状に先行して生じる。
第3段階:「コンパートメント症候群」
視神経乳頭表面〜篩状板間という非拡張性の限られた空間で浮腫が生じ、以下の悪循環が形成される。
第4段階:網膜神経節細胞のアポトーシス
最終的に網膜神経節細胞がアポトーシスによって死滅し、永続的な視力・視野障害が固定する。
IIHからNAIONへの発症メカニズム
IIHによる鬱血乳頭は視神経乳頭の萎縮・軸索流の遮断を引き起こす。これにより乳頭の混み合い(crowding)が生じ、特に基礎疾患として血管障害リスク因子を持つ個人において前部視神経虚血が発症しやすくなる。
視神経乳頭への血液供給
視神経乳頭は主に短後毛様動脈と網膜中心動脈の枝に供給される。短後毛様動脈は前篩状板部・篩状板部を栄養し、視神経乳頭周囲の脈絡膜循環も担う。視神経乳頭周囲を輪状に取り囲む短後毛様動脈は上下で血流が分かれており、これが水平性視野欠損の解剖学的基盤となる。
現時点でNAIONに対する有効な治療法・予防策は確立されていない。1) NAIONは多因子疾患であるため、単一の治療法での解決は困難と考えられており、修正可能なリスク因子の同定と管理が現在の治療戦略の主軸となっている。
IIH分野では、IIHの病態理解とQOLへの影響に関する研究が進行中である。2) 今後は視神経乳頭への血流保護・神経保護戦略、IIH治療による二次的NAION予防効果の検証が重要な研究課題となる。