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神経眼科

ライト・ニア解離

ライト・ニア解離(light-near dissociation; LND、対光-近見反応解離)は、瞳孔の対光反射(pupillary light reflex)が障害されている一方で、近接反射(near reaction:輻湊・調節・縮瞳)が保たれている瞳孔徴候である。

LNDの臨床的意義はきわめて大きい。対光反射と近接反射はともに遠心路(動眼神経→毛様体神経節→短毛様神経→瞳孔括約筋)を共有しており、両者が解離するメカニズムは限られているため、病変の局在診断に重要な手がかりを与える。

代表的な原因疾患はParinaud症候群・Argyll Robertson瞳孔・瞳孔緊張症(Adie症候群)である。LNDは片側性にも両側性にも生じうる。

Holmes-Adie症候群(緊張瞳孔+腱反射消失)の発生率は4.7/100,000、有病率は2/1,000/年で、女性に多く(2.6:1)、80%が片眼性である。2)

Q ライト・ニア解離は片眼だけに起こることもあるか?
A

片側性にも両側性にも生じる。片側性の場合は求心路障害または毛様体神経節・節後神経の病変(Adie緊張瞳孔など)が多い。両側性の場合は両側性求心路病変または中脳背側病変(Parinaud症候群・Argyll Robertson瞳孔)が原因となる。

LND自体は無症状のことが多く、基礎疾患による症状が前景に立つ。

  • Adie緊張瞳孔の場合:片眼の散瞳(鏡や他者の指摘で気づく)、調節麻痺による霧視眼精疲労・近業困難、羞明感。
  • Parinaud症候群の場合:上方注視困難、近見視力低下、複視(65%の症例)、振動視(oscillopsia)、神経学的症状(ふらつき・言語障害など)。1)
  • 求心路障害による場合:基礎疾患(視神経炎網膜疾患など)による視力低下・視野異常。LND自体の自覚症状は通常乏しい。

臨床所見(医師が診察で確認する所見)

Section titled “臨床所見(医師が診察で確認する所見)”
  • 求心路障害型:対光反射(直接・間接)は不良だが近接反射は保持。相対的瞳孔求心路障害(RAPD; Marcus Gunn瞳孔)を伴うことが多い。
  • 遠心路障害型(Adie緊張瞳孔):中等度散大、脱円(irregular pupil)、分節麻痺(sector paresis)、虫様運動(vermiform movement:虹彩縁が虫の這うように波打つ動き)、近接反射は緩徐で再散大に遅延がある(tonicity)。
  • 中脳背側病変(視蓋瞳孔・Parinaud症候群):両側中等度散大、対光反射消失、近接反射保持。上方注視麻痺、輻湊後退眼振、両側性眼瞼後退(Collier徴候)、輻湊麻痺を伴うことがある。
  • Argyll Robertson瞳孔:暗所でも極度な両側性縮瞳、対光反射消失、近見反応保持、瞳孔不整・脱円、通常両眼性で視路障害を伴わない。

具体例として、62歳男性(高血圧・糖尿病)が視床・被殻領域の高血圧性微小血管障害によってParinaud症候群を発症し、上方注視麻痺・輻湊後退眼振・LNDを呈した症例が報告されている。1) また34歳女性では、右瞳孔5mm(左4mm)、右瞳孔の対光反射遅鈍・虫様運動を認め、近接反射は両眼正常であり、Holmes-Adie症候群と診断された。2)

Q Adie緊張瞳孔の「緊張性(tonicity)」とはどういう意味か?
A

近接刺激に対して縮瞳はゆっくりと生じ、遠方を見た後も瞳孔がしばらく縮小したままで元の大きさにゆっくりとしか戻らない特性を指す。「tonic(緊張性)」とは「ゆっくり反応する」と理解する。この緊張性は輻湊後の散瞳時に最も観察しやすい。

LNDの原因は病変部位によって3つのカテゴリに分類される。

求心路障害

定義網膜神経節細胞視神経視交叉・視索・外側膝状体の病変。

機序:対光反射の入力が遮断されるが、近見反応はEW核に腹側から入るため保存される。

特徴:片側性または両側性に生じる。非対称な場合はRAPDを伴う。

中脳背側病変

定義:視蓋前域・後交連付近の病変。

代表疾患:Parinaud症候群(松果体腫瘍が有名だが実際は少なく、微小血管障害・脱髄・炎症が多い)1)、Argyll Robertson瞳孔(近年は糖尿病・脳血管障害・脱髄に伴うことが多い)。

特徴:両側性LNDを生じる。

遠心路障害+異常再生

定義:毛様体神経節または節後神経の障害とそれに続く異常再生。

代表疾患:Adie緊張瞳孔(多くは特発性。帯状疱疹・脳炎・神経梅毒・糖尿病・膠原病なども)。

関連症候群:Adie症候群(緊張瞳孔+腱反射異常)、Ross症候群(+起立性低血圧・発汗異常)。

Shields et al.によるParinaud症候群40例の検討(1991〜2016年)では、7.5%が運動失調を主訴として受診していた。3)

Q Argyll Robertson瞳孔の原因は神経梅毒だけか?
A

従来は神経梅毒(脊髄癆)に合併するとされてきたが、近年は糖尿病・脳血管障害・脱髄に伴うことが多くなっている。縮瞳を伴わない場合は「偽Argyll Robertson瞳孔(pseudo Argyll Robertson瞳孔)」と呼び、視蓋瞳孔と同様の概念として扱われる。

LNDの診断では、まず側方性(片側性か両側性か)を判断する。中枢性原因は両側性である可能性が高いからである。

  • 明所・暗所両方で評価:明所では縮瞳していて所見が乏しい場合も、暗所での散大を確認する。
  • 対光反射の観察:直接反応・間接反応の迅速性(prompt/sluggish)と程度(complete/incomplete)を評価する。
  • 輻湊反応の観察:縮瞳の速度・程度と、再散大の速さ(tonicity)を確認する。
  • 交互対光反射検査(swinging flashlight test):ペンライトで左右眼を交互に約2秒ずつ照射し、縮瞳の左右差(RAPD)を検出する。求心路障害の他覚的評価法として最も基本的な検査である。
  • 眼瞼下垂眼球運動障害の確認:瞳孔障害を伴う動眼神経麻痺との鑑別。
  • 虹彩の虫様運動・分節麻痺の確認:細隙灯顕微鏡で観察。Adie緊張瞳孔を示唆する重要所見。
  • 0.125%ピロカルピンテスト:脱神経超過敏がある場合のみ縮瞳する。Adie緊張瞳孔の補助診断に有用(0.1%ピロカルピンや2.5%メコリールでも可)。ただし、過敏性は末梢で生じやすいが中枢でも出現することがあるため、補助診断にとどまる。
  • 梅毒血清検査:両側同時性の緊張瞳孔またはArgyll Robertson瞳孔に対して推奨される。
  • 画像診断(MRI等):動眼神経麻痺が疑われる場合や両側性LNDでは中枢病変の確認のために施行する。
  • 赤外線瞳孔計:対光反射・輻湊反応の客観的評価に有用。

Vimisha et al.の症例では、0.125%ピロカルピン点眼にて右瞳孔の有意な縮瞳が確認され、Holmes-Adie症候群と確定診断された。2)

各病態の鑑別ポイントを以下に示す。

所見Adie緊張瞳孔Argyll Robertson瞳孔視蓋瞳孔(Parinaud)
側方性片側性(80%)両側性両側性
安静時瞳孔径中等度散大極度縮小中等度散大
緊張性(tonicity)ありなしなし
ピロカルピン超過敏ありなしなし
Q 0.125%ピロカルピンテストで陽性なら必ずAdie緊張瞳孔と確定できるか?
A

確定診断の根拠にはならない。脱神経超過敏は末梢(毛様体神経節以降)で生じやすいが、中枢でも出現することがあるため、この検査はあくまでも補助診断として位置づけられる。典型的な臨床所見(虫様運動・分節麻痺・近接反射の緊張性)と組み合わせて総合的に判断する。

LND自体に対する直接的治療は存在しない。原因疾患に対する治療が基本となる。

  • 0.125%ピロカルピン点眼:羞明の緩和に使用可能。ただし2週間で効果がない場合は中止を検討する。
  • 遮光眼鏡(フォトクロミックレンズ):羞明に対する補助的対策。2)
  • 読書用眼鏡:調節障害への対応。2)
  • 高濃度ピロカルピン(1〜4%)は避ける眼内炎症・眼周囲痛・周辺部網膜裂孔などの副作用があるため、低濃度製剤が推奨される。2)
  • Argyll Robertson瞳孔:中枢神経梅毒・糖尿病・多発性硬化症などの原因疾患を治療する。
  • Parinaud症候群(視蓋瞳孔):原疾患(松果体腫瘍・微小血管障害・脱髄など)の治療を行う。
  • 輻湊麻痺を伴う場合:原疾患の治療が優先。近見用に基底内方プリズム眼鏡を処方する。プリズム眼鏡の長期装用が必要になることもある。

6. 病態生理学・詳細な発症機序

Section titled “6. 病態生理学・詳細な発症機序”

対光反射の経路は以下の通りである:網膜視細胞(錐体・杆体)→網膜神経節細胞(W細胞)→視神経→視交叉→外側膝状体手前で視索から分岐→中脳視蓋前域→シナプス→同側(一部は後交連を経由して対側)のEdinger-Westphal(EW)核→動眼神経→海綿静脈洞・上眼窩裂→毛様体神経節→短毛様神経→瞳孔括約筋。

ヒトでは交叉線維と非交叉線維の比率はほぼ1:1であり、直接対光反射と間接対光反射の強さはほぼ等しい。

近見反応の経路と解離のメカニズム

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近見反応の遠心路は対光反射と共通であるが、近見反応のEW核への核上性線維は対光反射の求心線維が通る中脳視蓋前域・後交連よりも腹側を走行している。このため視蓋前域の障害では対光反射と近見反応の解離が生じる。

EW核からの副交感神経線維の95%が調節を司る毛様体筋へ、5%が瞳孔括約筋へ至る。また毛様体神経節における対光反射と調節反応に関わる神経細胞の比は3:97であり、対光反射が障害されても近見反応による縮瞳は保たれやすい。

この比率はLNDの発症メカニズムに非常に重要である。

以下の表にまとめる。

メカニズム責任部位代表疾患
求心路障害網膜〜外側膝状体視神経炎・網膜疾患
中脳背側障害視蓋前域・後交連Parinaud症候群・AR瞳孔
遠心路障害+異常再生毛様体神経節・節後神経Adie緊張瞳孔

遠心路障害と異常再生の詳細:毛様体神経節または節後神経の損傷後、以前は虹彩(瞳孔括約筋)を支配していた線維が毛様体へと異常再生すると、対光反射は不良のままだが近見反応は回復する。これはEW核→毛様体筋支配線維(95%)と瞳孔括約筋支配線維(5%)の比率に起因する。

Argyll Robertson瞳孔の機序:中脳背側の視蓋前域が責任病巣。対光反射経路が障害されるが、腹側の近見反応は保存される。加えてEW核への核上性抑制も障害されるため、EW核の興奮から縮瞳傾向を呈する。

近年、メラノプシンを視物質とする内因性光感受性網膜神経節細胞の存在が明らかになった。視細胞を介さずに対光反射を惹起し、短波長の強い青色光刺激(470 nm近傍)でゆっくりとした持続的な縮瞳をきたす。主として概日リズムの調整に関わるとされるが、対光反射の制御機構にも関与しており、その詳細な解明が待たれている。


7. 最新の研究と今後の展望(研究段階の報告)

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微小血管障害によるParinaud症候群

Section titled “微小血管障害によるParinaud症候群”

Magdum & Aher(2024)は、高血圧・糖尿病を有する62歳男性において、視床・被殻領域の高血圧性微小出血がParinaud症候群の原因となった症例を報告した。1) 従来、Parinaud症候群は松果体腫瘍が有名であるが本症例は実際は少なく、高血圧や糖尿病などの微小血管障害が原因となりうることを示した。MRIで正常眼底でも微小出血が検出可能であり、異常歩行を伴う上方注視麻痺・輻湊後退眼振・LNDの三徴がある場合は神経学的精査を怠るべきでない。

Vimisha et al.(2024)は、Holmes-Adie症候群に鉄欠乏性貧血・ビタミンD3低下・右膝関節炎・膝蓋骨軟骨軟化症を合併した34歳女性の症例を報告した。2) 関節リウマチ・多嚢胞性卵巣症候群と自律神経障害の関連、子宮内膜症と緊張瞳孔の関連を考察し、Adie症候群に多彩な全身合併症を伴いうることを示した。通常の経過ではAdie症候群は進行性ではなく予後良好であるが、追加の異常所見が認められた場合は全身精査が必要とされる。


  1. Magdum R, Aher PS. Parinaud syndrome in a patient with microangiopathic lesions in the bilateral gangliocapsular region and left thalamus. Cureus. 2024;16(4):e58120.
  2. Vimisha MN, Virna MS, Karthik K, Sharanya R. Adie’s pupil and systemic manifestations: a rare unilateral presentation. GMS Ophthalmol Cases. 2024;14:Doc14.
  3. Shields M, Sinkar S, Chan W, Crompton J. Parinaud syndrome: a 25-year (1991-2016) review of 40 consecutive adult cases. Acta Ophthalmol. 2017;95:e792-3.

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