コンテンツにスキップ
神経眼科

IIHに続発するNAION

虚血性視神経症(ION)は、視神経への血流不足による視神経症である。急性期に視神経乳頭浮腫を伴うものを前部(AION)、伴わないものを後部(PION)と分類する。AIONはさらに、巨細胞性動脈炎(GCA)に続発する動脈炎性(A-AION)と、巨細胞動脈炎を伴わない非動脈炎性(NAION)に分類される。

NAIONは中高年に好発する急性の片眼性・無痛性の視神経症で、緑内障に次いで2番目に多い急性視神経症である。年間発症率は10万人あたり2.3〜10.2人と推定される。1)

本疾患が対象とする「IIHに続発するNAION」は、特発性頭蓋内圧亢進症(IIH)による鬱血乳頭を基盤として生じる特殊な病型である。IIHは出産可能年齢の肥満女性に多く、過体重女性での有病率は10万人あたり7.9〜20人とされる。2) IIHとNAIONの合併は、それぞれの疾患単独の発症頻度よりも低い。

NAIONの最初の記載は1817年のSaint-Yvesによるものであり、1935年にC. Miller Fisherが「急性発症・無痛性・乳頭浮腫を伴う」という臨床像を詳述した。1970年代初頭にHayreh博士が「anterior ischemic optic neuropathy」という用語を定着させた。1)

Q NAIONとIIHは同一患者に同時に発症するのか?
A

IIHの鬱血乳頭に続発してNAIONが生じることがあり、同一患者に同時に発生しうる。IIHによる鬱血乳頭が視神経乳頭の萎縮・軸索流遮断を引き起こし、前部視神経虚血の素因となる。

  • IIH関連の全身症状:頭痛、耳鳴り、悪心・嘔吐、一過性視覚障害(TVO)。
  • 突発的・無痛性の視力低下:片眼性に生じる。朝の起床時に自覚することが多い。視力は光覚なしから1.0以上まで様々である。
  • 視野異常:水平半盲、特に下方水平半盲が最多。弓状暗点、鼻側階段、中心暗点も生じうる。
  • 視神経乳頭腫脹:びまん性もしくは分節状に腫脹する。A-AIONに比べ蒼白浮腫はまれで、発赤腫脹が多い。乳頭周囲の網膜浅層出血を高頻度に認める。
  • RAPD(相対的瞳孔求心路障害):患側で陽性となる。IIHによる両側対称性の鬱血乳頭ではRAPDは認めないが、NAIONが加わるとRAPDが出現する。この点がIIH単独との鑑別の鍵である。
  • IIHに続発した場合の特徴:両側の乳頭浮腫を伴いつつ、分節状またはびまん性の視神経乳頭浮腫あるいは蒼白化が認められる。
  • 僚眼所見:乳頭陥凹が小さい「disc at risk」が約80%に認められる。1) 篩状板で軸索が狭いところを通り、物理的に軸索流が阻害されて循環障害を助長しやすい。
  • 色覚障害:視力低下に比例した色覚障害がみられる。視神経炎では視力低下以上の色覚障害を示す点と対比される。1)
  • 乳頭浮腫の経過:6〜11週で消退し、その後視神経萎縮・蒼白化へ移行する。1)
Q IIHによる鬱血乳頭とNAIONをどのように区別するか?
A

IIHによる両側対称性の鬱血乳頭ではRAPDは認めないが、NAIONが加わると患側でRAPDが出現する。また、NAIONでは分節状の視神経乳頭浮腫や蒼白化が特徴的で、視野検査では盲点拡大にとどまらない水平半盲などの神経線維束欠損パターンを示す。

NAIONの病因は、視神経乳頭への短後毛様動脈(SPC動脈)の一過性低灌流と考えられている。脳梗塞のような血栓塞栓による明確な閉塞ではなく、夜間低血圧などの一過性灌流障害が主たるメカニズムと推定されている。

以下にNAIONとIIHそれぞれの主なリスク因子を示す。

疾患主なリスク因子
NAION高血圧、糖尿病、睡眠時無呼吸症候群、降圧薬の過剰内服、片頭痛
IIH肥満(最大の因子)、女性、18〜44歳、低所得層
  • 構造的リスク因子(NAION):乳頭径1.5mm未満、C/D比0.2未満の「disc at risk」。篩状板での軸索圧迫が循環障害を助長する。1)
  • IIHとの関連メカニズム:鬱血乳頭自体が視神経乳頭の萎縮・軸索流遮断を引き起こし、乳頭の混み合い(crowding)が虚血の素因となる。特に血管障害リスク因子を持つ場合に発症しやすい。
  • 血管自己調節障害:加齢、高血圧・低血圧、糖尿病、脂質異常症、甲状腺疾患、脳血管疾患、睡眠時無呼吸症候群(OSAS)、血管作動薬などが自己調節機構を破綻させる。灌流圧が閾値(動物実験でおおよそ30 mmHg)を下回ると自己調節が無効化し、視神経乳頭血流が灌流圧に直接比例するようになる。1)
  • 予後に関するリスク:同側眼の再発率は3〜8%、僚眼発症率は5年以内に15〜30%とされる。1)
Q なぜ下方の水平半盲が多いのか?
A

視神経乳頭周囲を囲む短後毛様動脈が輪状構造をなしており、上下で血流が分かれているためと考えられている。この解剖学的特性により、虚血が生じると水平半盲、特に下方半盲として現れやすい。

NAIONの診断は、臨床所見・眼底検査・病歴・他疾患の除外に基づく臨床診断が基本である。診断への決定的所見はなく、いくつかのキーワードを積み重ねて疑いを強め、最終的には経過をみることで診断する。

  • 血圧測定:高血圧緊急症の除外が必要。灌流圧の急激な低下による医原性NAIONを避けるため、血圧は最初の数時間で25%程度を目安に徐々に低下させる。
  • 自動視野計(ハンフリー24-2):視野欠損の定量評価。視野検査はNAIONで最も重要な診断検査である。鬱血乳頭(盲点拡大)とNAIONの区別に有用。1)
  • 光干渉断層計(OCT)網膜神経線維層(RNFL)厚の増加→分節状パターン→亜急性期に急速に減少→視神経萎縮へと進行。鬱血乳頭後の萎縮とNAIONの区別が困難な場合がある。
  • 蛍光眼底造影(FA):視神経乳頭への早期充盈遅延(55〜75%の症例)。A-AIONとは異なり、乳頭周囲の脈絡膜への充盈遅延・欠損は特徴的ではない。1)
  • MRI/MRV:鬱血乳頭を伴う場合に推奨。急性NAIONでは視神経乳頭のびまん性拡散制限を認めることがある。
  • 腰椎穿刺:神経画像検査後、病因不明時に実施。初圧上昇はIIH診断を支持する。孤立性NAIONの可能性が高い場合は通常不要。
  • 血液検査:赤血球沈降速度・C反応性蛋白(CRP)・血小板数・ホモシステイン値(50歳未満)。A-AIONを除外するため必須。1)

以下の疾患との鑑別が特に重要である。

疾患鑑別のポイント
A-AION(GCA)蒼白浮腫、全身症状、赤沈・CRP亢進、側頭動脈生検
視神経炎亜急性発症、眼球運動時痛、若年女性、MRI造影増強
頭蓋内腫瘍 / 悪性高血圧 / 静脈洞血栓症IIHの鑑別として必ず除外する

NAIONに対する確立された有効な治療法は現時点で存在しない。抗凝固療法、血管拡張薬、ステロイド内服、視神経鞘減圧術、抗血小板薬、昇圧剤、神経保護薬など様々な治療が試みられてきたが、いずれも有意な視力予後の改善は証明されていない。

基礎疾患であるIIHの治療による頭蓋内圧(ICP)の管理が、二次的なNAION発症リスクの軽減につながる可能性がある。

内科的治療

アセタゾラミド(第一選択):炭酸脱水素酵素阻害薬。CSF産生を抑制しICPを低下させる。6か月間のアセタゾラミドと低ナトリウム減量食の併用で頭蓋内圧軽度低下・QOL改善・鬱血乳頭軽減が報告されている。2)

トピラマート抗てんかん薬。ICP低下と視機能改善効果が一部の患者で報告されている。2)

フロセミド(ループ利尿薬):CSF産生抑制によりICPを低下させる。2)

生活習慣改善:体重管理(5〜10%の減量で症状軽減)、低ナトリウム食、定期的な運動。2)

外科的治療

視神経鞘窓術(ONSF):急速または進行性の視力低下を伴うIIHに対して行われる。視神経鞘に小孔を開け視神経腫脹を軽減する。

CSFシャント術(脳室腹腔シャントなど):CSFを腹腔へ分流し、ICPを低下させる。

静脈洞ステント留置術:横静脈洞狭窄を伴う症例に対して考慮される。

肥満外科手術:重度肥満を伴うIIH患者で根治的効果が期待できる。

劇症型IIHは急性発症で急速な視力悪化を呈し、積極的な治療なしには重大な永続的視力・視野障害をきたす。3)

  • 腰椎ドレナージ:緊急のICP低下に用いる。
  • 高用量アセタゾラミド:500 mg×3回/日から開始し、3〜4 g/日まで急速に増量する。3)
  • メチルプレドニゾロン静脈内投与:1 g/日×3日(短期のみ)。ただしIIHへのステロイド使用は通常推奨されない。劇症型の一部症例で北米において使用される経験があるが、成人への使用には追加的なエビデンスが必要とされる。3)
  • 緊急ONSF・CSFシャント術:内科的管理で不十分な場合に速やかに検討する。

A-AION(GCA)への対処(鑑別後に必要な場合)

Section titled “A-AION(GCA)への対処(鑑別後に必要な場合)”

巨細胞動脈炎が疑われる場合は直ちに大量ステロイド点滴療法(1 g/日×3〜5日)を開始し、引き続きステロイド内服(1 mg/kg/日)をゆっくり漸減する。少なくとも4〜6か月かけて漸減し、状況によっては1年以上の治療期間が必要となる。

Q NAIONに対する治療法はあるか?
A

NAION自体に対する確立された有効な治療法はない。IIHの治療による頭蓋内圧管理と、血管障害リスク因子(高血圧・糖尿病・睡眠時無呼吸症候群など)の是正が現在の治療戦略の中心である。劇症型IIHでは腰椎ドレナージや緊急手術を含む積極的な頭蓋内圧管理が必要となる。3)

6. 病態生理学・詳細な発症機序

Section titled “6. 病態生理学・詳細な発症機序”

NAIONにおける病態連鎖は以下のように仮説されている。1)

第1段階:SPC動脈の一過性低灌流

短後毛様動脈(SPC動脈)とその分枝の一過性非灌流または低灌流イベントが生じる。組織学的所見では視神経乳頭後篩状板部の虚血性梗塞が示されており、SPC動脈には血栓塞栓による明確な機械的閉塞は認められず、加齢に伴う変化のみが確認されている。

第2段階:視神経乳頭の血液脳関門の早期破綻

毛細血管透過性亢進による視神経乳頭浮腫が、臨床症状に先行して生じる。

第3段階:「コンパートメント症候群」

視神経乳頭表面〜篩状板間という非拡張性の限られた空間で浮腫が生じ、以下の悪循環が形成される。

  • 視神経軸索の圧迫→軸索流遮断
  • 毛細血管・動脈の圧迫→二次的虚血
  • 静脈の圧迫→浮腫の増悪(悪循環)

第4段階:網膜神経節細胞アポトーシス

最終的に網膜神経節細胞がアポトーシスによって死滅し、永続的な視力・視野障害が固定する。

IIHからNAIONへの発症メカニズム

IIHによる鬱血乳頭は視神経乳頭の萎縮・軸索流の遮断を引き起こす。これにより乳頭の混み合い(crowding)が生じ、特に基礎疾患として血管障害リスク因子を持つ個人において前部視神経虚血が発症しやすくなる。

視神経乳頭への血液供給

視神経乳頭は主に短後毛様動脈と網膜中心動脈の枝に供給される。短後毛様動脈は前篩状板部・篩状板部を栄養し、視神経乳頭周囲の脈絡膜循環も担う。視神経乳頭周囲を輪状に取り囲む短後毛様動脈は上下で血流が分かれており、これが水平性視野欠損の解剖学的基盤となる。


7. 最新の研究と今後の展望(研究段階の報告)

Section titled “7. 最新の研究と今後の展望(研究段階の報告)”

現時点でNAIONに対する有効な治療法・予防策は確立されていない。1) NAIONは多因子疾患であるため、単一の治療法での解決は困難と考えられており、修正可能なリスク因子の同定と管理が現在の治療戦略の主軸となっている。

IIH分野では、IIHの病態理解とQOLへの影響に関する研究が進行中である。2) 今後は視神経乳頭への血流保護・神経保護戦略、IIH治療による二次的NAION予防効果の検証が重要な研究課題となる。


  1. Salvetat ML, Pellegrini F, Spadea L, Salati C, Zeppieri M. Non-Arteritic Anterior Ischemic Optic Neuropathy (NA-AION): A Comprehensive Overview. Vision. 2023;7(4):72.
  2. Toshniwal S, et al. Idiopathic Intracranial Hypertension: A Comprehensive Review. Cureus. 2024;16(3):e56256.
  3. Bonelli L, Menon V, Arnold AC, Mollan SP. Sight threatening idiopathic intracranial hypertension. Eye. 2024;38:2472–2481.

記事の全文をコピーして、お好みのAIに貼り付けて質問できます