HESの画像所見
外直筋:下方に偏位し、筋走行が下側にシフト
上直筋:内側に偏位し、筋走行が鼻側にシフト
眼球後部:上耳側象限から筋錐外に脱臼。LR-SR角度121±7度4)

ヘビーアイ症候群(Heavy Eye Syndrome; HES)は、強度近視(high myopia)に伴って発症する後天性斜視の一種である。固定内斜視(strabismus fixus convergence)、近視性固定内斜視(myopic strabismus fixus)、強度近視性斜視(highly myopic strabismus)とも呼ばれる。
外転・上転制限を伴う進行性の内斜視および下斜視を特徴とする。非典型例として外斜視や上斜視の報告もある。
疫学的特徴:
サギングアイ症候群(SES)との鑑別:
HESと類似した斜視としてサギングアイ症候群(SES)がある。SESは非近視の高齢者にみられ、遠見で悪化する内斜視、両側性眼瞼下垂・眼瞼溝深化を伴う点でHESと異なる。詳細は「診断と検査方法」の項を参照。
HESは強度近視の眼軸延長による眼球後部の筋錐外脱臼が原因で、大角度の内斜視・下斜視と重度の外転・上転制限を伴う。SESは非近視の高齢者に生じる加齢性のLR-SRバンド変性が原因で、内斜視は比較的軽度で運動制限も軽微である。MRIでのLR-SR角度はHES 121±7度に対しSES 104±11度と有意差がある4)。
HESは成人期になって初めて症状を自覚する後天性疾患であり、小児期には通常みられない。
強度近視による眼軸延長が根本的な原因である。眼軸が延長すると眼球後部がぶどう腫様変化を呈し、上直筋(SR)と外直筋(LR)の間にある結合組織帯(SR-LRバンド)が破裂する1)2)。
SR-LRバンドの破綻により外眼筋の走行が偏位するカスケードが生じる。
なお、すべての強度近視がHESになるわけではない。眼球の伸長が軸方向のみで上耳側脱臼が生じない場合は発症しない4)。
強度近視であっても、眼球の伸長が軸方向のみで上耳側への脱臼が生じない場合はHESを発症しない4)。発症にはSR-LRバンドの破綻と眼球後部の上耳側への脱臼という形態変化が必要であり、単純な屈折度数だけで発症を予測することはできない。
眼窩MRI(冠状断)がHES診断の最重要画像検査である1)2)。外直筋の下方偏位、上直筋の内側偏位、眼球の上耳側脱臼を確認する。
HES・SES・正常例のMRI定量比較(LR-SR角度・眼球脱位角)を以下に示す。
| HES | SES | 正常対照 | |
|---|---|---|---|
| LR-SR角度 | 121±7度4) | 104±11度4) | — |
| 眼球脱位角 | 179.9±30.8度5) | — | 102.9±6.8度5) |
HESと類似した外転・上転障害を呈する疾患との鑑別が必要である。
HESの画像所見
外直筋:下方に偏位し、筋走行が下側にシフト
上直筋:内側に偏位し、筋走行が鼻側にシフト
眼球後部:上耳側象限から筋錐外に脱臼。LR-SR角度121±7度4)
SESの画像所見
外直筋:下方に偏位(LR-SRバンド変性による)
上直筋:内側偏位は軽微または認めない
眼球後部:脱臼は軽微。LR-SR角度104±11度4)
主な鑑別疾患の特徴を以下に示す。
| 疾患 | 特徴的な鑑別点 |
|---|---|
| サギングアイ症候群(SES) | 非近視の高齢者、外直筋下方偏位のみ、軽度内斜視4) |
| 甲状腺眼症(TED) | 眼瞼後退・眼球突出、MRIで外眼筋肥大4) |
| 第VI脳神経麻痺 | 単眼性外転障害、MRIで外眼筋走行偏位なし4) |
| デュアン症候群 | 先天性、内転時眼球後退、眼瞼裂狭小化 |
| 重症筋無力症 | 易疲労性、時間帯による変動 |
HESの本質は外眼筋の走行偏位と眼球脱臼であり、これらはMRI冠状断でなければ確認できない。SESや甲状腺眼症など他の原因との鑑別にも画像所見が不可欠である。また、軽症例では眼位によって脱臼程度が変わるため、複数方向の撮像が推奨される。
MRIで確定診断されれば、眼球運動制限が軽度・斜視角が小さい場合でも、上外直筋縫着術(横山法)が第一選択である。
筋錐外に脱臼した眼球後半部を筋錐内に整復するために、上直筋と外直筋の筋腹を縫着する術式である。
縫着部位
縫着位置:各直筋の付着部から15mm後方
通糸方法:筋縁から異なる距離で2回通糸し、筋をしっかり固定する
縫合糸
使用糸:5-0ポリエステル糸
選択理由:不要な組織反応を避けるため、吸収糸は使用しない
追加手術
内直筋後転の適応:眼球が筋錐内に整復されても外転制限が残る場合に追加する
手術順序:上外直筋縫着の後に内直筋後転を検討する
横山法の術後成績: Yamaguchiらは23例でループ筋固定術(±内直筋後転)を施行した5)。術前23例全員で牽引試験陽性→術後陽性は1例のみ。眼球脱位角の減少、最大外転・上転角度の改善、斜視角の減少を確認。平均48.8ヶ月追跡で再発を認めなかった5)。
結膜後転の追加: 鼻側結膜が拘縮している場合は同時に行う。
内直筋後転単独では効果は一時的であり、長期的に内下斜視が再発する。必ず横山法の後に、必要に応じて追加する手技として位置づける。
MRIで筋走行異常が確認されない場合は従来の後転短縮術(recession-resection; R&R)が有効であり、ループ筋固定術は不要である4)。
手術前に網膜専門医への紹介を検討する。進行性の近視性変性に活動性網膜病変がないかを確認するためである。
内直筋後転術単独では効果が一時的で、長期的に内下斜視が再発する。HESの根本的な原因は眼球後部の脱臼と外眼筋の走行偏位であり、これを整復する上外直筋縫着術(横山法)が第一選択である。内直筋後転は横山法で外転制限が残存した場合にのみ、その後に追加する手技として位置づけられる。
HESの病態は、眼軸延長→SR-LRバンド破綻→外眼筋偏位→眼球脱臼という連鎖反応によって形成される。
眼軸延長とSR-LRバンドの破綻:
強度近視では眼軸長の延長に伴い、眼球後部がぶどう腫様に変形する。この過程でSR-LRバンドが引き伸ばされ、最終的に断裂する1)2)。バンドの破綻は、加齢に伴う結合組織変性が好発する上耳側象限で優先的に生じる。
MRIによる定量的評価:
眼球脱位角は眼球中心・外直筋・上直筋がなす角度で定義され、脱臼の程度を定量化できる5)。
Yamaguchiら(2010)は23例のHES患者において眼球脱位角を測定した5)。HES患者の平均眼球脱位角は179.9±30.8度であり、正常対照の102.9±6.8度に比べて著しく大きかった。この数値はHESにおける眼球脱臼の重篤さを定量的に示している。
外直筋下方偏位と上直筋内側偏位の程度もMRIで測定可能であり、HESの診断と治療効果判定に用いられる1)2)。
機械的制限の二重機序:
HESにおける外転・上転の機械的制限は2つの原因による。第一は偏位した外眼筋走行による解剖学的な制限、第二は長期の斜視により二次的に生じた内直筋の拘縮である4)。
筋走行と合併症リスク:
視神経の機械的伸展・捻転が血流を遮断し、眼虚血・視神経萎縮・CRAOをきたす危険がある。筋走行の重要性は、こうした合併症リスクの観点からも強調されている3)。
横山法はその有効性が確立されているが、より簡便・確実な術式への改良が続けられている。
複数の変法が報告されている。Akbariらは2本の縫合糸で筋腹を結合させる改良法を報告した。LarsenおよびGoleはJensen法を応用し、外直筋上半分と上直筋耳側半分を分割縫合する手技を提案した。山田らは外直筋上半分と上直筋耳側半分をTillauxの螺旋に沿って中間地点に移動する方法を報告した。また、Awadeinらはジップアップ式のループ筋固定術を報告している。シリコンスリーブによる結合法や3本縫合糸によるSR-LR結合法も提案されている。
Bansalらは29例中21例(72%)において、ループ筋固定術単独(内直筋後転を同時に行わない)で良好な結果を得たと報告した。同時に内直筋後転を行うアプローチは2回目の手術を不要にする利点があり、術後の斜視角を確認してから内直筋後転を追加する段階的アプローチは全体の手術量を抑制できる利点がある。いずれが優れるかは現在も検討中である。