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神経眼科

ゴーハム・スタウト病

ゴーハム・スタウト病(Gorham-Stout disease; GSD)は、進行性の骨溶解とリンパ管・血管の異常増殖を特徴とする稀な疾患である。「消去性骨疾患(vanishing bone disease)」「phantom bone disease」「massive osteolysis」とも呼ばれる。

1838年にJacksonが「boneless arm」として初報告した。1955年にGorhamとStoutが24症例をまとめ、疾患概念を確立した5)。これまでに世界で約300例の報告がある10)

有病率は200,000人に1人未満と推定される3)。主に小児・若年成人に好発するが、二峰性分布をとり50歳以降の発症例もある。男女比は1.6:1とする報告があるが、明確な性差・人種差は認められない。

国際血管腫・血管奇形学会(ISSVA)2018年分類ではリンパ管奇形(lymphatic malformation)に分類される6)。Hardegger分類ではtype 4(Gorham’s massive osteolysis)に該当する6)

Q ゴーハム・スタウト病はどのくらい稀な疾患か?
A

有病率は200,000人に1人未満とされ、世界での報告は約300例にとどまる極めて稀な疾患である3)10)。小児・若年成人に好発するが、あらゆる年齢層での発症が報告されている。

  • 局所の骨痛:最も一般的な症状。侵襲部位に一致した疼痛を認める。
  • 患肢の脱力・腫脹・機能障害:骨溶解の進行に伴い生じる。
  • 無症状〜病的骨折:軽微な外傷を契機に骨折して発見されることもある。
  • 呼吸器症状:乳糜胸(脂肪分を含む胸水の貯留)に伴う呼吸困難4)6)
  • 神経症状:脊椎侵襲時に側弯、対麻痺、頭痛が生じることがある3)10)

眼窩への侵襲は稀だが、以下の症状が報告されている。

  • 顔面痛・急性片側性眼球突出(proptosis)
  • 視野欠損・表層角膜
  • 眼球運動制限:上転・下転・外転障害

眼窩侵襲例でも、眼科的検査・眼底検査で異常を認めないこともある。

骨・局所病変

進行性骨溶解:骨の吸収と皮質欠損が進行する。骨芽細胞反応は乏しく、正常な骨形成が起きない。

骨組織の置換:骨髄が線維血管組織・リンパ管増殖組織に置換される。

Chung画像4段階:(1)髄内透亮巣、(2)透亮巣の融合、(3)皮質破壊+軟部組織浸潤、(4)骨組織が線維組織に置換9)

全身・内臓病変

乳糜胸:胸管・胸膜リンパ管の侵襲による重篤な合併症。保存療法のみでの死亡率は69%、手術介入で36%まで低下する7)

腹水・肝脾腫:腹部リンパ管の侵襲による。

脊髄液漏:脊椎侵襲時に硬膜外リンパ管異常から生じることがある10)

眼窩腫瘤:眼窩天蓋・外側壁への腫瘤形成。眼球突出の原因となる。

Q ゴーハム・スタウト病は眼にも影響するのか?
A

眼窩骨(眼窩天蓋・外側壁など)への侵襲は稀だが報告されている。急性片側性眼球突出、視野欠損、眼球運動制限(上転・下転・外転障害)、顔面痛などを来すことがある。一方で眼窩侵襲があっても眼科検査で異常を認めない場合もある。

病因は現時点で不明である。炎症、思春期、外傷が誘因となりうることが知られている。

体細胞変異として以下が報告されている。

  • AKT1・PIK3CA変異:PI3K-AKT-mTOR経路の活性化に関与。
  • KRAS(p.G12V)変異:リンパ管内皮細胞で確認。マウスモデルでGSD表現型の再現が示されている3)
  • KDR・MYC遺伝子変異:一部症例で報告3)
  • NRAS体細胞変異:PI3K経路変異とともに報告8)

家族例の報告はなく、遺伝性パターンは確認されていない3)8)。環境的素因も確立されていない9)

確定診断には画像検査・病理・生検の組み合わせと、他疾患の除外が必要である。

以下に主要な画像検査の比較を示す。

検査法特徴的所見主な用途
X線小透亮巣→融合・拡大、皮質欠損スクリーニング
CT骨内病変の範囲、皮質破壊の評価病変範囲の確認
MRIT2高信号+造影増強、T1低信号軟部組織・リンパ管評価
  • X線:初期は小さな放射線透過性病巣が出現し、進行とともに拡大・融合して皮質欠損をきたす。Chung分類に基づいた進行度評価に用いる。
  • CT:硬化縁を伴う限局性溶骨性病変と皮質破壊を評価する1)
  • MRI:T1低信号・T2高信号・不均一な増強効果を呈する3)。軟部組織浸潤とリンパ血管増殖の範囲評価に優れる。
  • 超音波:蜂巣状の低流速血管性病変、ルロー様エコー輝度凝集体を認めることがある1)
  • 単一光子放射断層撮影(SPECT)/CT:リンパ管・血管増殖部位で高集積、骨破壊部位で低集積を示す3)
  • 眼窩侵襲時:眼窩天蓋・外側壁の腫瘤として描出される。
  • 軟部組織の初回生検では診断がつかないことが多い。
  • 骨髄穿刺・経皮的生検では重度出血リスクを考慮する。
  • 特徴的病理所見:骨組織が線維結合織・血管増殖に置換される5)。悪性所見(細胞異型)は欠く8)
  • 免疫組織化学:CD31陽性(血管内皮マーカー)1)、D2-40/podoplanin陽性(リンパ管マーカー)7)

GSDの確定診断に用いられる診断基準である8)5)

  1. 最小限の骨芽細胞反応または欠如
  2. 血管増殖と骨溶解を示す骨生検
  3. 内皮細胞異型の欠如
  4. 局所的な進行性骨吸収の証拠
  5. 非膨張性・非潰瘍性の病変
  6. 内臓病変の欠如
  7. 骨溶解性の画像パターン
  8. 遺伝性・代謝性・腫瘍性・免疫性・感染性疾患の除外
  • 多発性骨髄腫・骨溶解性転移:悪性細胞の存在で鑑別。
  • 好酸球性肉芽腫・若年性パジェット病:病理所見と臨床経過で鑑別。
  • 全身性リンパ管異常症(GLA):GLAは髄腔内限定の多局所性病変で臨床症状が乏しい。GSDは皮質破壊を伴う進行性骨溶解で局所軟部組織病変を伴う点で異なる。

GSDには確立された治療ガイドラインがない。個々の症例に応じた集学的治療が行われる。

第一選択の薬物療法として推奨される組み合わせである。

  • IFN-α(インターフェロンα):VEGFの分泌を抑制し、リンパ管内皮細胞の増殖を阻害する。
  • ビスホスホネート:抗破骨細胞・抗血管新生作用を持つ。腫瘍細胞のアポトーシスを誘導し、IL-6を正常化する。アレンドロネート(経口)またはゾレドロン酸(静注)が用いられる9)

mTOR(哺乳類ラパマイシン標的タンパク質)阻害剤である。VEGF-C媒介のmTORリン酸化を阻害し、リンパ管増殖を抑制する1)

  • 臨床試験での有効率:50〜67%1)
  • Yip et al.(2023)は14か月女児に対し、シロリムス0.5 mg 1日2回から段階的に増量し1.5 mg 1日2回(目標トラフ値10〜15 ng/mL)とした。12か月で近完全寛解、3.5年投与後に中止しても再発を認めなかった1)
  • Suzuki et al.(2022)はアレンドロネート+シロリムスの併用により2年後に骨形成を確認した7)

ゾレドロン酸+シロリムス併用

Section titled “ゾレドロン酸+シロリムス併用”

mTOR経路の二重阻害による相乗効果を期待した治療法である9)。ゾレドロン酸はメバロン酸経路阻害に加えmTORカスケードも阻害する。

Wojciechowska-Durczynskaら(2022)は、アレンドロネート無効例にゾレドロン酸+IFN-αを投与し、最終的にゾレドロン酸+シロリムスの併用で胸水消失・骨溶解停止を達成したと報告した9)

  • カルシウム+ビタミンD、ビタミンC・K:骨代謝補助目的8)
  • ベバシズマブ(抗VEGF抗体):一部症例で使用報告あり。

薬物療法が無効な場合に検討する。

  • 低線量(16〜20 Gy):疾患の初期段階に使用。
  • 中等度線量(40〜45 Gy):より効果的だが、肺・心臓への長期合併症リスクがある。
  • Hyland et al.(2024)は乳糜胸に対し40 Gy/20分割を胸椎・左胸壁に照射し、術後5年間安定を確認した4)
  • 局所病変に推奨される。広範な病変にはIFN-αの方が効果的とされる。
  • 切除と骨移植・プロテーゼによる再建:骨移植後の再吸収リスクが高く、Miao et al.(2024)は腓骨移植後に移植骨が完全吸収した症例を報告している2)
  • 脊椎固定術:側弯矯正と組み合わせて行うが、長区域固定での失敗率は最大50%に達する3)
  • 眼窩侵襲時:経頭蓋的眼窩探索・開頭術により眼球突出を軽減できるが、術後に視力・色覚低下のリスクがある。
  • 乳糜胸への手術:胸腔鏡下手術(VATS)、胸膜剥皮術、タルク癒着術、胸管結紮が選択肢となる4)。Hyland et al.(2024)は開胸術+肋骨切除+胸膜剥皮術+癒着術で5年間安定を達成した4)
Q ゴーハム・スタウト病に確立された治療法はあるか?
A

確立された治療ガイドラインは現時点では存在しない。薬物療法(IFN-α+ビスホスホネートが第一選択)、放射線療法、手術を組み合わせた集学的治療が個々の症例に応じて選択される。近年はシロリムス(mTOR阻害剤)の有効性が報告されており、特に乳児・小児例での治療選択肢として注目されている1)

6. 病態生理学・詳細な発症機序

Section titled “6. 病態生理学・詳細な発症機序”

GSDの病態は、異常増殖したリンパ管・血管内皮細胞が産生するサイトカインによる骨溶解促進と、骨芽細胞機能の抑制による骨修復不全が組み合わさって生じる。

主要なサイトカインと分子機序

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  • VEGF-A:血管新生を促進。GSD患者で過剰発現が報告されている7)。VEGF-Aは骨修復を刺激するが、GSDでは骨芽細胞が変性・抑制されているため修復に至らない。
  • VEGF-C/D:リンパ管新生を促進。PI3K→AKT→mTOR経路を活性化し9)1)、リンパ管内皮細胞の異常増殖を駆動する。プロプラノロール(β遮断)はVEGF-Aのみを標的とするため、リンパ管新生が主体のGSDでは不十分とされる1)
  • IL-6:破骨細胞を活性化し、GSD患者で上昇が確認されている9)
  • M-CSF:リンパ管内皮細胞がM-CSFを産生し、破骨細胞の増殖→大量骨吸収を引き起こす8)
  • RANKL:破骨細胞前駆細胞の感受性が亢進している9)
  • TNF:患者の軟部組織病変で上昇が報告されている。
  • PDGF-BB:リンパ管新生に関連する成長因子8)

骨組織は線維血管組織に置換され、正常な修復骨(woven bone)が形成されない7)。骨細胞由来メディエーター(スクレロスチン等)も骨芽細胞抑制に関与する。これが「骨が消失する」特徴的な病態の本質である。

Q なぜゴーハム・スタウト病では骨が消失するのか?
A

VEGFやIL-6等のサイトカインが異常増殖したリンパ管・血管内皮細胞から分泌され、破骨細胞を活性化する。同時にPI3K-AKT-mTOR経路の活性化によりリンパ管増殖が持続する。骨芽細胞は変性・抑制されているため、骨修復が起きない。その結果、骨組織が線維血管組織に置換され、正常骨が消失する7)9)


7. 最新の研究と今後の展望(研究段階の報告)

Section titled “7. 最新の研究と今後の展望(研究段階の報告)”

シロリムスの単剤有効性とリンパ管新生標的

Section titled “シロリムスの単剤有効性とリンパ管新生標的”

Yip et al.(2023)は、プロプラノロール無効のGSD乳児に対しシロリムス単独療法を施行した初報告である1)。VEGF-Aではなく、VEGF-C経路(リンパ管新生)を標的とすることの重要性を示した。12か月で近完全寛解、3.5年投与後中止後も再発なしという経過は、シロリムスの長期有効性を示唆する。

ゾレドロン酸+シロリムス併用療法

Section titled “ゾレドロン酸+シロリムス併用療法”

Wojciechowska-Durczynskaら(2022)は、ゾレドロン酸とシロリムスの併用によりmTOR経路を二重に阻害する戦略を報告した9)。ゾレドロン酸はメバロン酸経路阻害に加えmTORカスケードも阻害し、シロリムスとの相乗効果が期待される。DXA(骨密度測定)による経時的骨密度データも提示されており、治療効果の客観的評価が可能であった。

遺伝子変異に基づく標的治療の可能性

Section titled “遺伝子変異に基づく標的治療の可能性”

Jiao et al.(2024)は脊椎GSD症例においてKDR、KRAS、MYC遺伝子変異を同定した3)。KRASの過剰発現マウスモデルでGSD表現型が再現され、MEK阻害剤であるトラメチニブによる治療効果が示された。この結果は、RAS-MAPK経路を標的とした分子標的治療の可能性を示す。

脊椎GSDへの矯正手術+シロリムス

Section titled “脊椎GSDへの矯正手術+シロリムス”

Jiao et al.(2024)は14歳男児の脊椎GSD+側弯症に対し、矯正手術(術中乳糜漏出を認めた)とシロリムスを組み合わせ、2年後も安定した経過を報告した3)

硬膜外自家血パッチによるCSF漏管理

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Xing et al.(2023)はGSD関連の脳脊髄液(CSF)漏出とChiari様小脳扁桃ヘルニアを呈した症例に硬膜外自家血パッチを施行し、低侵襲で改善が得られたと報告した10)


  1. Yip SWY, Griffith JF, Tong CSL, et al. Gorham-Stout disease: remission with sirolimus therapy. BJR Case Rep. 2023;9(6):20230086.
  2. Miao C, Cao Y, Li C. Mandibular Gorham-Stout Disease With Implanted Fibular Resorption. J Craniofac Surg. 2024;35(3):e282-e284.
  3. Jiao Y, Sun H, Huang Y, et al. Surgical treatment of Gorham-Stout disease combined with scoliosis: a case report and literature review. BMC Musculoskelet Disord. 2024;25(1):65.
  4. Hyland LD, Elsayed A, Hawari M. Successful Management of Chronic Chylothorax Secondary to Gorham-Stout Disease. Ann Thorac Surg Short Reports. 2024;2(1):100006.
  5. Saify FY, Gosavi S, Jain S, et al. Vanishing bone disease: An enigma. J Oral Maxillofac Pathol. 2021;25(2):356-360.
  6. Momanu A, Caba L, Gorduza NC, et al. Gorham-Stout Disease with Multiple Bone Involvement—Challenging Diagnosis of a Rare Disease and Literature Review. Medicina (Kaunas). 2021;57(8):762.
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  8. Ahmetgjekaj I, Kola E, Parisapogu A, et al. Gorham-Stout disease, a diagnosis of exclusion. Radiol Case Rep. 2022;17(9):3191-3197.
  9. Wojciechowska-Durczynska K, Zygmunt A, Mikulak M, et al. Difficult Therapeutic Decisions in Gorham-Stout Disease—Case Report and Review of the Literature. Int J Environ Res Public Health. 2022;19(19):12761.
  10. Xing Q, Miao M, Zhang Q, et al. Gorham-Stout disease affecting the spine with cerebrospinal fluid leakage and Chiari-like tonsillar herniation. BMC Neurol. 2023;23(1):44.

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