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神経眼科

ハイマン・ビールショウスキー現象

1. ハイマン・ビールショウスキー現象とは

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ハイマン・ビールショウスキー現象(Heimann-Bielschowsky Phenomenon; HBP)は、重度の視力障害を伴う眼に見られる、緩徐で粗大・振子状・振幅変動する片眼性垂直眼振である。解離性眼振の一種とされる。

1902年にドイツの眼科医Ernst Heimannが初報告した。斜視に伴う弱視多発性硬化症、神経梅毒、てんかんを伴う患者で記述された。その後1931年にAlfred Bielschowskyが、同様の片眼性垂直眼振を解離性垂直偏位(DVD)と区別し、現在の疾患概念の基礎を確立した。

有病率に関する詳細なデータはなく、稀な現象として報告されている。臨床的には、新規発症のHBPが遠心路疾患(後頭蓋窩・脳幹病変)と誤認される可能性があり、注意を要する。

Q ハイマン・ビールショウスキー現象と解離性垂直偏位(DVD)はどう違うのか?
A

1931年にBielschowskyが両者を区別した。DVDはより良好な最高矯正視力を持ち、眼振様運動を伴わない緩徐な下方偏位が特徴である。HBPは重度の視力障害眼に生じる振子状の垂直振動であり、DVDとは臨床像が異なる。

  • 間欠的振動の自覚:ほとんどの患者が患眼の間欠的な振動を自覚する。
  • 複視オシロプシアは稀:患眼に重度の視力障害があるため、複視や視界の揺れ(オシロプシア)は生じにくい。
  • 視力が良好な例では症状が出現:患眼の視力が20/120(約0.15)より良好な場合、複視・オシロプシアが生じうる。Daveyらの3症例では視神経炎後に視力20/80(0.25)を呈した1症例で症状が出現した。

HBPの眼振は厳密に片眼性であり、粗大かつ緩徐な振子状の垂直振動として観察される。

  • 波形の特徴:周波数1〜5 Hz、振幅は通常2〜5度。大きい場合は30度(40〜60プリズムディオプター)に達することもある。
  • 視力障害:計28名を対象とした3つの研究で、24名の視力が20/200(0.1)以下であった。
  • 斜視の合併:HBP患者の70%以上に斜視が認められる。
  • 能動的眼球運動時の変化:能動的な眼球運動時には振子状の要素が消失する。これが診断を困難にすることがある。
  • 眼底異常:先天性視神経乳頭異常、網膜色素変性中心窩形成不全(白皮症)が見られうる。
Q HBPの患者はオシロプシア(視界の揺れ)を感じるのか?
A

患眼に重度の視力障害があるため、複視やオシロプシアは稀である。ただし患眼の視力が20/120より良好な場合は症状が出現しうる。能動的な眼球運動中は振子状の要素が消失するため、診察時に眼振が確認できないこともある。

HBPの共通条件は重度の視力障害(多くが20/200以下)を伴う眼での発生である。

先天性原因

前眼部形成異常角膜虹彩水晶体などの先天異常。

視神経形成不全:視神経の発育不全による高度視力障害。

乳児白内障:早期からの視覚剥奪を引き起こす。

小眼球症:眼球全体の発育不全。

強膜化角膜:角膜の強膜様変化による視力障害。

後天性原因

弱視:視覚発達期における視覚剥奪・斜視等に起因する。

絶対緑内障:末期緑内障による視力消失。

視神経症:視神経炎・虚血性視神経症等。

外傷性白内障:外傷による水晶体混濁。

不均等な視覚入力による下斜位を伴う解離性垂直偏位(DVD)との合併も稀に報告されている。

Q どのような眼疾患がHBPの原因となるのか?
A

先天性(前眼部形成異常、視神経形成不全、乳児白内障等)と後天性(弱視、絶対緑内障、視神経症等)の両方が原因となりうる。共通する条件は重度の視力障害であり、多くは20/200以下の視力を伴う眼に発生する。

低視力眼における緩徐な振子状の垂直振動の観察により診断する。患眼を1分間観察することが推奨される。能動的な眼球運動中は眼振が消失するため、安静時の観察が重要である。

眼底検査は各眼を別々に行い、その後両眼開放で検査する。両眼開放時には潜伏眼振が重畳する可能性があるため注意を要する。

  • 視覚誘発電位(VEP):視神経障害や脱髄性疾患の評価に有用である。多発性硬化症ではP100頂点潜時の極端な延長が診断価値をもつ。
  • MRI(神経画像検査):脳幹・後頭蓋窩病変の除外のために施行する。新規発症例では必須と考えられる。

主な鑑別疾患とその特徴を以下に示す。

疾患名主な特徴HBPとの違い
点頭痙攣小児期・頭振り・斜頸・高頻度水平性視力は通常正常
後天性振子状眼振(APN)MS最多・楕円/円形・1〜8 Hz1)両眼性・小脳脳幹徴候を伴う
眼神経筋強直症間欠的強直性痙攣・数秒〜数分持続視力正常成人・自発/偏位後に出現
眼・口蓋ミオクローヌス脳幹梗塞後・1〜3 Hz・睡眠中も持続回旋+垂直成分・両眼性
シーソー眼振一眼上転内旋・他眼下転外旋・2〜5 Hz視交叉腫瘍等による両眼性

HBPの眼振を改善するのに有効な薬物療法は現在のところ示されていない。

なお、HBPの鑑別疾患である後天性振子状眼振(APN)に対してはガバペンチン・メマンチンが有効とされるが、HBPにはこれらの適用可能性は不明である。

手術療法の結果は一貫していない。

  • ファーデン手術(後方固定術):Smithらが眼振の振動抑制を報告している。
  • 上直筋後転術(±下直筋後転術併用):Sebastianらが大振幅の垂直振動を呈した4症例で振動の減少を報告している。
  • 斜視手術:Daveyらの7名の患者では眼位整列と外見の改善は得られたが、眼振の減少は認められなかった。
Q HBPに対して薬物療法は有効か?
A

有効な薬物療法は現在のところ示されていない。手術療法(ファーデン手術・上直筋後転術等)については振動減少を報告する研究もあるが、結果は一貫しておらず標準化された治療プロトコールは確立していない。

6. 病態生理学・詳細な発症機序

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HBPの正確な発症機序は不明である。解離性眼振の一種として位置づけられている。

Leighらは以下の2つの機序を提唱している。

  • 融像性輻輳機序の障害:片眼の重度視力障害により両眼融像が不能となり、融像性輻輳を介した眼球運動制御が破綻する。
  • 片眼性視覚安定化システムの障害:視神経における伝導遅延、または脳幹の注視保持中枢の破壊、あるいはその両方に起因する可能性がある。

DVDとの病態的違いについては、DVDがより良好な最高矯正視力を持ち、眼振様運動を伴わない緩徐な下方偏位を特徴とすることから、HBPとは異なる機序による現象とされている。

後天性振子状眼振(APN)との対比:APNは視覚系障害またはGuillain-Mollaret三角(歯状核-赤核-オリーブ核路)の病変による。周波数1〜8 Hzとより幅広く1)、両眼性である点でHBPと異なる。


7. 最新の研究と今後の展望(研究段階の報告)

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HBPそのものに関する新規の介入研究は現時点では報告されていない。関連する眼振疾患として、後天性振子状眼振(APN)に対する薬物療法の知見が蓄積されており、今後HBPの病態理解に寄与する可能性がある。

Kerkeniら(2022)は進行型多発性硬化症の49歳女性におけるAPNに対し、メマンチン20 mg/日と瞬目戦略を併用した症例を報告した1)。メマンチン単独で視力が0.063から0.12に改善(2ライン相当)し、さらに瞬目との組み合わせで0.16まで改善した。また瞬目後に約400 msの眼振抑制期間が得られることが確認された。

ただし、これはAPNに関する報告であり、HBPへの適用可能性については明らかでない。HBPに対するメマンチンをはじめとした薬物療法の有効性は示されておらず、今後の研究が待たれる。


  1. Kerkeni H, Brügger D, Mantokoudis G, et al. Pharmacological and Behavioral Strategies to Improve Vision in Acquired Pendular Nystagmus. Am J Case Rep. 2022;23:e935148.

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